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理系女子の恋  作者: 流音
206/246

195、知りたい

井坂視点です。


詩織から寺崎僚介が初恋の相手だったと知らされたとき、俺は今まで感じていた寺崎への違和感をすべて理解した。


俺に向けてくるあの挑戦的な目――――

今思うと、あれは俺を見下してる目だった。


詩織に最初に好意を向けられたのは俺だと言わんばかりの余裕

まるでまだ自分が詩織に想われてるかのようだった…


俺はその自信に寒気がしたんだ…


負けたとか思ったわけじゃないけど…、少し怯んだ…

それが男として…詩織を想う彼氏として…情けなかった…


今は詩織の気持ちは自分にある

それは痛いほど分かってる


でも昨日の詩織のあの表情を見たとき、俺の中の唯一の自信がグラついた。


詩織は寺崎が自分のことを気にしてるんじゃないかと島田に指摘されたとき、どこか嬉しそうな…俺に気持ちを向けてたときの顔をした。

ほんの数秒だったけど、嫌と言うほど詩織を見てる俺の目に分からないはずはなかった。


だから、俺は今までにないぐらい詩織の初恋相手である寺崎に嫉妬した。


今までだったら怒りに任せて何かにぶつけていたんだけど、今は冷たい炎が自分の中にある感じで、頭が妙に冷えていて、弱火でジリジリとゆっくり温められてるような気分だ。


俺は自分のこんな気持ちが生まれて初めてで、詩織を見てるだけで胸が痛くて死にそうになる。


詩織の全部が欲しい

過去も未来も全部…俺一色にしてしまいたい


詩織の中から寺崎を追い出したい

過去の記憶を抹消して欲しい


もう二度と寺崎には会わないで欲しい――――


自分の中のハッキリとした気持ちに、俺は苦しめられる。


詩織に言えばいいんだけど、言った瞬間寺崎に完全に負ける気がして言う事ができない。

これは男として、俺の最後のプライドだ。


あいつにだけは負けられない。


詩織の彼氏は俺だ。

それは絶対に揺るがない。


この先、何があろうとも―――






***






「井坂君。元気ない?」


昼休みにぼけっとしていたら、詩織が心配して俺の顔を覗き込んできて、俺は詩織の目が自分に向いてるだけで、少し嬉しくなって笑みが漏れる。


「いや?そんなことないけど。」

「そうかな…。…寺崎君のこと…気にしてたり…しない?」

「え…。」


詩織が不安げに顔を歪ませていて、俺はまさに気にしてた最中だっただけに言葉に詰まった。

すぐ「そんなことねぇよ。」と返そうと笑顔を浮かべて口を開くが、それより先に詩織が俺の手を握ってきて引っ張った。


「こっち来て。」


詩織は俺の手を引いたままズンズンと歩き出して、俺は詩織の背について行くしかない。

教室を出て詩織が向かったのは二階にある社会科準備室で、俺は詩織からここに連れて来られるとは思わなくて言葉を失った。

詩織は部屋の扉をきっちり閉めると、俺と向かいあってきて口を開いた。


「井坂君。私が寺崎君と会ってるのは嫌?」

「え…。そ、そんなわけ…―――」

「嫌だよね?」


俺が気持ちと裏腹な言葉を絞り出している途中で、詩織が俺の気持ちを見透かしているのか、少し潤んだ瞳で俺を見つめて言った。

だから、俺は口を閉じて自分のギリギリのプライドから、何も言わず態度に出さないように精一杯堪えた。


でも詩織に俺の気持ちは伝わってしまっていたようで、詩織は瞳に涙をいっぱい溜めて言った。


「私、もう寺崎君とは会わない。」

「え…。でも…詩織―――」

「私には井坂君の方が大事なの!!井坂君のそんな顔…見てたくないよ…。」


詩織は瞳に溜まった涙を零しながら苦しそうに吐き出した。

俺はそれを見て、詩織が俺と同じように苦しんでたことが分かった。


まるで俺と一心同体のように…、詩織は俺と同じように苦しみを共有してる

それが俺との切れない絆のように感じて、俺は詩織がより一層愛おしくなった


「ごめん…。詩織…。」

「謝らないで…、私が…井坂君のこと苦しめてたんだから…。カンナさんのことで学んでたはずなのに…。自分がバカで本当にムカつく…。」


詩織はグイッと涙を拭うと鼻をすすりながら、自分に対して怒り出す。


「なんで昨日気づかなかったんだろ…。誰よりも井坂君を見てたのに…。井坂君の態度で気づくべきだった。」

「詩織…。」


俺は怒ってる詩織がすごく可愛くてふっと顔が緩む。

詩織は俺の笑顔に少し安心したのか、同じように笑みを浮かべるとギュッと俺に抱き付いてきた。


「井坂君が大好き。世界中で一番……好き。」


世界中で…一番…


俺は詩織からの嬉しい告白にジーンと感動すると、詩織を優しく抱きしめ返した。


「俺も。詩織が世界で一番好き。」


自分で言うと少し恥ずかしいな…と思ったけど、詩織は嬉しかったのか抱きしめる力を強めてきて、小さな笑い声が聞こえ出す。


「ふふっ。やっぱり井坂君が一番。」

「??今度は何の一番?」


俺は少しワクワクしながら尋ねると、詩織はクスクスと笑ってから「決まってるでしょ?」と言った。

そしてその後にもったいつけて言われた言葉に、俺は失いかけてた自信を見事復活させることができたのだった。





***





そして俺と詩織がしばらく準備室でイチャついてから戻ってくると、教室の入り口で西門君が俺を待ってたようで「ちょっといいかな?」と声をかけられ、俺は西門君と二人で人気のない空き教室前にやって来た。

