表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理系女子の恋  作者: 流音
211/246

200、二年記念日


私はお兄さんの登場で、井坂君からのメールをすっかり忘れてプレゼントを買いに出てしまい。

買い終えて家に帰ってきてから思い出して、謝罪の電話をしようとしたらメールが届いていることに気づいた。


届いていた井坂君からのメールは、明日の集合時間を一時間遅らせて欲しいとの内容が記されており、どうやら家に来て欲しいと言ったのも、その話をしたかったらしく、前に送ったメールは気にしないでくれと一文添えられていた。


私は結果会う理由がなくなったことに落胆したのだけど、無視してしまったのは自分だったので謝罪と明日の時間変更を分かったことを打ち込んで、メールを返信したのだった。



そしてクリスマスイブ当日――――


私は集合時間を待ちきれなくて早めに家を出ると、ツンと空気の冷たい中、駅までの道のりをウキウキしながらゆっくり歩いた。


今日で井坂君と付き合って二年。

一時期ちょっと気持ちの行き違いで別れたこともあったけど…

こうしてまた記念日を迎える事ができて本当に嬉しい。


私は井坂君に出会ってから、本当に濃い毎日を送ってきたなぁ…と温かい気持ちでいっぱいになる。

そうしてニヤニヤしながら待ち合わせ場所である駅前までやってきたら、時間の30分前だと時間を確認して、やっぱり早かったなーと辺りをキョロキョロと見回した。

井坂君の姿はないので、時間まで待とうと凍ったように見えるベンチの脇に立ってまた思い出にふける。


最初に井坂君を意識したのは、目があったあの日。

確か委員会を決める日で、同じ美化委員になったんだ。

あの頃は人見知りをこじらせてたから、自分から井坂君に声をかけられなくて歯痒かったっけ…


私はいつも井坂君が私に話しかけてくれたことで接点を持ってたことを思い返して、懐かしい気持ちになる。


それから付き合うまでは山地さんのこととか、一組の女子とかとよくバトルしたな~

今思うと、あの頃の私凹んだり踏ん張ったり、すごく情緒不安定…

まぁ付き合ってからもバカみたいに浮き沈み激しいんだけど…


私はスッとまっすぐ前を見つめて、冷たい空気を吸い込む。


これまでの全部、井坂君がいてくれたから生まれた自分の姿だ。

自分がこんなにヤキモチ妬きで独占欲が強いなんて思わなかった。

一人の人をこんなにずっと愛おしく思うなんて…井坂君に出会った頃は予想もしてなかった。


井坂君だから、井坂君だったから今の自分がいる。


そう思うと、私はこれから先のことを考えても気持ちを強く持てるような気がした。


きっと大丈夫。

これから先、離れてしまっても私たちは大丈夫。


私はそろそろ覚悟を決めないと…、とプレゼントの袋の紐をギュッと握りしめた。

するとそこへ大きな足音が聞こえてきて顔を向けると、井坂君が汗だくで走ってくるのが目に入った。


「詩織!!ごめん!!遅れた!!」

「井坂君。…え?遅れたって…。」


私はそう言われて時間を見ると、待ち合わせ時間が10分過ぎていて、気づかなかったことに目を瞬かせた。


「ほんとだ…。気づかなかった。」

「へ?気づかなかったって…。時間見てなかったのか?」

「うん。色々考え事してたから…。」


私がヘラッと笑みを浮かべると、井坂君が深刻そうに顔を歪めて言った。


「考え事って何?もしかして…寺崎のこと?」

「へっ??なんで寺崎君が出てくるの…?」


私は思いもしなかった名前にビックリしていると、井坂君がハッと表情を緩めて笑った。


「いや。なんもない…。行くか!」

「う、うん。」


