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理系女子の恋  作者: 流音
188/246

179、本気の体育祭

井坂視点です。


詩織が俺とカンナの仲に嫉妬していたと聞いた日から、俺は詩織を見ただけで周りの音がシャットアウトされるように詩織しか目に入らなくなってしまった。

授業中でも移動教室の途中でもちょっとの時間を見つけては詩織に目が向いてしまう。


俺の目は詩織のことをすぐ見つけられるコンパスでもついているように、詩織の姿をすぐに見つけられる。

だからこれから体育祭が始まろうって今も、俺は人混みの中から詩織の姿を一瞬で見つけてしまう。


「詩織。」

「あ、井坂君。今日は頑張ろうね!」


詩織は話をしていた八牧から俺に顔を向けると、俺の胸をキュンとさせる笑顔を向けてくる。

俺は詩織の『頑張ろうね』に酔いしれてジーンとしていると、横から八牧のじとっとした視線を感じて表情を引き締めた。


「おう。カンナや大輝君には負けられないしな。」

「だね!カンナさん、今度はどんな策を練ってくるのかな?」

「んー…、まぁ、あんまり手強いのでないことを願うよ。」


俺が軽く笑いながら返すと、ちょうど開会式の集合アナウンスがかかり、赤井や島田が後ろからやってきた。


「おーい。朝っぱらからイチャついてないで、グラウンド集合だぞ。」

「イチャついてねぇよ…。」


またからかってきやがったと思って、俺が低い声でイラッとしながら言い返すと、いつもは黙ってくれるはずの八牧が口を開いた。


「軽くイチャついてたでしょ?井坂君、顔ゆっるゆるだったから。」

「は!?」


「あはははっ!八牧さんが言うほどってどんだけだよ!!」

「いやいや、谷地さんといたら大概こいつはそういう顔だぞ?どこでもトキメけるピュアな奴なんだよ。」


「赤井!!!!」


あながち外れてない話に俺が耳が熱くなりながら声を荒げると、赤井たちは「図星だからって怒るなっての!」と笑いながらグラウンドへ向かって歩いていってしまう。

そして俺と詩織だけが残されると、詩織がピトッと俺の横にくっついてきて言った。


「井坂君、私にドキッとしてたの?」


「うぇ…!?いや…まぁ…、うん…。そうかな…?」


俺が詩織の上目遣いに今もドキッとしてるよ!!と心の中で叫んでいると、詩織が嬉しそうに笑ってから俺の腕に腕を絡めてきて、心臓がドキドキを通り越してバクバクし始める。


「ふふっ、私もずっと井坂君にドキドキしてるよ。」


詩織からの嬉しい言葉にぶわっと鳥肌が立って、またジーンと幸せを噛みしめると、詩織が絡めた腕を引っ張ってグラウンドに足を向けて、俺は詩織と一緒なら今日は誰にも負ける気がしないと思ったのだった。




