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理系女子の恋  作者: 流音
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<過去から現在へ>寺崎僚介①

詩織の初恋相手である寺崎僚介の話です。



『私との関係を中学を卒業した頃まで戻してほしい。私、僚介君にフラれた事…。許すつもりないから。』


中学の時、告白された相手からの絶縁宣言。


てっきり俺とまた話せるようになったことを、彼女は喜んでいると思ってた。

俺と一緒にいることを楽しいと、嬉しいと思ってくれてるものだと――――


勘違いしていた。


俺はそう理解した時、今まで何も言わなかった彼女に憤り、怒りで我を見失った。


だから相手を傷つけると分かっていたのに、怒りに任せて中学の時と同じようなことを口にしてしまった。


中学の時だってあれだけ後悔したのに、また同じことを繰り返してしまった。

それが情けなくて、彼女の傷ついた顔に苦しめられる。

痛いぐらい胸に刺さったまま離れない。


どうして彼女に対してだけ自分がこうなるのか、全然分からない。


何故思ってもないことを口にしてしまうのか…

喜ばせたいはずなのに…

笑ってる姿が見ていたいはずなのに…


また同じ顔をさせてしまった…


俺は繰り返し後悔しながら、いつもあの頃の思い出を思い返して自分を慰めてしまう。


自分が一番自分らしくいられたあの頃のことを…





***





中学に入学したばかりの12の春―――――


俺は恋というものに目覚めた女子たちから猛烈なアプローチを受けていた。

それは同級生に限らず、年上の先輩までいて、俺は付き合うということに興味もあったので、いいなと思う子から順に付き合っていた。

女子のことをあまり知らなかった俺は、付き合う事で彼女たちから色んなことを教わった。

どういうところで喜ぶのか、怒るのか、女子の考え方という部分から、また思ったよりもスキンシップを求める生き物だということも…

この頃の経験が俺の恋愛にブレない性格を作る下地になったと、今ではそう自負している。


まぁ俺は頭の回転も早く、物覚えも良かったので恋愛まで勉強のように捉えてしまったからかもしれないけど。


そして女子に慣れ始めた頃に出会ったのが、席替えで隣になった真面目で大人しい女子という印象そのままの詩織だった。

詩織は名前が可愛いなと言っただけで、真っ赤になってしまう純粋な女の子。

俺にはその反応が初心で新鮮で、詩織を喜ばす言葉を何度も口にした。


その度に詩織は俺を嬉しくさせる反応を見せて、俺は詩織をからかうのをやめられなくなっていった。

なんだか詩織といると楽しかったし、自然と笑顔になれた。

付き合ってる女子とは違って、自分をカッコつけたりしなくてもいい。

俺がどんな俺であろうとも受け入れてくれるような――――詩織にはそんな雰囲気があった。


そう感じるようになってからは、俺はどこにいても詩織のことを見つけられるぐらい、詩織センサーが働くようになった。

だからかもしれないけど、俺は事あるごとに詩織の悪口を耳に挟むようになった。


それは俺が付き合ってた女子や俺に好意を寄せる女子たちのグループで、俺は自分のせいで詩織が悪く言われていると知った。

だから、そういう女子には一人ずつ問い詰めて回った。


女子とは群れる生き物だというのは見て知っていたし、悪口というものは集団で広がる。

だから、それをなくすには一人ずつ口を封じていかないといけないと思った。


まぁ、女子連中は俺に悪口を聞かれたことを恥ずかしく思ったのか、事実を隠すのがほとんどだったけど…

俺がそんな奴と付き合うわけがないとハッキリ告げると、詩織への不満が溢れるように出てきた。


俺があんな地味な女子とつるむのはどうしてだ――とか、自分の方が詩織より勝ってる―――とか聞くに堪えないものばかり…


俺はそんな他人と自分を比べて悪口を言う奴に魅力を感じなかったので、ハッキリそいつらを拒絶した――――はずだったのだけど…、

どこから事実が捻じ曲がったのか、俺はそいつら一人一人と短い期間付き合って、別れたという話になっていた。


どうやら女子の間で俺と二人でいたというだけで、何らかのステータスになるらしく、見栄で事実を隠して話をしたらしかった。


方程式的にはこうだ→俺からの呼び出し=告白=付き合う


女子というのは本当に意味が分からない



俺はそういう厄介な女子とも接点があっただけに、詩織との時間は本当に癒された。

詩織はあんな女子たちとは違う


俺と話すだけで幸せそうで、見てるだけでこっちまで幸せを分けてもらうような気持ちだった。

だから、まさか詩織もあの女子たちと同じだと思わなかったんだ。



『私…僚介君のことが好き』



体育館裏に呼び出されて、俺は詩織から告白された。

俺はそのとき、詩織のあの幸せそうな顔は俺のことを好きだと思ってたからか…と理解した。

それと同時に付き合ってきた女子の顔が浮かんで、俺は急に怖くなった。


俺がこの告白を受け入れれば…詩織は俺と付き合うのか…??