井坂君はさっきの事が何もないというように私と手を繋いで歩き出して、私は僚介君の名前が井坂君の口から出てきたことが気になって仕方なかったのだった。





***





私は井坂君の様子が気になりながら以前も一度来た水族館にやってくると、館内を回りながらどことなくカラ元気の井坂君に訊いてみる事にした。


「井坂君…。どうしてさっき寺崎君のこと聞いたの?」

「え…。」


私はせっかくのクリスマスデートを台無しにしたくなくて、わだかまりは拭い去っておきたかった。

井坂君は困ったように目を魚と同じように泳がせると、後ろ頭を掻いてからはーっと観念したようにため息をつく。


「俺…、今朝…嫌な夢見たんだよ。」

「夢?」

「うん。前にも一回同じの見た事あるんだけど…、妙にリアルでさ…。」


暗い表情をしながら話す井坂君を見て、余程の夢なのかと不安になってくる。

でも井坂君から説明された夢は、私にとったらあり得ない内容のものだった。


「詩織が…、ちょっと大人な詩織が、俺に待てなかったって言って…。寺崎と仲良く歩いてくんだ…。」

「??わ、私??」


私が自分の登場にビックリしていると、井坂君はギュッと私の手を力強く握ってくる。


「詩織…、俺に…待てなかった…なんて言わないよな?」


井坂君が寂し気な瞳で子供のように懇願してきて、私は胸がキュンとしながら答える。


「言うわけないよ…。なんで…、そんな変な夢見るの…?」

「分かんねぇよ。でも、起きたときほんっとに怖くてさ…。待ち合わせ場所に詩織がいなかったら…と思うと足が竦んで…。いてくれたの見て、すげー安心したんだけど…、詩織、心ここに非ずみたいな顔するから…。また怖くなって…。」


井坂君が溜めてたことを吐き出すように口にしてきて、私は小さく笑ってしまった。

すると井坂君が目ざとく気づいて睨んでくる。


「笑い事じゃねぇんだけど。」

「ご、ごめん。だって、あまりにもあり得ない内容だったから…。」

「あり得なくないだろ!!まだ寺崎の事でちょっと傷ついてるクセに!!」


今まで触れてこなかったことを井坂君が口にして、私は『傷ついてる』という言葉に少し心が震えた。

笑顔が保てなくなって顔を強張らせていると、井坂君の顔がしまったというように悲しげに歪む。


「悪い。こんなこと言うつもりじゃなくて…。」


私は井坂君の謝罪を聞きながら、どう答えればいいのか分からなくて頭が混乱した。


僚介君のことで…私は傷ついたのかな…?

気にしてないつもりだったけど…、言われて平静を保てないのはやっぱり傷ついたから…?

中学のときのこと…この間の事…、私はずっと忘れられないのだろうか…?


私の中で消えかけていた僚介君とのことを思い返していると、肩をガシッと井坂君に掴まれて我に返った。


「詩織。俺だけを見てくれよ…。」

「え…。」


私の目に井坂君の苦しそうな表情が入ってきて、私は自分が彼にそんな顔をさせてしまったことにショックを受けた。


私は井坂君だけを見てる

僚介君のことなんて言われるまで思い出さなかった


それなのに井坂君の目に、私はそう見えてなかった


だからもっと井坂君に自分の気持ちを伝えないと思い、訴えた。


「見てる!見てるよ!!私、待ってるときだって、井坂君と過ごした思い出思い返してて時間間隔なくなってたぐらい…、井坂君のことばっかり考えてる!!」


ここで井坂君の表情が少し和らぐ。


「昨日だって、買い物終わってからメール気づいて…、井坂君に会いに行く口実なくなったことに残念だなって思ったし…。寝るときだって今日のことが楽しみ過ぎて、なかなか寝付けなくて大変で…。」


私がそこまで説明すると、井坂君の口にそれを塞がれて、私は人の多い水槽の前でキスしてる状況にぼふっと恥ずかしさで逆上せる。


ひっ…人!!!さ、魚っ!!!!


