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理系女子の恋  作者: 流音
214/246

203、敵は両親

井坂視点です。


俺が兄貴に詩織とイチャついてる所を目撃され、口止めしようとあいつを追いかけたら、兄貴はやさぐれたように言った。


「お前はいいよな。大好きな女の子と好きなように一緒にいられてさ。あの親父でさえ、お前を応援してるし、ほんっと腹立つよ。」


俺は兄貴に何かあったのかと思ったけど、詩織に手を出した事とさっきの口止めだけはしようと口を開いた。


「さっきの、父さんたちには絶対に言うなよ。あと詩織にもうちょっかいかけるな。」

「へいへい。分かってるよ。黙ってるってので、詩織ちゃんに手を出したのはチャラな。」


兄貴は面倒臭そうにそう言うと、どこか寂し気な空気を残して自室に入っていった。

俺はあまりにも素直すぎて気持ち悪かったのだけど、ここで変に逆撫でして気が変わられても困るので、兄貴の様子が変なことは気にしない事にして部屋に戻る。


すると青い顔をした詩織がベッドから飛び起きるなり、「お兄さんはなんて!?」と訊いてきて、余程見られた事を口外されることを恐れてると感じ取った。

だから安心させようと詩織の横に座って「大丈夫。黙っててくれるってさ。」とだけ伝えた。


詩織はそれに心底安心したように息を吐き出して「良かった…。」と微笑む。

俺はその笑顔にまた気持ちがぶり返してきて、「詩織…。」と続きをしようと詩織に手を伸ばした。

でも詩織はそんな気持ちは削がれてしまったのか、ベッドから下りるとテーブルに置かれた土鍋に向かう。


「井坂君。これ食べる?」


詩織が土鍋の蓋を開けながら言って、俺は詩織の笑顔にさすがに食べないとは言えなくて、笑顔を貼り付けた状態で「食う。」とだけ返事する。


俺としてはおかゆより、詩織が食べたい…


俺はテーブルの前に座り、そういう目を詩織に向けたのだけど、鈍感な詩織が気づくはずもなく、詩織はレンゲで土鍋の中をかき混ぜながら、「取り皿ないんだ…。」と呟く。

俺はそれを見ながら詩織からレンゲを受け取ろうとすると、詩織がレンゲにとったおかゆにフーフーと息を吹きかけるのが見えて、俺はすぐ手を引っ込めた。


これは…もしかして、あの有名な…夢のシチュエーションじゃ…!!


