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理系女子の恋  作者: 流音
199/246

189、気になる…けど

井坂視点です。


「まぁまぁ!!詩織ちゃん!いらっしゃい!!」

「お久しぶりです。」


俺が詩織と離れたくなくて家に連れて帰ってくると、いきなり玄関で母さんに捕まってしまい、詩織は母さんと立ち話を始めてしまった。


「拓海の誕生日以来だから八月以来ね~。詩織ちゃんは受験勉強はどう?順調?」

「はい。私、推薦入試で桐來大に合格したんです。ご報告に来れば良かったですね。」

「あら、そうなの!!知らなかったわ!!拓海ったら何も言わないから!!おめでとう!きっと難しい学校なのよね。詩織ちゃんが受験するぐらいだもの!!よく頑張ったのね~!」


母さんは桐來大のことを何も知らないクセにペラペラと口が止まらなくて、詩織が愛想笑いを浮かべて困ってしまっている。


「拓海はこれから受験だっていうのに、あまり勉強してないみたいで困っちゃうのよね~。詩織ちゃんからもお尻叩いてやってね。きっと詩織ちゃんの一言の方がやる気出すんだから。」

「いえ、井坂君は私が言わなくてもちゃんと勉強してるみたいですよ。今日も井坂君の勉強する姿勢に驚いたぐらいで…。」

「あら、そうなの?」


母さんが詩織の褒め言葉に疑いの眼差しで見てきて、俺は詩織に褒められたことに照れながらも視線を逸らす。


「ふふっ。でも、そんな勉強頑張ってるのも、きっと詩織ちゃんがいてくれるからでしょ?これから先、大学に行っても拓海のこと、よろしくね。」


「………―――――あ、………はい。」


一瞬詩織が返答につまった気がして詩織に目を向けると、詩織が少し苦笑してから俯くのが見えて、俺はその表情の意味を汲み取った。

だから母さんから引き離してフォローしようと思ったのだけど、母さんに急に腕を引っ張られて声をかけられなくなる。


「拓海!!お茶の準備するから、部屋に持って行きなさい。」

「は!?茶とか別にいらない―――」

「いいから!!詩織ちゃんは先に拓海の部屋に行っててね。」


「はい。じゃあ…、お言葉に甘えて…。」


詩織は俺と母さんを交互に見て、何か空気を読んだのか寂しげな笑顔を残して、素直に階段を上がっていった。

俺は母さんに腕を引っ張られながらリビングに引きずり込まれ、ムスッと顔をしかめて掴まれた腕を引き離す。

すると母さんがどこか心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「拓海。詩織ちゃん、急に元気なくなっちゃったけど、私何かいけないこといったかしら?」


俺は母さんがあの一瞬の詩織の表情の変化に気づいたことに若干驚きながら、このまま黙ってるのも余計勘繰られそうだったので説明することにして口を開く。


「母さん、詩織が受かった桐來大がどこにあるか知ってる?」

「??どこって…、関東じゃないの?拓海が東聖受けるんだから…。」


当たり前のように俺と詩織が離れるわけがないと思ってる母さんの言い方に、俺は少し嬉しく感じながらも軽く首を振って訂正した。


「違うよ…。桐來大は関西の大学。詩織は…俺が西皇を受けると思ってたから、桐來大を受験したんだよ。」

「なっ……関西って…、拓海!!なんでそれを先に言わないの!!!!」


母さんは関西だと聞くなり目を吊り上げて怒ってきて、俺の体をバシッと叩いた。


「ちゃんと説明しておいてくれないから、詩織ちゃんに大学でも…なんて、残酷なこと言っちゃったじゃないの!!この、バカ!!」

「そんな怒るなよ…。説明しとかなかったのは悪いと思ってるけど…、言えなかった俺の気持ちも察してくれよ。」


俺がため息をつきながら暗い気持ちになりかけていると、母さんが「詩織ちゃんに謝ってくるわ!」とリビングを飛び出そうとしたので、俺はリビングの出口を塞いで焦ってる母さんを宥める。