**




それから始まった体育祭は、詩織パワーでモチベーションの上がった俺のおかげもあってか、我ら赤組は一位、二位をウロウロと好成績で進んでいた。

これにはクラスのメンバーも上機嫌で、「連覇すんぞー!」とお昼近くなっても勢いが落ちない。


そしてライバルと目している1-9要する青組はというと、赤組と接するぐらいに頑張られてしまっているが、今のところ得点数が50点程あいての二位。

気は抜けないけど、1-9から文化祭の時ほどの脅威はまだ感じていない。

でも後から追い上げがきそうで怖いなと青組に目を向ける。


青組のベンチでは1-9のメンバーが集まって何やら口論していて、中心にカンナがいるのが見える。

カンナは焦った顔で何かを訴えているが、周囲の目は冷たく相手にされていないような空気を感じた。

俺はその姿に嫌な予感がして足が向きかけたけど、グッと堪えて青組メンバーの中から大輝君の姿を探した。


大輝君はカンナのいる集団から離れて色とりどりのハチマキをした女子に囲まれていて、俺はその姿を見ただけで同情してしまった。


さすが大輝君…

あれだけの女子に囲まれていても欠伸できるとか、すごい神経太いな…


俺はカンナの集団の空気が悪いのを大輝君に助けてもらおうかと思ったのだけど、女子がいるところに自分が行くと余計助けにいけなくなると察してどうしようかと考え込んだ。


そもそもカンナは一応敵なんだから救わなくてもいいんだけど…、でも、昔のこともあるし…放っておくわけにはなぁ…


「おい、井坂。次、障害物だぞ!!」

「へ?」


考え込んでいたのもあって呆けた返事をして振り向くと、赤井と北野がげんなりした顔でこっちを見ていて、俺は出番だと一歩遅れで理解して二人に駆け寄った。


「お前さ、いい加減恋愛ボケから抜け出せよな!?」

「は!?恋愛ボケって…、詩織のこと考えてたんじゃねーよ!!」


俺は四六時中詩織のことを考えていると思われてることに恥ずかしくなって、赤くなりながら否定すると、北野が飽きれた様に笑い出した。


「はははっ!恋愛ボケの自覚はあんだな?」

「そりゃそうだろ。あんだけ人前でイチャこくのこいつぐらいだぞ!?」

「人前って…、お前らの前でイチャついたことなんかあんまねぇだろ!?」


俺が走る前なのに焦って汗をかいているのを拭っていると、二人の冷たい視線が突き刺さってくる。


「お前、それ本気で言ってる?」

「きっと周りに目がいかないぐらい谷地さんしか見てないんだろ。もう放っておこうぜ?恋に盲目状態野郎はよ。」


恋に盲目!?


俺が確かにそうかもしれない…とちらっと思っていると、二人は意地悪く笑いながら先に歩き出して、俺はその後を追いかけながらカンナのことをするっと忘れてしまったのだった。



**



そして、障害物走に出場した俺は、周りがあまり速くなかったのにも助けられ一位でゴールした。

ゴールした足で赤組のベンチに戻りながら次の出場競技を思い浮かべ、午後まで出番がないと一息つくと、赤組席で詩織が目をキラキラと輝かせて出迎えてくれた。


「井坂君、お疲れ!!やっぱり足速いね~!すっごくカッコ良かった!」


俺は詩織に褒められたことと輝く笑顔のダブルパンチで、胸が苦しくなって手で押さえる。


ヤバい…詩織の笑顔、独り占めしたいかも…


俺は午後まで出番がないのもあって、詩織とイチャつきに行こうかと画策した。


恋愛ボケと言われようとも構わねぇ

これが俺の正直な気持ちだ!!


