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理系女子の恋  作者: 流音
197/246

番外5:寺崎僚介という人間

寺崎僚介の親友、空井慶太視点です。



「なぁ、あれって僚介じゃねぇの?」

「あ?」


俺、空井慶太と中学からのダチで同じ鴨沂川高に通う来居玲が、いつものように駅前のファミレスでだべっていると、中学のときの俺らのリーダーで今もよく遊ぶ寺崎僚介を道の向こうに発見した。


「本当だ。何やってるんだろう?」


俺は玲の視線の先に目を向けて、背もたれに預けていた背を起こした。

どうやら予備校の前で誰かと話しているらしく、僚介が笑っているのが見える。


相変わらず笑顔を振りまいて、ファンを増やしてるのかね~?


俺は中学のときからのあいつのクセを思い返して、目を細めた。

すると、ふと僚介と話している人物に目がいって、その人物を認識するなり息が止まった。


「あれ、谷地さんじゃね?」


玲も同じことに気づいたらしく、窓の外にいる二人を指さして驚いている。


「なぁ、なんで谷地さんと僚介が一緒にいるわけ?」

「…………そりゃあ…、前仲直りしたから…?」

「仲直りって…、まぁ…確かに同窓会の時にわだかまりなくなったっぽかったけど…。あの僚介だぞ?」


俺は玲の言葉を聞いて、今まで付き合ってきた僚介の女癖の悪さを思い浮かべる。




『女なんて本気になるだけ無駄だろ?』


モテにモテた中学時代、僚介は不敵な笑みを浮かべてそう言っていた。

あいつは自分に気のありそうな女子を見ると、期待させるような言葉をかけたり特別扱いして本気にさせる。

そして告ってきたら、やることやった後、後腐れなく綺麗に別れる―――というのを繰り返してきた。

それも誰にも悪いイメージがつかないように巧妙に…



ただ、たった一人の例外を除いて―――――



中学一年の冬、僚介は谷地さんに告られた。

俺も玲もてっきりいつもの流れになると思ってた。


でも、告られて教室に戻ってきた僚介は『断った。』と一言いうと、俺たちに口裏を合わせるよう願い出てきた。


『俺が女子に良い顔するのは恋愛ゲーム。詩織の告白を断ったのも、その一つだってことにしといてくれよ。』


俺は何を今さら…と思いながら、谷地さんの告白だけを断ったというのだけが引っかかった。

今まで来るもの拒まずだったのに、どういう心境の変化かと。


でも次の日以降のクラスの騒ぎ具合と、谷地さんと仲の良い幼馴染らしい瀬川の怒り具合を目にして、断ったことはコレを見越してだったのかと思った。


色恋に敏感なクラスのメンバーは谷地さんが僚介に告ったと知り、口々に不釣合いだと谷地さんの陰口を叩き始めた。

特に僚介に想いを寄せる女子の反応はひどいもので、度々谷地さんに向かって「身の程を知れ」という類の悪口を呟いているのを目にした。

傍から見ていたら谷地さんは登校拒否になるんじゃないかと思ったぐらいだったけど、そこは彼女と仲の良い木崎那々子が睨みを利かせ度々フォローしていた。

瀬川もその一人だったようで、俺たちが谷地さんの告白を断った僚介に恋愛ゲームの真意を聞いているところで、瀬川が怒鳴りこんできた。


瀬川は涙目になりながら『なんでそんなことができる!?』と繰り返して、僚介にそんなことするなと訴えてきた。

でも僚介は『俺の勝手だろ。』と恋愛ゲームの良さをどこか大げさに言っていた。

俺はそこで僚介が谷地さんの告白に関してだけは、自分が悪者になろうとしているんじゃないかと気づいた。


今まで絶対に自分が損をしないように女子と付き合ってきた僚介が、谷地さんのことだけは全部自分が彼女を弄んだと…そうアピールしているように……見えた。


告白を断らずいつものように短い期間でも付き合えば、こんなに彼女の周囲を怒らせることにはならなかっただろう…

まぁ、付き合ったら付き合ったで、不釣合いカップルだと谷地さんの風当たりは今以上に強いものになってたかもしれないけど…


