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理系女子の恋  作者: 流音
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187、彼の本意


私は井坂君がどこか悩んでいるような顔をしていたので、今日はバラバラで帰った方がいいと察して、一人予備校に向かっていた。


きっと井坂君のことだから、私の事を考えて進路に迷いが出てきてる…

じゃなきゃあんな心ここに非ずって顔をするわけがない。


私は今日一日中ぼけっとしていた井坂君を思い返して、少し気持ちが沈んだ。


もし私とのことを考えて東聖を受けない…なんて言い出されたら…

私はどう反応すればいいのだろう?


きっと…ううん、絶対…嬉しいって思ってしまう…

でも、そう思う自分のことを死ぬほど嫌になるに決まってる


私は井坂君にどういう選択をしてほしいのか分からなくなってきて、眉間に皺を寄せる。


井坂君が関西の大学を受験してくれたら、嬉しい…

でもそうなったら、井坂君が一番望む大学に入れなくしてしまった自分がすごく嫌になる


だからといってあっさり東聖に行かれたら…

寂しくて…考えるだけで涙が出てきそうだ…


私はグルグルと堂々巡りなことを考えていつの間にか予備校までやって来ていて、私は一旦考えるのを保留して、事務局の窓口で退会手続きをすることにした。


第一志望だった桐來大には受かってしまったので、もう予備校に来る理由がない。

私は受付の人から手続き上、今月いっぱいは在籍になると説明されて、それで構わなかったので「お願いします。」と退会の書類に親から借りた印鑑を押した。

そして今月は在籍なので授業に出ても出なくても、どちらでも良いと言われたのだけど、私は根っからのガリ勉魂が疼き、今月いっぱいは予備校に通うことを決めた。


料金を払ってるっていうのもあるので、受けられるなら最後まで全うしよう。


私は手続きを終わらせると、いつも講義を受けている教室へ向かおうと振り返ったところで、寺崎君と目が合ってビックリして動きが止まる。


寺崎君は私が事務局で手続きをしていることに疑問を感じたのか、早足で駆け寄ってくるなり尋ねてきた。


「詩織。予備校、やめるのか?」

「えと…、うん…。推薦で大学受かったから…。」


「マジ!?」


寺崎君はキラッと目を輝かせると、私の肩を掴んで「やったな!!おめでとう!」と自分のことのように喜んで揺らしてくる。

私は目の前の視界が揺さぶられ寺崎君の姿が歪んでいたけど、とりあえず「ありがとう。」と返す。


「さすが詩織だな~!推薦であっさり桐來大なんてさ!!詩織に先行かれちまったなぁ~。」

「あはは…。なんだか色々複雑なんだけどね…。」


私は本音がポロッと出ながらも、変に思われないように足を教室へ向ける。

すると寺崎君が横に並んで同じように教室に向かいながら、質問してくる。


「なんで複雑なんだよ?すげーことじゃん!だって桐來だぞ!?もっと喜べって!」

「うー…ん…。そうだね~。すごく嬉しいよ。」


私はあまり複雑な心境に突っ込んで欲しくなくて、適当に返した。

でもそれが寺崎君には気に入らなかったらしく、ガッと横から腕を掴まれると引き寄せられ目を剥いた。


「詩織。なんか前からすげー壁感じるんだけど。何?俺、なんかしたか?」

「え…?」


私はここでそういえば以前より距離を空けていたことを思い出して、どう説明したものかと目を泳がした。


「えぇっと…、特に…その寺崎君が悪いわけじゃなくて―――」

「それ!!なんで急に名前から名字呼びに変わったわけ!?俺、その呼び方イヤなんだけど!!」

「え…イヤって…。でも…これは…。」


私は友達だという距離間を示すためにやっていただけに、真っ向から嫌だと言われると困ってしまう。


「俺、自分の名前で呼ばれるのが好きなんだよ!それなのに名字で呼ばれたら、お前とは他人だって言われてるみたいで傷つく!」

「傷つく!?え!?私、そんなつもりじゃ…。」


私はそこまで言われると、自分が悪い事をしている気持ちになってしまい、ナナコとの約束を一旦取り下げることにした。


「ごめん!友達なのにひどいことしちゃった…。そこまで名前で呼ばれたいなんて思わなくて…。ごめんね、僚介君。」


私が以前のように名前で呼ぶと、僚介君はほっとしたように笑ってくれて、私も安心する。


「うん。やっぱり詩織はそうじゃないとな。寺崎君って呼ばれる度に気持ち悪かったんだ。」

「そうだったんだ…。そうとは知らず、本当にごめん…。」

「もういいよ。それより、なんで急に名字で呼ぶようになったわけ?理由は?」


僚介君に当然聞かれるだろうことを言われ、私はここで嘘を言うのも心苦しかったので正直に打ち明けた。


「うん…。実はナナコに僚介君と馴れ馴れしいって怒られちゃって…。」

「ナナコって…木崎さん?」

「うん。文化祭で、私、僚介君と二人で皆の前から消えちゃったでしょ?それがやっぱり彼氏がいる身分でよくないって…。あ、僚介君は友達だから、深い意味とかなく私を連れてったのは分かってるんだよ?でも、井坂君を心配させたのは事実だったから…。」