俺は風邪をひいたときにマンガなどでよく見る光景を思い描いて、ドキドキしながら詩織の一挙一動を見守る。

すると詩織がおかゆを冷やし終えたのかレンゲを俺に向けて渡してきて、思ってたのと違う姿に俺は顔をしかめた。


「あれ?食べるんだよね?」

「??うん…??食べるけど…??」


詩織は俺が首を傾げると、同じように首を傾げながら「はい。」とレンゲを俺に渡してくる。


俺はそこで思ってたのと違うことに落胆して、じっと差し出されたレンゲを見つめる。

詩織は「はい。」と受け取らない俺を見兼ねて言うけど、俺は夢のシチュエーションを諦めきれなくて、詩織に教える事にした。


「詩織、これは違うだろ。」

「違うって何が?」

「これ、普通はフーフーしたあとに『あ~ん。』だと思うんだけど。」

「え!?」


詩織は俺の指摘に大きく目を見開いて「あ~んするの!?」と真っ赤になってしまう。

俺は以前一回やった気もしたけど、これはそうだろうと詩織に訴えるように頷く。

すると詩織は目を泳がせて少し迷ったあと、覚悟を決めたのか真っ赤になったままでおずおずとレンゲをさっきとは違う形で俺に向けてくる。


俺はそれを見てニヤけそうになるのを堪えると、詩織が冷ましてくれたおかゆを口で受取った。


うん…やっぱ、こうして食べる方が何倍も旨い…


俺は夢のシチュエーションを現実にできたことに満足で、ほくほくした気分でいると、詩織が自分の顔を手で押さえて「恥ずかしい…。」と言いながら、次を掬ってくれる。


俺は詩織が恥ずかしさでやってくれなくなると困るので、あえて黙ったまま詩織の手からおかゆを食べ続け、幸せに浸った。


おかゆより照れる詩織を見るのがすっげー楽しい…


俺は普段だったらあまり好きじゃないおかゆを今日は珍しく完食して、詩織効果だな…と土鍋の蓋を閉める詩織に言った。


「ありがと、詩織。ご馳走さま。」


詩織は少し照れくさそうに目を逸らしてから軽く微笑んで「どういたしまして。」と土鍋を下に持って行くのか、部屋を出て行ってしまった。

俺はそれを見送ってから、まるで夫婦みたいだな…と看病されてる幸せを噛みしめる。


やっぱ将来はこうだよな…

詩織が隣にいて、ただ笑ってくれるだけで幸せだもんな…


俺が西皇を志望してたら、大学から一緒に住むって選択肢もあったけど…

今じゃそれは夢みたいな話だし…

とりあえず4年…


そう4年の我慢だ…


俺は気を強く持て!!と自分に言い聞かせながらベッドに移動して寝転んだ。


そうして詩織が戻ってくるのを待ったのだけど、詩織はなかなか戻ってこなくて、俺は詩織が戻る前に眠ってしまったのだった。






***







俺は今朝とは違い、すごく幸せな夢を見た。


詩織が左手の薬指に指輪をしていて、すごく良い笑顔で「拓海」と呼んでいる。

俺はそれが嬉しくてゆっくり近寄ると、詩織の背後から詩織そっくりの小さな女の子が現れて、「パパ」と詩織そっくりの顔で笑う。


俺がそれにビックリしていると、詩織も同じように「パパ」とからかうように笑っていて、俺は「パパ」とは自分のことだと認識した。


俺が…パパ…??


俺は駆け寄ってくる詩織そっくりの女の子を抱きしめて、夢みたいだと胸が熱くなっていたら、大人の詩織に優しく抱き締められて、俺は幸せな気持ちでいっぱいになりながら目を覚ました。



静かな室内に窓から朝日がカーテンの隙間から差し込んでいて、小さな寝息が一つ耳に聞こえて、俺は横を向いた。

そこには俺の手をしっかりと握ったままベッドに頭をのせて眠る詩織がいて、詩織はいつ着替えたのか俺と色違いのスウェット姿だった。

そして誰が眠る詩織にかけたのか肩から毛布がかかっている。

俺も布団をかぶらずに寝たはずなのに、今はしっかり布団もかぶっていて、そのおかげか熱もすっかり下がり頭が冴え渡っている。


あー…、詩織との夜が…

寝るとか…勿体ない…


俺は詩織に一緒に寝てもらいたかった…と大きくため息をつくと、小さくノックの音がして母さんがこっそり顔をドアの隙間から見せた。


「あら…?拓海、起きたの??」


母さんは俺の目が開いてる事に気づいてベッドに近寄ってくると、俺の額に手をあてた。


「うん…。もう熱はないわね。」

「母さん…。詩織の服…。」


俺は満足気に頷く母さんに、寝てる間に詩織の服装が変わってる事が気になって尋ねた。

母さんはふっと優しく目尻を下げて微笑むと説明してくれる。


「あなたの食べた土鍋を下げてくれに下に来た時、詩織ちゃんにはご飯とお風呂を済ませてもらったの。一晩、あのままなんてあまりにも可哀想でしょ?だから、拓海の服をそこの引き出しから借りたの。そのときあなた布団もかぶらずに寝ててビックリしたんだから。」


それで…


俺は詩織が戻るのが遅かった理由と自分が布団をかぶってる理由を両方理解して、気になったことが解消された。

母さんはすぐ脇で眠る詩織を見て、本当に嬉しそうに笑うと俺に言う。


「詩織ちゃんのこと大事にしなさいね。何度も布団で寝る?って聞いたのに、傍にいたいって言ってここから動かなかったんだから。ここまでしてくれる子、なかなかいないわよ?」


