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理系女子の恋  作者: 流音
191/246

182、ラッシュそして閉幕

井坂視点です。


俺がカンナと別れて校舎を出たところで放送がかかり、今から女子の玉入れが始まることを知らせた。

俺は詩織の応援をしたかったので、急いで靴を履くとグラウンドに走る。

そのとき、ある女子が目の前にやって来て、俺はグラウンドに入る前に足を止めた。


「拓海先輩!!」


俺と同じ赤組のハチマキをした下級生女子は、キッと俺を見つめると、胸の前で拳を握りしめて口を開く。


「好きです!!私と付き合ってください!!」

「え…。」


俺は周囲に人のいる状況で堂々と告白してきた女子を見つめて固まった。

周囲の生徒がこれから始まる玉入れよりもこっちに注目してきて、俺はこの状況にあっさりと告白を断るのを躊躇った。

こんな所で告白してきたのは向こうなのだが、傷つけないかと心配してしまう。


でも答えは変わらないので、申し訳ない気持ちもありながら返事をしようと口を開く。


「悪い。俺、彼女がいるから。」

「知ってます!だから、二番目でもいいので付き合ってください!!」

「は!?」


二番目ってなんだ!?


俺は初めて言われる言葉に目を剥いて彼女を見つめた。

彼女は真っ赤な顔をしながらも一生懸命気持ちをぶつけてくる。


「拓海先輩が卒業するあと半年だけでいいんです!!私に思い出をください!」

「ちょ…ちょっと待って…。そんなことできるわけ――――」


「それなら私だって思い出が欲しい!!」


俺がなんと言って諦めてもらう方向へ気持ちを持っていこうかと思っていたら、すぐ後ろから乱入する声が聞こえて青色のハチマキをした女子が現れた。

その子は俺の真横にくると、俺の腕をとって言う。


「私も拓海君がずっと好きだった。拓海君と付き合えるなら二番目でも三番目でも構わない。私にも思い出をちょうだい!」

「はぁぁ!?」


俺は腕を掴んでくる彼女を引き離すと、「何考えてんだ!!」と告ってきた二人から距離をとった。

すると、二人の告白が何かに火をつけたのか後から後から「私も好き!!」「彼女にして!!」と女子が何人も現れて、俺は恐怖で顔が引きつった。


なんだこれ!?!?


「私、付き合えなくてもいいから、キスして!!私のファーストキスは拓海君がいい!」

「私も!!」


何人かの女子がそう言って迫ってきたので、俺は両手を前に突き出して後ずさりする。


「無理だから!!俺、誰とも付き合えないし、キスも無理!!!」


ハッキリ口に出して断るも女子の集団は諦める様子はなく「お願い!」と詰め寄ってきて、俺は女子も集団になるとここまで怖いのかと身の危険を感じた。


誰か助けてくれ~~~~!!!


