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理系女子の恋  作者: 流音
22/246

21、水族館


西門君と約束した日曜日――――


私は伸びた髪を下の方でまとめて、ほんの少しだけ違う自分を演出していた。

服装もあゆちゃんに連れられて行った夏のバーゲンとやらで買った、女の子らしい白のシフォントップスに膝下まであるスキニーパンツ?というもので決めている。

私は髪型を変えた時に、西門君に「しおっぽくない」だの「変」だの言われていたので、見返してやるつもりだった。


私は小さめのショルダーバッグの紐を握りしめると、待ち合わせ場所である公園へと走った。


指定された時計の前に来ると西門君はもう待っていて、私は慌てて駆け寄った。


「ごめん!!待たせた!?」


私に気づいた西門君は驚いたように目を見開くと、視線を下げて遠慮がちに口を開いた。


「そ…そのカッコ…。」

「あぁ。これ?せっかく水族館まで行くんだし、オシャレしようかなーって。やっぱり変とか言うの?」


私は腕を組むとムスッとして言った。

西門君は大きな手で顔を隠すと、軽く横に首を振った。


「違う…。その…似合ってるよ。」


西門君から初めて出た褒め言葉に、私は鼻が高かった。

あゆちゃんに指導してもらって良かった。

私は「ありがとう。」と言って西門君を覗き込むと、西門君はなぜか顔が赤かった。

待たせすぎて日焼けしたのかな?

私はジリジリと照り付ける太陽を見上げて、早速移動しようと彼に背を向けた。


「ここ暑いね。行こう?」

「あ、うん。」


西門君が私の隣に並んだとき、前から見覚えのある人が走ってきた。


「よーう!!お二人さん、どっか行くのか?」

「あ…赤井君?」


赤井君はいつもと違う固い笑顔を浮かべると、不自然に手を挙げている。

私は何でこんな所にいるのか分からなくて、首を傾げた。


「今日、あっついよなー!いやぁ、朝から参るよなぁ。ホント。」


赤井君は横向けに立って、ちらちらと公園の入口を見ながら手で顔を仰いでいて、何がしたいのか全く意味が分からない。


「赤井君…私たち、これからでかけるんだ。用がないなら、また今度ね。」


私は西門君に目配せすると、赤井君の横を通り過ぎて駅に向かおうと足を進めた。

すると赤井君がまた立ち塞がってきて、足を止める。


「あーっ…!その二人はどこに遊びに行くわけ?」

「え…?水族館だけど…。」

「おーっ!!水族館か!!いいよなー!涼しいしさ。楽しいだろうなぁ~。」


赤井君はちらっと西門君を見ると、急に手を合わせてきた。


「俺らも一緒に行っちゃダメかな?」

「へ?」「は!?」


赤井君の頼みに私はぽかんとするしかなかった。

西門君も同じようで、眉間に皺を寄せると赤井君に一歩進み出た。


「赤井君。それはずうずうしくないかな?僕らは前々から約束して―――」

「いやー!!それは重々承知してるんだけどさ!どこに行くのも人数多い方が楽しいじゃん?是非、クラスメイトである俺たちも同行させてくれよ!!」


また頭を下げた赤井君を見て、西門君は困ってるようだった。

私は赤井君が繰り返す『俺たち』という言葉がひっかかって、状況を見守った。

西門君ははーっと大きくため息をつくと、腰に手を当てて言った。


「なんでもクラスメイトとって、赤井君はそのフレーズ好きだよな。」

「え?だって、クラスメイトが仲良いのって理想じゃん?せっかく三年間ずっと同じクラスなんだから、楽しまないとさ!!」


赤井君の理想は私とぴったり同じで、私は一緒に行くのも楽しいかもしれないと思った。


「いいよ。一緒に行こう。」

「は!?しお!?」

「えっ!いいの!?」

「うん。」


西門君は文句がありそうだったけど、別に二人に拘ってるわけでもないし、今日は遊びに付き合う名目なので楽しい方がいいんじゃないかと思った。

赤井君は嬉しそうに目を輝かせると、公園の入り口に振り返って声を張り上げた。


「おーい!!いいってさー!!」


誰に向かって言ってるの?

