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理系女子の恋  作者: 流音
207/246

196、西門君宅にて

引き続き井坂視点です。


俺が俺の名前を呼んで驚いているお姉さんと見つめ合って固まっていると、西門君が顔をしかめてそのお姉さんに声をかけた。


「姉さん。なんで井坂君のこと知ってんの?家に連れて来たことないよね?」

「え…、あ。い、井坂君…だよね…。あれ?井坂君―――…、なんだか幼い…。」


お姉さんがどこか混乱したように俺を指さしながら、何度も俺に目を向けてきて、俺はぽかんとするしかない。


「姉さん。落ち着いてよ。井坂君…、こんな変な姉でごめんね。」

「あ、お姉さんなんだ?じゃあ、大学生?」

「そう。今確か…大学三年?地元の栄央大に行ってるんだ。」

「あ、じゃあ俺の兄貴と一緒だ。」


「兄!!!!そっか!!」


俺と西門君の会話にずっと混乱して独り言を言っていたお姉さんが突っ込んできて、俺はここでやっとお姉さんが俺の名前を知ってたことを理解した。


「もしかして、兄を知ってますか?」

「ううう、うん!!!知ってる、知ってるよ!!!」


お姉さんは興奮しながら何度も頷いていて、俺の顔をじっと見ながらどこか目を輝かせてる…ような気がする。


「私!!井坂君…あっと…、井坂…陸斗君と高校のとき同じクラスで!!私、学級委員やってたから、井坂君とは犬猿の仲だったっていうか…。」

「そうなんですか…。」


俺は高校のときと聞いて、あいつの最悪の時代だ…と思い、なんだかお姉さんに申し訳なくなった。


犬猿の仲というほどなのだから、余程学校でも素行が良くなかったのだろう…

ここは弟として謝っとくべきか…


俺はあいつのために頭を下げるのも癪だったけど、身内のことなので仕方なくお姉さんに頭を下げる。


「兄がきっと迷惑かけましたよね…。すみませんでした。」

「え!?!!?ぜ、全然!!!むしろ、迷惑かけてくれた方がいいっていうか…。」

「え?」「はぁ?」


お姉さんの意味不明なフォローに頭を上げると、俺と同じように西門君も訳が分からないという顔をしていて、お姉さんが慌てて「違う!!今のなし!!」と急に真っ赤になってしまった。