「詩織のことは俺に任せておいてくれればいいから。母さんは俺らのことに首突っ込んでこないで。」

「でも、今日のは私が悪いから―――」

「いいから!!俺らだけにしてくれよ。久しぶりに家に来たんだ。邪魔されたくない。」


俺がハッキリ言ってきかせると、母さんは驚いたようだったけど、すぐふっと微笑んで俺に背を向けてしまった。


「分かったわよ。でも、あまり遅くならないように詩織ちゃんを帰らせてあげるのよ?」


母さんはそう言うと手早くお茶の用意をしてくれ、お盆にコップを二つのせて手渡してくる。

俺はそれを受け取ると「サンキュ。」とだけお礼を言ってから、お茶を溢さないように気をつけながらリビングを後にしたのだった。




***





そしてゆっくり階段を上がり一番奥にある自室に入ると、詩織が何か本を開いて眺めていて、俺は詩織の前の丸テーブルに持ってきたお盆を置き、それを覗き込んだ。


「あ、それって中学の。」

「うん。見ちゃダメだった?」


詩織が俺の中学の卒業アルバムを少し閉じてから、上目遣いに窺ってきて、俺は特に見られて困るものでもなかったので、「別にいいよ。」と返した。


「良かった。実は前に来た時にも少し見てたんだけど…、また見たくなっちゃって…。」

「え!?前って…、いつの話!?」

「えっと…、初めて井坂君の家に来た日?」

「そんなに前!?」


俺はこっそりとアルバムを見られていたことに驚きながらも、詩織も俺の中学の時を気にしてたんだと知り、嬉しくなる。

詩織は照れながら「言えば良かったよね…。」と笑みを浮かべていて、俺はそんな詩織に胸がキュンとときめく。


「詩織、俺のアルバム、そんな何回も見たいぐらい面白いんだ?」


俺が詩織の隣に並んで座って尋ねると、詩織はまたアルバムを開いて嬉しそうに言う。


「うん。面白いっていうか…、井坂君の成長が見れるのが楽しくて。」

「俺の成長?」

「うん。この一年生の井坂君はまだ子供って感じで可愛いんだけど、二年生から三年生の間に背がすごく伸びて大人になってて、その子供から大人っていう成長過程がカッコ可愛くて…。直に見られたら良かったのにな~なんて思ったりして…。」


