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理系女子の恋  作者: 流音
201/246

191、ご褒美

井坂視点です。


12月になった冬真っ只中の昼下がりの日曜日――――


俺は俺のベッドで爆睡している彼女=詩織を見つめて、どうしたものか…と煩悩と闘っていた。


詩織は予備校を辞めてから、俺の勉強の応援だと毎日俺の家にやってくる。

俺は一緒にいられる毎日を嬉しく思いながらも、度々勉強から逸脱してしまうので、ずっと一緒にいるのも考えものかもしれないと相反する気持ちを抱えていた。


でも、詩織が家に来てくれなくなると来てくれないで何をしてるのか…誰と会ってるのかが気になって気が気じゃないので、これが一番良いのかもしれない…


詩織が俺と一緒にいたいと思ってくれてるんだ

こんなに幸せなことはないだろ…


俺はジンと感動しながら現実から目を背けて、受験対策の問題集を詩織との間に置いて壁にした。


今は詩織に気をとられてる場合じゃねぇ…

東聖の合格ラインギリギリなんだから、一月まで何がなんでも追い込まねぇと…


そうして集中しようとシャーペンを握りしめてノートに向かったとき、俺の耳に「う~ん…。」詩織の呻き声が耳に入り誘惑され、一気に勉強から恋愛モードへ移行する。


あーーーー!!!くっそ!!


俺が集中できないので詩織には起きててもらおうと壁にした問題集をバシンと閉じて、ベッドにいる詩織に目を向けると、詩織はこっちに可愛い寝顔を向けていてドキッとした。

詩織はスースーと規則正しい寝息を立てていて、傍には寝る前まで読んでたらしき本が転がっている。

俺は起きてもらうために声をかけようと近寄るけど、じっと寝顔を眺めてしまう。


無防備だな…

子供みてぇ…


俺が詩織の顔にかかっている髪を払いのけようと詩織の頬に手が触れると、俺の手が詩織の肌の柔らかさに吸い寄せられてそのまま触ってしまった。

寝込みを襲うなんて男として一番やっちゃいけねぇことだろ!!とギリギリまで理性で抑えつけるが、詩織が俺の手に擦りつくように動いてから少し微笑むのが見えて、我慢なんかできなくなった。