俺は西門君と二人になるのは文化祭以来のことで、若干緊張しながらも西門君の話を聞こうと耳を傾ける。


「あのさ、島田君たちが話してたのを聞いたんだけど…。昨日、寺崎僚介と口論になったって…。」

「あぁ…。そのことか…。」


俺は西門君が詩織と同じ中学出身だと知っていたので、寺崎の話が出たことに幼馴染思いな西門君が心配してくれたんだと察した。


「ちょっと詩織の事で揉めただけなんだ。西門君が心配するほどの事態じゃないから大丈夫だよ。さっき詩織と一緒にいたのも見ただろ?」

「しおとのことは心配してないんだけど…。寺崎は昔から掴めない奴だから…。しおに会いに来たってことが引っかかって…。」


西門君はどうやら俺と詩織というよりは、寺崎と詩織というのを心配してる様子で、俺はそこまで何を心配してるのか気になった。


「西門君。寺崎の何を心配してるんだ?」


西門君は俺の問いに一瞬困ったような顔をしたけど、顔をしかめながら言いにくそうに口を開く。


「もう…隠し続けられないから言うけど…。しおが中学の時好きだったのが、寺崎僚介なんだよね…。」


俺はもう聞いて知っていた話に拍子抜けして、「それなら知ってるよ。」と返した。

すると西門君は少し表情を緩めて「あ、そうなんだ…。」と少しだけ安心した様子を見せる。


「じゃあ、しおがフラれたってのも…。」

「うん。知ってる。こっぴどく振られたんだろ?」

「そうだよ。だけど、寺崎ってさ…あの頃、女子の告白を断ったって話、一回も聞いた事なかったんだよね…。」

「??どういう意味?」

「だから、しお以外の女子とは付き合ったってことだよ。」


????


俺は西門君の言いたい事がイマイチつかめなくて首を傾げた。

すると、西門君は少しため息つきながら説明を続けた。


「僕は部外者だったから気づいただけかもしれないけど…、しおと告白を成功させた女子たち…。どっちかと言うと、しおの方が寺崎と仲が良かった。」

「??詩織の方が…寺崎と仲が良かった…??」

「そう。だから、しおが告白すれば絶対に上手くいくと思ってた。僕も、木崎さんも…しおと仲の良かった奴はみんな…。そう思ってなきゃ、しおに告白なんかさせるわけない。」


「え??詩織が告白するってこと、その…西門君やあの4組の女子は知ってたのか?」

「もちろん。僕や木崎さんの過保護っぷりが高校だけのことだと思った?僕らは小学校からの幼馴染。大事な幼馴染の初めての告白。成功させてあげたいって思うのが、友情ってものだろ?」


どこか保護者のように言う西門君はそこまで説明すると、少し表情を曇らせて視線を下げる。

俺は話の続きが気になって黙って西門君を見つめる。


「でも…しおはフラれた…。それも結構ひどい言葉で…。僕も木崎さんも意味が分からないのと同時に腹が立って、寺崎を見る目が変わった。しおには相応しくない相手だったって思い込んで、寺崎を敵視した。しおが目の前でみるみる表情を暗く変えていくんだ。当然、中学卒業するまで寺崎を一度だってしおに近付けなかった。」


俺は中学の頃の詩織の話が新鮮で、一言一句聞き逃さないように西門君に集中する。

それと同時に詩織の中学時代を想像して、フラれたってことがどれだけ辛かっただろうかと思い胸が苦しくなった。


「そういう経緯があったから…、僕的には今の寺崎の行動が謎過ぎるんだ。」

「え?」


俺が詩織の気持ちを考え込んでいたら、話がいつの間にか元に戻り、西門君が真剣な目で俺を見ていた。


「僕だったら振った相手ともう一度仲良くなろうなんて思わない。振った相手の気持ちを考えたら尻込みするからね…。でも、寺崎は違った…。軽々しくしおとまた仲良くなりたいって仲直りして…。事あるごとにしおに絡んでる…。まるで中学のときみたいに…。」