周りを女子に囲まれて逃げ場がなくなり、俺が心の中で助けてくれる人間を思い浮かべて念じていると、高い声が響いた。


「井坂君っ!!」


俺が一番に念じてた人間の声に声のした方向を見ると、詩織が大きく肩を上下させながら焦った顔で立っていた。


「詩織…。」


俺が詩織の顔を見られただけでほっとしていると、詩織の登場に罰が悪くなったのか、取り囲んでいた女子が少しずつ離れていく。

詩織はそれを確認して俺に駆け寄ってくると、俺を背に庇うように立ち周りの女子を睨みつけた。


「自分の好きな人を困らせて恥ずかしくないの?こんなやり方する人たちに、私は絶対井坂君を渡したりしないから!!」


詩織…


詩織の言葉に周囲の女子たちは罰が悪そうに顔をしかめて逃げるように走っていってしまう。

俺は詩織の後ろ頭を見つめて、詩織のことをカッコいいと思った。


詩織ってたまに男前だよな…


俺は去年の文化祭のときの一組女子とのケンカを思い出して、ふっと顔が緩んだ。

あのときも詩織は生徒会長たちに向かって啖呵を切っていた。

その姿はカッコ良くて、同時に俺の心を掴んで放さなかった。


愛されてるって実感した。


俺は今も同じことを思って、今にも詩織を抱きしめてしまいそうになるのをグッと堪える。

でもここでふとグラウンドの騒ぐ声が耳に入り、詩織は玉入れに出場中のはずだと思い返した。


「詩織!!玉入れは!?もう始まってるけど!」


俺が詩織の肩を掴んで声をかけると、詩織は俺に振り向くなり両手で俺の顔を挟んできた。

そして少し潤んだ瞳で俺を射抜いてくる。


「何もされてない?」

「へ…?」

「あの子達に何もされなかったかって聞いてるの!!」


詩織が少し掠れた声で追及してきて、俺は慌てて「何もされてない!!されるわけないだろ!?」と否定した。

すると詩織は「良かった…。」と呟くと、俺の顔を一撫でしてから安心したような笑みを浮かべた。

そのとき詩織の目から溜まってた涙が一滴落ちる。


俺はそれを見て胸がぎゅーっと苦しくなり、息がしづらくなる。

身体が動かなくて、目と頭だけが詩織のすべてを焼き付けようとフルで働き始める。


詩織は俺の顔から手を放すと、軽く涙を拭ってからいつもの笑顔を浮かべる。


「戻らないと。負けてなかったら二回戦があるだろうし。あゆちゃんに怒られちゃう。じゃあ、また後で。」


詩織はそれだけ言うとグラウンドに走っていき、俺はそれを見て「頑張れよ!」とだけ声をかけた。

詩織は振り返って大きく手を振り、人混みに紛れてしまう。


俺はその姿をしっかり見送ってから、泣きたくなるような詩織への想いを胸に持っていたタオルを握りしめたのだった。





***





そうして俺は応援に熱を上げる赤組ベンチの後ろから詩織の頑張りを見守ったあと、自分の出る最後の競技リレーの準備のためにグラウンド脇へ移動した。

大玉ころがし競技の応援に熱の上がるグラウンドを横目に、俺は首を回したり手を振ったりして準備体操に励む。

すると俺と同じようにリレーに出場するのか大輝君が歩いてきて、俺を見つけるなり話しかけてきた。


「井坂さんもやっぱりリレー出るんですね。」

「…あぁ。大輝君もだよな?」

「はい。俺はアンカーの前なんすけど、井坂さんは何番目ですか?」


マジかよ…


「…俺もアンカーの前だよ。」


俺はまさかの同じ走順に誰が仕組んだ…と偶然を恨みたくなった。

大輝君は俺だと知って嬉しそうに「そうなんすか!」とニコニコしている。


大体こういうのは学年で走順決まってくるんじゃないのか?

なんで一年の大輝君がアンカーの前なんだよ…


「俺の順番、深見が同じ青組の先輩らに話を通してたみたいで、青組だけ学年順バラバラで走順決まってるんすよね。深見ってなんであんなに何でも全力なんだか、いつもビックリさせられっぱなしっすよ。」


大輝君が俺の心の中を読んだのか説明してくれて、俺はカンナの策だと聞き不安になった。


「なぁ、ちなみにアンカーって誰なんだ?」

「青組のですか?ウチのアンカーは瀬川さんですよ。」

「瀬川!?」


俺は瀬川だと聞き思いっきりむせた。


「あ、そっか。井坂さん、姉貴と付き合ってるんだから、当然瀬川さんのことも知ってますよね。」


大輝君は俺が瀬川を知らないと思ってたようで、知っていると知り楽しそうに話し続ける。


「瀬川さん、俺と同じバスケ部の先輩ですっげー足速いんすよ。スタミナだってすげーし、俺の尊敬する先輩の一人っつーか。学校生活の面でも見習いたい面が多くて、俺もあーいう風になりてぇなって憧れてるんすよね~。」


足がはえーのは知ってる…

文化祭のとき、あっという間に背中が見えなくなりそうだったしな…


――――ってことは、俺が大輝君より前に出てなるべく距離空けておかねぇと、北野が危ねぇじゃねぇか!!


