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理系女子の恋  作者: 流音
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206、不甲斐ない自分

井坂視点です。イチャ度がちょっと高め…かもです。



詩織が泣いている



一昨日のクリスマスとは違う涙を…俺の前で、また流している…


俺は詩織の涙を見たことで我に返って、自分のしたことを思い返して激しく後悔した。


俺は何をやってる!!!


詩織から寺崎に告白されたって聞いて、頭が真っ白になって…

キスされたって聞いて、何かかが自分の中で弾け飛んだ。


詩織が苦しくて俺に打ち明けたってのは、詩織の表情から分かってたはずだ

それなのに、俺は詩織に触れた寺崎の存在が許せなくて、詩織に苛立ちをぶつけてしまった。


詩織には俺だけでいい

俺だけを見ろ!


さっきまで詩織の顔も見れないぐらい、自分の一方的な気持ちをぶつけてたことに気づいて、自分で自分が怖い。

詩織の気持ちを踏みにじる行為に、俺は今になって背筋に寒気がしてくる。


だから静かに涙を流す詩織を見下ろして、俺は深く頭を下げた。


「ごめん…。ごめん、詩織…。」


俺は掴んでた詩織の手を放すと、自分の情けない顔を自分の手で隠した。


自分の醜くて深い嫉妬心と独占欲に吐き気がする。


どうして俺はこうなんだ…

どうして自分の気持ちを勝手に押し付けちまうんだ…


俺がはーっと大きくため息をついて自責の念に嫌になっていると、顔を覆っていた手に詩織の手が触れてきて俺は詩織を見た。


「ごめんなさい…。井坂君に…嫌な思いばっかりさせて…、本当にごめんなさい…。」


詩織は涙に濡れた顔のまま謝罪してきて、俺は詩織が謝る意味が分からなくて首を傾げた。


「僚介君に好きだって言われたとき、最初は冗談だって思ったんだけど…、なんだかすごく苦しそうで…。それが井坂君と同じだったから…、本気なんだって理解したんだけど…。私…、またガード…緩くなっちゃって…。」


詩織が俺が何度も口酸っぱく言っていたことを口にしていて、俺はキスされたことを謝ってるんだと分かった。


「嫌な気持ちになるの…、私もよく知ってたのに…。私…本当にバカで…、考えなしで…、本当にごめんなさい。」


詩織の手がここで震えはじめて、俺の手を放したくないかのように強く握ってくる。


「お願い…。幻滅…しないで…。」


詩織が掠れた声で涙ながらに懇願してきて、俺は詩織がちっとも俺のしたことを責めてないと感じた。

それどころか俺に嫌われるのを恐れているのか、震えながら泣いている。


俺は俺の汚い想いには何も気づかず、まっすぐ過ぎるぐらい俺への気持ちを伝えてくる詩織が、すごく綺麗で、目に入れても痛くないほど愛おしい。


だから、俺は詩織の頬を優しく手で包み込むと、安心させるように言った。


「するわけないだろ…。俺こそ…、いつも自分勝手に…気持ちぶつけて…ごめん…。」


詩織は俺が少し笑ったことで安心したらしく、ふっと微笑むと俺の手に頬ずりしてくる。

俺はそんな詩織が愛おしくて、今度は無理やりじゃない優しく愛を確かめるようにキスをした。


詩織はいつも俺の心を掴んで放さない幸せそうな笑顔を見せて、俺はその笑顔に全部許された気がして、気持ちが軽くなった。


やっぱり詩織しかいない…


俺は今まで何度も思った事を繰り返して、詩織に何度もキスしたりくっついたりして、いちゃついていると、ふっと詩織の服の袖の隙間から肌の色が変わってるのを見つけて、俺は詩織の腕をとった。

