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理系女子の恋  作者: 流音
216/246

<過去から現在へ>寺崎僚介②

引き続き寺崎僚介の話です。


詩織から絶縁宣言されてから迎えたクリスマスイブ――――


俺は何をするのにも力が入らない日々を送っていて、慶太から誘われたクリスマスパーティーも気乗りしなかったのだけど…

慶太や玲が何度も連絡してくるので、俺は仕方なく足を向けていた。


パーティーをするのは駅前のボーリング場で、俺はそこへ向かいながら、町行く人の流れを何気なく見ていた。

駅前で待ち合わせする人は皆どこかソワソワとしていて、気分が浮かれているのが分かる。

俺もその中の一人になりたかったと虚しい気持ちを抱えていたら、俺の目にその気持ちを打ち消すほどの衝撃を与える人物が入ってきて足を止めた。


そこにいたのは、つい先日もう会わない約束をしたばかりの詩織で、駅前広場のベンチの脇でまっすぐ前を見つめていた。


俺はそんな凛とした詩織から目が離せなくて、体がピクリとも動かない。


詩織のしている仕草一つ一つを見逃すものかと、目が食い入るように詩織に向かう。

詩織は時折キョロキョロしながら辺りを見ては、ふっと短く息を吐き出して優しく微笑む。


それが誰を想ってのものか、俺は痛いほどよく知っていたので、胸が徐々に苦しく締め付けられていく。


どうしてこんな気持ちになるんだ…

詩織を最初に切り離したのは自分なのに、今じゃ会えないだけで気分が下がって、会えたら泣きたくなるぐらい胸が熱くなる…


あの笑顔が見れれば満足なはずなのに、向けている相手が自分じゃないと思っただけで、無性に詩織に腹が立つ


こっちに気付いてほしくないのに、気付いて話しかけてほしいと願っている


こんな天の邪鬼で相反する気持ちを何というんだろう


これから彼氏と会う詩織をこのまま見るのが嫌だった俺は、地面に貼り付いた足をなんとか動かすと逃げるようにその場を後にした。



それから俺はボーリング場で慶太と玲、それに二人の友達と思しき男子二人、それに女子の友達だろうか?が5人。

まるで合コンだな…と思いながらも、慶太の仕切りでクリスマスパーティーがスタートした。


ゲーム中、俺は度々化粧の濃い女子たちに囲まれ話しかけられたけど、気のない素振りを続けていたら興味が削がれたのか、1ゲーム終わった頃には誰からも話しかけられなくなってほっと一息ついた。

そして2ゲーム目に入ったとき、俺はこれ以上皆の高いテンションに絡んでいけそうもなかったので、順番を飛ばしてもらうように慶太に頼むと、一人自販機横のベンチへ移動した。


