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理系女子の恋  作者: 流音
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194、好きだった人


「あ、タカさん、また同じような問題で引っかかってる。」

「え、嘘?」


私はタカさんと二人図書室で居残り勉強会を実施していて、タカさんは私の指摘に嫌そうに顔をしかめながら消しゴムをかけている。


「しおりんって、やっぱ頭良いよね。桐來の推薦もらえたのも今なら納得。」

「なんで今…。私、これでも長期休みの度に予備校行ってたんだから。」


私がタカさんからの変な褒め言葉にぷぅっと頬を膨らませて怒ると、タカさんはケラケラと笑って再度問題に向かい始める。


「ごめん、ごめん。だって、しおりん、井坂君とイチャついてばっかなイメージで、ここ最近勉強してる姿、あまり見たことなかったから。」

「何それ!?私、今年の夏休みどれだけ勉強したか!!」

「うん、うん。分かってる。だからこうして勉強教えてもらってるわけだし?」


タカさんは私にシャーペンを向けながら優しく微笑んで、私はムスッとして口の先を尖らせると頬杖をついた。


「タカさんだって頭良いじゃん。ちょっと数学は苦手みたいだけど…。英語は私の方が教わる事多かったし。」

「まぁ…ね。誰にでも得意教科の一つや二つはないとね。」


どこか嬉しそうにノートに目を戻したタカさんを見て、私はふっとタカさんの受験する大学を詳しく聞いてなかったことに気づいて、勉強の邪魔にならない程度にひかえめに尋ねる。


「タカさん…。そういえば、大学って…、どこに行くんだっけ?」

「――――へ?桐來だけど?」


「!?―――えぇ!?!?」


私はタカさんの志望大学が私と同じということに声がひっくり返って、喉に唾が詰まりむせた。

タカさんは「そんなに驚く?」と楽しそうに笑っている。


「そんなに驚くことだよ!!―――っていうか、それっていつ決めたの!?」

「いつって…。そりゃあ…、夏休み…ぐらい?」

「そんなに前から!?」


私はタカさんの告白に驚きの連続で目を見開いていると、タカさんは頬杖をついて窓の外に目を向けた。


「うん。別に教師になりたかったわけじゃないんだけど、語学系に力入れてるみたいだったし…。自分で目指せる一番手ごろな大学だったし?」

「へぇ…。じゃあ、タカさんが受かったら、大学でも一緒にいられるね!!」


私はタカさんと進路がバラバラなことも覚悟していただけに、一緒だと分かりすごく嬉しくなった。

タカさんも私に目を戻すと、嬉しそうに微笑む。


「だね。そのためにもこの苦手な数学、なんとか人並みにしないとね。」

「分かってる!私だったら何回でも説明するから聞いてね!!」

「あははっ。今はしおりんが頼もしいなぁ~。」


タカさんと一緒に笑い合って穏やかな時間にウキウキとしていると、急にその空気を破るようにバンッと扉の開け放たれる音が図書室中に響いた。

ビックリして扉の方へ振り返るとそこには井坂君が般若のように仁王立ちしていて、司書の先生が「お静かに!ここ図書室ですよ!!」と注意している。


私は帰ったはずの井坂君が学校に戻ってきていることが不思議で腰を上げて井坂君に駆け寄ろうとしたら、井坂君が先に私に気づいて大股でこっちに向かってくるのでストンと腰を下ろした。

井坂君の後ろからは島田君と北野君が司書の先生に謝りながら、小走りでこっちに走ってくる。


「井坂君…、どうしたの?」


私が近くまできた井坂君に尋ねると、井坂君は私の隣に座ってくると机の上に鞄をのせてムスッと腕を組んだ。

どこか怒気が漏れ出ていて、私はタカさんと目を合わせて首を傾げる。


するとタカさんの隣に島田君と北野君が大きく息を吐きながら着席して、「もうなんなんだよ~。」とぼやきながら机に突っ伏す。


なんなんだよ。はこっちのセリフなんだけど、私はあまりにも疲れてる島田君と北野君に声がかけられない。

でもタカさんは違ったのか、じっと井坂君を見るとズバッと切り込んだ。


「急に現れてなんなの?そんな不機嫌だとこっちの勉強の邪魔なんだけど。」

「うっさい。黙って勉強すればいいだろ。」


うわ…不機嫌最高潮だ…


私がこんな状態の井坂君に絡むのはよくないと感じて、タカさんに勉強に戻ってもらおうとタカさんの手を軽く叩くけど、タカさんは井坂君の言い方にカチンときたのかギュッと拳を作って言い返す。