俺は詩織がずっといてくれたことを知り、すごく嬉しくて頬が緩んで母さんの前でニヤけそうになって堪えた。


「母さんに言われなくても分かってるよ。」

「それならいいのよ。じゃあ、朝ご飯の準備できたら呼びにくるわね。」


母さんはそう言うと立ち上がって、俺はその背に「呼びに来なくていいよ。」と告げた。


朝ご飯より詩織と二人の時間を味わう方が大事だ

母さんに邪魔されたらたまんねぇもんな…


俺はそう思って言ったんだけど、それが母さんに表情だけで伝わってしまったのか、振り返ってくるなりじとっと睨まれる。


「今、何考えて呼びに来なくていいなんて言ったの?」

「は?」

「拓海。あんた今、全快でしょ?」

「え、まぁ…。」


俺は母さんが急に怒り出したのを見て、言葉を濁す。

すると母さんは俺の心の中を見透かしたように、俺の枕の下に手を突っ込んできて、俺はビックリして飛び起きた。


「ちょっ!!!!」


母さんは枕の下からあるものを出して、俺はソレを見てグワッと体温が上がり汗をかく。


「これが何よりの証拠でしょ?今日はダメ!!詩織ちゃんのお母さんから責任もって詩織ちゃんをお預かりしてるんだから!!」

「だっ…!!!で、でも!!」

「だってもでももダメ!!今までは目を瞑ってきたけど、今日だけはダメ!!大人しくしてなさい!」


母さんはソレをポケットにしまうと、なんと俺が隠していた他の分もサラッと見つけ出して、すべて回収してしまった。

俺はあちこちに隠していたソレの場所がバレてることにも驚いたけど、今まで全部母さんに許されてできてたことなんだと思い知らされて、恥ずかしくてたまらない。


母さんは「これも詩織ちゃんを大事にする一歩よ?」と笑いながら部屋を出て行き、俺は健やかに眠る詩織を見下ろしてなんの拷問だ…と肩を落としたのだった。



それから俺はじっと眠る詩織を見るとムラムラしてしまうので、もう一度寝てしまおうと思ったのだけど、詩織の寝息や小さな呻き声が気になって全く寝られず、やっと詩織が起きてくれたときには気疲れで、頭が痛くなりかけていた。


詩織は俺がこんな苦行をしてたとは知らず、元気になった俺を見て嬉しそうに笑い、ギュッと抱き付いてきて、俺は押し倒したい気持ちを涙を呑んで堪えた。


母さんの鬼!!!!


俺は母さんに対する怒りが膨れ上がってきていて、朝ご飯に下に降りたとき、俺は母さんに小声で交渉した。


「一つでいいから返してくんない?」

「ダメよ。これはお父さんも知ってるから。今日は頼まれても絶対ダメ。」


俺は父さんの名前を出されてちらっと父さんを見ると、父さんは目を細めて俺を睨んでいた。

詩織はその前に座りながら何も気づいてないようで、父さんに「昨日はありがとうございました。」とお礼を口にしている。


あ~~~~っ!!!!くそっ!!

なんだ、この俺一人じゃ何もできない無力感!!ムカつく!!!!


