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理系女子の恋  作者: 流音
208/246

197、目だけで伝わる


井坂君が珍しく西門君と二人で帰ったのを見送ってから、私はナナコと帰ろうと4組へ足を運んでいた。

井坂君は余程僚介君と二人にしたくなかったようで、会いに来たときの対処としてナナコを選んだ。

西門君と二人で必ずナナコ帰るよう口酸っぱく約束させられて、ちょっと参ってしまった。


でも僚介君が井坂君たちの言うように、井坂君にひどい事を言ったのだとしたら、私が僚介君と仲良くするわけにはいかない。

僚介君を傷つける事になっても、もう会いに来ないで欲しい事を言わなければ…


私はそう決めて両手に力を入れる。

すると帰り支度を整えたナナコがやって来た。


「お待たせ~。さ、帰ろっか。」

「あ、うん。急に一緒に帰ろうなんて言ってごめんね?」

「いいよ、いいよ。なんかよく分かんないけど、西門君からメールももらってるし。」

「メール??」


私が聞いてなかった話に首を傾げると、ナナコがケータイを取り出して画面を私に見せてきた。

そこには今日私と帰って欲しいことと、僚介君が来たら私と引き離して追い返して欲しいという内容が書かれていた。


私がそれになんて過保護なんだ…と思っていると、ケータイをしまったナナコが言った。


「私としても寺崎は気に入らないからいいんだけど。どういう経緯があってこんなことになってるのか、説明はしてくれるんでしょ?」


ナナコの有無を言わさぬ圧力に、説明しないとは言えなくて、私は帰り道で包み隠さずすべて話すことになったのだった。



それから私とナナコは校門で僚介君がいないことにほっと胸を撫で下ろし、通い慣れた通学路を歩きながら今までの経緯をすべて話し終え、もう家の近くに差し掛かっていた。


「あ~…、しおには悪いけど、私やっぱり寺崎君は嫌いだわ。」


ナナコが話を聞き終えてから嫌そうに顔を歪めて言って、私はハッキリと嫌いだと言われてしまうと何も言えなくなって視線を下げた。


「中学の時も…まぁ、嫌いではなかったけど、好きな方じゃなかったし…。私は井坂君のためにも、寺崎君とは縁を切るべきだと思う。」

「やっぱり…そう思うよね…。」

「当たり前でしょ。自分の彼氏がそんなひどいこと言われてんだよ?どっちが本当に大事か考えたら、答えなんかすぐでるでしょ?」

「うん…。答えはすぐ出たんだけど…、私がそれを言う事で傷つけないかが心配で…。」


「はぁ!?しおはあいつに優しすぎる!!!!」


ナナコが目を吊り上げて怒鳴ってきて、私はその迫力に圧された。


「あんな奴、傷つけばいいのよ!!むしろフラれたときの鬱憤晴らすつもりで、思いっきりひどい言葉を投げつけるぐらいじゃないと!!井坂君だって傷つけられてんだよ!?遠慮してる場合じゃないって!」