「勝手に来ておいてなんなの!?どうせしおりん絡みなんでしょ!?ほんっと短気でちっさい男なんだから!」

「はぁ!?なんでお前にちっさいとか言われなきゃなんねぇんだよ!?こんのガリ勉!!」

「ガリ勉の何が悪いのよ!?あんたの大好きなしおりんだってそのガリ勉の一人なんだから!」

「詩織と八牧じゃちげぇよ!!」


「なにその差別!!こんな男ならしおりんとくっつくのに手を貸さなきゃ良かった!!」

「誰も手を貸せなんて頼んでねぇよ!!」

「言ったわね!?じゃあ、これからは遠慮なく井坂君からしおりんを奪うから!!」

「は!?なんでそこに話が飛ぶんだよ!!」


「井坂君!!タカさん!!」


私がすぐ傍に来ていた司書の先生の鋭い視線に耐えられず口を挟むと、二人の言い争いがやっと止んだ。

司書の先生はスッと出口を指さすと「退室しなさい。」と冷たい声で言って、私たちは無言で机の上を片付けると席を立った。


そして図書室を出るときに先生に「すみませんでした。」と謝ると、廊下でタカさんが大きく息を吐いてから言った。


「不機嫌なのには理由があるんでしょ?こっちも売り言葉に買い言葉で口論になっちゃったけど、ちゃんと理由を説明してくれない?」


井坂君は理由を口にしたくないのかプイッとそっぽを向いてしまう。

それを見たタカさんがまた苛立って何か言いかけたところで、制するように島田君が二人の間に割り込んできた。


「こいつがこんな怒るのは基本谷地さん絡みなんだけどさ。」

「私!?」


私絡みだと言われてビックリしていると、島田君の横にいた北野君が苦笑しながら頷く。


「お前が言わねぇなら、俺が言うからな。」


島田君がそう井坂君に確認すると、井坂君は肯定なのかちらっとこっちを見てからまた目を逸らした。

それに北野君と島田君が同時にため息をつくと説明してくれる。


「さっき校門出てしばらくした所で、寺崎って奴に会って。」


僚介君…??


私は昨日に引き続いて僚介君が来てたことに内心驚く。

でも井坂君の手前表情には出せなくて、ちらっと井坂君の顔色を窺うように見る。


「あいつ、早い話が井坂の事…挑発してきてさ…。井坂の事、嫌いだとか…。谷地さんのこと泣かしたら許さないとか…そういうこと言ってきて…。井坂がブチ切れたんだ。」

「谷地さんの元同級生だって言ってたけど…、本当にそれだけ?」


「それだけって…。」


私は僚介君が井坂君にそんなことを言ってる所が想像できなくて混乱した。

僚介君はいつも私の弱音を聞いてくれて…、井坂君とのことを応援してくれていた。


昔にはそりゃあ…色々あったけど…

今は本当にいい友達だって思ってる


これに嘘はない


だから、私は今の現状だけを口にした。


「寺崎君は…中学のときの同級生で…予備校仲間ってだけだよ…。予備校やめるときに愚痴言いたくなったら会いに来ていいかって…冗談を言われたぐらいで…。」

「は?それ聞いてないけど。」


ここで今まで黙ってた井坂君が私に詰め寄ってきて、私は少し体を強張らせて後ろに下がる。


「だ…だって、冗談だと思って…。昨日、会った時に冗談じゃなかったんだ…って気づいたけど…。井坂君に言う必要ないかな…と思ってたから…。」

「言ってくれよ!!赤井から寺崎が詩織に会いに来てたって聞いたとき、心臓止まるかと思ったんだからな!!」

「ご、ごめん…。」


私は井坂君が苦しそうに顔を歪めたのを見て、申し訳なくて謝るしかできなかった。

井坂君がここまで僚介君のことを気にしてたとは思わなかった。


やっぱりあゆちゃんやナナコの言うように、僚介君との距離間を考えなければいけない。

でも、どこかその距離を空けられない自分がいるのも事実で、どうすれば上手い友達の距離が保てるのか分からない。


そもそも友達っていうのは、どこまでが友達なんだろう…?


私が僚介君を傷つけないような距離の取り方を考え込んでいると、今まで話を聞いてくれていた島田君が尋ねてきた。


「あのさ、谷地さんとその寺崎が友達っていうのはよく分かったんだけどさ…。あいつ、谷地さんのこと、幸せにならなきゃダメだとか、笑顔でいてくれるなら井坂と付き合う事も認める…みたいな上からなこと言ってて…。友達にしちゃ、やけに谷地さんの肩持つな…と思ったんだけど…。」