そこでふーっとため息をついて天井を見上げていると、俺を心配したのか慶太と玲がやって来て横に腰を下ろした。


「僚介。やっぱりこういうのダメだったか?」

「こういうのって?」

「だから…、女子と一緒に遊ぶのだよ。」


慶太の少し遠慮したような言い方にやっぱり合コンだったのか…と察すると、俺は体を起こして二人に笑いかけた。


「別に。俺のためにしてくれたんだろ?」

「そうだけど…。僚介、思ってたよりも楽しそうじゃねぇからさ…。」


慶太も玲も俺が喜んでないことを分かってたのか、がっかりしたように肩を落とし始めて、俺は上手く合わせられなかったことに謝罪した。


「悪い。俺、色々あってさ…。今、上手く笑えなくて…。空気悪くしてるよな。」

「僚介…。色々って…、もしかして谷地さん絡み?」


玲が俺の核心を突いてきたことにビックリして、顔が強張る。

そんな俺の顔色だけで分かったのか、二人は何もかも分かったかのように息を吐いて表情をひそめる。


「僚介。まだ、谷地さんと会ってたのか。」

「いや……、もう会ってない。」


俺はついこの間の絶縁宣言を思い返して胸の奥が抉られるように痛む。


「会ってないって…、それまでは会ってたってことだろ?何やってんだよ、お前。」

「だから会ってないって!!詩織から会えないって言われたんだからさ!!」


俺は傷を抉ってくる玲の言葉に苛立って口調が荒くなる。

すると、慶太がベンチから下りて俺の前にしゃがみ込んできた。


「僚介。お前、やっぱり変だよ。今、何抱え込んでるのか話してみろよ。」


俺は俺の目をまっすぐ射抜いてくる慶太の目に、話せば楽になるものなのか…と口が緩みかけた。

でも、これは俺と詩織のことだと、慶太から視線を外して少し俯いた。


「僚介。俺ら友達じゃねぇのかよ。何も話してくれないなんて、俺らに対する侮辱だぞ。」

「は…?」


玲の冷めた声に一瞬ひやっとして顔を上げると、玲も同じように慶太と並んで俺の前にいて、少し怒ったように目を吊り上げている。


「俺らのことダチだと思ってんなら、話せ。」


玲からの脅迫のような友達宣言に、俺は少し笑いそうになったけど、まっすぐな目で二人から見られたら、もう話すしかないと観念した。


「俺さ、詩織と再会してから、初めて高校生活が楽しいと思ったんだ。詩織とはそこまで毎日顔を合わせるわけじゃねぇのに、予備校で会えるって思ったら、勉強も捗るようになって…。きっと仲間ができて浮かれてたんだけど、……この間、詩織から絶交されたっていうか…。中学卒業した頃まで関係を戻したいって言われて…。」

「??それって、僚介と仲良くなる前に戻りたいってことか?なんでそこまで関係がこじれたわけ?」


「それは…、俺が…詩織の彼氏にイラついて言ったことが…、詩織には許せなかったらしくて…。彼氏が大事だって言われて…。」

「彼氏って…、お前一体何言ったんだよ?」


慶太の顔が少し呆れたように歪んで、俺はあのときのことを思い返しながら言った。


「確か…、自分勝手な奴だ…とか、嫌いだって…言った。あとは、詩織を泣かせて欲しくなくて、泣かすなら許さないってことも…。」

「なんだそれ…。お前、なんでそんなこと言うんだよ…。」


慶太がはぁ~っと長いため息を吐き出すと、頭を抱えてしまう。

玲も渋い顔をして俺を見つめると、言った。


「僚介。お前は谷地さんのなんなんだよ?」

「何?…って…、それは予備校仲間で…友達だと思ってたけど…。」


「なら、なんでお前が谷地さんの彼氏にそんなこと言うんだよ?お前はただの友達なんだろ?そこまで口出すことじゃねぇだろ。」

「だ、だって、あいつ、詩織に悲しい顔ばっかさせてて、詩織ばっかりあいつに振り回されてんだぞ!?こんなの友達として許せねぇっていうか―――」


俺が詩織の彼氏の顔を思い出してイラついていると、「あのさ!!」と慶太が突っ込んできた。


「俺、この間デート中の谷地さんたちに会ったって話したよな。」

「あぁ…。確かショッピングモールで偶然会ったってやつだろ?」

「そう。そのとき見た彼氏の印象だけどさ。そこまで嫌な奴には思わなかったよ。」

「は??」


俺は慶太から詩織の彼氏の印象を聞き、面食らった。


「谷地さんのことすげー大事にしてんだろなって、二人でいるところ見て思ったぐらいだし…。何より、あの谷地さんが彼氏見て幸せそうに笑ってた。俺、中学の時、谷地さんのあんな顔見た事なかったからビックリして、あぁ、この彼氏がいたから、今の谷地さんがいるんだろうなって思ったんだ。僚介はそうは思わなかったわけ?」


「そ…それは…、確かに詩織は彼氏といるとき…良い顔してるけど…。でも、泣かされてる所だって何回も見て!」

「だから、それはお前がたまたま谷地さんが落ちてるときに会ったってだけの話だろ?よっぽどイヤだって思ってたら谷地さんだって別れてるよ。」

「そうだよ。俺も一緒に会ってるけど。僚介みたいに谷地さんの彼氏が、谷地さんを振り回してるようには見えなかったし。」


は――――!?!?