詩織が写真を一枚一枚指さしながら説明してくれて、俺はそれよりも説明してくれる詩織の楽しそうな横顔に見惚れてしまう。

自然と体が詩織に触れたくなって肩がぶつかったところで、詩織が俺の方を向く。


「どの写真も赤井君とか…鹿島君、それにたくさんのお友達と写ってるよね。中には女の子もいるけど…。井坂君、この中で仲の良い女の子とかいなかったの?」

「は!?」


俺は詩織のことで頭がいっぱいだったところに、変な質問がふってきて面食らってしまう。


「だって、タカさんが…中学の時…井坂君とタカさんの友達が仲良かったって言ってたから…。」

「八牧の友達って…。は…??誰のこと?」


俺はそこまで女子と仲良くしてた覚えもなくて、八牧の勘違いじゃないかと思った。

でも詩織は真剣な目で考え込んで名前を思い出そうとしているのか、急にペラペラとアルバムを捲り出す。

だけど途中で「そういえば転校したって言ってたっけ…。」と呟いて顔をしかめてしまう。


俺は転校したと聞き一人の女子の顔が思い浮かんで、その子の名前を口にした。


「まさか井筒のこと言ってんのか?」

「そう!!井筒さんだった!!井筒…、確か…真美さん!!」


俺は中学三年のときクラスが一緒になり、席が前後だった井筒のことを思い出した。

確かあのときハマってた漫画の話で盛り上がった記憶がある。

アニメ化もされた漫画だからお互いに感想を言い合ってただけだ。

特別親しかったわけでもないし、別段他の女子と接し方を変えたわけでもない。


井筒と俺が仲良かった認定されるなら、中学の女子ほとんどがそうだろう。


「えっとさ…、俺とその…井筒は席が前後で話してただけで、そこまで仲良しではないと思うんだけど…。」

「仲良しじゃないって…、でも井筒さんは……。」


詩織はそこで意味深に言葉を切ってしまうと、パタンとアルバムを閉じてじっとそれを見つめたまま言った。


「井坂君…。その…、井筒さんのこと…に限らずなんだけど…。少しでも仲良くしたいなって思う女の子いなかったの?」

「え……。」


詩織が何を聞きたいのかそんなことを言って、俺はそんな女子皆無だっただけに一瞬言葉に詰まったけど「いるわけねーよ。」と正直に答えた。

すると詩織が大きく息を吸いこんでから、アルバムを抱え込んで真剣な目で訊いてきた。


「もし、大学で…気の合う…それこそ仲良くなれる女の子がいたら…、井坂君……カンナさんみたいに…仲良く…するよね?」


……カンナみたいに…??


俺はもはや女子ではなく、ただの妹みたいなカンナを思い返して、カンナのような奴に出会える気がしなかっただけに、う~ん…と唸りながら返答に困った。


ハッキリ言うと、詩織以外の女子と仲良くするメリットが分かんねぇんだけど…

これそのまま言っていいのか…?


俺はこんなことが聞きたいのだろうか…と思い、詩織をチラ見すると、詩織はアルバムを抱え込んだまま俯いてしまっていて髪の毛で表情が見えない。


「ごめん。変なこと聞いちゃった…。井坂君が…誰と仲良くなろうと…私が口出すことじゃないのに…。」


詩織は「ごめんね!」と言うと、閉じたアルバムを俺に返してくる。

俺はそれを受け取りながら、詩織が大学に進学した先のことに不安を感じてるのでは…と察して、詩織に告げた。


「詩織!俺、大輝君と一緒だから!!」

「え?」


俺は大輝君と赤井の三人で話したときのことを思い返して、詩織にはこの方が伝わりやすいだろうと続ける。


「俺、大輝君と同じでハッキリ言って女子ってものに興味ないんだ。」

「え……。」


詩織が俺の告白に何か誤解したのか、若干引いてるような気がするけど、詩織の不安を取り除きたい一心で思う事を口にする。


「中学のとき、女子っていっても男友達と大して差は感じなかったし…。カンナなんか、はっきり言って小学校のチビで泣き虫なイメージがこびりついてて、手のかかる妹的な感じだから、女子と仲良くってのとはかけ離れてて…。それに、大学でたとえ気の合う女子がいたとしても、詩織とは違うだろ?」


「え…?」


「詩織は俺の彼女だろ。そもそも俺の根本の気持ちが違うよ。」


俺は少し照れくさくなりながらハッキリ告げた。


この気持ちは紛れもない俺の本心だ

その他の女子と詩織は俺の根本から違う


出会った瞬間から詩織は俺の中でずっと特別なんだ


それはたとえ大学で離れてしまっても変わることはない

これはハッキリと俺の中で言い切れる


俺がちゃんと気持ちを口にしたことで、詩織にもそれが伝わったのか、詩織は耳まで真っ赤になりながら「うん。」と頷いて嬉しそうに表情を和らげる。


俺は詩織のその表情が見れただけで満足で、また詩織に近寄りギュッと後ろから抱きしめた。

こうしていると詩織の温もりと花のような甘い匂いに癒されて、すごく安心する。

それに何より詩織の横顔がすぐ真横に見えるので、詩織の照れた顔を見るのがすごく楽しい。


は~…、やっぱ家に来てもらって正解だった…

この感じ、すっげー久々な気がする…


俺は詩織の白い首筋に目がいって、自然とそこへ唇を落とすと詩織が俺の腕をグッと抱え寄せてきて、腕に詩織の胸の感触が伝わり、変な気持ちがグワッと湧き上がってきてしまう。


