表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理系女子の恋  作者: 流音
210/246

199、全て元通り


僚介君との関わりを断ってから、私は悪い事をしてしまったと罪悪感はあるものの、もう会う事もないだろうと切り替えていて、意外と平静でいられる自分が驚きだった。

中学の時はあんなに引きずっていたというのに、この違いの一番の要因はやっぱり井坂君だと再確認する。


その井坂君はというと、あの現場にいたこともあって私の様子を度々心配してくれていたけど、私があまりにも気にかけず元気にしていたので、今では通常通りに戻って勉強に励んでいる。


私は井坂君に僚介君のことで気を揉ませてしまったので、これからは全力で受験勉強のサポートをしようと、じっと井坂君の傍で待機していたら、ふっと井坂君と目が合って、井坂君は吹きだすように笑い出した。

私はなんで笑ったのか分からなくて目を白黒させる。


すると、井坂君は近くにいたタカさんに顔を向けると、机を軽く叩いてから言った。


「八牧。お前の言う子犬顔…、やっと見れたよ。」


子犬顔!?


「あ、ホント??まぁ、今は周りが勉強ムードだし、しおりんの顔はそうなるだろうねぇ~…。」

「やっぱそういうときに出るんだ?」

「出るよ。もう井坂君と話せないときなんて、ほぼずっとあの顔だから。」

「マジか~…。いや~、嬉しいけど。俺以外の前ではしないで欲しいなぁ…。」

「でしょ?あれにはヤラれるでしょ??」

「あぁ。あれはヤバい。」


どうやら私のことで盛り上がってるらしく、私は一人仲間外れにされた気分で二人を見てムスッとしながら顔を触る。

すると二人がこっちを見てまた笑い出す。

口々に「ツボった!」とか「やめてよ~!」と言いながらも楽しそうで、私は二人だけの会話に拗ねてそっぽを向く。


ひどいよ…

私だけ除け者なんて…


私は自分の顔の事でからかわれただけに少しイラつきながら、シュンと肩を落として視線を下げると、井坂君にグイッと顔の方向を変えられて、私は井坂君と顔を向かい合わせにさせられた。