俺は二人が詩織の肩を持つことに声を失って、目を見開いた。

二人は俺を見つめて「よく二人を思い返してみろよ。」と説得しようとしてくる。


俺はそれが気分が悪くて、二人に噛みつくように言い放った。


「ふざけんな!!お前らはあいつのこと詩織とちゃんと話もしたことないから、そんなこと言えんだよ!!詩織がどれだけあいつに振り回されて、辛い顔してたか…。何も知らねぇから!!」

「僚介、だから…谷地さんだってイヤだと思ってたら別れてるって…。お前が谷地さんの彼氏のこと評価して、貶すことは違うだろってことを言ってんだよ。」


慶太の冷静な言葉を聞いて、俺はただただイラついて、心の奥底に眠ってた気持ちが口から飛び出す。


「でも腹が立つんだよ!!詩織があいつのこと想って辛そうな顔するたび、ムカついて…ムカついて、詩織の彼氏の事がブッ飛ばしたくなるぐらい、ムカついて堪らなくなるんだよ!!」


俺が息も荒く吐き捨てると、目の前で二人が驚いたように目を見開いたあと、何か分かったかのように表情を和らげた。


「僚介…。お前、その気持ち…、本当に友達だからくる感情だと思うか?」

「……はぁ?」


俺は慶太が何を言いたいのか分からなくて睨むように眉間に力を入れた。


「ただの友達だったら、谷地さんのこと考えてそこまで彼氏に対して怒れねぇよ。何か特別な感情がない限りはさ。」

「特別って…、それは俺が詩織が好きだって言いたいわけ?前のときみたいに。」


俺は前にも問いただされたことを思い返して、あり得ないだろと否定する。


「慶太。詩織には彼氏がいんだよ。それに俺は中学のとき、詩織を振ってる。それだけはあり得ねぇよ。」

「でも、そうとしか考えられねぇよ。お前の谷地さんに対する執着が異常過ぎる。」

「は?執着とかじゃねぇよ。俺は一友達として…。」


「僚介。」


俺と慶太が言い争っていたら、今まで黙ってた玲がケータイをいじってある写真を見せてきた。

そこには昔俺が付き合っていた実桜が笑顔で玲と一緒に写っていて、なんなんだ?と首を傾げる。


「実桜がどうしたんだよ?」

「実桜のこと、好きだから付き合ったんだよな?」

「???そうだけど?」


当たり前のことを聞かれて俺がじっと玲を見つめていると、玲はケータイを閉じて言った。


「俺、今…実桜と付き合ってる。」

「へ??」


急な報告にビックリしてしまい、どういう話の流れかと思ったけどとりあえず「おめでとう。」とだけ口にした。

すると、玲がキッと俺を睨んでくる。


「俺のことムカつかないわけ?」

「は??なんで?」

「…俺が、昔…お前のこと好きだった実桜と付き合ってるから…。」

「??意味分かんねぇ。俺と実桜は終わってるわけだし、今はなんとも思ってねぇんだからムカつくわけないだろ?」


「じゃあ、もしお前が実桜と付き合ってたとき、俺が実桜と隠れて付き合ってて、実桜が俺とお前二股かけてたらどう思う?」

「はぁ??どんな例え話だよ?」


俺はぶっ飛んだ話に苦笑すると、玲は至って真面目な顔を崩さずに「よく考えろ!」と答えを促してくる。

だから仕方なく中学まで戻ってみて、実桜と玲を思い浮かべてみる。

あのとき、実桜は俺の事「好き、好き」とうるさいぐらい愛情表現してきていた。

そこが面白いなと思ってたし、安心感もあった。

でも、玲が実桜の事が好きで実桜が俺に嘘をついていたのだとしたら…。


俺はすぐ気持ちが冷めて実桜を切ってただろうな…と結論付けた。


「別に。俺はが実桜と別れるのが早くなっただけだろ。二股かけられてたとしても、あーそっか~って思ったぐらいじゃねぇ?」


俺の返答を聞いて玲はどこか憐れんだ目をしてから、苦し気に顔を歪めて言った。


「僚介…。俺、やっとお前って奴が見えた気がする…。」

「は?何の話?」


俺が分からない何が玲に分かったのだろうか?と気になっていると、慶太も何かを察したのか少し悲し気に眉を下げる。


「僚介…、お前…好きって感情を掛け違えたまんま、今まで来ちまったんだよ。」

「掛け違え…??」

「お前が実桜や他の付き合ってきた女子に抱いてたのは、きっと好きでも軽い方の感情だよ。」

「はぁ……。」


俺はちゃんと今までの彼女たちのことは好きだったけどな…と思いながらも、玲の説明を聞く。


「それで谷地さんに抱いてるのが軽い気持ちじゃない、本気の好きっていう感情だよ。お前は友達だって言い聞かせてるけど、どう考えてもその方がしっくりくる。これは頭の良いお前なら簡単に理解できるだろ?」