俺は健やかに眠る詩織に何度か優しく口付けると、詩織の髪をかき上げて丸い額にもキスした。

詩織は俺がこんなことしてるにも関わらず全く起きる気配がなくて、俺はヒートアップしてしまう。

俺は少し体をベッドに乗り上げると、詩織の首筋を優しく触った後に詩織のシャツの第3ボタンまで開けた。

すると、詩織の柔らかそうな胸が覗いて、そこに顔を埋めて何度も唇で触れた。


やべー…すげぇ癒される…

止まんねぇ…


そろそろやめておけ!!と冷静な俺が警鐘を鳴らすけど、俺はガッチリスイッチが入っていたので手を詩織の服の中に忍ばせた。

でも、さすがにそこで詩織の目が開いて大きく見開かれた瞳に俺の顔が映った。


「………え…?」

「あ………。」


俺はしていたことが見つかったことに、気を逸らしてもらおうと「おはよ。」と半笑いで声をかける。

すると詩織が現状を認識したのか真っ赤な顔で眉を吊り上げるのが見えて、俺は慌てて詩織の口を塞ごうと手を伸ばした。


「なにや――――――ん~~~~っ!?!?!?!」


詩織は俺の予想通り大声で抗議しようとしていたようで、俺の押さえた口の下でくぐもった声を漏らす。

俺は冷静に話をしようと「詩織、落ち着いて。」と声をかけるけど、さすがにやり過ぎたのか怒った詩織にバシバシと叩かれる。


俺は叩かれるのは多少痛かったけど、当然の報いだと思って詩織の気が済むまで叩かれていたら、しばらくするとその手が止んでキッと睨まれる。

俺はムスッと口を閉じているのを確認してから押さえていた手を放すと、詩織に謝った。


「ごめん。詩織の許可もとらずにやり過ぎたって反省してる。」

「……ホントだよ。一瞬何されてるのか分からなくて混乱したんだから。」


詩織はベッドの上に正座した状態で腕を組んで、俺が勝手にボタンを外したせいで胸の谷間がまだ見えていて、俺は謝りながらも目がそこに釘付けになってしまう。


見るな…見たら毒される…

これ以上怒らせたら禁欲生活に逆戻りだぞ…


俺は以前の修行僧のように苦しかった時期を思い返して、自分を律する。


「井坂君。勉強してたんじゃないの?寝ちゃった私も悪いけど、邪魔しないように静かにしてたのに…。」


いや…静かな状況で詩織が寝てたら、それ自体が俺に対して誘惑の塊というか…


俺が心の中で突っ込みながら、少し本音を溢す。


「分かってる…。煩悩に負けた俺が悪かったんだ…。つい詩織に触りたくなっちまって…。ダメだって一時は我慢したんだけどさ…。」


ここで詩織の表情が怒ってたものから、照れてる表情に変わって、俺は事態が好転したことを感じ取った。


「……触りたいって…。それは……ちょっと…嬉しいけど…。でも、今は勉強最優先だよね?気持ちは嬉しいけど……、あ、でも我慢も良くない…のかな…。勉強に集中できないのもな…。」


詩織は一人ブツブツと呟きながら考え込んでしまって、俺はその姿から今は本能に忠実になった方が上手くいくかもしれないと思い、詩織の至近距離に近寄りベッドに上半身を乗り上げながら交渉した。