私が僚介君の表情を見ながら説明すると、僚介君は少し目を細めてから笑みを浮かべる。


「そっか。俺、考えなしで悪い事しちまったな。詩織の言うように深い意味はないんだけどさ。ただ、高校で文化祭ってものを一回も体験したことなかったから、ちょっと舞い上がって詩織を連れ出しちまったんだ。中学の時みたいな、あのワイワイした騒がしい感じを楽しみたかったんだと思う…。」

「あ、そういえば京清は文化祭も体育祭もないんだっけ?」

「うん。全部勉学が優先だからさ。妨げになるようなイベントは全くなし。だから、少しの時間だったけど、詩織と走って回れてすげー楽しかった。」


私はあの行動にそんな意味があったとは知らず、僚介君を悪者にしてしまっていたことに申し訳なくなった。


私だってずっと勉強ばっかりしてたら、きっと息抜きしたくなる

あれはそういうもので、ナナコたちが言うような気持ちは僚介君には一切ない

勝手に深読みして距離を空けて、一方的に僚介君を傷つけるなんて…

私はなんて高慢な女なんだろう!


私は何かお詫びをしたい気分になって、掴まれている腕に自分の手をのせると僚介君に再度謝った。


「ごめんね、僚介君。ナナコの勘違いだったよ。またワイワイ騒ぎたくなったりしたら、いつでもウチの高校に遊びに来てくれていいから!私は受験が終わって時間もあるし!」

「ははっ!じゃあ、いつかその言葉に甘えさせてもらおうかな。」


僚介君が嬉しそうに笑いながら腕を掴んでいた手を放して、今度は手を握ってきて、私はそれにビックリしたけど、友情回復ってことかと思い笑顔を返した。


すると背後から「谷地さん!!」と大声で呼ばれて、慌てて振り返るとどこか焦った顔をした長澤君が駆け寄ってきて、僚介君と繋いでた手を引きはがされた。


「長澤君…。どうしたの?」


私はいつも冷静な長澤君が少し乱れてる気がして、いつもとのギャップに戸惑いながら尋ねた。

長澤君はちらっと僚介君を見てから「こっち来て。」とだけ言って、来た道を戻って行く。

私はそれを追いかけないとと思い、とりあえず僚介君に「また後で。」とだけ言うと長澤君を追いかけた。


長澤君は入り口のロビーまで戻ってくると、突如足を止めて振り返ってきた。


「あいつ、どういう関係?」

「え…、あいつって…僚介君のこと?」

「決まってるでしょ。」


長澤君はなんだか怒っているようで、私はどこで怒らせてしまったのか考えながら説明する。


「僚介君は中学の同級生なんだ。私と似たような進路の悩み持ってたところから仲良くなって…、今は友達かな?」

「友達が手を繋いだりするの?」

「え…。」


私はさっきのことを切り込まれて、あれには確かに私もビックリしたので首を傾げながら思うことを口にした。


「たぶん…、仲直りの握手的な…感じだと思うんだけど…。」

「俺にはそうは見えなかったけど。」


「……そうは見えなかったって…?」


長澤君は食い気味に私に意見してきて、私は目上の人に怒られている気分になる。

長澤君は少し顔を歪めると、呆れたような目で驚くことを口にした。


「俺には付き合ってるカップルに見えた。」

「―――――へ!?か、カップル!?」


私は思ってもみないことを言われて、心臓がギュッと縮み上がる。


「うん。どうみてもあいつには好意があるようにしか見えない。」


好意!?それって好きってこと!?


「そ、そんなわけないよ!!私、井坂君が大好きだし!!!」


私はこの気持ちに嘘偽りはない!!と思って人が通ってるのにも構わず宣言した。

けれど長澤君はじとっとした目で私を見据えると、はぁとため息をついてから言った。


「そんなこと知ってるから。そうじゃなくて、あいつに谷地さんに対しての好意があるって言ったんだよ。」

「へ!?」


私はそれこそあり得ない事を言われて、ビックリし過ぎて変に声が上擦る。


「それこそないから!!私、中学のときに僚介君にはキッパリフラれてるんだから!!」

「え…?フラれてる…??」


今度は長澤君が驚く番で、私の暴露に目を大きく見開いている。


「私、中学の時、僚介君が好きだったの。長澤君も見たから分かるでしょ?僚介君って、昔から本当にオーラが違うっていうか…。すごくモテるんだよね…。そんな人に私が相手にされるわけもなくて、こっぴどくフラれてるの。だから、今更恋愛云々なんてあり得ないよ。」