いやいや…下に母さんいるしな…

さすがにこの状況じゃ詩織も嫌がるだろ…


俺がなんとか理性で我慢しようと試みていると、詩織がモゾモゾと動いて俺の方へ向き合ってきた。

詩織は少し照れてる顔でじっと俺の顔を見つめると、軽く触れるだけのキスをしてきて、俺は何だ?と目を丸くして詩織を見つめた。


「嬉しい言葉のお返し。井坂君、大好き。」


詩織は照れ笑いして顔を幸せそうに緩めていて、俺はその顔に理性が負けそうになり寸でのところでグッと堪えた。

でも、この二人っきりという状況と詩織の笑顔が俺を昂らせ続け、つい口から欲望が飛び出す。


「詩織…、我慢しようと思ったけど…、無理かも…。」

「え…?」

「……ダメなら今すぐ俺を殴って。」


俺は詩織に全部委ねようとそう言うと、詩織は大きく瞳を見開いてから、みるみる真っ赤になってしまった。

だから俺は殴られるのを覚悟したのだけど、詩織の反応は正反対で俺の顔を両手で包み込んでくると、「ダメじゃないよ?」と恥ずかしそうに言った。


俺はその言葉に我慢の箍が外れ、目の前の詩織に噛みつくように口付けた。

詩織はそれに一瞬ビクついたけど、俺の頬に触れてる手から詩織が受け入れてくれていると感じ、攻めの手は止めなかった。


そして、俺は実に夏休みぶりに詩織に触れることができ、長い間の禁欲生活から抜け出すことができたのだった。





***





それから俺がほくほくと達成感に溢れて脱ぎ散らした制服から部屋着に着替えていると、素早く着替えを終えた詩織が後ろから服を引っ張ってきて、俺はパーカーのチャックを閉めながら振り返った。

詩織は少し髪が乱れていて、寝起きのような姿にキュンとしてしまったが、何か言いたげな表情に俺はポーカーフェイスを気取る。


「井坂君…。もうちょっとだけ…ギュッてして?」


ぐふっ!!


俺は詩織のおねだりに胸に鈍い衝撃が襲ってきて、また押し倒したくなったけど、なんとか気持ちを抑えつけると、詩織の乱れた髪を直しながらその場に座らせた。


「いいよ。そんなのお安い御用。」


俺は詩織の前でカッコつけて、嬉しいのを表情に出さないよう気をつけながら詩織を優しく抱き締める。

すると詩織が俺以上の力で抱きしめ返してきて、俺は詩織の不安が拭されてないのかもしれないと感じ、詩織の背を優しく撫でた。


「私…、井坂君の匂い好き。」

「マジ?」

「うん。すっごく安心する。」


詩織も自分と同じことを思ってたんだと知り、俺は顔がゆっるゆるに緩む。

きっと傍から見たら気持ち悪い顔をしてるに違いない。


「俺も。詩織の匂い好きだよ。」

「ほんと?臭くない?」

「まさか!!」


俺が笑いながら否定すると、詩織も小さく笑い出す。

でも途中から笑い声が消えて鼻をすする音が混じり、俺はそれに驚いて力を緩めて詩織の様子を見つめた。

詩織は俺の胸に顔を埋めているので表情が見えなかったけど、少し震えていて泣いてるのが分かる。


俺は急に泣き出される理由が分からなくて、どうしようかと困っていると、詩織がギュッと俺の服を掴んで小声で呟いた。


「ごめん…。幸せ過ぎて…泣けてきちゃって…。すぐ止まるから…。」


幸せ過ぎて…??


俺はそんな好意的な理由で涙が出るか?と疑ったけど、詩織は涙を浮かべながらも微笑んでいるのがちらっと見えて、俺は追究できない。


詩織は「幸せ使い切っちゃわないといいなぁ…。」と呟いて、俺は気になるけど詩織を困らせたくなかったので、その言葉を信じる事にした。



大丈夫…

詩織の不安が全部帳消しになるぐらい、幸せな毎日をあげればいい


今の言葉を本物に変えればいいんだ



俺は詩織の強がりだろう言葉を真摯に受け止めて、詩織を抱きしめながらそう心に決めたのだった。








イチャイチャぶりが続きます。

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