それは彼女が痛い目を見るだけで僚介に飛び火することはない。


それなのに、僚介は自分も痛みを共有する道を選んだ。


これは僚介のことをよく知る俺と玲にとったら、僚介に何が起きたかと思うほどの衝撃だった。

でも、その後の僚介は今まで通りで、谷地さんの件がなかったかのようだった。

告られれば付き合い、最終的には自分が悪者にならないよう綺麗に別れる。


俺は次第にあのときの僚介は幻だったような気がしていて、高2の冬、彼女に再会するまですっかり忘れていた。



「まさかとは思うけどさ、僚介、谷地さんのことマジなのかな?」


玲がじっと窓の外を見つめて尋ねてきて、俺は同じように二人に目を向けて考え込んだ。


今、予備校の前で話す僚介は今までの僚介と同じに見える…

でも、相手が一度告白を断った谷地さんだ。


僚介は一度手をつけた女子とはもう二度と関わらない。

これは今まで僚介を見てきて気づいた事だ。


きっと別れ際にそういう別れ方をしたんだと思う。

後腐れなく今後も女遊びを続けられるように…


その僚介が中一のときに振った相手と仲睦まじくつるんでるなんて、どうにも信じがたい…

玲が言うのも納得だ。


「……僚介がマジになるわけねぇだろ。あんだけ女に振り回されるのはゴメンだって言ってた奴だぞ?」

「…でもさ、この前、梨衣菜が僚介が大浦川高の文化祭行ったみたいだって言ってたけど…。」

「は!?大浦川高の文化祭って何の用で!?」


俺はどれだけ誘っても俺らの文化祭を見に来なかった僚介を知っているので、俺ら以上の知り合いなんかいない大浦川高へ行く意味が分からなかった。


「知らねぇよ!俺だって僚介に聞きてぇぐらいなのに…。大浦川高っつったら谷地さんかな…って今ふと思っただけだよ!」

「は…??」


谷地さんに会いにあの僚介が他校に足を運ぶって?

マジで??


俺は自分の知る僚介の姿が歪んでいくようで、頭を手で押さえた。

玲も混乱しているのか窓の外を指さすと言う。


「現に僚介のあの顔見ろよ!谷地さんと話して、なんかすげー嬉しそうじゃん!!」


玲に言われて僚介たちに目を戻す。

僚介は玲の言うように良い笑顔で谷地さんと話をしていて、その目がどこか嬉しさを帯びているように感じた。


………僚介…、あいつどーしちまったんだってんだ…?


俺はこうして悶々と考えていても拉致があかないと思い、ケータイを取り出すと窓の外を見たまま僚介にかけた。

僚介は着信に気づいたのか制服のポケットからケータイを取り出すと、谷地さんに一声かけてから電話に出るのが見えた。


『もしもし、慶太?何か用か?』


電話に出た僚介の声はいたって普通で、俺はここに呼び寄せそうと口を開く。


「僚介。俺、今玲と駅前のファミレスにいてさ。お前の姿が見えてんだよね。ちょっと時間あるならこっち来ねぇ?」

『ファミレス?』


僚介はそう言うとキョロキョロして、ビルの二階に位置するこのファミレスを見つけ、俺らの姿を探してるのが見て取れたので手を振ってやった。


『あ、見つけた。何?いつからそこにいんの?』

「ん?学校終わってからずっとだけど。」

『マジ!?お前ら勉強しなくていいのかよ~?』

「うっせーな。俺らは普通に地元の大学入れればいいんだよ。それより来んのか来ねぇのか!?」

『あー……。』


僚介はここで言葉を切ると、谷地さんと何かを話しているのが小さく雑音で聞こえてくる。

窓の外では僚介から何か言われた谷地さんが激しく首を振ったあと、帰ろうと足を僚介と逆に向けているのが見える。

でも僚介が何か訴えて、谷地さんは帰ろうとしかけた足を戻し、軽く頷いた。

その直後ケータイから僚介の声が聞こえる。


『悪い。少し待っててもらえるか?』

「うん?」

『そこから詩織が一緒にいるの見えるだろ?』

「あぁ。」

『もう暗いからさ、詩織を途中まで送ってから戻ってくるから。』


谷地さんを送り届ける?……マジで?


