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理系女子の恋  作者: 流音
182/246

173、1-9の参報


文化祭最終日、私たちのリラクゼーションサロンは昨日の宣伝効果もあってか、朝からお客さんの入りは上々だった。

今日は最終日なので営業は午前中のみ。

だから最後の追い込みと思って私も接客を頑張っていたんだけど、そこへ少し青い顔をしながらあゆちゃんと赤井君が休憩から戻ってきて、皆の注目を集めた。


二人の変な様子に気づいたクラスメイトたちは心配して二人に近寄る。

すると先にあゆちゃんが口を開いた。


「ヤバい…。1-9の寸劇、すごく面白かった…。」

「え…?1-9って…もしかして見てきたの?」

「うん…。だって、あれだけ宣伝してたから、どんなものか気になって…。」


「なんで、そんな敵の客増やすようなことやってんだよ!?」

「敵場視察だっての!!ねぇ、赤井!!」


井坂君が二人に怒ったんだけど、赤井君はずっと黙り込んだまま何かを考え込んでいて、焦れたあゆちゃんが言い返した。


「私たちだって結構盛り返してるから、さすがに今回は1-9に勝ってるだろうと思って行ったの!そしたら、意外にお客さんいて…内容も面白くて…。また配役に顔の良い子たち使ってるからか、結構女子の食いつきがよくて…。もしかしたら、ウチと同レベル?っていうか…若干負けてる?みたいな…。」


「ウソ!?」

「えぇっ!?それってやべぇじゃんか!!」

「ほんっと一年のクセに生意気なクラスだよな~!!」


クラスメイトから口々に1-9への悪口や不安、心配の声が溢れて、私も同じように今更何もできないんじゃ…と怖くなっていたら、黙っていた赤井君が声を発した。


「よし!最終手段だ!!職員室行くぞ!!」


「「え!?職員室!?」」


赤井君の突然の発言に私たちが面食らっていると、赤井君はサッと背を向けて教室を出て行ってしまう。


「ちょっ!?赤井!?」


あゆちゃんが一番に赤井君を追いかけて、接客のある私たちは、誰が残って誰が追いかけるかと顔を見合わせていたら、同じように接客していたゆずちゃんと西門君に背を押された。


「赤井君には井坂君が一番でしょ?しおちゃんも一緒に行ってきて!」

「ここは僕らに任せてくれればいいから。赤井君が暴走しかけたら止めてきてくれよ。」


二人からそう言われ、私と井坂君は顔を見合わせると気持ちは同じだったので、同時に「行ってくる!」と言うと赤井君とあゆちゃんを追いかけて走った。

廊下に出ると、井坂君が私の手をとって走るスピードを上げて、私は引っ張られながら足を速めた。

そうして職員室に着くころには息が上がってゼーゼーと息を吐き出していると、赤井君が職員室で口上を述べているのが耳に入ってきた。


「日頃先生たちにはお世話になってるので、来ていただいたらサービスしますよ!!」


サービス??


私が井坂君に手を引かれたまま軽く咳き込んで中に入ると、あゆちゃんが心配そうに赤井君を見守っているのが見えた。


「見回りとかでお疲れの先生もいるでしょう?俺らのクラスはリラクゼーションサロンなので、ぜひリフレッシュして帰ってください!今日、最終日ですからね!!」


赤井君が堂々と胸を叩いて言っていて、そこへ藤浪先生が半笑いで「お前なぁ…。」と何かを言いかけた。

でも赤井君はそれを遮るように奥園先生の肩を掴んで盾にすると、口上を続ける。


「奥園先生も文化祭のお祭り空気にやられた生徒への注意で、顔にお疲れが見えますよ?俺らのクラスへ来ていただければ、5歳は若返ってリフレッシュできること間違いなし!!先生はとてもお綺麗なんですから、日頃から輝いていないとね!!」