私は心の中がパニックでわけの分からないことを心の中で叫んでいると、井坂君が少し離れてから熱っぽい表情で言った。


「俺のことだけでいっぱいになって…。」


私は井坂君の表情にギュンっと胸が苦しくなって、目を大きく見開いていると、井坂君の体がグラッと揺らいだのが見えて、腕を差し出すと井坂君の体が倒れてきた。

私はそれを支えきれずにその場に尻餅をつく形で腰を落とす。


「井坂君!?」


私は急に倒れ込んできた井坂君がどうしたのか分からなくて体を起こすと、井坂君の顔がきつく歪んでいるのが見えて、慌てて額に手をあててみた。


熱い…


私は熱があると分かり、苦し気な表情に体調が悪いのも入ってたんだと理解して、私は気づけなかったことに自分がすごく情けなくなった。



それから私は水族館の職員さんたちに手伝ってもらい、井坂君を救護所まで運ぶと、白いベッドに寝ている井坂君を見つめて大きくため息をついた。


救護所で井坂君を見てくれた人は、ここではある程度までの処置しかできないので病院に連れて行った方がいいと言っていた。

でも、井坂君の目が覚めない限り私一人ではどうしようもない。

とりあえず井坂君が目を覚ましたら一緒に病院に行こうと決めて、私はじっと井坂君の寝顔を見つめた。

井坂君の表情はすごく苦しそうに険しく歪んでいる。

私はどうにか楽にしてあげられないかと井坂君の手をギュッと握ると、井坂君の眉間の皺が緩むのが見えた。


まさか手を握っただけで楽になるはずはないけど、さっきよりは苦しそうではないので少し安心する。


そうして静かな救護所でじっと井坂君を見ていたら、握っていた手がビクッとひきつけを起こしたように動いて、井坂君の瞼がゆっくり開いた。

私は慌てて井坂君の顔を覗き込んで声をかける。


「井坂君!大丈夫!?」


「…………しおり…。」


井坂君は小さな声で私を呼んでから、どこか安心したように優しく頬を緩める。

そして起き上がろうとするので、私はその体を支えると井坂君に言う。


「井坂君、熱あったんだね…。ごめん…。私、気づかなくて…。今から一緒に病院行こう?」

「え…、病院??んなもん行かなくても治るよ。それより今何時?」


井坂君は自分の身体より時間を気にしていて、私は自分の身体を大事にしてほしかったのでムスッとして言い返す。


「井坂君。今は病院に行くのが先決だよ。受験生なのに、身体壊しちゃ悪影響だよ。」

「平気だって。ちょっとのぼせたぐらいで大げさなんだからさ。」

「のぼせて倒れる人なんて聞いた事ないよ!!しんどいこと隠さなくていいから、病院行こう?」

「隠してねぇって。それよりイルミネーションの点灯時間過ぎてんじゃねぇ?外行かないと…。」

「外!?」


私はこの寒空の中、イルミネーション見に行くなんて絶対にさせられないと思って、断固拒否する。


「ダメだよ!!今日はイルミネーションもこの後の予定も全部なし!!」

「は!?こっちのがダメだっつーの!イルミネーションだけは絶対見ねーと。」

「そんなのいつでも見られるよ!!」

「いつでもじゃダメなんだって。今日は…、今日しかねんだから。」


井坂君はムスッとするとベッドから下りて、スタスタと救護所を出て行く。

私はその後を追いかけると、絶対にやめさせようと腕を引っ張る。


「井坂君!帰ろうよ。イルミネーションはいいから。」

「良くないから。外がダメだって言うなら中でいいから。ちょっとだけ、な?」


井坂君は頑として譲ろうとせず、私はこのままだとケンカになりそうだと言いたい事をグッとのみ込む。

すると井坂君が「ここで待ってて。」とペンギンエリアの椅子に私を座らせると、どこかに走って行ってしまった。

私は熱があるはずなのに元気に走っていく様子に、本当に病人なのかと疑いたくなりながら、井坂君の傍を離れたことに不安が過る。


また倒れたりしないかな…

やっぱり一刻も早く帰るべきなんじゃ…


私はハラハラしながら井坂君の走っていった方向を見つめていると、どんどんペンギンエリアに人が集まってきて、私は人の多さに顔をしかめた。


なんでこんなに人が…何か始まるのかな…。


そう思ってチラッと人混みの向こうのペンギンの水槽を見ると、いつの間にかペンギンの水槽がライトアップされていて、虹色に照らされた水槽の中をペンギンたちが気持ちよさそうに泳いでいてビックリした。


え…いつの間に…


私はペンギンが水の中に飛び込む度に湧き上がる歓声の中、井坂君と一緒に見たい気持ちで周囲を見回すと、ポンポンと後ろから肩を叩かれ振り返る。


「詩織。今日までありがとう。」

「え…。」


振り返った先にいたのは小さな花束を持った井坂君で、私は笑顔の井坂君と花束を見て面食らった。

井坂君は私の前にしゃがみ込むと、白い花のブーケを私に差し出してくる。


「本当はもっとキラキラしたイルミネーションの中で渡すつもりだったんだけど…。俺こんななっちまって迷惑かけるのもカッコつかねぇし…。ここなら許容範囲かな…と思ってさ。詩織、ペンギン好きだろ?」