「…………んあぁ…。分かった。玲と待ってるよ。」

『助かる。10分ぐらいで戻れるようにするから。ごめんな。』


俺はまさかの振った相手にまた気を持たせるようなことをする僚介にザワと胸が騒ぎ、自分の知る僚介の姿がまたゆらいだ。

僚介はそんな俺の気も知らず、さっさと電話を切って谷地さんと二人並んで歩いて行くのが見える。


「何?僚介、谷地さんと歩いてったけど、どうしたわけ?」


玲が窓の外を見て顔をしかめて尋ねてきて、俺はとりあえず「谷地さんを送るって。」とだけ伝えた。

すると玲が大きく目を見開き、「マジかよ。」と俺と同じような反応を見せたのだった。







***






それから10分で戻ると言っていた僚介は、言ってたよりも5分程遅れてファミレスに息を荒げてやってきた。


「悪い。遅くなった。」


俺と玲はとりあえず「よ。」と言うと、座る場所を勧める。

僚介は制服のネクタイを緩めると、玲の隣に座りふーっと大きくため息をつく。


「お前らと会うの夏休み以来だな。二学期に入ってもこうして遊んでられるなんて羨ましいよ。」

「俺らだって毎日こうして遊んでるわけじゃねぇよ。」

「そうだよ。地元の大学っつっても勉強しねーと入れねぇからな。」

「はははっ!まぁ、普通はそうだよな!」


僚介は通りがかった店員さんに「水ください。」と言うと、俺らに目を向けて言った。


「で?俺をここに呼び出したのには何か理由があんだろ?」


僚介は俺らの考えてる事が全部分かってるみたいな目をしていて、俺と玲は顔を見合わせながらどう切り出そうかと迷った。


口の上手い僚介のことだからストレートに聞いてもはぐらかされるに決まってる


俺が言い迷っていると先に玲の奴が口を開いた。


「僚介、さっき一緒にいたの谷地さんだよな?」

「んあ?そうだけど。それがどうしたんだよ?」


玲が軽くジャブから入ったのを見て、俺は口を出すのをやめておこうと様子を見守る。


「中学のときのわだかまりが解消したのは知ってるけどさ、僚介が彼女でもねぇ奴と一緒にいるの珍しいなぁと思ってさ。」

「なんだ、そんなことか。ただ予備校が一緒で話す機会が増えたってだけの関係だけど。俺と詩織のツーショットがそんなに珍しいのかね?」

「別に珍しいとかじゃ…。」


玲が僚介に言い負けそうになるのを察すると、俺は横から助け舟を出した。


「俺も玲も相手が谷地さんだったからちょっと驚いたんだよ。どうせ、お前今も相手途切れずに彼女いんだろ?」

「いや、ここ一年ぐらいはいねぇけど。」


「「えぇ!?!?!」」


あの僚介に一年も彼女がいないと知り、俺も玲も驚いて目を剥いた。

ちょうど水を持ってきた店員さんが俺たちの声にビクッと体を揺らして、怪訝な顔をしながら水を置いて足早に立ち去って行く。

僚介は「そんな驚くことか?」と笑いながら口に水を含む。


「だ、だって…お前、今まで彼女途切れたことねぇじゃん?」

「そうだよ。女子からの人気なくなったってわけでもねぇんだろ?今も痛いぐらい女子の視線がお前に向いてんの分かるぐらいだし…。」


玲がファミレスにいる女子高生の軍団にちらっと目を向けて言って、俺は玲と同じように僚介がやって来た瞬間からその視線に気づいていたのでうんうんと頷いた。

当の僚介は水の入ったグラスを置くと、少し微笑んでから悟ったように口を開く。


「まぁ、それは否定しないけど。彼女作ってねぇのは単純に面倒になったからだよ。」

「面倒って?」

「だってさ、女ってキスするにもHするにもデートしたりして、ムード作って盛り上げてやんなきゃのってこねぇじゃん?向こうから誘ってくる積極的な女は除いてだけど。京清ってガリ勉が多いからか、そういう女少なくてさ。分かるだろ?」