私は赤井君の目線の先にある入口に目をむけると、茂みの影から島田君とその島田君に押されるように井坂君が姿を見せた。

井坂君がいたことで、私はドクンと心臓が急に大きく音を立て始めた。


俺らって…そういうこと…


私はさっきの疑問が解消されて、胸のひっかかりが消えた。

井坂君は居づらそうに視線を逸らすと口を引き結んでこっちにやって来た。


「いや~。悪いね。じゃあ、みんなで水族館行くか!!」


赤井君が仕切るように歩き出して、私は笑いが込み上げてきた。

なんか変な状況…

西門君は不機嫌そうに顔をしかめていたけど、私は面白くなりそうだと思って赤井君の背に続いたのだった。





***





水族館に着いたら、赤井君と西門君はなにやら言い争い始めた。

チケット売り場で買ったチケットを奪い合っているようだった。

私と井坂君と島田君はそれをぼーっと眺める。


何やってんの…?


私はケンカを仲裁させようかと思ったら、横から井坂君に声をかけられた。


「谷地さん。今日はなんかごめん。に…西門君と二人の方が良かったよな…。」


井坂君が若干元気のない声で言って、私はそんな事ないので否定した。


「なんで?そんな事ないけど。だって、赤井君が言うように多い方が楽しいよね。」

「………本当にそう思ってる…?」


井坂君は顔をしかめていて、何をそんなに疑ってるのだろうかと思った。


「私は井坂君が一緒の方が嬉しいよ。」


口から本音が勝手に飛び出して、私は真っ赤になる顔で必死に取り繕った。


「やっ…その一緒っていうのは、赤井君とか島田君も一緒がいいっていう意味で、深い意味はないっていうか…。深いとか変だな…とっ…とりあえず、二人でもみんなででも変わらないって事を言いたくて!!」

「っぶ!!あはははっ!谷地さん…変わらねぇっ…。分かった、分かったよ。」


井坂君は吹きだして笑い出した事で、いつもの彼に戻った。

私は恥ずかしい事を言った事で変な汗をかいていたけど、彼の笑顔を見れたことで安堵した。

ふうと一息ついて額の汗を拭う。


するとチケット戦争が終わったのか、西門君が息を荒げて私にチケットを手渡した。


「はい。…入ろ、しお。」

「う…うん。何で、そんなに疲れてるの?」

「ちょっと色々あって…入れば冷房効いてるし、落ち着くと思う。」


西門君はずれたメガネを直しながら、フラフラした足取りで入り口に向かう。

私は色々というのが気になったけど、西門君の背に続いて中に入った。



中は冷房が効いていてすごく涼しかった。

日曜日という事もあって中は混み合っていたけど、私たちははぐれないように一塊になって中を移動した。

水族館なんて久しぶりで胸が躍る。


私は一人テンションが上がりながら、水槽に手をついては色んな魚を一番に見て回った。

その横に同じテンションの赤井君がやってきて、二人で「すげーっ!!」とか「キレー!!」とか言いながら子供のようにはしゃぎ回った。


「しお!!あんま走るなって!!」


あまりにも周りが見えてなかったので、西門君に腕を掴まれて引っ張られた。

私は自分を見失っていたと反省して、頭を下げた。


「ごめん、ごめん。でも、水族館なんてテンション上がるよね!?」

「それ小学生の遠足みたいなんだけど。」

「いいじゃん。西門君だって小学校の遠足のときにテンション上がって迷子になったクセに。」

「そっ…それを今言うか!?」

「お相子だよって話。大体、小さい頃とは違って見えるよね~。サメって意外に小さいなって思うんだけど。」


私は大きな水槽の中を泳ぐサメを指さした。

子供の頃はすごく大きく見えて、丸ごと食べられると思って怖かったけど、今はどう見ても丸呑みにはできない大きさだ。


「そういうのって大きくなってから小学校に行くのと同じな気がする。何でも小さく見えるっていうかさ。体がでかくなっただけなんだろうけど、こんなもんだったんだって思う事も多いよ。」