「好きだけど…。でも…え…、これ…。」


私は目の前の花束が信じられなくて受け取れずに混乱していると、井坂君が熱のせいか頬を赤く染めて言う。


「さっきインフォメーションで受け取ってきたんだ…。実はイルミネーション始まる前に届くように頼んでてさ…。やっぱ…、記念日だからってやり過ぎた?」


井坂君は恥ずかしそうに笑っていて、私は井坂君の素敵な贈り物に感極まって涙が溢れてくる。


嬉しい…

こんなの予想してなかった…


私はまさかこんな特別なことをされると思わなかったので、涙ばかり溢れて感謝の言葉が口から出てくれない。

すると井坂君は号泣しながら受け取らない私を見兼ねて、ふっと苦笑すると隣に座ってまっすぐに前を見つめて言った。


「詩織…。俺、受験頑張るよ。」


井坂君の急な決意表明に私は涙を拭って鼻をすすると、ちらと横目で井坂君を見た。

井坂君の横顔は凛としていて、揺るがない気持ちを直に感じる。


「東聖行って、自分の夢叶える。それが4年で済むか…伸びるかはそのときにならないと分からないけど…。でも、その期間離れてても、詩織の手を放すつもりはないから。」


私は井坂君の言葉に心が震えて、涙が止まる。


「詩織が俺から離れねぇ限り、死んでも逃がさないから。何があっても詩織は俺のものな。」


俺のもの…


「これはその誓い。一応予約ってことで。」


予約??


井坂君は優しく微笑みながら、花束を私の膝にのせるように渡してくる。

私はズッと鼻をすすると、井坂君から差し出される花束をやっと受け取った。


「予約って何?」


私は落ち着きを取り戻した事で声が出るようになると、気になる事を真っ先に尋ねた。

井坂君は少し照れくさそうに頬を赤く染めると、私から目を逸らしてしまう。


「頼んでた俺が言うのもなんなんだけどさ…、俺はこの花束見ただけで、ちょっとある光景を妄想したんだ…。それ…、詩織には見えない?」

「妄想…、見える?」


言われて私は真っ白の花束に目を落として考えた。


花束はどの花も白くて、小さいものから大きいものでとにかく白色で統一されていて、私はじっと花束を持って、これを持つ自分を想像してみた。


そこでふわっとある風景が過って、私はバッと井坂君の顔を食い入るように見つめた。

井坂君は私と目を合わせると、ふっと息を吐き出して笑い出す。


「ははっ、分かった?」

「……分かるも何も…、こんな白い花束…。」

「だよな~。詩織のイメージカラーで注文したのは俺なんだけど、まさかここまでそっくりだとは思わねぇし、俺もビックリ。」


私は楽しそうに話す井坂君を見て、言った言葉は本当なんだと分かって、また涙腺が緩む。


私のイメージカラーの真っ白なブーケ…

これを持つ人なんて、世の中の女の子ならすぐ分かる

誰だって大好きな人がいたら、一度は夢見る光景で…一番幸福な瞬間…


それを予約ってことは…

そういう未来が井坂君の中にあるってことだ


私はまたボロボロと涙が零れてきて、受け取った花束で顔を隠す。

井坂君はそんな私を放って置けなかったのか、優しく頭を撫でてくれると少し鼻声で言った。


「あんま泣かれると、俺までもらい泣きしそうなんだけど。」

「だっ…だって…。こんな…っ……っ。」


私はしゃっくりをしながら、なんとか声を出すけど上手い言葉が出てこない。

嬉しくて、この嬉しさを表現できる言葉なんてない。

私は花束の良い香りに更に胸を打たれて、一向に涙が収まる気配をみせない。


井坂君はもらい泣きしたのか鼻をすする音が聞こえていて、頭をグイッと井坂君の方へ寄せられたときに井坂君も頭を寄せてきて、私は熱のある井坂君の熱い体温に更に感極まって、顔がグチャグチャになるまで泣いた。


しんどいはずなのにこんな素敵な演出をしてくれて、感激しない人なんていない


私は世界一幸せな彼女だと思って、白い花束を持つ花嫁姿の自分を頭の中に浮かべていたのだった。











記念日なので、特別なものにしました。

別作品で似たようなことを書いてますが、こっちはこっちで二人のことを見守っていただければ…と思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