「そ…、そうだよね…。」


私は井坂君の名前を出されたことに素直に納得した。

自分のことならいいけど、井坂君にひどいことを言ったのは許せない。

少なくともそのことについてはハッキリ言っておかないと…


「うん。ちゃんと言うよ。まぁ、寺崎君に会えたら…だけど。」

「言うのはいいけど、寺崎君と二人はダメだからね?今日いれば良かったのに…、私がいるときに限って出てこないんだから。」


まるで僚介君が珍獣か何かのように言われていて、私は薄く笑みを浮かべた。


ナナコのこういうハッキリとした性格はときに見習いたい…


そして、私は話している間に家に着いたので、ナナコにお礼を言って別れると、無事帰宅することができたのだった。






***






「あ、ノートなくなっちゃった…。」


早く家に帰ってきたことで時間を持て余して勉強にいそしんでいたら、勉強ノートを使い切ってしまってしまった。

私はちらっと時計を見て、まだ6時過ぎだと時間を確認すると、近くのコンビニまで買いに行こうと腰を上げた。

あったかダウンを羽織って、そのポケットにケータイとお財布だけを入れて部屋を出る。


そして晩御飯の支度をしていたお母さんに「コンビニまで行ってくる。」と告げると、ついでに牛乳を買って来てほしいと頼まれ、おつかいがプラスされた。


それからブーツを履いて防寒を完璧にさせて玄関から出ると、ちょうどインターホンを押しかけてた井坂君がいて、私は驚きと会えた嬉しさに顔が緩んだ。


「井坂君!」

「詩織…、どこか行くのか?」

「うん。コンビニまでノートと牛乳買いに。」

「一人で?」


ここで井坂君の目が鋭くなり、私は一人で出ちゃダメだっただろうか…と顔を引きつらせて頷いた。

すると井坂君は大きくため息をついてから、「来て良かった…。」と呟く。


そこまで心配しなくても…


私はさすがにコンビニまでの道で僚介君と遭遇する確率は低いだろうと思ったので、過保護な井坂君につい笑ってしまう。


「コンビニまで一緒に行くから。」

「うん。」


当然そう言われるだろうと思ったので、内心嬉しくなりながら井坂君に並んで歩き出す。

そのとき井坂君がまだ制服だと気づいて、私は西門君の家の帰りだろうか?と尋ねた。


「井坂君。家に帰ってないの?」

「あー…、うん。西門君の家で色々話し込んでさ…。途中からお姉さんまで入ってきて、帰るに帰れない雰囲気になって…。」

「え、景ちゃんに会ったんだ?」


私は西門君のお姉さんこと景子さん。通称景ちゃんと井坂君が対面したことに興味をそそられた。

景ちゃんは私も尊敬するお姉さんなので、井坂君はどんな印象を受けたのか気になる。


「景ちゃん、すっごく美人だったでしょ?」

「え…、美人??あ、まぁ…美人と言われれば…そうかな…??それよりも圧力がすごくて…。」

「??圧力って何?」


井坂君が少し困ったような顔をしたので、私は景ちゃんが何をしたのか知りたくなる。


「あー…、なんかお姉さん…俺の兄貴と知り合いだったっぽくて…。俺の事、兄貴と似てるって散々絡まれたっていうか…。」

「お兄さんと…??へぇ…。でも、景ちゃんが絡んでる姿なんて、私想像もできないけど…。」

「いや。なんか西門君も言ってたけど、こんなにテンション上がったお姉さんは久しぶりに見たらしくって…。兄貴となにかあったのかもしんない…。俺を通して兄貴見てるっぽかったし…。距離が近いっていうか…。」


井坂君は本当に疲れたのかは~っと大きく息を吐いていて、私はふと距離が近いっていうのが引っかかった。


「井坂君…。距離が近いって…、景ちゃんと何してたの?」

「え!?あ、いや。向こうが兄貴みたいだってひっついてきたぐらいで、他には何も…。」

「ひっついた!?」


私は景ちゃんが井坂君にベタッとくっついている様子を想像して、大きなショックを受けた。


「いや!!ホントにくっつかれただけだから!!何もないから!!何もないからな!?」


井坂君は私に誤解を与えたと思ったのか必死に弁解してきて、私はじっと井坂君の腕や体を見てムスッとした。


ここに景ちゃんが…


私は井坂君が触られたことにムカムカしてしまって、たとえ幼馴染のお姉さんでも許せなくなる。

だから少しでもその事実を消そうと、井坂君の制服をパンパンと叩く。


「詩織??」

「じっとしてて。景ちゃんが抱き付いた痕跡消そうと思ってるんだから。」


私がぶすっとした顔のまま軽く制服を叩き続けると、急にぶっと息を吐き出して笑う声が聞こえてから、ガバッと羽交い絞めのように抱きしめられた。

私は急のことに勢いのまま井坂君の胸におでこをぶつけて、衝撃に目を瞑った。


「こうすればすぐ消えるよ。」

「………井坂君…、おでこぶつけた…。」


井坂君は私のちょっとした嫉妬が嬉しかったのか小さくずっと笑っていて、私は恥ずかしくて頬が熱くなりながらぼやく。

すると井坂君は私のおでこの髪を払いのけてそこへキスしてきて、私はビックリし過ぎて息が止まった。


「これで痛くないだろ?」

「~~~~っ!!!井坂君!!!」


私は恥ずかしげもなく道の往来でキスされたことが恥ずかしくて、顔が真っ赤になりながら井坂君に抗議した。

井坂君はへらへらと笑ったまま手を繋いでくると、何事もなかったように歩き出して、私が一人百面相してることがバカらしくなってくる。


「もうっ!!!」

「はははっ!!怒ってるのも可愛い。」

「――――っ!!今、そんなこと言わないで!!」

「あははっ!俺、正直だからさ~。」


井坂君は歩きながらからかうように笑い続けていて、私は嬉しいんだけど恥ずかしいので素直になれない。

誰も見てないところならいいんだけど、人通りが少ないとはいえ道端では恥ずかしさが勝る。

そういう乙女心を分かって欲しい…


私はそう思ってムスッとしながらも、手を繋いで歩いていることが嬉しくて少しずつ顔が緩んできてしまう。

だからコンビニに着くころには井坂君と一緒になって笑っていた。


そして私と井坂君は家から5分程度で着くコンビニに来ると、私は目的の牛乳とノートをカゴに入れて、ふとお菓子の棚で『受験生に!!』というあおりのついたチョコレート菓子を見つけて手に取った。