「あ、それ、俺も思った。」


北野君が島田君の言葉に突っ込んで、島田君は私に目を向けたまま不思議そうに首を傾げる。


「俺には友達以上の何かが見えたんだよね…。谷地さん、あいつと本当に何もないんだよな?」


島田君は何か見透かしているのかそう訊いてきて、私はもう話すことに抵抗はなかったので説明することにした。


「井坂君には話したことあるんだけど…。私、中学の時…好きな人がいたんだ…。」

「あ、それって井坂の前にってこと?」

「うん。」


ここで井坂君がムスッとして顔を背けるのが見えた。

またあのときみたいにイヤだとか思ってるんだろうな…

私が素直な井坂君に少し微笑ましくなりながら、サラッと打ち明ける。


「それがその寺崎君なんだよね。」

「「え!?」」


「はぁ!?!?!?!」


みんなと同じように井坂君まで驚いていて、私は言ってなかっただろうか…?と井坂君を見つめた。


「あれ?井坂君…知らなかった?」

「ししししし知るわけねぇだろ!?!?!そんな聞きたくもない話!!!!!」

「……そうだったかな…??」


私は井坂君に中学の好きな人の話をしたときに名前も言ってたような気になっていたので、自分の思い違いに首を傾げた。


「まぁ、いいや。それで、その寺崎君には中学の時点でこっぴどーくフラれてるから―――」

「ちょちょちょちょ、待って!!まぁいいやじゃないから!!」

「へ?」


私が説明を再開したところで、井坂君が焦ったように割り込んできた。

井坂君はどこか血の気のひいた顔色をしているような気がする。


「詩織は中学のとき、寺崎に告ったってことか!?」

「うん。そうだよ?落とすのがゲームだって言われて、手酷くフラれたけど。」

「はぁ!?なんだそれ!!!!」


井坂君が怒りに顔を歪めるのが見えたとき、ふっとさっき島田君が言ってた僚介君の言葉を理解した。


「あ、そっか。手酷く振った過去があるから、笑顔でいて欲しいとかそんなこと言ったんだ。」

「え?何の話?」


タカさんが訳が分からないというように首を捻って、私は僚介君が井坂君に言ったことを説明する。


「えっと…私を振って傷つけたっていう過去の負い目があるから、私が笑ってるか心配して様子を見に来てくれてるのかも!!そう考えたら、僚介君がよくウチの高校に来てくれるのも納得だよね!だって僚介君、本当に優しいから。」


「「僚介君??」」


島田君たちがぽかんと復唱する声を聞いて、私は理由が分かったことにスッキリとしてしまった勢いのまま、名前で呼んでたことに慌てて口を閉じた。


井坂君の目の前では名前で呼ばないように気を遣ってたはずなのに、つい僚介君を前にしたときのように口に出してしまっていた。

あゆちゃんやナナコの注意が台無しだ。


でも井坂君はそのことについて島田君たちほど気にしてないようで、一人腕を組んで「あいつ…。」と呟いて何か考え込んでいる。

だからそれにほっとして口元を緩める。


「なるほどね…。あいつがやけに谷地さんに肩入れするのはこれか…。」

「俺はちょっと行き過ぎな気もするけど…、こういうのは人それぞれだしな…。」

「しおりんが井坂君と笑ってるのが、その寺崎君?にとったら一番救われることなのかもね。私は会ったことないけど。」


タカさん達もそれぞれ納得してくれたようで、私は僚介君の事を少し理解してもらえたことに安心した。


ただの友達なのに変に誤解されてケンカになったら嫌だもんね…


私はこうしてはっきり説明しておけば、今後僚介君のことで井坂君が嫉妬することもないだろう…と気持ちがスッキリする。


「でもさ、その寺崎僚介って奴?今、受験シーズン真っ只中なのに、毎日足運ぶとか、よっぽど谷地さんのこと気に入ってんだな。」

「え?」「は?」


私は島田君の言葉に面食らってぽかんと島田君を見つめた。

井坂君も考え込むのをやめて同じように島田君を見ている。


「だって、相手京清高の奴だろ?電車通いの上、駅からここまで少し距離あるじゃん?それを連日とか、よっぽど気になってなきゃ来ないだろ。」


気になって…


私はその言葉が引っかかって意味のある方へ考えてしまいそうになり、慌てて頭を振って考えを吹き飛ばす。


「谷地さんも、元好きだった人だし、ここまでされたら少し気になってくるんじゃないの?」

「バッカ!!島田!!!」


島田君が笑いながら言ったことに北野君が焦って島田君の口を塞ぐ。

私は僚介君から気にされてるってことが、頭をグルグルと回って少しもやっとした気持ちが生まれた。


中学の頃は自分に向くはずのなかった僚介君が、私を気にしてるなんて…

嬉しい…気もするけど…、どこか…変な気分…


私は少し胸が変に動いたような気がしたけど、僚介君に限ってそれはないだろうと気にしないことにした。


きっと島田君の勘違い


あんなにハッキリフラれてるんだから、今更あり得ない

今は友達で、同じように勉強に励むただの同志みたいなものだし

僚介君だって思ってもみないはず


私はそう思って皆に「ないから。」と笑って否定した。

皆は同じように笑って「だよな。」と同意してくれたけど、ただ一人…井坂君だけはどこか複雑そうな顔をしていて、私はそれが一番気になってしまったのだった。














井坂が詩織の初恋相手を知りました。

井坂がどう動くのかは次話以降にて。

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