そして袖を捲り上げてみて、俺は詩織の白い腕にくっきりと青紫色の痣ができているのを見て言葉を失った。


「あ…、これ…。」


詩織は何か思い当たることがあるのか、痣を見て笑顔を失くす。


「詩織…。これ、どうしたんだ?」


俺はこんな痣を作る詩織を見たことがなかっただけに、何があったのか気になった。

詩織は少し言い迷っていたけど、一度目を伏せてから説明してくれる。


「……たぶん…、僚介君に…強く掴まれたときに……。」


寺崎…


俺は詩織から寺崎の名前が出ただけで、詩織に溺れていた自分が嘘のように冷や水をかぶったように現実に引き戻される。

そして、こんなになるまで詩織に触れたことが許せず、怒りの炎が俺の心の奥で灯る。


あいつ…この世からいなくなってくんねぇかな…


俺は目を細めると、そう物騒なことを考え詩織の上から退いた。

そして、詩織じゃなく、俺が寺崎と話をつけなければならないだろうと思い、寺崎への苛立ちで顔をしかめる。


詩織の言い方だと、寺崎は詩織にフラれても諦めるつもりはないようだ…

会えないと言っていた詩織に、告白した挙句、また会いに来ると宣言したぐらいだから…

覚悟は生半可なものではないのだろう…


俺はどうすれば詩織を守れるのか考えて、ふーっと鼻から息を吐く。


すると、詩織が俺の横にちょこんと座って、俺の顔を窺うように見てから口を開く。


「これ…そんなに痛くないから…大丈夫だよ?あと…、僚介君のことも…自分でちゃんとするから…。今度は井坂君に嫌な思いさせないようにマスクしたりして、ちょっと距離とって話つけてくるから…。」

「……っふ…。何だそれ?」


俺は詩織が可愛い接触対策を思い描いていることに笑いがこみ上げてきて、真剣に悩んでたはずなのに気が抜ける。


「だって、このままにしておけないし…。話してちゃんと分かってもらわないと…。」

「それなら、俺がしてくるよ。」


俺はこれ以上俺の知らない所でちょっかい出されちゃ気が気じゃいられないので、詩織をもう寺崎に会わすわけにはいかなかった。

だから、俺が男として…詩織の彼氏として、あいつと決着をつける気持ちでそう口にする。

でも、詩織は俺に迷惑だと思ったのか「受験前にそんなことさせられないよ!」と反対してくる。


俺はそんな詩織を見て、そこまで頼りにされてないのかとムカつく。


「詩織、これは詩織の彼氏としての俺の仕事だから。詩織は寺崎とのキスを忘れる事だけ考えてればいいんだよ。」


そう何度も詩織を目の前からかっさらわれる不甲斐ない男のままではいられない。

寺崎には、詩織には俺がいるってことを痛いぐらい刻み込んでやらねーと…

もう二度と軽々しく会うなんて口にできねーように…


俺はどんな仕打ちをしてやろうか…と悪巧みを考えていると、隣からボソッと詩織が呟くのが聞こえた。


「もう…忘れたんだけどな…。」

「…ん??」


俺が少し頬を赤くさせて俯く詩織に目を向けると、詩織は膝の上にのせている手を弄りながら言う。


「さっきの井坂君のキスで…、僚介君のどんなだったか飛んでっちゃった…。」

「飛んでった…?」

「…うん。だって…、井坂君のキスの方が…なんていうか…。」


詩織はここで耳まで真っ赤になると手で口を隠してしまう。

俺はそんなところで言葉を切られると気になって仕方なくて、詩織の手を掴んで口の前から退かせると訊いた。


「俺のが何なんだよ?」


詩織はちらっと俺と目を合わせると、すぐ逸らして恥ずかしそうに焦らしてから言った。


「…………やらしいんだもん…。」


……………


俺はそんな感想を言われて、どう反応すればいいのか分からず、『やらしい』というのはどういう所かと考えた。

すると詩織が俺の手を握り返しながら、真っ赤な顔のままで続きを話す。


「……だって、井坂君…。キスするとき…別人みたいで…、いっつも心臓爆発するぐらいドキドキして…。どうでもよくなるっていうか…。」

「どうでもよくなる??」

「……うん…。…井坂君だったら、何されてもいいや…みたいな…。そんな気持ちにさせられるんだもん…。」


…………ウソだろ…


俺は『何されてもいい』という単語だけやけに耳に残って、心臓が変に動き出す。

詩織は照れた顔のまま「やらしいよ…。」と繰り返す。


俺はここで寺崎とのキスの感想が気になって、つい口から出る。


「詩織…、ちなみに寺崎とは…どんな感じだったんだ?」


詩織は俺の問いに目を丸くさせると、キュッと眉間に皺を寄せて考え込んでから、首を傾げる。


「分からない…。だって、忘れちゃったから…。」


詩織は嘘のない揺るぎない目をしていて、俺は詩織の中の寺崎の位置を理解してニヤけてしまう。


あいつがやけに自信満々で絡んできてたから、思いっきり目の敵にしてたけど…

詩織の中じゃその程度かよ…


俺は詩織の中の自分と寺崎との順位を、まぁ…腹立つことこの上ないが、キスというもので測ることができて、余裕の勝利に嬉しくて顔が緩んでくる。


俺、もしかして詩織にすげー愛されてるんじゃないのか…?