赤組のアンカーはサッカー部一の俊足だったという北野だ。

北野の速さは体育の授業が同じだったから、どんなものかは大体知ってる。

そして瀬川の速さと比べるに、俺の主観だと瀬川に軍配があがる。


くっそ!!俺の責任重大過ぎるだろ!


俺は横の大輝君を見て、部活で鍛えただろう足の筋肉に頭が痛くなってくる。

走る前から負けるつもりはないが、どう見てもブランクの差があり過ぎる…


同じことを球技大会のときにも思った気がするが、気持ちで負けてられないと自分を奮い立たせる。


「あれ?井坂さん。そのタオル姉貴のじゃないですか?」


大輝君が俺の首にかかっていたタオルを指さしてきて、俺はそのまま持って来てしまっていたとそこで気づいた。


「あ、返そうと思ってたのに忘れてた。」


俺は今から返しに行く時間はないな…とタオルを見つめていると、「赤井!」と小波の声が聞こえて、俺たちが待機していた場所に小波や詩織たち女子がやって来た。


「おー!玉入れお疲れさん!勝てて何よりだよ。」

「ふふん!私の勇姿をしかと目に焼き付けたでしょうね?」

「ははっ!!焼き付いてるよ!小波の素早い動きな!マジで笑った!」

「は!?なんで笑うのよ!!」


また小波と赤井の痴話喧嘩が始まり、俺はそれから目を外して詩織に声をかけた。


「詩織。これ、詩織のだよな?」


俺がタオルを首から外して詩織に差し出すと、詩織はそれを受け取って頷いた。


「うん。よく私のだって分かったね?」

「あー…、小波と大輝君が詩織のだって言ってたからさ…。」


俺は聞かなくてもタオルの匂いで分かったなんてことは言えず、そのことは胸の中にしまい込む。


「そっか。これ少しは役に立った?」

「あぁ、寝てる俺が体を冷やさないようにかけてくれてたんだよな?気を遣ってくれてありがとな。」

「ううん。私がしたかっただけだから気にしないで?井坂君が元気になって良かった。」


詩織は小首を傾げながら笑っていて、俺はその詩織に胸がキュンとときめいてしまう。

俺は手が詩織に吸い寄せられそうだったけど、それをなんとかグッと堪える。

大輝君や皆の前じゃなかったら確実にハグしてただろう。


俺は胸のときめきに負けないように笑顔を作ると、ギュッと拳を作って詩織に突き出した。


「リレー勝ってくる。」

「うん。いっぱい応援するね!!頑張って!」


詩織が同じように両手で拳を握りしめて言って、それに横の大輝君が「俺が勝つから!」と詩織に訴える。

詩織はそんな大輝君に「大輝は敵だから!」と正面からぶつかっていて、俺は二人の仲睦まじい姉弟喧嘩に和んだのだった。



それから俺たちはリレー開始のアナウンスと一緒にグラウンドへ入ると、走順に並び、俺は横に並ぶ大輝君を意識しながらハチマキを締め直す。

そして得点ボードに目をやって、今の得点差を確認する。

さっきの大玉ころがしは赤組が二位で青組は三位だったようで、少しだけ青組との得点差が詰まっている。


やはりリレーに優勝の命運が託されてるな…


俺はふっと短く息を吐き出すと、高まってきた緊張をほぐす。


するとパァンとスタートの音が鳴り、第一走者が走って行くのが視界の端に映り、俺は赤組に注目した。

第一走者は1年5組の生徒らしいが、やはりリレー代表選手だけあって足が速い。

今のところ白組に先頭を譲っているが、後ろに貼りついて二番だ。

そして負けられない相手の青組は少し後ろの三番手。


よしよし…そのままだぞ…


とりあえず青組より先にゴールすればいいので、このまま頑張れと下級生たちにエールを送る。

そして走順がどんどん進み、俺たち赤組は三年のメンバーへとチェンジしていき、俺の前の赤井がとうとうスタートラインにつく。


「赤井!抜かされんなよ!!」


俺は待機場所から赤井に声援を送ると、赤井は任せろという顔で拳を向けてきたので、俺もそれに拳を向けて返した。

赤井の前の走者がコーナーに入り、バトンタッチのエリアに入ったとき、赤井が助走を開始して、上手くバトンが渡ったように見えたのだけど、手が滑ったのか赤井がバトンを取り落しかけてしまう。


!!!!!