「………、ねぇ。今日、なんかおかしくない?テンション高すぎてついてけないんだけど…。」


西門君がじとっとお姉さんを見ながら靴を脱いで上がり、俺にも上がるように勧めてくれる。

俺がそれに倣って上がると、お姉さんに腕を掴まれて、俺は反射的にお姉さんを見て固まった。


「ほんっとにそっくりだね…。背丈まで一緒な気がする…。」

「え…えっと…。」


お姉さんは俺を見上げてキラキラと潤んだ瞳で見つめてきて、俺は顔を背けると居た堪れなくなってジリジリと距離を離そうと試みる。

するとそれを見ていた西門君がお姉さんの腕を引っ張って引き離してくれて、ほっと胸を撫で下ろした。


「何やってんの!?しおの彼氏に!!」

「え!?しおちゃんの彼氏なの!?」


西門君の告白にお姉さんは今度は目をまん丸くさせて俺を食い入るように見てきて、俺はその圧力に仰け反った。


「そうだよ!!!手出したら、しおに怒られるだけじゃ済まないからな!!」

「えー!!しおちゃんでも怒るの??ちょっと見てみたいかも。」

「いい加減にしろって!!井坂君が困ってるだろ!?」

「だって本当にお兄さんにそっくりだからさ~。もうビックリしちゃって…。」


西門君がこんなに怒鳴ってる姿を近くで見たのが初めてで、色んなことに面食らってると、西門君はお姉さんと言い争いをやめて階段に足をかけた。


「もう向こうに引っ込んでてくれよ。井坂君、こっちだから。」

「あ、うん。お邪魔します。」


俺がお姉さんに軽く会釈して西門君の後に続いて階段を駆け上がると、後ろから「やっぱり似てる…。」とお姉さんの声がして複雑な気分になった。


姉さんから兄貴に似てきたとよく言われていたけど、他人に言われたのは初めてで、そこまで似てるのかと思うとイヤで仕方ない…

俺と兄貴の考え方はまるで正反対だ

それなのに見た目が似てると、兄貴の弟としてしか見てくれなくなる


幸い中学も高校もあいつが卒業してからの入学だったから、今まで比べられることは少なかったけど…

もし一年でもかぶってたらと思うと寒気がする


俺にとって兄貴はやっぱり鬼門だ


はー…とため息をついていると、西門君が気を遣ってくれたのか二階の一番奥にある自室に入りながら謝ってきた。


「ごめんね。姉さんが…。」

「あ、いや。大丈夫だよ。」

「まさか姉さんと井坂君のお兄さんが同級生だったなんて…。」

「それは俺もビックリしたよ。兄貴からは何も聞いてなかった…っていうか、関わりを持とうとしてこなかったから…。」


俺が本音を少し暴露すると、西門君は少し驚いたように目を見開いた。


「そうなんだ。そういえばお兄さんがいるって話も初耳だったな…。あまり仲良くないんだ?」

「あー…、まぁ…。姉貴とは仲良いんだけど…。」

「お姉さんもいるんだ。」


「あ、ウチ兄貴と姉貴、双子なんだ。」

「へぇ!!双子か!じゃあ、お姉さんも栄央大?」

「いや、姉貴は隣町の海東大に行ってて、一人暮らししてるんだ。」


俺の兄弟の話がそこまで面白いのか、西門君は俺に座布団を勧めながら楽しそうに表情を緩めている。

西門君はいつもどこかクールなイメージがあるから、ここまで緩い顔を見るのが初めてで新鮮な感じだ。


「ウチの姉とは違ってしっかりしてるお姉さんなんだね。」

「まぁ…。ちょっと抜けてるとこあるけど、兄貴よりはしっかりしてると思うよ。」

「はは。お兄さんとお姉さんで態度違うね。よっぽどお兄さんが嫌いなんだ?」

「……好きか嫌いかだったら、嫌いだね。」


俺が皮肉たっぷりに答えると、西門君は本棚からアルバムを取り出しながら「僕の姉嫌いと一緒だ。」と苦笑する。

そして西門君は詩織の部屋でも見た中学の卒業アルバムと、行事ごとに撮ったのか小さなファイルに入ったスナップ写真を一緒に机の上に広げ始めた。

俺がそれに手を伸ばして一枚の写真を見ると、西門君が説明してくれる。


「それ、一年のときの校外学習の写真。確か、しおがちょうど寺崎と仲良くなったぐらいの頃かな。」

「寺崎と…?」


写真には飯盒炊爨なのか野菜を切る詩織と、木崎さん?だと思う女子。

その横に詩織を見て笑っている少し幼い寺崎に、小さく西門君と知らない男子が少し遠くに映っていた。

俺だったら買わないだろう一枚から目を離すと、西門君に尋ねる。


「これ、西門君、すっげ小さいけど。こんな写真買ったんだ?」


俺の問いに西門君は少し複雑そうに顔を歪めると苦笑した。


「今だから言うけどさ。僕、ずっとしおのこと好きだったから。これはしおの写真が欲しくて買ったんだ。」


そうだろうな…とは思っていたことを、この場で告白されたことにビックリして、俺は息が喉に詰まった。

西門君はそんな俺を見て微笑んでいる。


「井坂君にはバレてるだろうなと思ったんだけど、違った?」

「え…、あ……。ち…、違わない…けど。」


俺は詩織と付き合ってる身分だっただけに、素直に答えてしまっても良いのかと迷ったけど、西門君のことだから嘘をついても見透かされるだろうと顔色を窺いながら答えた。

すると西門君はふっと息を吐き出して笑う。


「なんで今気を遣ったの?一年のときは敵意剥き出しだったのに。」

「え!?敵意って…。」

「僕が気づいてないとでも?しおと仲良く話してたら、よくこっち睨んでたし、僕よりしおと一緒にいようとして、僕をしおに接触させないようにしてたよね。」


俺がバレないようにやってきた所業の数々がすべて気づかれてたと打ち明けられて、俺は恥ずかしさで顔が熱くなった。


「ま、僕は長い間しおを見てきただけで、行動に移す勇気なんかなかったから負け確定なんだけどね。」


西門君がもう詩織への気持ちは吹っ切れているのか、どこか清々しい笑顔でそう言って、俺は気になったことが口から飛び出した。


「今は…なんとも思ってないんだ?」


西門君は顔を強張らせると、じとっと俺を睨むように見つめてくる。


「……。変に傷抉るよね。」

「え!?ごめん!!」


俺が傷を抉ったのか!?と焦って謝ると、また西門君の表情が笑顔に戻る。


