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理系女子の恋  作者: 流音
21/246

20、メール


あゆちゃんに宣言してから一週間。

八月に入り、花火大会まで二週間を切ったというのに…

私はまだ井坂君にメールを送れないでいた。


バカバカ!!私の意気地なし!!


私はメール作成画面を開いたパソコンの前で頭を抱えていた。


あれからあゆちゃんと映画に行ったり、たかさんとは図書館でしゃべったりして外には出たので、話すネタはあるのに、何でこう上手く書けないんだろう…


私は自分の文才のなさに嫌気が差した。

そのときパソコンがピロリンとなって、新着メールの受信を知らせた。

私はマウスを動かして確認すると、メールは西門君からだった。


『コンクール終わった!!結果は銀賞だった。

頑張っただけに、ちょっと残念。

約束覚えてるよな?』


あんなに頑張ってたのに銀賞止まりだったんだ…

私は返信ボタンを押すと、返事を打ち込んだ。


『お疲れ様。

頑張ってたのに残念だね。

約束覚えてるよ。どこに行きたいの?』


私が送信ボタンを押して返信すると、またすぐに返事がきた。


『どこでも!!しおはどこに行きたい!?』


どこでもって…

私は遊びたいって言いだしたのはそっちなのに人任せな事にイラッとした。


『どこでもは困る。行きたいって言ったのはそっちなんだから、決めてからメールして!』


送ってから、ふんっと鼻で息をして少し満足だった。

これで少しは悩んでから返事するだろう。


―――と思っていたのに、意外に早く返事がきた。


『じゃあ、プール!!泳ぎに行こう!!」


プール!?

私は水着なんて持っていなかったので、断固として拒否しようと慌てて返事を打ち込む。


『イヤ!!ぜーったいイヤだ!!水着持ってないから!!』


大体、幼馴染とはいえ、男の子と二人でプールとか絶対ない。

私はそこで井坂君の顔が浮かんで、井坂君とだったら行ってもいいかも…と思って顔が緩んだ。

そうやってニヤけていると、またピロリンと受信を知らせた。


『言うと思った。じゃあ、水族館で。日曜の十時に公園の時計のとこな~。』


私は無難なところに収まったと思ってホッとした。

『了解。』とだけ打って返信すると、今度は連続してメールが届いた。


今日はメールが多いなと思って、確認して私は固まった。


メールは二通来ていて、一通目は赤井君からで花火大会!!と件名に書かれている。

そして二通目は届くはずのない井坂君のアドレスが表示されていた。


「うそ!?」


私はこの暑さで幻でも見たような気分になって、椅子から立ち上がると大きく体を伸ばして深呼吸した。

そしてしっかりと目を擦ってから、もう一度確認する。


そこにはやはり井坂君のメールがあって、私はドキドキしながらそのメールを開いた。


『あまりにおせーから、赤井にアドレス聞いた。

なんでメールしなかったわけ?』


文面からも怒らせているのが分かって、私は焦って返事を打ち込んだ。


『申し訳ありません!!

メールを送れなかったのには諸事情がございまして、大変深く反省しております。

今後はこのような事がないようにいたしますので、何卒お許しください。』


私は謝罪が伝わるように勢いのままに送信ボタンを押した。

そして、送ってからなんてメールを送ったんだと顔面蒼白になった。


自分の文面を読み直して、得意先へのメールみたいだと凹んだ。

慌ててたとはいえ、この内容はない…

女子度の低さがメールに現れている。

こんなことなら、あゆちゃんに宣言した日に送っておけばよかった…


私は泣きそうになりながらも、赤井君のメールを確認することにした。


赤井君はクラスメイトへ一斉送信したようで、たくさんのアドレスが表示されていた。


『8月23日花火大会!!

夏の思い出作りにみんなで花火を見に行きましょう!!