奥園先生は赤井君に「綺麗だ」と褒められたことが満更でもないのか、いつもの気難しい顔が緩んでいて、私は赤井君の口の上手さに感服した。


「他の先生たちも俺ら9組からの恩返しだと思って、気軽に足を運んでくださいよ!ね!!」


赤井君が口説き落とした奥園先生に同意を求めると、奥園先生は「そこまで言うなら…。」と他の先生にも目配せした。

堅物の奥園先生が落ちたことで、他の先生の気持ちを変えることにも成功したのか、何人かの先生が「暇だから一回行ってみるか。」と立ち上がり始め、赤井君がほくそ笑んだのが見えた。

赤井君はあゆちゃんに「ほら案内するぞ!」と声をかけると、奥園先生含む何人かの先生を引きつれていく。

そして、私と井坂君とすれ違いざまにパチッとウィンクしてきて、何かの策が成功したのだけは感じ取った。


一体先生たちをクラスに呼んで何をするんだろう…?


赤井君が何をするつもりなのか分からないまま見送っていると、私と井坂君の前に藤浪先生が呆れ顔でやって来た。


「まったく、赤井には驚かされてばかりだなー。」

「…??驚かせてって…、先生は赤井君が何しようとしてるのか分かったんですか?」


私は藤浪先生が何でもお見通しという顔をしていたので、気になって尋ねてみた。

すると藤浪先生はヘラッと顔を緩ませると、腕を組んで言った。


「文化祭最終日にわざわざ職員室に来るなんて、目的は一つだろ?俺たち教師にも投票権はあるんだからさ。」

「あ。」「そうか。」


藤浪先生の言葉に私と井坂君は同時に理解した。


赤井君は1-9に負けそうで、少しでも票を集めようと先生たちに目をつけたんだ。

なんて視野の広い…

というか…ちょっとセコいような…


「まぁ、よっぽどでない限りは受け持ちクラスに投票するけど、赤井はそれすらももぎ取るつもりなんだろうな~。文化祭なんて教師は蚊帳の外だから、よいしょされれば嫌な気はしないしな。ホント、そこに目をつけるなんてさすが赤井だよ。」


「あははは…。」


先生まで赤井君に一目置いてる…

さすが…


私が井坂君と一緒に乾いた笑いを浮かべていると、藤浪先生も教室へ行くのか扉に手をかけた。


「さ、俺も担任として顔を出しておくかな。お前らも戻るんだろ?」

「あ、はい。」


藤浪先生が扉を開けるのに続いて職員室を出ると、井坂君がふっと表情を緩ませて呟いた。


「さっすが赤井だよな。」

「え?」


藤浪先生の後ろを少し離れて二人で歩いて、隣の井坂君を見上げる。


「俺らの考え付かない事をすぐ思いついて、行動に移す。ずっと一緒にいるけど、あいつのこういうとこはホント尊敬する。」

「……赤井君って昔からこうなんだ?」


私がどこか誇らしげな井坂君を見上げて尋ねると、井坂君は昔を思い出しているのか目を少し細めた。


「そうだなぁ…、基本こうかもなぁ。俺はあいつにくっついてるだけだけど、あいつが動くといつも楽しかったってことだけは確かだよ。無謀だってことも、意外と成功するしさ。最後にはやって良かったってなることが多いんだ。」


井坂君が無邪気な子供みたいに笑っていて、私はすごく楽しかったんだろうなということが伝わってきて、自然と笑顔が移る。


やっぱり赤井君と井坂君っていいな…

ケンカもよくしてるけど、お互いに一目置いててすごく仲良しだもんね


男の子の友情って羨ましいなぁ~と少し嫉妬していると、井坂君が私の顔を覗き込んできた。


「今、何考えてた?」

「え!?な、何もないよ?」


「え~?絶対、何か考えてたろ?」

「何もないってば!早く教室戻ろ!また、あゆちゃんに怒られちゃう――――」


私が男の友情に嫉妬したなんて言えなくて、早足で教室に戻ろうとすると、後ろから井坂君の手が伸びてきて羽交い絞めにされた。



!?!?!