俺はさっきの俺のひどい行いですら、詩織は気にしてなかったことを思い出して、じっと詩織を見つめる。

詩織は「何?」とまた赤くなって照れ臭そうに少し俯く。


俺はそんな詩織の反応を見て、愛されてる実感が増す。


いつも自分の方が詩織が好きだと思っていたけど…

詩織も俺と同じか…それ以上に俺のこと想ってくれてる…??


だから俺が寺崎のことを気にするのを怖がって泣いたり…

無理やりキスしても怒らないのか…?


そういえば…、以前拒否られたときも詩織は怒ってる様子はなかった

むしろ俺が迫ったときは詩織は大概受け入れてくれている…


口では『やらしい』と言いながらも、何されてもいいなんて思ってるぐらいだ…


詩織は俺が思う以上に…俺がいないとダメとか…?


俺はここでふと詩織を試したくなって、悪巧みを口にした。


「詩織、俺…もう詩織にキスできねぇかも…。」

「え!?なんで!?」


詩織はサーっと青ざめると、ショックを受けたように目を見開く。


「だって…、やらしいとか言われたらさ…。遠慮しちまうし…さ。」

「なんで…?私、嫌なわけじゃないよ?むしろ、ドキドキしちゃって大変なだけで…。」

「でもさー…、俺そんな風に思われてるなんて知らなかったし…。ちょっと自分の…を思い直すために、時間が欲しいかなぁ…。」

「え…!?……思い直すって…、それっていつまで…?」


詩織はキスできないことが辛いのか、悲愴な顔をし出して、俺は心の中で笑いが止まらない。


「そうだなぁ…。あ、じゃあ、詩織から俺のやらしいキスとやらを忘れるぐらいのキスしてくれたら、俺も遠慮しなくていいって分かるし、考える時間なしでもいいよ。」

「え、私から?」

「そう。」


詩織はしばらく考え込むと、「分かった。」と頷いて俺の顔を両手で包み込んできて、俺は悪巧みが成功したことに心の中でほくそ笑んだ。


詩織も俺と同じなんだなぁ…

それが分かっただけで、寺崎とのことはどうでもよくなってくるんだけど…


俺は今まで自分ばかりが詩織を追いかけてた気分だったので、今回のことで詩織も追いかけてくれてると分かり気持ちが随分楽になった。


そうして詩織のキスはどんなものかと待ち構えていると、詩織のキスは思ってたよりも情熱的で俺は詩織に攻められたとき、背筋がぞわっとして目を見開いた。


なんだこれ!?


俺は余裕をこいていた手前、詩織から感じさせられてることに戸惑って、心臓がドッドッと荒ぶっていく。

詩織はそんな俺に気づいていないのか、俺の耳の後ろを手で触れてきて、俺は体がビクついて、思わず詩織を引き離した。


「………?どうしたの?」


詩織は自分が何をしたのかも分かってなくて、無垢そのもの顔を向けてきて、俺は詩織に完全敗北した気分で真っ赤になる顔を両手で隠した。


詩織のはヤバい…


俺はもう少し引き離すのが遅かったら、きっと完全にスイッチが入ってたと思い、じっと詩織を睨んで言った。


「詩織のがやらしいよ。」

「え!?」

「…っつーか、エロい…。」


「えっ…エロ…、そんな!?ウソ!?」

「ウソじゃねーよ。それ、俺以外には絶対禁止な。」

「そっ…、するわけないよ!!!でも…えぇ!?!?」


詩織は自分がエロいというのが信じられない様子で、真っ赤な顔を手で隠しながらオロオロする。

俺はそれが可愛すぎて口元を隠して小さく笑った。














井坂がやっと詩織の自分への気持ちの尺度を理解しました。

井坂に自信が備わるきっかけでした。

寺崎再登場までしばし間を空けます。

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