俺は周りに赤井達がいないのもチャンスと思い、詩織に手を伸ばした。

でもそのとき脇からその手を誰かに引っ張られ、高い声が響いた。


「拓海先輩!!次の二人三脚、私と一緒に走ってもらえませんか!?」

「は?」


詩織しか映してなかった目に急に茶髪の派手な子が映りこんできて、俺は突然のことに目を瞬かせた。

するとその子は手を握ったまま俺に詰め寄ってきて、「ダメですか!?」と上目遣いで見てくる。


ダメも何も…


「ダメだよ!!」


俺が迷惑だと言おうと口を開きかけたとき、詩織が俺とその子の手を引き離して俺の目の前に割り込んで声を上げた。


「あなた、二年生だよね?井坂君はさっき走ったばかりで疲れてるんだから、同じ二年生に頼んでよ。」

「でも、拓海先輩と走れるのは今年が最後だから、できれば最後の思い出に走って欲しいんです!」

「そ…それでも…ダメなものはダメだよ!井坂君だけは絶対ダメ!!」


俺だけは絶対…


俺は詩織から飛び出した独占欲発言に胸を貫かれ、顔が一気に緩みそうで手で顔を覆った。


「さっきからダメダメって…、先輩、彼女だからってずるいです!!最後の思い出ぐらいくれたっていいじゃないですか!!自分勝手ですよ!」

「ずるいとか、最後の思い出とか…私はあなたの方が自分勝手だと思うけど!!井坂君は疲れてるんだから、相手なら他を探して!!」

「もうっ!!先輩じゃ話にならないんでそこどいてください!拓海先輩と直接話しますから!」

「話したって変わらないから!!」


俺が争う二人を放って一人ニヤけていると、「谷地さん!」と息を荒げた内村がやってきて、詩織が言い争いをやめて内村に目を向けた。


「谷地さん…、あの、借り物で…その…。一緒に来てくれないかな?」

「え…、私?」

「うん。」


借り物競争のお題らしき紙を持った内村の顔は真っ赤で、俺はじとっと内村を見てからその紙を確認しようと内村の手から引き抜いた。


「あ!!」


内村は慌てて紙を取り返そうと手を伸ばしてきたけど、俺の方が背が高いのもあって俺は高い位置で中を確認した。

そこには『クラスで一番可愛いと思う女子』と書かれており、俺はさっきまでのふわふわした気分が立ち消えてイラッと紙を握りつぶした。


「内村、詩織以外にしろ。」

「え?」


内村は俺にお題の紙を見られたことで顔色が今までにないほど真っ赤になっていたが、俺は二人を一緒に走らすつもりはなかったので再度言った。


「聞こえなかったのかよ?詩織以外にしろっつったんだよ!!こんなもん主観なんだから、女子なら誰でもいいだろ!?」

「そ…そんな…。」


「い、井坂君!何のお題だったの?内村君困ってるから…私、別に走っても―――」

「ダメだって言ってるだろ!?詩織はこれから俺と一緒にやることあんだよ!!」

「や、やること!?」


「そうだよ!!困ってんなら――――、ほら!!この子に一緒に走ってもらえ!!」

「え!?拓海先輩!?!?」


俺が詩織を自分に引き寄せたあと、二人三脚を願いにきた後輩を内村に押し付ける。

そして俺は二人から逃げるように足早に応援席を抜け出した。

背後から後輩と内村の戸惑った声が聞こえてくる。


ったく、内村の奴…詩織のことは諦めたんじゃねぇのかよ!

やっぱり海のときにもっと釘刺しとくんだったな


俺は内村の赤ら顔と詩織の無警戒な顔を思い返して、イライラが募り、足早に人気のない校舎までやってくると適当に一年の教室へ入った。


「い、井坂君。ここ一年生の教室だよ?」

「知ってるよ。それより、前から言ってるけど、ガード緩すぎ!!」


俺は何も分かってない詩織にイライラして、扉を閉めるなり詩織の頬をグニッと引っ張った。

詩織は「痛い!なんで!?」としかめっ面で俺を上目遣いに見てきて、俺は一瞬怯んだ。

でも、ここで流されるわけにもいかないのでさっき握りつぶした借り物の用紙を広げて、詩織の前に突き付ける。


「これって…内村君が持ってきた…。…―――――え?」


詩織はお題の内容を読んだのか、少し頬を赤く染めて目を丸くさせる。


「これ読めばさすがに内村の気持ちも分かるだろ?」


俺は自分一人が警戒してイライラするのもそろそろ限界だったので、詩織にも現状を理解させようと思った。

詩織はキュッと口を引き結んでからちらっと俺を見て、申し訳なさそうに頷く。


「……私……、全然気づかなくて………。内村君…、どんな気持ちで……これ…。」

「知らねぇよ。内村の気持ちなんか。でも、これで俺がガードガードって口うるさく言う意味分かったろ?」

「うん。………でも、内村君そんな気配全くなかったよ?」


詩織は本当に全く内村の気持ちには気づいてなかったようで、困惑した表情のままオロオロし始める。

俺はその鈍感さが可愛いと思いつつも、少し呆れてため息をついた。


「男は本気になるほど、相手に気持ち悟られないように動くもんなんだよ。でも、そういうの意外と周りから見てたら丸分かりだったりするんだよな。」

「そ…そうなんだ…。じゃあ、私知らない内に内村君を傷つけてたり―――」

「詩織。俺らが付き合ってる事、今まで隠してきたっけ?」


詩織が気づかなかった自分を責めそうになったので、俺は落ち着けるためにズバッと尋ねた。

詩織はしばらく俺を見つめたまま固まっていたけど、気持ちが落ち着いたのか表情を少し和らげると首を振った。


「…隠してない…。」

「だろ?内村だって俺らが付き合ってること知ってるんだから、詩織が今更あいつの気持ちを気にする必要ねーの!あいつが詩織の事を好きなままなのは、あいつの勝手。だけど、詩織は狙われてるんだってことを少しは自覚してほしい。」