「いっ、井坂君!?ひっ、人が見てるよ!?」


生徒の多く通る廊下で抱きしめられるような形になっていることに、私が顔を真っ赤にさせて慌てると、井坂君は喉を鳴らして笑いながら私の耳元で言った。


「俺、詩織の嫉妬するポイント分かったかも。」

「えっ!?」

「ちょっと意地悪してみた。」


井坂君が私の耳にほとんど口をくっつけて言うので、私はドキドキし過ぎて腰が抜けかける。

でも井坂君はそんな私に気づいてか素知らぬ顔をして、追い打ちをかけてくる。


「今日、文化祭終わったら、俺ん家な?」

「!?!?え!?なんで!?」

「なんでって…。」


井坂君はここでやっと私を放してくれると、手を繋いで歩き出しながら少しムスッとして言った。


「もう何週間、詩織に触ってねぇと思ってるんだよ。限界だっつの。」

「げっ……―――――!!!!」


私がぼふっと一気に頭に血が上って思考停止していると、井坂君は意地悪そうに笑ってから前に顔を戻してしまった。


私はそんな井坂君に引っ張られながら、頭がクラクラしながら文化祭が終わった後のことを考えて、心の中で悲鳴を上げ続けていたのだった。






***






赤井君の素早い機転と二日目のフラッシュモブのおかげもあってか、私たちのクラスは三年目にして初めて総合一位をとることができた。

もちろん学年順位も一位。


私たちは今までの文化祭で一番頑張ったのもあって、この結果には薄く涙を浮かべる場面もあり大満足だった。


「うぉーっしゃーーっ!!1-9撃破!!」

「あはははっ!!かなりギリギリだったような気がするけどね~!」

「ホント、ホント。だって一年なのに総合2位でしょ?考えらんないよ!」

「だよね~。」


私たちは体育館での閉会式兼結果発表を終えて、教室へ戻る道中興奮が収まらなくて騒ぎまくっていた。


今日の打ち上げはさぞ盛り上がることだろう…


私はあまり表面上に嬉しさを出さず、微笑みながら嬉しさを噛みしめていたら、後ろから肩を叩かれて振り返った。


「あ、大輝。」

「おす。お疲れ。」


そこには女子から逃げて来たのか少し息の上がった大輝がいて、私はクラスメイト達の視線を感じた。


「総合一位おめでと。やっぱ、さすが三年だよな。」

「そっちこそ。一年で総合二位とか可愛くない後輩だよねぇ~。」

「いやいや、二日目のフラッシュモブとかマジでビックリしたよ。あんなの考え付かなかったって俺のクラスの参報が言ってたからさ。」

「参報?」


私は何かのゲームのキャラみたいなあだ名に目を丸くさせて訊きかえすと、大輝が嫌そうに顔を歪めた。


「女子で一人、やたらと仕切屋な奴がいてさ。球技大会もそいつが先導きってたんだけど、今回もそいつの発案で宣伝とかやってたから…。」

「あー!あのゲリラ的なやつって、その女の子の案だったんだ!!」

「そう。」


「は!?今の話何!?女子って、俺ら女子の策に踊らされてたのか!?」


私と大輝が話をしているところへ赤井君が割り込んできて、その横にあゆちゃんも一緒にやってきた。

大輝は赤井君とも面識があったので、「そうみたいっすね。」と敬語も忘れてため口をきいている。


「大輝君!そいつの名前、なんていうんだよ!これから体育祭もあるから要チェックしとかないと!」

「はぁ…。ただウルサイだけの女子なんだけど、チェックする意味あるっすか?」

「あるに決まってんだろ!?俺たち、前回といい今回もどれだけ苦労したかっ!!」


「そんなに苦労してくれたんだ?」


赤井君が悔しそうに拳を握り目ている所へ、透き通るような女の子の声がして、私たちは足を止めて振り返った。


「久しぶりだね。シュンちゃんに、タクちゃん。」


聞き慣れない呼び方をしたのは、背の高い私たちから見たら一際小柄な女の子で、クルンと内巻きにしたボブカットに睫毛の長い猫目が私たちに向いていた。


シュンちゃん?タクちゃん?