「詩織。その顔は俺の前だけにしてくれよ。横向くのも後ろ向くのもなし。俺の顔だけ見てて。」


私は至近距離の井坂君を食い入るぐらい見つめて何度も瞬きして、いつも見てるのにな…と首を傾げた。

すると井坂君が急に顔を強張らせてから、「八牧~。」とタカさんを呼ぶ。


「詩織がヤバいんだけど。対処法は??」

「え~??対処法?ある程度絡むことじゃない?」

「絡む??そんなんでいいの?」

「いいと思うけど、保証はしないからね~。」


タカさんと井坂君がまた何か通じ合うように会話して、私は自分のことでからかわれて嫌な気分になる。

だから、顔を掴む井坂君の手をペシッと叩くと離れた。


「もう、いい。二人で仲良く話しながら勉強しなよ。私、違うとこにいるから。」

「え、詩織。ストップ!!!」


私が邪魔者な気分だったので席から立ち上がると、井坂君も慌てて立ち上がるなり私の顔を隠すように両手で目隠してきて、視界が真っ暗になってしまった。

私はそれにビックリして井坂君から離れようとするけど、井坂君は放すつもりはないのか抱きかかえるように頭ごと隠され、その場に腰を下ろすよう誘導される。


だから私は放してもらうためにも大人しくしようと、その場に手をついてしゃがみじっとする。

すると私が大人しくなったのを感じたのか、井坂君の手が離れて解放される。

私はやっと視界が見えるようになりふっと短く息を吐き出すと、井坂君が穏やかな顔で微笑んでいるのが見えて、私はその顔を見つめた。


「そうそう。その顔でいてくれよ。」

「………。さっきも普通のつもりだったんだけど…。」


私はまた顔の話か…とむすっとすると、グニッと頬を引っ張られる。


「だからダメだって言ってるのにさ~。全部顔に出るんだもんなぁ~。」


井坂君はへらっと顔を緩ませていて、グニグニと頬を撫で繰り回してくる。

私はされるがまま何なんだ…と思っていると、上から赤井君の声が降ってきた。


「いつも幸せそうでいいよなぁ~。」


赤井君の声にビックリしたのか、井坂君はサッと私から手を放す。

そして立ち上がると赤井君と向かい合った。


「邪魔すんなよ!なんなんだよ!?」

「なんなんだよはこっちのセリフだっつの。イチャイチャすんなら誰の目にもつかないとこでやれ。仮にも受験生なんだからな。」

「受験生は恋愛すんなってか!?」

「そこまで言ってねぇよ。周りの受験生のことを考えろってこと。」


赤井君の真面目な注意に井坂君は何も言い返せなくなったのか、ふんっと顔を背ける。

それを見た赤井君が苦笑しながら、私に目を向ける。


「谷地さん。こいつにも勉強させるように言ってくれよ。気を抜いたら、すーぐ恋愛モードまっしぐらで勉強具合が心配なんだよな。」

「……恋愛モード…?」

「そう。勉強してるかと思ったら、谷地さんとのクリスマスの予定立ててたりさ。遠距離になったときの交通費計算してたり、余計なことばっかしてんだよ。」


「あ、赤井!!!!」


赤井君の暴露に井坂君が慌てて赤井君の口を押えたけど、私の耳にはばっちりと届いてしまった。

私は自分とのことを考えてくれてたと知り、すごく嬉しくて顔が緩む。

井坂君がバレたことが恥ずかしいのか顔色を窺うように見てきて、その姿も可愛くて愛おしい。

だから赤井君には悪いけど、井坂君の味方になってしまう。


「ありがとう。井坂君。クリスマス楽しみにしてる。」


私がそう言うと、赤井君はじろっと横目で井坂君を睨んで、井坂君は私に嬉しそうな笑みを返してくれた。

私はそんな時間でさえ幸せで、ずっと平穏にこういう日が続けばいいと願った。







***







そうして井坂君の勉強を見守りながら2学期最後の学校生活を終えた日、私は3学期はほぼ自由登校になると藤浪先生から聞いた言葉が胸につっかえたように残った。


センター試験を受ける面々は年が明けると、始業式と月一である登校日、それにあとは卒業式の予行練習の日に卒業式当日しか学校には来ないらしい。


私はこのメンバーで過ごす高校生活がそこまで少ないとは思わなくて、少なからずショックを受けた。


なんだかもう皆で授業を受けることもなくなると思うと、急に寂しくなる。

あんなに楽しかった毎日が、もう終わりへのカウントダウンを始めているなんて、今から考えたくない。


私は暗く考え込んでしまいそうで、ブルブルと頭を振ると井坂君との楽しいクリスマスを思い浮かべて気持ちを持ち直した。


でもそこで、私は井坂君へのクリスマスプレゼントを買ってないことを思い出して、サーっと血の気がひいていく。


井坂君と毎日一緒にいたばっかりに、クリスマスプレゼントを買いに行く余裕がなくなってた!!


私は約束の明後日までになんとかしないと…と、今日にでもショッピングモールに行こうと思い立った。

でもそこへ井坂君へのが帰り支度を整えた状態でやって来てしまい、私は思い立った気持ちが萎んでいく。


「詩織、帰るか。」

「い、井坂君…。」


私は僚介君とのことであれだけ心配をかけてしまった手前、今日はバラバラに帰ろうなんて言えなくて、ショッピングモール行きは諦めることにした。


明日一日あるから大丈夫だよね…


私は祝日の明日、一人で買いに行こうと決めると、井坂君にプレゼントを買ってないことがバレないように気を使いながら帰路についたのだった。


そうして明日へ望みを繋いだのだけど…


次の日の朝、ケータイに井坂君からメールが届いていて、そこには今日家に来て欲しい旨が書かれていて、私はどうしようかとしばらくケータイの画面を見たまま固まった。


せっかくのお誘いなのに断るのも…

でもプレゼントを買うのは今日しかない…


私は井坂君に会いたい気持ちと、プレゼントを買わなければならないという気持ちに挟まれて、ケータイを持ったままウロウロと動きながら悩む。


そうしていると、階下から「詩織~!」とお母さんに呼ばれて、一旦ケータイを置いて部屋から出る。


「お母さん、なにー」


私が井坂君へ早く返事しないと…と気持ち半分でリビンクに入ると、そこに井坂君そっくりのお兄さんがいて、私はガタタッと音を立てながら後ずさった。


「久しぶり。詩織ちゃん。」

「お、お兄さん…。なんでいるんですか…?」


私は自分の家にお兄さんがいることが謎過ぎて、なんのドッキリなんだとじとっとお兄さんを見つめる。

するとお兄さんはニコッと笑っただけで、お母さんが説明を始める。


「今朝、たまたま外を掃除してたら、井坂君だと思って声かけちゃったのよ。よくよく話を聞いたら、井坂君のお兄さんだっていうじゃない!もう、びっくりしちゃって!勘違いしちゃったお詫びにお茶をご馳走してたのよ。」


「あぁ…、そういうこと…。」


私はお母さんのせいかと理解すると、ほっと胸を撫で下ろした。

お兄さんは私の理解の及ばないことをよくしてくるイメージがあるので、私の家訪問も何か意味があってかと勘繰ってしまった。

前科があるからってお兄さんを疑うなんて良くない。


私はその謝罪の意味もこめて、「お茶のおかわりは…」とお兄さんの前のカップに手を伸ばすと、お兄さんが意味深な笑みを浮かべて言った。


「詩織ちゃん。明日も家来る?」

「へ?家って…なんでそんなこと聞くんですか?明日は外で会う約束してますけど…。」

「なんだ。イブだからてっきり泊りに来るんだと思ってた。」


――――!?!?!