スローガン:青春の1ページをクラスメイトと絆を深めよう

集合場所:時計公園

時間:18時

メンバー:9組全員


休む場合は必ず連絡されたし!!』


「っぶ!!スローガンって!!」


私は赤井君らしいメール内容に吹きだして笑った。

さっきまで自分のメールに凹んでいたのが嘘のように元気が出てきた。


やっぱり赤井君はお日様みたいだよね。


私はいつかに感じた事は正しかったと思って、笑いを収めた。

すると読んでいる間に井坂君から返事がきていて、私は緊張しながらもメールを開いた。


『固!!敬語使い過ぎ!そんな謝るぐらいなら、さっさとメールしてくれれば良かったのに~』


私は井坂君が意外と軽く流してくれてホッとした。

今度はいつも通りに返そうと、確認しながら返事を打ち込む。


『ごめん。特に報告するような事もなくて、なんて送ればいいのか分からなかったんだ。』


私は聞きたいことがたくさんあったけど、我慢してとりあえず謝罪だけ送った。

それを確認してから井坂君のメールに目を戻す。

すごく短い文面だけど、井坂君から送られてきたメールが宝物に見えて、私は井坂君のメールを保存することにした。

そうして保存していると、また返事が返ってきた。


『今、ひま?時計公園まで出てこれたりしない?』


文面を見て、私は口を開けて固まった。


……これって…会えるって…こと…?


私はそう理解すると自然に顔が笑顔になった。


『ひま!!今から行くね!!』


私はそれだけサッと返事すると、椅子から立ち上がって部屋の扉に手をかけて止まった。

そして自分の服を見て、サーっと血の気が引いていく。

Tシャツとゆるゆる短パンで外に出られるわけない!!

私はクローゼットを開け放つと、急いで着替えたのだった。




***




私は着替えを済ませると、公園まで猛ダッシュした。

着替えたといっても、綺麗めのTシャツにショートパンツ姿だったけど。

サンダルがアスファルトにひっかかるので、何度か転びかけながら息を荒げて公園に到着した。

まだ昼過ぎだったので陽射しの眩しい中、井坂君の姿を探す。

私はこの公園のシンボルになっている時計の前を通り過ぎると、影になっているベンチに井坂君が座ってるのを発見した。


「井坂君!!」


私が手を振って駆け寄ると、ケータイを見ていた井坂君は慌ててケータイをズボンにしまった。

私は彼の前で大きく息を整えると、待たせたことに頭を下げた。


「ごめん。遅くなったね…。」

「いいよ。急に呼び出したのは俺だし。座れば?」


井坂君は気にもしていないのか、体を横に寄せて隣を示したので軽く会釈してから腰を下ろした。

そして上がった息をふーっと大きく吐き出して、呼吸を落ち着けた。


「谷地さん、この二週間いったい何してたんだよ?メールもできないぐらい忙しかったわけ?」

「えっ…。そういうわけじゃ…。ほとんど家にいて課題に奮闘してただけで…。」

「あぁ、そっか。課題に追われて忙しかったんだ。俺はもう終わったけど。」

「えぇっ!?」


さらっと終わったと言われて、あの大量の課題を二週間でできるわけがないと思った。

どうやればこんなに早く終わるというのだろうか?

私は少し前髪の伸びた井坂君の顔を見つめて、訊いてみた。


「い…一体…どうやって終わらしたの?私、まだ数学が半分で、英語なんか終わる目処も立ってないのに…。」

「そうなんだ。数学は出された日から三日で終わらせたよ。問題も簡単だったし。英語は一冊英文の本読む程度でしょ?そんなん楽勝だよ。」


楽勝…?

私は井坂君を見てぽかんと口を開けて固まった。

井坂君って、実はすごく頭がいいとか…?