落ちる!!と思って、俺が立ち上がりかけたら、赤井は上手く両手でキャッチして少しロスはあったものの、走り出してホッと胸を撫で下ろした。


ひやひやさせんなよ~…


俺は自分が走る前に心臓が縮み上がったので、変な脱力感が襲ってきていた。

はーっと息を吐きながら、今度は自分がスタートラインにつく。


すると「井坂君、頑張って!」という詩織の声が聞こえてきて、俺は盛大に騒ぐ応援ベンチに目を向けた。

赤組の最前列に赤井を見つめて声が張り裂けそうになっている小波の横に、詩織が俺を見つめて「頑張れ!」と言ってくれているのが見えた。


俺はそれに笑顔を返すと、後ろに目を向けて赤井が戻ってくるのを見つめた。

赤井は白組に追いつき、コーナーに入る直前で追い抜かしていた。

けれど、そのすぐ後ろに青組も迫っていて、赤、白、青の三色三つ巴状態になりそうに距離が近い。

残念ながら黄組だけは距離を離されているけど…


そうして俺は一番に助走を開始すると、赤井からバトンを受け取った。


「井坂、頼んだぞ!」

「おう!」


俺は大輝君とほぼ同時に駆けだして、俺は抜かされてたまるか!!と全力で走る。

大輝君も負けじと食らいついてきていて、すぐ後ろから横の辺りにずっと気配を感じる。


俺は北野の前に少しでも距離開けなきゃなんねぇんだよ!!


歯をギュッと食いしばりながら両腕を大きく振って、裸足の足を前へ前へとそれだけ意識する。

でも時折、大輝君が抜かそうと迫ってくるので、俺はそれを邪魔しながらなんとか最後のコーナーに入った。

そして北野が手招きしながら待っているのを見据えると、ラストスパートをかけ大きく手を伸ばして北野にバトンを渡した。


「北野っ!!!」

「分かってる!!」


完全に北野にバトンが渡ったのを確認して手を放すと、俺は気が抜けたのか全力疾走の勢いのまま激しく転んで視界がひっくり返った。


でも俺は自分が転んだことよりも北野がどうなっているかの方が気になり、すぐ起き上がるとコースを見つめた。


赤組のハチマキをした北野は先頭を走っており、二番手の瀬川との間をグングンと広げていく。

俺はそれを見つめて、北野が物凄く足が速くて、一人景色の流れ方が異常だと気づいた。


あれ…?あいつ、すげー速くね?


俺は体育の授業の時とは別人だ…と思いながら、北野を見つめていると赤井が俺の体を支えて起こしてくれながら言った。


「こりゃ、余裕だな。さすが。」


赤井が知っていましたというように言うのが気になり、俺は赤井の体操服を引っ掴むと尋ねた。


「おい。さすがってどういうことだよ!?あいつ、こんなに足速かったか!?」

「はははっ!仮にもサッカー部一の俊足だぞ?この広いグラウンドを毎日往復して試合したり練習する奴がバスケ部なんかに負けるかよ。」

「で、でも、あいつ体育の授業でこんなに速く走ったことねぇじゃん!」

「それは部活に体力残すのに、八割ぐらいの力しか出してないって言ってるのを聞いたことあるけどな。まぁ、基本飄々とした奴だからな~。俺もあんなに速いなんてビックリだ。」


赤井が全然ビックリしてないような顔で笑い出して、俺は拍子抜けしてしまった。


これなら俺がそこまで全力でやらないでも良かったんじゃ…


俺は最後に全力で走って転んだことを思い返して、今になって恥ずかしくなってきてしまう。



そうして、北野は後ろの瀬川と大差をつけ余裕で一番でゴールして、俺たちは今年も体育祭で優勝することが出来たのだった。








体育祭がやっと終了しました。

意外と長く続けてしまいました…。

次は大輝とカンナの話を少し挟みます。

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