俺は俺を監視する父さんと母さんにイライラが募りながら、とりあえず朝ごはんを食べて、どうにか対策を立てようと頭をフルで回転させる。

最終手段は『買いに行く』というものになるけど、今日のこの二人の様子だと外には出してもらえないだろう…

俺は勉強のときよりも頭を回転させたんじゃないだろうか…と思うぐらい考えて、ふっとある一つの道が浮かんだ。


非常に選びたくない道だが、詩織と一緒にいられる状況を無駄にするぐらいなら、腰が引けてる場合じゃない。


俺はそう決めて、朝ご飯を食べたあと、詩織を一人先に部屋に返すと、俺はその隣の部屋の前で立ち止まって、大きく息を吸いこんでからノックした。


すると中から「あ~?」と不機嫌そうな声がして、髪もボサボサの兄貴がだるそうにドアを開けた。

俺はその兄貴を見つめて非常に嫌だったが、頼むために口を開く。


「あの…さ…、アレ…一つくれないかな…?」

「あぁ??何、アレって?俺、まだ寝てたいんだけど…。」


兄貴は大きく欠伸をすると扉を閉めて戻って行きそうで、俺は扉を押さえつけると兄貴に再度頼む。


「女子とヤッてばっかの兄貴なら分かんだろ?!頼むからアレ一つくれ!母さんに全部没収されたんだよ!!」


俺が包み隠さず暴露すると、兄貴は目が覚めたのか大きく目を見開いてからゲラゲラと笑い出す。


「わはははっ!!何だそれ!?!?お前、没収ってなにやらかしたんだよ!?とうとういい子ちゃんのお前も、俺と同じで地に落ちたか?」

「違うっつの!!今日は詩織のお母さんに見張る約束で預かった手前、絶対ダメだって言われて…。詩織が同じ部屋にいんのに拷問だろ!?」

「ぶっ!!気持ちは分かるけどさ…。なに、そこまでたまってんの?」

「違うっつーの!!好きな女目の前にして、正常でいられる自信がねーから言ってんだよ!!」


俺はこれが本音で、少し声が大きくなってしまい慌てて口を噤んだ。


詩織が俺の横で安心して寝てるのを見て、俺は詩織に触りたくて仕方なかった

俺はいつもそうだ…

詩織が傍にいたら、触りたくてしょうがない…

それがどこであっても、そういう気持ちになってしまう

ちゃんと抑えられるときもあるけど、やっぱりずっとはキツくて箍が外れそうになるときがある

そんなときなかったら…


俺はそこまで考えて、絶対ダメだと首を振る。

すると、俺の想いが伝わったのか、兄貴が一旦部屋に戻ると、なんと一箱手にして戻ってきた。


「これは詩織ちゃんのために貸すんだからな。くれぐれも母さんたちにはバレるなよ?」


俺は兄貴が俺の味方になってくれたことが、ちょっと嬉しくて、「分かってる。」と言うと、兄貴から箱ごと受け取った。

そうして部屋に戻れる…とほっとしたところで、階下から怒鳴り声が響いて、俺と兄貴は体をビクつかせて固まった。


「拓海!!陸斗!!今の見たわよ!?」


「「か…母さん。」」


階段の下から怒鳴り声と共に現れたのは母さんで、母さんは俺のところまで来ると俺の手に握られてるソレを奪い取った。


「何考えてるの!!!ダメだって言ったでしょ!?陸斗も!!いつもは仲悪いのに、こういうときだけ結託して!!」


兄貴はあちゃ~という風に顔を歪めて、俺はまたバレて怒られたことにショックを受ける。

すると母さんの怒鳴り声に驚いたのか、俺の部屋から詩織が飛び出してきて、母さんが背後に俺から奪ったソレを隠して、詩織に駆け寄る。


「どうしたんですか?」


詩織は母さんが怒ってる所を初めて見たのか首を傾げながら驚いていて、母さんは笑顔を装いながら言う。


「何もないのよ。ちょっと兄弟で悪さしててね~。」

「井坂君とお兄さんがですか?」


詩織は俺と兄貴のタッグが信じられないというように目を見開いていて、母さんはほほほ…と変な笑い方をする。


「そうなのよ。珍しいでしょ?」

「はい。」

「あ、そうだ。詩織ちゃん、拓海も良くなったみたいだから、そろそろお家に帰りましょうか。」

「え。」

「は!?」


母さんは余程俺と詩織を一緒にいさせたくないのか、そんなことを言い出して、詩織は俺を見ながら「えっと…。」と返事に困り始める。

俺はそれは断固拒否したかったので、「まだいいだろ!!」と歯向かうと、母さんは俺を睨んで黙らせるなり、有無を言わせぬように言った。


「お父さんがお家まで車で送るから。ね。きっと一晩帰らないことをご両親も心配されてるでしょうし。拓海のことは、私がしっかり責任もって完治させとくから。」

「で、でも…、私、井坂君と約束して…。」

「約束?」


詩織の言葉に俺は昨日言ったことを思い出して、母さんと詩織の間に割り込む。


「そうだよ!!詩織は俺が一緒にいてほしかったら、ずっと一緒にいるって約束してくれたんだ!!だから、俺がいいって言うまで帰れないんだよ!」


母さんはここでじとっと俺を見つめると、怖い笑顔を浮かべて言った。


「拓海。もう十分、詩織ちゃんに看病してもらったでしょう?そろそろ帰らせてあげるのが、男ってものでしょ?ねぇ?」


母さんは笑顔なのに言葉に力強さがあって、俺はその迫力に気圧される。


こ…これは、脅迫だ!!


俺は負けるか!!と胸を張ると、「まだダメだから!!」と真っ向からぶつかる。

すると、パタンと兄貴の部屋の扉が閉まった音がした直後、俺は背後から思いっきり拳骨を食らった。


「こんのバカが!!!」


いつの間にか後ろにいたのは父さんで、俺は衝撃を食らった頭を押さえて振り返ると、鬼のような顔をした父さんに耳を引っ張られリビングまで連行されたのだった。


そして、俺はガミガミと耳が痛くなるまで説教され、更に詩織を車で送るときに俺まで一緒に乗せられ、詩織の両親にまで謝らされる結果となってしまったのだった。











たまに仲の良い兄弟でした。

次から少し脇道に入ります。

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