私はそういう名前の二人、赤井君と井坂君に目を向けると、二人はその子を見てぽかんとして固まっていた。


「えーっと…、誰だっけ?」


赤井君が誰だか思い出せないのか頭を掻きながら、困ったように井坂君と顔を見合わせている。

どうやら井坂君も赤井君と同じようで、気まずそうに彼女を見つめている。


すると彼女がふふっと可愛らしく笑って、二人の目の前までやって来た。


「やっぱり分からないよね。二人が中学に上がったときに、私引っ越しちゃったから。」

「引っ越しって…。え…、まさか…。」

「おい、赤井。誰か分かったのか?」


思い出したような赤井君に井坂君が尋ねて、彼女はその前で名乗る事もせず楽しそうに笑っている。


「いや、名前まで思い出せねーんだけど。小学校の頃、いただろ?俺らの登校班で、いっつも苛められてたチビで眼鏡の…。」

「登校班??」

「ほら!!俺らが神社でよくレクチャーしてやってたじゃん!強くなる方法!!」

「…………。………強くなる……。え……。まさか………。」



「「カンナ?」」



井坂君と赤井君が同時にそう口に出して、その子はニコッと微笑んで「正解。」と口にした。


「うっわ!!すっげー久しぶり!!何!?こっちに戻ってきてたわけ!?」

「はははっ!メガネどこやったんだよ?なんかすげー変わったな!」


「私だってもう16だよ?いつまでも小学生じゃないんだから、変わるに決まってるでしょ?シュンちゃんとタクちゃんは、すっごくおっきくなったよね~。私、この学校来て二人見てビックリしちゃった!」


「そりゃ、俺らだってもう18だし?背もでかくなるっつーか、カンナが背の成長止まったんじゃねぇの?なんだ、このチンチクリン!」

「チンチクリンなんて言わないでよ!!私、一応150cmあるんだから!!」

「嘘つけ!!どう見たって俺らと30㎝以上違うだろ!?正確な数字言ってみろよ!」

「シュンちゃんは相変わらず細かいなぁ~!!」


すぐ横で幼馴染トークを繰り広げられて、私とあゆちゃんは疎外感に見てるしかできない。


タクちゃんって…


私は井坂君が今までどんな女の子にも見せなかった素の顔を彼女には見せていることに気づいて、胸の中に薄黒いもやもやとした感情が生まれる。

私もあゆちゃんも仲の良さそうな三人に口を挟めなくて、ギュッと手を握りしめて我慢する。

すると、大輝がそんな私の気持ちを察してか、いつもの調子で空気を気にしない発言を投げかけた。


「井坂さんって、こいつと知り合いだったんですか?」

「あー、うん。小学生の頃の昔馴染みみたいなもんかな。中学入ってからは学校も違うから、人伝に引っ越したってのだけは聞いてたんだけど。」

「ひどいよね~。中学に入ったら、こっちには見向きもしないなんてさ。言いに行くのもバカらしくて、黙って引っ越しちゃったんだよね。」

「どっちがひどいんだかな?」

「シュンちゃんはうるさいっ!」


また仲良く三人で笑い出して、私は大輝のように口は挟めなくて、顔が引きつりそうになるのを堪えるのに必死だった。

井坂君も赤井君も私やあゆちゃんの方には目も向けてくれない。

それに更にモヤモヤと嫌な気持ちになっていると、彼女が私たちの方を向いてペコッと頭を下げて言った。


「初めまして。私、谷地君と同じクラスで、シュンちゃんやタクちゃんとは古い知り合いの深見環奈っていいます。」

「……大輝と同じクラスって…もしかして…。」


私がここでさっきまでの大輝の話を思い出してやっと言葉を発すると、彼女はニコッと微笑んでから挑戦的な目で私たちを射抜いてきた。


「はい。私、先輩だからって三年生に負けるつもりはさらさらないですから。体育祭でのリベンジ。覚悟しておいてくださいね。」


――――――参報!!


彼女の宣戦布告に私は大輝の話の女子が彼女のことだと分かって、この先嫌な予感しかしなかったのだった。







井坂、赤井の幼馴染登場です。

球技大会の辺りから出そうと思ってたのですが、やっと出せました。

深見環奈をよろしくお願いします。

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