「理解できるもなにも、それ逆だろ?なんで付き合ってきた女子の方が軽い方なんだよ?」


「だから掛け違えてんだよ。なんでか分かんねぇけど、お前は好きの考え方が歪んでて、ずっと恋愛感情ってもんを勘違いしてきたんだ。」

「勘違いって…、俺はちゃんと実桜のことも好きだったぞ?」

「でも、実桜のこと考えても何の嫉妬もしねぇじゃねぇか。」


玲が冷たい目で言い切ってきて、俺は確かに今まで付き合った女子に嫉妬なんかしたことないことに気づいた。


「お前は、きっと中学のときからすっげー谷地さんが好きだったんだよ。自分でも気づかないぐらい、好きって感情に飲み込まれてて、今まで表に出てこなかったんだと思う。だって、お前が谷地さんに告られたの…、まだ中学っつっても一年のときのことだしな…。ほぼ小学生のガキと変わんねぇし…。」

「ちょ…、ちょっと待てよ!!俺、中学のときは本当に詩織のこと好きじゃなかったって!!付き合いたいなんて微塵も思わなかったし…。」

「でも、お前が告白断ったの…谷地さんだけだった。」


俺は玲に痛い所を突かれて何も言い返せなくなった。


確かに中学の時、告白されて断ったのは詩織だけ…

それも詩織と付き合ったら、詩織が変わってしまうのが怖かったって理由で…


誰にもその話はしてないけど、玲はどこか俺の深層心理を見抜いてるように話を続ける。


「お前はきっと恋愛に関して、すげー幼かったんだよ。それなのに色んな奴と付き合ったことで、素直な感覚が育たなかった。歪んで恋愛感情を覚えてしまった。だから、谷地さんの告白に上手く応えられなかった。心の底では大好きだって思ってたのに。」


「……大好きだって…思ってた…??」


俺は告白してきた時の詩織の表情を思い返して、自分が告白されたとき最初に感じた気持ちを思い出しかけた。


「僚介。素直になれ。谷地さんの彼氏にムカつくのだって、お前が谷地さんのこと好きだからだろ?お前が一番、谷地さんの笑顔が見てたくて、谷地さんの幸せを願ってる。それは深く、深く、心の底までお前が谷地さんのことを想ってるからだ。」


玲の言葉がスッと胸に入ると同時に、俺は過去に巻き戻った。



詩織が告白してくれた体育館裏――――


詩織の顔は真っ赤で、緊張で手や足が震えているのが見える。

俺は詩織から『僚介君が好き』と言われたとき、ぶわっと全身が粟立ったのを思い出した。


あれは詩織が他の女子と同じだと幻滅したときの悪寒じゃない。

身体が嬉しさで歓喜した反応だった。


頭で必死に考えてたことを取っ払うと、『嬉しい』という素直な感情が見えて、全身から汗が吹きだしてくる。


そこでハッと現実に戻って目を瞬かせると、二人の穏やかな顔が見えて、「やっと分かったか?」と笑われた。



俺は確かに素直な気持ちは見えたけど、まだどこかで認めたくない自分がいて、ムスッとすると二人に言った。


「分かりたくもねぇよ。俺と詩織は友達でいいんだよ。」


「~~~~っ!!!こんの意地っ張りめ!!」

「はぁ~~、面倒くせぇ性格してんなぁ…。」


「うるさいな。どうせもう詩織には会えねぇんだ。俺の気持ちなんてどうでもいい。」


俺が現実を見据えてそう言うと、二人は飽きれた様に立ち上がり「本命ほど臆病になるからなぁ…。」と俺を挑発するようにぼやく。

俺はそれに乗るわけじゃないけどイラッとして、立ち上がると二人の肩を掴んだ。


「本命じゃねぇ!!」

「認めろ!!それは恋愛感情だ!!」

「違う!!」

「じゃあ、一生谷地さんの彼氏にムカついてろ!バーカ!!」


二人は俺をからかうように笑い出して、俺はただ認めたくなくて二人にイラついた。


でも二人に打ち明けたことで気持ちがだいぶ楽になっていて、俺はこのときなんとなくだけど二人の言う通り、自分の気持ちを認める日も遠くないかもしれないと思ったのだった。











過去の話から現在の僚介への気持ちの変化でした。

詩織と僚介がどうなるのか…次話から進めていきます。

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