私は学校での井坂君を思い出して、そういえばいつも楽そうに課題していた事を思い出した。


「……井坂君って…実はものすごーく勉強好きとか?」

「うん?…好きか嫌いかだったら好きだけど。好きじゃなかったら、進学クラスにいないんじゃない?」

「…だよね…。」


私は考え方が違うと思って、井坂君から顔を背けた。

なんか井坂君がすごい人に見えてきた。

見た目チャラそうとか思ったことを謝りたい。


私は井坂君の第一印象を思い出して、項垂れた。


「っていうかさ、課題の話はいいんだって。この夏休みどっか遊びに行った?」

「え…っと…あゆちゃんと映画に行って…、たかさんと図書館に行ったぐらいかな…。あ、でも日曜日に水族館に行くよ。西門君との約束で。」


私は全然遊んでないなと思って、一つでも遊んでる事を増やそうとこれからの事を口にした。

すると井坂君の空気が変わった事が肌に伝わってきて、私は井坂君に顔を向けた。

井坂君は前髪に隠れた目を少し伏せていて、何を考えているのか読み取れなかった。


「……それって二人で行くとか?」

「え…二人って何が?」

「水族館。西門君と二人で行くの?」

「う…うん。約束だから…。」

「ふ~ん…。」


井坂君の声のトーンが落ちて黙ってしまって、私は気まずくなって目を泳がせた。

なんとか場を盛り上げようと、井坂君に話題をふった。


「井坂君は?夏休み何してた?」

「俺?…俺は赤井の家でゲームしたり、島田と水遊びしたぐらいかな…。」

「水遊びって涼しそうでいいね~。それって水鉄砲とかで本格的にやるの?」

「あぁ。島田が持ってきて、服着たままびちょびちょになるまでやったよ。今思えば、バカみたいだよな。」


そのときの事を思い出したのか井坂君の目が細く歪んで、私は楽しそうな井坂君を見て嬉しくなった。


「いいな~。男の子同士の遊びってちょっと憧れる。」

「なんで?」

「だって、女子はそういう遊びしないからさ。やりたくても言わないっていうか。見栄張るみたいな所あるから、バカみたいな事ができるのが羨ましいよ。」


私はいつも教室で思ってることを口にした。

教室で騒ぐ男の子たちは本当に楽しそうで、バカなことしてるのは見てて分かるんだけど、それが羨ましかった。

お母さんに真面目を強要されてきたから、そういうものに憧れるのかもしれないけど…


「そういうもん?」

「そういうものだよ。」


井坂君が不思議そうに尋ねてくるので、私は笑って答えた。

すると井坂君が私をじっと見てから、手を伸ばしてきて私はその手を見つめて体を強張らせた。

何!?…何!?

心臓がドキドキと高鳴ってきて目を瞑ると、井坂君が肩辺りの私の髪に触れたのが伝わってきた。


「髪、伸びたよな。伸ばしてんの?」

「え…?」


私はそれが聞きたかっただけかと安心して、緊張を解くと頷いた。


「うん。一応。あゆちゃんみたいにくくったりしたいなと思って。」

「ふ~ん。似合うんじゃねぇ?楽しみにしてよーっと。」


井坂君が髪から手を放すとニッと歯を出して笑った。

私は『似合う』という言葉に嬉しくて、胸がキュウっと苦しくなった。

自然と頬も緩む。

私は肩下ぐらいまで伸びた髪を触って、きちんと手入れしようと思った。


「そうだ、赤井からメール来たよな?花火大会のやつ。」

「うん。18時にこの公園集合だっけ。」

「そう。それなんだけどさ…俺ら約束してたじゃん?二人で行くって。」


二人で…行く…?

私はそれを想像してしまって、顔が一気に赤くなって咄嗟に俯いて頷いた。

井坂君は二人っていうのを気にもしてないのかいつも通りのトーンで言った。


「俺らのが先約なわけだしさ。赤井には行かないって言おうと思ってんだけど、どうかな?」

「……どうって…どういうこと?」

「や…だからさ、クラスのには参加しないで、谷地さんと俺の二人でどうかなって話…なんだけど。ダメ?」

「…ダ…ダメじゃない…。」

「やった。じゃあ、谷地さんも赤井には不参加メールしといてくれよな。」


井坂君が安心したように笑って、頭の後ろで手を組んで背もたれにもたれかかった。

私は二人で花火大会っていう事が信じられなくて、一点を見つめて理解に努める。

夢…じゃないよね…

これって誘われたんだよね…?

私はじわじわと実感してきて、頬に力が入っていく。


私は全力のにやけ顔を見られたくなくて、井坂君に軽く背を向けると、ベンチの背もたれを掴んで小さくガッツポースをしたのだった。







公園の場所は高校の近くになります。

だから、お互いに来やすいという設定です。

今後もよく出てくるかと思います。

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