「詩織、俺、変に気持ち昂っててさ、一回ヤラないと勉強に身が入らねぇかも。なぁ、ダメ?」

「え……。ダメっていうか…、今は勉強を…。」

「だから勉強する気分じゃねぇんだよ~…。詩織。」


俺が上目遣いで詩織に懇願すると、詩織は一瞬言葉に詰まって、困ってるのが見て取れた。

俺はその反応が押せということだと感じ、詩織をベッドに押し倒した。

そしてキスしようと顔を近づけたところで、俺は詩織に押し返されてベッドから転げ落ちた。


「やっぱり今はダメだよ!!勉強しないと!」


詩織は許しそうになってしまった自分に言い聞かせるように「勉強!!」と言い続けていて、俺はゆっくり体を起こしながら失敗したことに、ぶすっとむくれた。


あーあ…、こんなことなら詩織のスイッチも入るまで触り倒しておくんだった…

あそこで詩織の目が覚めなきゃなぁ…


俺が途中中断にイラついて悪い事を考え始めていると、詩織がベッドから下りて俺の目の前で言った。


「井坂君!ご褒美にするよ!」

「へ?」

「その……したい……って言ってくれたの、勉強を頑張ったご褒美にする!!」


詩織は恥ずかしいところだけ小声で言うと、名案だとばかりに目を輝かせる。

俺はご褒美よりも今、満足させてほしい…と詩織の提案にあまり乗り気じゃなかったのだけど、詩織は「今の先生っぽいよね!」とご機嫌になる。


仕方ねぇか…

させてくれないわけではなさそうだし、今は詩織の言う通りにするのがベストだよな


俺は今スグさせてくれた方がやる気出るのにと思いながらも、詩織のご褒美という言い方がどこか意味深で意外にも勉強に集中することができたのだった。







***






それから俺は詩織のご褒美を頭の端に追いやりながら、3時間ぶっ続けで勉強に集中した。

あんなに明るかった外が今は橙色に光り、夕暮れを知らせている。

俺は一区切りついたのでグーッと伸びをすると、本を読んでいた詩織が俺のノートを覗き込んで満足そうに微笑んだ。


「うん。すっごい集中力だったね。かなり勉強進んだんじゃない?」

「おう。ま、俺はいっつも集中さえすれば何時間でも勉強できるけどな。」

「あははっ。そっか。じゃあ、私が来てるのは、やっぱり邪魔ってことだよね。来週から来ない方がいいかな…。」


詩織が真剣に考え込んで、俺はそんなのゴメンだ!と反対した。


「来ない方が集中できねぇから!!」

「え、なんで?」

「詩織が目に入る所にいてくれねぇと、何してるのか気になって勉強どころじゃねぇの!!」


俺が本音をぶっちゃけると詩織が目をパチクリさせてから、ふふっと嬉しそうに笑った。


「そうなんだ。じゃあ、来なきゃダメだね。」

「当然だろ!!」


何を今さら!!と思いながらそう言い切ると、詩織は俺にベタッとくっついてきて「嬉しい。」と呟く。

それが甘えてる猫のようで、俺が詩織の柔らかい感触に癒されていると、突如部屋の扉が豪快に開け放たれた。


「入るわよ~。」


扉を開け放ったのは母さんで、手にお菓子や飲み物ののったお盆を持っている。

詩織はそれに瞬時に反応して俺から離れると、姿勢を正すのが見えた。

俺は邪魔しやがって…と思いながらも、さっさと立ち去ってもらうためにも黙ることにする。


「どう?勉強ははかどってるの?」

「まぁ、ぼちぼち…。」

「詩織ちゃんは?横で見てるだけなんて暇でしょう?」

「あ、いえ。本を読んでるので、大丈夫です。」

「そう?もし暇だったら下に来てくれれば、私が話し相手になるから来てくれてもいいのよ?」


母さんが詩織と話したそうにそう誘導してきて、詩織が困ってるのが見える。

俺は自分のためにもそれは阻止だと会話に突っ込む。


「詩織は行かねぇから。そんなことされたら気になって俺の勉強の邪魔。」

「なによ。拓海から詩織ちゃんとろうって話じゃないのよ?お母さんだって、せっかく来てくれてる詩織ちゃんとお話したいな~って思っただけなんだから!」

「俺のこと応援してるなら、そんなこと思わないでくれよ。詩織は俺と一緒にいるのがいいの!はい、それで終了。」


俺が早く立ち去れ!と思いながら断言すると、母さんは「何よ。ほんっと可愛くないんだから!」とぼやきながら立ち上がる。

そのとき詩織が気を使って母さんを引き留めようと腰を浮かせたのが見えたので、俺は詩織の服の裾を掴んでやめさせた。

詩織は俺と母さんを交互に見て、最終的に俺を優先してくれたのか腰を落ち着ける。


「それじゃお邪魔しました!」


母さんは嫌味のように言うと、ふんっと鼻息荒く部屋から出て行った。

でもそれを見送った詩織が、再度腰を上げて俺に振り返ってくる。


「井坂君!私、ちょっとだけお母さんの所に行ってもいい?」

「は!?」


「だって…、あんなに私と話したいって言ってくれてるのに…。私、井坂君とお母さん天秤にかけちゃった…。話したいって言われて嬉しかったのに…。」


詩織はしゅんとしながら申し訳なさそうに俺のご機嫌伺いをしてくる。

俺は詩織が俺と母さんとの間で板挟みになって困ってるのを感じたので、ここでダメだとは言えなくなる。


「分かったよ…。すぐ戻ってきてくれよな。俺、勉強の続きやってるから。」

「うん!!ありがとう、井坂君!」


詩織は俺の許しが出たことに嬉しそうに微笑むと、急いで部屋を出て行こうとする。

俺はその背に少し寂しさを感じて、慌てて引き留めるように声をかけた。


「詩織!ご褒美!忘れてないよな!?」


詩織は部屋を出る前に俺に振り返ってくると、「忘れてないよ。待ってて。」とだけ言って去ってしまった。

俺は詩織がいなくなったことで部屋の温度が二、三度下がったように感じ、さっきまで詩織がいたベッドに寝転んだ。

こうしていると少しだけ詩織の残り香を感じることが出来る…ような気がする。


はぁ~…

母さんと仲が悪いよりは良い方がいいと思うけど…

仲が良すぎるってのも、なんだか良い気分じゃねぇなぁ…


俺はこのままぼけっとしていると、詩織のことばかり考えてしまいそうだったので、勢いをつけて起き上がると再度机に向かった。


詩織はちゃんと戻ってくると自分に言い聞かせて…


でも詩織は俺の期待を裏切り、時間も遅くなった頃に戻ってきて、結局ご褒美はお預けとなってしまったのだった。


このとき、俺は初めてと言っていいほど詩織に対して怒っていて、しばらく口をきかない日々を送ることになる。














井坂の悶々独り言でした(笑)


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