「いいよ。確かに井坂君の言う通り、昔とはちょっと違う気持ちだから。ま、しおが大事なのは変わってないけど。」

「……そ、そっか…。」


俺は少しほっとすると、西門君は「話が逸れちゃったけど…。」と違う写真を俺の前に置いた。

それは球技大会か体育祭の写真だろうか…。

詩織や寺崎、それに西門君や木崎さんまで並んでいて、服がみんな体操服だった。

今と変わらない自信に溢れた笑顔を浮かべる寺崎の横にいる詩織が、どこか嬉しそうで寺崎への好意を写真からも感じ取ることができる。

過去のこととはいえ、俺はずっと見続けるのは気分が悪いので、すぐ写真を西門君へ返した。


「これが夏にあった球技大会の写真。井坂君のことだから見て分かっただろうけど、しお良い顔してたでしょ?」

「まぁ…。否定はしない…。」


俺は寺崎の事を好きだった詩織のことを認めたくなくて、ムスッとするととりあえず肯定しておいた。

西門君はそんな俺を見て「過去のことだからね?」と少し笑っている。


「この頃から寺崎もしおのこと他の女子とは違う目で見てる気がしたんだ。しおの隣で写ってるってこともだけど…。しおのことだけ名前で呼んでたからね。」

「名前…。」


俺は今の寺崎も詩織のことを名前で呼び捨てにしていることを思い返して、あれは中学一年の頃からなのか…とちらっと写真に目を落とした。

すると今度はそこへ違う写真が置かれ、さっきの写真と並べられた。


「それでこれが、中学一年の終わり頃にあったマラソン大会の写真。ちょうど、しおが寺崎に告白した直後なんだ。」


詩織が告白した直後だと聞いて、俺は食い入るようにその写真を見つめた。

そこにはさっきの写真と正反対の詩織の姿があった。

笑顔を浮かべてはいるけど固くて、無理やり笑ってるのが見て取れる。

そして周りには木崎さんと西門君が脇を固めていて、寺崎の姿はない。


「この二枚並べただけで分かるでしょ?しおがどれだけ寺崎に傷つけられたか。」

「………うん。…分かる。」


俺はどっちの詩織を見ても胸が変に痛むので、俺はその二枚を裏返すと西門君に返した。


「卒業アルバムもそうなんだ。一年の頃のしおはすごく楽しそうに写ってる写真が多いんだけど…、二年以降はこんな笑顔の写真ばっかり。僕も木崎さんもしおがいつ立ち直るのか心配でさ…。高校も同じとこを選んだんだ。」


詩織がやけに幼馴染と仲の良い理由をここでやっと垣間見る事ができ、すべての一端は寺崎にあったんだと知った。


「でも、高校に入ってからは何の心配もいらなかったみたいだけど。」

「え?」


西門君の声音が急に明るくなったことに顔を上げると、西門君は写真を片付けながら嬉しそうに笑う。


「井坂君と話すようになってから、しおがどんどん元気になってるのが分かったからさ。あの頃はちょっと嫉妬してたけど、今は井坂君がいてくれて本当に良かったと思ってる。」

「西門君…。」


俺は詩織の幼馴染である西門君からそこまで認められていたんだと感じて、嬉しくて顔がムズムズしてしまう。


「しおは…フラれてから本当にひどかったんだ。そのしおが振った張本人の寺崎と仲良くできるなんて…。いまだに信じられないけど…。井坂君が傍にいるからだって思うと、色々納得できるんだ。」

「え…?俺??」


急に俺の名前が出てきたことに目を丸くさせていると、西門君は力強く頷いた。


「井坂君がいるから、今のしおなんだと思う。井坂君のことを想って、どんどん強くなるしおをずっと見てたからさ…。だから、これから寺崎が変に絡んできても、しおのことを信じてやってほしい。」

「……信じる…って?」


「僕には寺崎が何を考えて、またしおと接点を持とうとしてるのか分からない。本当に昔のように仲良くなりたいだけならいいけど…。心を許し始めたしおを、またひどい言葉で傷つけることだってあるかもしれない…。僕はそれが一番怖い。」


俺は西門君の一番心配していることを聞いて、西門君が俺を家まで連れてきて話をしたかった本心を察した。


西門君は中学の二年間に渡って落ち込む詩織を励まし続けたんだろう…

だから詩織が傷つくかもしれないことを、まるで自分のことのように怖がっている…

あの頃のことが西門君の傷にもなっているんだと…分かった


そして俺は詩織の支えになっていると西門君から頼られている。

詩織の傍にいなくてはダメだと、詩織を西門君から託された。


こんな状況で弱気になるほど俺は情けなくない。


自分のプライドと自信を両方西門君からのエールによって回復させると、俺は西門君を安心させるように告げた。


「俺が詩織を信じないわけないだろ?寺崎が何してきたって、詩織のことは俺が守る。絶対傷つけさせやしない。」


西門君は俺の言葉に少し安心してくれたのか、ほっと安堵の表情を浮かべると、「ありがとう。」と優しく微笑んだ。

そして、その後に「あ。」と何か思い出したのか、少し顔を歪めてまた不安げな顔に戻ってしまう。


「そうだ。これは僕の勘違いであって欲しいんだけど…。寺崎がしおのこと好きだったなら、今になって絡んでくるのも分かるんだよね…。」

「え…、好き?」


俺は詩織が中学のときにフラれてると聞いたときから消していた可能性が舞い戻り、急にぞわっと悪寒がした。


「うん。まぁ…ないとは思うんだけどね…。中学の時にもそうじゃないかって思ったことがあったからさ。なんとなく可能性の一つとして頭の隅においておいてくれれば…。」


西門君は可能性の低い話だと思って苦笑したけど、俺はなんとなくその割合も高い気がして、西門君に上手く笑顔が返せなかったのだった。
















珍しいツーショット編でした。

ちょこっと西門姉と井坂兄の接点を明かしましたが、これは別の話の方なので、『理系女子』の方では描かない予定です。

別枠の『生まれたとき~』の方で出せればな~と思ってます。

余談でした。

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