井坂君…きっとお家で勉強するよね…


私はこれを差し入れにしようと思うと、いくつかカゴに入れてついでに飲み物も選んで購入した。

レジで袋を分けてもらうと、雑誌の棚のところにいた井坂君に近寄った。

井坂君はクリスマス特集と書かれた雑誌を読んでいて、私はまさかクリスマスを一緒に過ごしてくれるのかと思って尋ねた。


「井坂君。クリスマス…。もしかして一緒にどこか行ってくれるの?」

「え!?詩織、どこにも行かないつもりだったのか!?」

「えっ…、だって…井坂君、受験生だから…。」


私はてっきり今年はどこにも出かけずに、どっちかの家で少しの時間一緒に過ごす程度だと思っていた。

まさか雑誌に載ってるような場所に出かけるとまでは思わなかった。


「私、一緒に過ごせるだけで十分だよ。受験生だし、時間勿体ないよね?」


私は遠慮してそう言ったのだけど、井坂君はムスッと頬を膨らませると雑誌を雑に直して言った。


「一日ぐらい平気だし。高校最後のクリスマスは詩織が喜ぶことしたい。」

「……井坂君…。」

「それに、クリスマスは付き合って二年記念日だろ!?忘れてないよな!?」


私は井坂君が私のために記念日を考えてくれてたんだと知って、感激して井坂君を見つめる瞳が潤んでしまう。


「わ…、忘れるはずないよ…。」


私がなんとか涙を零さないように言うと、井坂君はクシャっと嬉しそうに笑って私の目に溜まった涙を手で拭ってくれる。


「なら、いいんだよ。」

「うん。ありがとう…。嬉しい…。」

「もう!?まだクリスマス来てないけど?」

「うん…。井坂君の気持ちが嬉しい…。クリスマスこなくても…幸せ。」


私が自分で涙を拭うと、井坂君は私の両頬を優しく包み込みながら「安上がりだな~。」と笑う。

私は言った言葉に嘘偽りはなかったので、今この瞬間もすごく幸せだった。


井坂君がいてくれればどこだって幸せな場所になる。

井坂君が笑って隣にいてくれれば、いつだって私は世界で一番幸せな女の子だ。


そう思って井坂君と笑い合っていると、ゴホンっと横で咳払いが聞こえコンビニだったことを思い出して井坂君から離れた。

井坂君も我に返ったのか「帰るか。」と少し照れながら手を差し出してきて、私はその手を握ると井坂君と一緒にコンビニを後にした。


外に出ると来た時よりも暗くなっていて、私は冷たい風に肩を縮めながらふと買ったもののことを思い出した。

買ったものはいつの間にか井坂君が持ってくれていて、私は繋いでない方の手を伸ばすと井坂君に言った。


「井坂君。それ私が持つよ。」

「いいの。なんか重そうだから俺が持つ。」

「でも、私の荷物だから…。」

「む~…頑固だなぁ…。じゃあ軽い方で。」


井坂君はそう妥協してくれると、井坂君にあげようと思っていた方の袋を渡してきて、私は首を振った。


「これ井坂君にあげようと思って買ったの。だから、そっちちょうだい?」

「え、俺に??じゃあ、やっぱり俺が持つ。」

「えぇ~?」


私が不満たっぷりの顔をすると、井坂君が笑いながら「買ってくれたお礼ってことで。」と宥めてきて、私はその交換条件を出されると引くしかない。


もう井坂君には敵わないや…


私は結局家まで井坂君に荷物を持たせてしまい、門の前でやっと荷物を受け取ることができた。

そして井坂君は私がお菓子をあげた袋を持ち上げると「じゃあ、有難くいただくな。」と言って、別れがたいような寂し気な表情を見せて背を向けた。

私はその背中がイヤで井坂君の前に回り込むと、井坂君の顔に手を伸ばして掴み、そのまま顔を引っ張って自分からキスした。


井坂君は驚いたのか短く息を吸う音が聞こえたけど、私が唇を離しかけたとき背中に井坂君の手が回ってきて、深いキスに変わったことに私は身を強張らせた。


「……っ!……井坂君っ…!!」


私は家の前だということが理性を働かせて、離れようと後ずさって背中を家の壁にぶつけた。

でも井坂君は迫ってきて、最後に腰砕けになりそうにキスされるとやっと解放された。


目を開けると井坂君は赤く熱を持った表情で見つめていて、目が合ったことに心臓がドックンと大きく跳ねる。

いつも井坂君といるとドキドキするけど、ここまで大きく荒ぶるのは久しぶりのことで、私は耳にまで鼓動が響いて息をするのも苦しい。


すると井坂君の手が伸びてきて私の頬を優しく一撫ですると、目の前で井坂君が優しく微笑んだ。


「また、明日。」

「え、あ…うん。また、明日。」


私は井坂君の声に少し心臓が落ち着いて、声がでたことにほっとした。

井坂君は私から手を放すと名残惜しさを振り払うかのように走り出して、私はその背が見えなくなるまでぼーっと見つめると、ズルズルとその場にへたり込んだ。


井坂君の目…見ただけで、気持ちが伝わってきた…

まだ一緒にいたいって…目で訴えられた…


私はさっきの目が合った一瞬を思い返して真っ赤になる。


言葉にしなくても気持ちが分かるというのが、まるで熟年夫婦のようで、私は自然に想い合える日がくる未来を妄想して、心の中で悶えたのだった。















僚介が出てくるまでの間の話でした。

次回、僚介が詩織と対峙します。

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