「中学の時みたいに?」

「うん。文化祭のあいつを見て思ったけど、まるで中学の時の…しおが好きだった頃の寺崎そのままだった。だから僕も歩も焦ったんだ。」


俺は詩織が好きだった頃の寺崎――と聞いて、寺崎という奴のことがもっと知りたくなった。

今後も寺崎が詩織に接触してくるなら、知っておいて損はないはず…


俺は西門君にもっと話を聞こうと口を開きかけた所で、予鈴が鳴り響いて話をやめざるを得なくなる。

すると、西門君が俺の顔を見て何かを察してくれたのか、言った。


「もうちょっと井坂君に寺崎の話しときたかったんだけど…。」

「あ、俺ももっと聞いておきたい。詩織に関わることだから。」


俺は西門君の言葉に食いつくように詰め寄ると、西門君は少し考えてから「今日、僕の家にくる?」と尋ねてきた。

俺は「行く!!」と二つ返事をしそうになったが、詩織を一人にすると寺崎に接触させてしまうかもしれない…と思い口を噤んで考えた。


「僕の家に中学のアルバムとか写真あるから話しやすいかな…と思ったんだけど…。難しいよね。」

「あ、いや。ここんとこ寺崎が詩織に接触してきてたから、一人で帰すのが心配で…。」


俺がぼそっと理由を話すと、西門君は「なんだそんなことか…。」と少し微笑んで言った。


「じゃあ、今日は木崎さんと一緒に帰るようしおに言っておくよ。木崎さんなら寺崎の事情にも詳しいから、寺崎が接触してきてもしおと引き離してくれるはずだからさ。」


木崎さんというのは…4組のメガネの女の子のことか…と、俺は詩織とよく話をする女子の顔を思い浮かべた。

詩織のことをよく怒ってる気の強そうな彼女なら、確かに寺崎を追い返してくれそうだ。


俺は話しもしたことない子だったが、西門君の信頼を得てるなら大丈夫だろうと、今日の所は彼女に任せる事にした。





***





そしてその日の放課後、俺は詩織に寺崎と会っても無視することと、必ず家まで木崎さんと帰ることを約束してもらうと、西門君と二人下校した。

俺が西門君と帰ることが余程周囲には見慣れないものだったのか、赤井や島田、北野から何事だ??と怪訝な目を向けられ、明日は質問攻めだろうことを覚悟した。


西門君の家に向かう道中、西門君は俺の中学のときのことに興味があったのか色々と質問してきた。


「井坂君は中学で部活は何をやってたの?」

「俺?バスケ部だよ。俺、中一のときすっげーチビだったから背を伸ばしたいって不純な動機で。」

「そうなんだ。でも今はすごく背が高いよね。それはバスケ効果で?」


「どうかな?俺の背が伸び始めたの中二の終わりぐらいだったし…。単に成長期が来てなかっただけのような気もする…。そういえば西門君も中一のとき、すっげー背低かったよな?」

「え?なんで知ってるの?」

「詩織の家で卒業アルバムを見たことあってさ。」

「あー、そっか。僕、しおより低くて笑ったでしょ?」


西門君が中学の時を思い出したのか楽しそうに笑って、俺は西門君と笑って話せてることに少し嬉しくなりながら正直に答える。


「さすがに笑いはしなかったけど…。詩織、昔から背高かったみたいだし、あれは仕方ないんじゃねぇ?」

「うん。まぁね。しおの家は皆背が高くってさ。僕、中学の時大輝君に平気で抜かされてたからね。」

「あー…。大輝君はなぁ…。俺も今じゃ抜かされてるし…。」


俺は大輝君を少し見上げてる自分が情けなくて、気分が下がる。


「やっぱり男として年が下の奴には負けたくないよね。こういうとこは井坂君も同じなんだ。」

「??俺も同じってなんで?」

「だって、井坂くんとか赤井君って堂々としてて、自分に自信あるっていうか…。ちょっと普通の男子とは違うからさ。意外と考えてることが同じで嬉しいなって思ってさ。」


俺はここで夏に内村からも同じようなことを言われたことを思い出して、俺があまり親しくない男子からどう見られてたのかを思い知った。


「あのさ…。俺、結構女々しいとこあるし…。すぐ自信なくなることもあるから、普通の男子よりも情けないような気がすんだけど…。」

「そうなんだ。でもそれが表面上に出ないってすごいことだよね。井坂君たちが女の子に人気あるのは、そういうとこなんじゃないかな?」

「げ…。だったら情けないとこを表に出していこうかな…。女子に絡まれんのマジで面倒なんだよなぁ…。」


俺は度々声をかけられてウンザリしていたので、そうしようと思うのだがどうすればそれが出るのかが分からない。

別にカッコつけてるわけでもないのだけど、何が俺の情けなさを隠してるんだろう?

俺がう~ん…と考え込むと、西門君がとある家の前で足を止めて「羨ましい悩みだね。」と笑った。


そのあとに「ここだよ。」と足を止めた家の中に入って行く。

俺は西門君の家を見上げて、立派な日本家屋だな…と松の生えた小さな庭を通り、西門君に続いて引き戸の玄関に足を踏み入れた。


「ただいま。今日、お客さん連れて来たから。」


西門君が家の人にそう説明するのを聞いて、俺は玄関の戸を閉めてから振り返ると「井坂君!?」と名前を呼ばれて、俺はその人を見つめて首を傾げた。


西門君と向か合うようにいた家族の人は、綺麗な茶髪で赤い縁のメガネをかけたお姉さんで、俺は見たこともない人に名前を知られてることが不思議で仕方なかったのだった。











珍しいツーショットでした。

もう一話続きます。

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