俺は今まで言えなかったことを打ち明けて、少しスッキリした。

今までは徹底的な証拠がなかったから言えなかったけど、さすがに今回は物的証拠がある。

俺はそれだけでこうも詩織に事実を告げるのが楽なのかと思った。


詩織は証拠があるだけに、素直に現状を理解してくれたようで、キュッと顔を引き締めると「うん。」と頷いた。


「……私、そんなにいい女じゃないのに…狙われてたんだね…。内村君には悪いけど、気持ち知っちゃった以上あまり親しく話はしないようにしないと…。」

「…うん。そうしてくれると、俺も安心。」


俺は十分いい女だから狙われてんだよと心の中でツッコミながらほっと一息つくと、詩織のまっすぐな目が俺を貫いてきた。


「それより、井坂君。可愛い後輩に最後の思い出になんて言われて、ちょっと乗り気になってたでしょ?」

「へ?」


俺はさっきの事を穿り返されて面食らった。


「ちょっと表情緩んでたし…、満更でもない感じだったでしょ?私、見たんだから!!」

「え…、ちょ…。俺、一言も一緒に走るなんて言ってな―――」

「でも、手握られてちょっと照れてたもん!!」


は!?!?俺、そんな顔してたか!?


俺は自分の顔に手を当てると頬を触りながら、さっきのことを思い返そうとした。


「手で顔隠してたけど、口元緩んでたし。私、絶対イヤだって思って…。」


俺はそこまで聞いて、ふと詩織が嫉妬してくれるのが嬉しくてニヤけてたことを思い出した。

だから真実を伝えようと、怒って顔を背けてる詩織の顔を掴んだ。


「それは、詩織が俺の事、絶対ダメだって言ってくれたのが嬉しくて、ニヤケてただけんなだけど。」

「………――――え?」


詩織が眉間に皺を寄せていたのを緩めると、俺と目がぶつかって、俺はそれだけでキュッと胸が苦しくなる。


「詩織が…俺と後輩の子の間に立って必死にダメだって言ってくれただろ?俺、それがすげー嬉しくて…。だから、自然と頬が緩んだっていうか…。」

「だ…だって、そうしないと…井坂君、あの子に流されるんじゃって思って…。」

「そんなわけないだろ?当然、断るつもりでいたよ。」


ここで詩織が真っ赤になると視線を下げて恥ずかしそうにモジモジし始めた。


「そ、そっか…。だよね…。私、早とちりしちゃって…。」


やっぱり照れる顔…たまんねぇなぁ…


「ごめん…。恥ずかしい…。」


詩織が俺から離れようと掴んでる俺の手に手を重ねたとき、俺は構わず詩織に口付けた。

こうしてキスすると、詩織の甘い匂いに混じってグラウンドの砂の匂いがした。

でも唇の感触は変わらず俺の心を擽り、手に伝わる詩織の体温が熱くなるのに合わせて俺の気持ちも昂った。


「詩織…、俺に午後も頑張るパワーちょうだい?」

「……パワーって…、どうやってあげればいいの?」


詩織の潤んだ目に俺の顔が映って、俺は詩織の頬を撫でながら言った。


「そんなの決まってるだろ?」


俺がそう言うと、詩織は更に真っ赤になって大きく目を見開いて、俺は詩織の首筋に唇を落とした。



でも、その直後に『只今よりお昼休憩です――――』というアナウンスが響き、俺はがくっと体の力が抜けたのだった。












いつもタイミングの悪い井坂です。

体育祭もまだまだ続きます。

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