「そうだねー…。確かにそうかも。」


大きくなったら視点が変わるか…

私は泳ぐサメを見ながら、あの頃は何も悩みなんてなくて楽しかったなーと思いだした。

中学に上がってから、今までの友達関係がガラッと変わって…

小学校の頃は男、女なんて関係なく仲が良かったのに、急に異性として意識し出して、みんな恋をし出した。

私はあの初恋を思い出しかけて、大人になったらこんな気持ちも消えるのだろうかと思った。


井坂君を好きになった今でも、たまに思い出す。

私は島田君とはしゃいでいる井坂君を横目に見ながら、忘れようと頭を振って口角を持ち上げた。


「ペンギン!ペンギン見に行こう!!」


私は西門君の服の裾を引っ張ると、シロクマやペンギンのいるエリアに足を進めた。




それから水族館を一回りした私たちはイルカショーを見てから、遅い昼食をとり、お土産屋さんへ直行した。


私はあるお土産の前で立ち止まって、じっとそれを見つめていた。

そこにあったのは、ベースを持ったシロクマのキーホルダーでベルリシュのKEIみたいで笑いが込み上げてくる。

私はこれを井坂君と共有したくなって、辺りを見回して井坂君を探した。

井坂君はぼーっとストラップの吊ってある棚を見ていて、私は後ろから井坂君の腕を引っ張った。


「うわ!!ビックリした。何?」

「ちょっと来て。」


私は驚いている井坂君の腕を引っ張って、さっきの棚へと戻ると指さした。


「これ、見て!!」

「へ…?…あ、おーっ!!何コレ!ベース持ってんじゃん!!」


井坂君は見つけたときの私と同じような反応してくれて、私は大満足だった。

私は隣に置いてあるギターを持ったペンギンを手に持つと、井坂君に見せた。


「ギターペンギンもあるんだよ。見つけたとき、ベルリシュみたいだなって思って、井坂君に見せなきゃって思ったんだ。どう?ベルリシュに見える?」


私がドヤ顔で尋ねると、井坂君は驚いたように目を見開いたあと、嬉しそうに眉を寄せて笑った。


「見える、見える!シロクマがKEIに見えるとか、おかしーよなぁ~。」

「だよね!!私も吹き出しそうになったよ!」


私はどっちか買って帰ろうと思って、シロクマとペンギンを交互に見比べた。

すると井坂君が手に持っていた二つをひょいっと奪うと、何も言わずにレジへと行ってしまった。

私は奪われたことにポカンとして、井坂君の背を見つめて首を傾げた。


そんなに欲しかったのかな…

だからって私の持っていたやつを奪わなくても。


私は違うものを買おうと、もう一度シロクマとペンギンを手に持って考えた。

すると井坂君が戻ってきて、キーホルダーの入った袋を差し出してきた。


「はい。あげる。」

「え!?あげるって…買ってくれたの!?」

「うん。だって欲しかったんだろ?」


私は男らしくてスマートな井坂君を見て、胸が鷲掴みにされた。

袋を受け取りながら、「いいよ!」と返そうと思ったけど、いつかに言われた事を思い出して手を自分の方へ引き寄せた。


「あ…ありがとう。」

「どういたしまして。」


井坂君が満足そうに微笑むのを見て、私は袋に手を入れるとシロクマを井坂君に差し出した。


「私!一つでいいから、KEIは井坂君が持ってて!!」


井坂君は差し出されたシロクマを見て、目をパチクリさせていた。

私は男の子に何かを買ってもらうなんて初めてだったので、心臓が嬉しさでバクバクいっていて少し俯いた。


「じゃあ、遠慮なくこっちもらうよ。」


井坂君はそう言うと、シロクマじゃなくて袋の中からペンギンを手に取った。

私は何でペンギンを取ったのか分からなくて、井坂君の手にあるペンギンを見つめた。


「谷地さん、KEI好きなんだろ?なら、シロクマは谷地さんが持ってて。俺はギターのJINでいいからさ。」


私の厚意を受け取りつつも、私の好みを気遣う優しさに、私は泣きたくなるくらい胸が苦しくなった。

井坂君は手の中でペンギンを弄びながら、ご機嫌に頬を緩ませている。

その顔を見て、私は自分の手の中にあるシロクマを優しく握りしめた。


このシロクマが今日一緒にいたっていう証だな…


私は井坂君とちょっとしたお揃いに胸が熱くなったのだった。





ここでまでベルリシュを引っ張ることになるとは、予想してませんでした。

でも二人の共通点なので、今後も出てくると思います。

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