私がそう説明すると、長澤君は暴露話にショックでも受けているのか「そうだったんだ…。」とだけ言うと固まっている。


別に隠してたわけじゃないけど、ここまで驚かれるなんてなぁ…


私は納得できてもらえただろうと思うと、固まったまま何か考え込んでいる長澤君を置いて、教室に戻ろうと長澤君に背を向けた。

すると、長澤君が私の前に走ってくると真剣な顔で言った。


「と、友達なら…、ああいうことはしない方がいいと思う。」

「…ああいうことって…手を繋いだこと?」


長澤君は大きく頷くと、私に何か訴えようとしているのか息を吸いこんだ。


「谷地さんが友達だっていうなら…、あいつは友達なのかもしれない。だったら、彼氏と友達の境目はきっちりつけた方がいいよ。井坂君…、きっと心配するから…。」


井坂君が…心配する…


私は長澤君からの指摘に確かにそうだと思うと、彼に笑顔を向けて頷いた。


「そうだね。ありがとう、長澤君。気を付けるよ。」


長澤君はここで少しほっとした表情を浮かべて、私は本当に色んな人に心配をかけてるな…と落ち込んだ。


私…やっぱり、僚介君に対して何か普通の友達と違う接し方をしてるのかもしれないなぁ…

それがどういう面なのか、自分ではよく分からないけど…

少しよく考えて行動しなきゃダメかな…


私は僚介君との距離間にむむむ…と頭を悩ませながら授業を受ける羽目になってしまい、ほとんど頭に入ってこなかったのだった。






***






そうして私が予備校の授業を終え、予備校から出て大きくため息をついていると、後ろから悩みの元である僚介君が走ってやってきて、私はまだ距離を掴めてなかっただけに固い笑顔を浮かべた。


「詩織。一緒に帰るか!!」

「あー…、うん。途中までなら…。」


僚介君とは同中なだけに、帰る方向が一緒なので断るのも不自然だ。

私はこれは友達としてOKだろうと判断して、少し固い気持ちを解く。


「詩織、いつまで予備校来るんだっけ?」

「あ、うん。事務局の人には今月いっぱいって言われたよ。」

「そっか。予備校やめたらさ、詩織空いた時間どうすんの?」

「んー…、そうだなぁ…。」


私は何をしてるだろうか…と考えて、真っ先に井坂君の顔が浮かんで、自然と笑みが漏れた。


「やっぱり、井坂君と一緒にいる気がする。」


私が惚気のような言葉を言ったせいか、一瞬僚介君の表情が強張った気がしたけど、どうやらケータイに着信があったようで、僚介君は「悪い。」とだけ言うと電話に出た。


「もしもし、慶太?何か用か?」


慶太??

もしかして空井君かな?


私は電話の相手が中学から僚介君と一緒にいる、仲の良い空井慶太君だと分かって、同窓会のときの彼を思い出した。


そういえば空井君も僚介君も中学の時から際立って目立ってたなぁ~…

もう一人、来居君もカッコ良かったからどこか別次元の人たちみたいだったっけ…


今は高校が別々みたいだけど、こうやって連絡取り合うぐらい仲良しっていいなぁ…


男の子の友情ってやっぱりいいな~と再確認しながら、僚介君の電話が終わるのを待っていると、僚介君が電話から耳を放して私に声をかけてきた。


「詩織、慶太と玲があそこのファミレスにいるみたいなんだけど、一緒に行かねぇ?」

「……一緒に?」


私はイケメン三人に囲まれてファミレスにいる自分を想像して、これはアウトだと思い、首を振って断る。


「いいよ!!流石に空井君たちとそこまで面識もないし。私が行くのはおかしいよ!私一人で帰るから、僚介君だけ行ってきて!!」


私は絶対にファミレスに行く流れになるわけにはいかない!!と、さっさとその場を立ち去ろとする。

でも、僚介君は「待って待って!!」と引き留めてきて、私は顔だけで振り返った。


「とりあえず夜道は危ないから、途中まで送らせてくれよ。一人で帰すと、俺も気になって慶太たちと話もできねーし。」


………これは、途中まで帰るだけだからセーフ?

というか、ここで頑として一人で帰るって言っても、僚介君は無理やりにでもついてきそうだしなぁ…


それなら少しだけ送ってもらって、別れるのがベスト。


私は最良の選択を頭の中で計算すると、僚介君の申し出を受ける事にして頷いた。

僚介君はそれに嬉しそうに笑みを浮かべると、空井君たちとの話に戻る。


なんだかなぁ…

僚介君って、どこか人懐っこいよね…


私は僚介君と仲直りしてから、どこか懐かれてるような気がしていて、彼のそういうところにどこか複雑だった。


僚介君がこうじゃなかったら、私も距離間に頭を悩ませることもなかったんだろうな…


私は予備校に通わなくなれば、僚介君と接することもなくなるだろうと思い、今月いっぱいだと自分に言い聞かせ、僚介君と一緒に帰路についたのだった。











久しぶりの長澤君の登場でした。

次回、寺崎僚介の話を少し挟みます。

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