俺は詩織が俺と付き合う事で、あの女子たちのように変わってしまうのが嫌で、口から思ってもないことが飛び出した。



『ゲームセット』



俺はそのあと随分ひどいことを言った気がするけど、今じゃもう覚えていない。

ただ覚えてるのは詩織の傷ついた顔と、涙だけ。


俺はその顔を見たとき、言い方を間違えたと激しく後悔した。


でも、口に出してしまった以上もう遅い。


俺は詩織を傷つけたのは自分だと、自分から触れ回ることで罪悪感を和らげようと努めた。


詩織はただ告白してくれただけ、俺がそんな詩織を傷つけた。

悪者は自分一人だ。


責めるなら俺を責めろ。


そう思っていたのに、詩織への悪口は広まり収束する気配を見せなかった。

俺が悪いのに、どうして詩織が皆の標的になるんだ。


どうすれば俺は悪者になれる。


誰か俺の事を悪者だと詰ってくれ!!


そう願っていたら、瀬川に思いっきりしてきたことを責められた。

これでもかという罵倒に、俺は胸が少しだけスッキリするのを感じた。


あの頃、俺は罪悪感を拭い去りたい気持ちでいっぱいで女子で遊んでたようなものだったから、瀬川の真面目で固い説教は俺の胸に響いた。


俺を恨む奴はちゃんといる


俺はやっとそれに気づいて、詩織の周りの奴らからは良い目で見られてないと知った。

それだけで少し自分が救われた。


俺を恨んで憎んでくれたら、俺のしてしまったことの罪悪感が薄れる。


どうか俺のしたことを忘れないでくれ。


そう詩織に願いながら、詩織と話を交わす事もなく俺は中学を卒業した。




それから俺は、詩織の事も忘れかけながら平和な高校生活を送った。

両親や先生の勧めで入った県内屈指の進学校―――京清高校。


この学校でも俺はそこそこ女子の目に留まるのか、中学の時ほどではないが女子から度々アプローチされていた。

京清高の女子はやっぱり進学校だけあって真面目な女子が多く、アプローチの仕方も控えめでどこか雰囲気が詩織に似てる子が多かった。

だからかもしれないけどあまり彼女を作る気にはなれず、俺は何人かと付き合ってみるものの、やっぱり女子は女子だという印象を受け、長続きはしなかった。


付き合うと女子の醜い一面が見える。

これは初心そうな女子でも一緒だった。

俺はやっぱり詩織と付き合わなくてよかったと思う反面、心のどこかでまた詩織と会いたいと思ってる自分の気持ちに薄々気づいていた。


どうして高校に進学した今、そう思うのか分からないが、自分の正直な気持ちに戸惑った。

中学二年のときも三年のときも、詩織と話せなくても全然平気だった。

それなのにどうして今更…


俺は自分の心の中がむずむずと気持ち悪くて、イライラしながら過ごしていた。

そんなあるとき、慶太から同窓会をやるという連絡を貰って、俺は胸が弾んだ。


詩織に会えるかもしれない


そう期待して向かった懐かしい中学で、俺はすぐに詩織を見つける事ができた。


随分雰囲気が変わっていて、パッと見じゃ詩織だと分からないかもしれないけど、俺には分かった。

懐かしい優しい雰囲気も笑う横顔も、全部昔と同じだった。


だから、俺は昔のように戻れるかもしれないと一縷の望みをかけて、詩織に話しかけた。


詩織は俺の望みに応えるように、話を聞いてくれた。

それどころか許してくれて、また友達に戻ってくれるとまで言ってくれた。


俺はそれが嬉しくて…

高校に入ってから初めてといっていいほど、腹の底から笑った。


今までの罪悪感や苦しかった気持ちが消し飛んだような気がした。


だけど次の日、初めて詩織から電話をもらって、自分がぬか喜びをしたことを思い知らされた。


詩織に『彼氏』がいること。

その『彼氏』というものを理由にして、交換した連絡先を消したい事。


俺には『彼氏』というものが嘘か本当かは分からなかったが、その『彼氏』というものをダシに俺との繋がりを切りたいと言った事にムカついた。


さすがに中学のときのように幼くない俺は、そのとき怒りに任せた物言いはしなかったけど、アドレスを消してくれと言われて消すほど従順な男ではなかったので、詩織のアドレスは消さなかった。