「あー……要は手軽な女がいねぇってことか?」

「そういうこと。そういう意味ではお前らの学校は多そうでいいよな。」


僚介はそこまで言うと「何か頼むか。」とメニューを開く。


俺は今聞いた僚介の説明にどこか納得できない自分がいて、自分の知る僚介との違いに違和感でいっぱいになる。


僚介のスペックだったら、自分の高校の女子に拘らなくても他校の女子でも余裕で釣れるはずだ。

それこそ目が合った瞬間に微笑みかけるだけで、向こうから告ってくるレベル。

それなのに…どう考えてもおかしい。


俺は僚介が絶対何かを誤魔化そうとしていると思い、テーブルから身をのりだすと追求した。


「僚介。彼女作らねぇのと谷地さんのこと、何か関係あるのか?」


僚介は俺の問いにメニューから目を外すと、眉をひそめた。


「まだそんなこと言ってるのかよ。詩織とは予備校仲間だっつっただろ。」

「でも大浦川高の文化祭行ったんだろ?」


横から玲が気になっていたことを尋ねて、僚介の眉間の皺が深くなるのが見えた。


「俺が地元の高校の文化祭見に行くのの何が悪い?」

「だって、俺らの文化祭には何度誘っても来なかったクセにおかしいだろ!?」

「お前らのは日程が悪いんだよ。俺の高校の中間試験真っ只中だぞ。行けるかっての!」


「じゃ…じゃあ、それは置いといて、なんで大浦川高なんだよ!!お前と仲の良い中学メンバーなんか一人も行ってねぇじゃんか!!」

「俺の高校には文化祭がねぇから興味本位で見に行っただけだよ!何を勘ぐってんだよお前らは!」


「勘繰りたくもなるよ!!大浦川高行ったのも、谷地さんがいるからじゃねぇのかよ!?」


俺がいつまでも表向きな答えしか出さない僚介にイラついて核心を突くと、僚介はバンッとメニューを机に置いた。


「お前ら、そんなに俺と詩織ってのが気に入らねぇのか?俺がそこまで詩織に関わったらおかしいかよ!?」

「だ、だってさ、お前谷地さんに関わるとおかしいんだよ!!上手く説明できないけど…、なんか僚介らしくねぇっていうか…。」


「そうだよ。僚介…やっぱり谷地さんのこと好きなんじゃねぇの?」


玲が怒ってる僚介をじっと見つめながら訊くと、僚介はガシガシと頭を掻いてからはーっと大きくため息をついて言った。


「そんなわけねぇだろ?詩織には彼氏いんだからさ。」


「は!?え!?谷地さん、前彼氏と別れたって…。」

「え!?谷地さん、彼氏いんの!?」


僚介からの情報に俺と玲がビックリしていると、僚介が「別れたって何の話だよ?」と尋ねてきた。


「いや、ベルリシュのライブで谷地さんに会ったとき、谷地さん、彼氏と別れたって言ってたからさ。」

「あれ?そうだっけ?」

「そうだよ。俺、谷地さんにも彼氏ができてたんだって驚いたからよく覚えてる。」

「あー、そういえば梨衣菜が同情して泣いてたっけなぁ…。」


玲も思い出したのか目を細めて空を見つめる。

僚介はというと顎を手で掴んでじっと考え込んだあと、グラスに手を伸ばして水を一気に飲んだ。

そして立ち上がり、鞄を手に俺たちを見下ろしてくる。


「お前らが詩織のことを気にしてるってのはよく分かったけど、変に勘繰るのだけはやめてくれ。俺にも詩織にも全くその気はねぇんだから。俺が彼女作らねぇのは面倒だからってのと受験生だってことの二つ。聞きたい事はそれでいいんだろ?」


「まぁ…。」


「じゃ、そういうことで。また暇だったら飯くらいは付き合ってやるよ。じゃーな。」


僚介はヒラヒラと手を振って足早にファミレスを出て行く。

それに合わせて入り口付近にいた女子高生軍団が慌ててお会計して、ファミレスを飛び出して行った。


さすが僚介…


「なんか微妙に納得いかねぇ。」


玲が目の前でムスッとしながら言って、俺もさっきの僚介を思い返して同意だったので頷いた。


「だな。本心か嘘かは分からねぇけど。僚介、どこか変だもんな。」

「あんな僚介、気持ちわりぃよ。なんであそこまで谷地さんのこと守ろうとするわけ?」


「………それだけ特別ってことかな…。」


俺はふとそう思って小声で呟くと玲が「何か言ったか?」と目を向けてきて、俺は「何でもねぇよ。」と返した。



まだまだ憶測にしか過ぎねぇもんな…

僚介が谷地さんに本気かもなんてな…



俺はふっと短く息を吐くと、僚介がいつか話してくれるだろうか…と目を瞑った。














寺崎の人間性を少し明かしました。

彼がどういう行動をとるのか、見守ってやってください。

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