「泊り??」


私がお兄さんの何気ない発言に心臓を縮み上げていると、背後からお母さんの声がして、私はお母さんに振り返って「泊まるわけないでしょ!?」と訴えた。

お兄さんは私の慌て具合から何か勘付いたのか、ニヤッと笑うのが見えた。


「あれ~?でも詩織ちゃんの誕生日、確か拓海と一緒にいたような~。あれ、家に泊ったんじゃなかったっけ??」

「おおお、お兄さん!!!!な、何言ってるんですか!?私、誕生日の日は井坂君の家に寄っただけですよ!?」


私はお母さんに井坂君の家に泊ったというのは隠していたので、お兄さんの言葉に寿命が縮むようだった。

なんとしても事実を隠さなければと、脳がフル回転で動いてお兄さんに太刀打ちしようと、笑顔を張り付けたまま弁解する。

でもお兄さんは私の何枚も上手で、ニコニコしたまま痛い所を突いてくる。


「そうだったんだ~。まぁ、泊まらなくても詩織ちゃん、拓海とは四六時中イチャついてるもんなぁ~。あんなとこ見たら、誰だって泊まったって勘違いしちまうよ~。」

「あんなとこ??」


「あーーーー!んなとこって、私が井坂君とちょこっとくっついてた所ですよね!?あれは誕生日プレゼント貰ってたところなんです。私、嬉しくて泣いちゃったから、井坂君が慰めてくれて…。」


私がお母さんの気を逸らすようにいつもより二割増しで声を上げて嘘を並べ立てると、お兄さんは更に追い討ちをかけてくる。


「あれは慰めてただけだったんだ~。拓海が詩織ちゃんに襲い掛かってるように見えたけど、変わった慰め方だねぇ~。」

「おそいっ――――!?!?!詩織!!!!」


これにはお母さんも黙ってられなかったようで、私はお母さんに「どういうことなの!?」と詰め寄られる。

私はなんとしても事実を隠蔽したかったので、お兄さんの嘘に歯向かうために気を強く持つ。


「お母さん。お兄さんって嘘ばっかりついて、人の反応を楽しむ人なんだよ。井坂君もお兄さんの事は苦手に思ってるみたいだし、井坂君と何度も会ってるお母さんなら、井坂君がそんなことする人じゃないって分かってるでしょ?」


私はお母さんが井坂君を物凄く評価していたことを知っていたので、お母さんの見る目という部分を刺激する言い回しをした。

こうすればお母さんは納得してくれると、今までの経験から分かっている。

案の定、お母さんはほっとしたように「そうよね~。ビックリしたわ。」とお兄さんに笑いかけている。


お兄さんはそれを見て残念と思ったのか、私はお兄さんの笑顔が少し変わっただけで読み取ってしまった。


井坂君がお兄さんを敵視するのが、痛いぐらい身に沁みた…

この人に口で勝とうと思うと、かなり神経をすり減らす…


私はこのたった数分でかなり疲れてしまい、朝だというのに倦怠感に襲われていると、お兄さんがおもむろに立ち上がった。


「それじゃ、詩織ちゃんの顔も見れたんで、そろそろお暇します。弟の彼女宅にずっとお邪魔するのもおかしいので…。」

「あら、気にしなくてもいいのに。井坂君の家族だったらいつでも大歓迎だから。」


お母さんがお兄さんに好意的に笑いかけていて、お兄さんは「ありがとうございます。」と営業用っぽい笑顔でリビングを出て行く。

私はお母さんに「お兄さんの見送りは私が行く。」と告げて、これ以上お兄さんとお母さんが接触するのを防ぐと、お兄さんと一緒に玄関から外に出た。


そして玄関の扉をキッチリ閉めてから、お兄さんに抗議する。


「お兄さん。さっきのなんなんですか。」

「何って、詩織ちゃんなら分かってるだろ?」


お兄さんは悪戯っ子のような笑みを浮かべて階段を下りて、門の前で私に振り返ってきた。

私はその後についていきながら、お兄さんの顔を睨みつける。


「どうして人の反応見て楽しむような真似するんですか。私と井坂君を困らせるのがそんなに面白いですか?」

「うん。最高に面白いよね。失敗しちゃったけど、拓海と詩織ちゃんのお母さんの修羅場見たかったなぁ~。」


悪趣味だ…


私はもう二度とお母さんとお兄さんを会わせたくないと思い、早く帰ってもらおうと門を閉めた。


「今日はなんとか誤魔化せたんで許しますけど、もしお兄さんのせいでバレたら、お姉さんとのこと、井坂君に話しますからね。」

「うっわ。詩織ちゃんでもそんな脅迫使うんだ。ビックリして、昔のピュアだった詩織ちゃんがどっか飛んでったよ。」

「なんですか、それ。」

「そのまんまだよ。大人になったねって意味。」


お兄さんは何か意味深に微笑んで、私は意味が分からなくて首を傾げる。

するとお兄さんは私に背を向けて、「じゃ、お邪魔しました~。」と残し歩き出して、私はその背中を見送りながら、掴めない人だなぁ…とため息をついたのだった。









久しぶりの陸斗登場でした。

西門君のお姉さんを登場させたので、彼にも少し顔を出してもらいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