せっかく詩織とまた繋がりを持てたんだ。

簡単に切って堪るか。


俺は詩織に会えない日々の中でも、ケータイの中の唯一の繋がりを支えに、またいつもと変わらない日常を無難に過ごしていた。

詩織から繋がりを切られたということは、あまり気にしないようにしながら…




そんなとき俺にもチャンスというものは訪れるようで、再度詩織と会う機会に恵まれた。

詩織は俺の通う予備校の前で呆然と涙目になっていて、俺はその儚い姿に衝撃を受けた。


あまり女子に対して何の感情も持たない俺が、詩織の涙を見ただけで守ってやりたい気持ちになってしまった。


俺はそんな気持ちを打ち消すように詩織と昔のように話をした。

詩織の抱えてるもの、彼氏の事、俺の事、これからの不安…

俺は詩織の弱音に続いて、自分が誰にも話した事のない弱音を吐いてることに少し気持ちが楽になっていた。


詩織と俺はどこか似ている

だからこうして気楽に話ができるんだ


そう感じた俺は悩む詩織の力になりたくて、また会いたいという気持ちをこめて一緒に勉強しようと言ったのだけど、詩織はよほど『彼氏』が大事なのか、断ってきた。

俺は詩織の中の『彼氏』の存在の大きさに少しムカッとしたけど、詩織の力になりたい気持ちの方が大きかったので自分のできることだけして、そのときは別れた。


それから俺は悩んでた詩織の姿がずっと引っかかっていて、自ら会いに行こうと決意して、初めて詩織の高校まで足を運んだ。

詩織の高校は公立高校というのもあって、俺の通う高校とは違い古い建物で校門を出てくる生徒の雰囲気も全然違った。

出てくる生徒、生徒が皆制服を着崩していて、校則が緩いのが見て取れる。

俺もこういう高校の方が良かったな…と思いながら詩織が出てくるのを待っていると、ある男子生徒たちの会話が耳に飛び込んできて顔を上げた。


「勝手に笑ってろ。詩織は俺のために勉強してんだ。何を言われても屁でもないね。」


詩織…??


俺はそう詩織の名前を呼んだ男に目を向けた。

そいつは俺と似たような物腰で、からかう友人たちと揉めていて、俺はそいつが詩織の彼氏だと察した。

そして、詩織と一緒に帰らない姿を見て、そこまで順風満帆に付き合ってるわけではないのだと分かり、俺はどこか安心して笑みを浮かべた。


詩織は彼氏、彼氏と口にするけど、こいつにとったら詩織はそこまでの存在じゃないのかもしれない…

詩織も男の見る目がないな…


俺はそう詩織の彼氏をパッと見で判断したのだけど、詩織と合流してから再度偶然会ったその彼氏は、詩織の前では全く違う顔を見せた。


俺を敵視する目

その目から俺は詩織をほったらかしにするくせに、独占欲はある心の狭い奴なんだと思った。


詩織も一方的にそいつに振り回されてる感じで、ハッキリ言うと俺の中のそいつの印象は最悪だった。


詩織もあいつにばかり振り回されていたら、いつか愛想をつかすだろう…

そう思って、俺は詩織のためにも詩織がまた悩んだときに助けられるよう、なるべくこのポジションをキープしておこうと思っていたのだけど…


詩織と接する機会が増える度に、詩織がどれだけ彼氏のことを想ってるかを思い知ることになった。


詩織は『井坂君』と彼氏の名前を呼ぶだけで、顔が少し変わる。

その彼氏の話をするだけで嬉しそうに微笑み、幸せそうに口にする…

そして、彼氏を前にしただけですごく女の子になって、全身から彼氏の事が大好きだというオーラが溢れているのが見える。


俺はそんな詩織を目にする度、中学の頃のことがフラッシュバックして、自分が詩織の告白を断らなければ、詩織は俺にもこんな姿を見せてくれていたのだろうか…と思うようになった。


どうして今更こんなことを思うのか自分では分からなかったけど、詩織と話をする度に詩織は俺が付き合ってきた女子たちとは違う気がした。


詩織と恋愛の話をしても、詩織の嫌な所は何一つ見えてこない。

それどころか、良い面ばかり見えて、俺は中学の頃の詩織と重ねて見て、まるで自分が言われているかのように錯覚しそうにさえなっていた。


詩織は…きっと俺のこともこんな風に想ってくれていた…


俺はそう感じる度に、ひどいことをしてしまった罪悪感が湧き上がるのと同時に、もう二度とあんな顔をしてほしくないと思った。


だから詩織と彼氏の仲があまり良くないときに、詩織の暗い顔を見ただけで彼氏にイラついて当たったりしたのだけど…



その俺が…、まさか自分で詩織をまたあの顔にさせてしまうなんて…

俺はなぜあんなことを言ってしまったのか、全く自分で自分が分からない…


俺は昔から後悔ばかりで、自分が詩織を前にたまにおかしくなることに心の整理がつかなくて、心苦しかったのだった。













もう一話続きます。

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