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理系女子の恋  作者: 流音
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172、お説教


私が井坂君との甘い時間を満喫して二人で閉店した教室に戻ってくるなり、私は西門君に捕えられて4組まで連行された。

そして瀬川君とナナコの怒った顔の前に立たされ、不機嫌な西門君の横顔を盗み見た。


「みんな…どうしたの?」


私がいつもニコニコしてる幼馴染の不穏な空気にビクビクして尋ねると、一番に西門君から怒声が降ってきた。


「どうしたのじゃないだろ!?自分が何したのか分かってんのか!?」

「そうだよ!!西門君と瀬川君から話聞いたよ!?なんでまた寺崎なの!?」


ナナコは私の肩をガシッと掴むと訴えるように見つめてくる。


「寺崎って…僚介君のこと?私…そんな怒られるようなこと…。」

「しただろ!?このバカ!!どんだけ井坂君が焦ってたか!!」


「え…。」


私はここで西門君と瀬川君にも寺崎君と一緒にいたところを知られてると思い出した。


「えっと…、井坂君にはちゃんと説明して…謝ったよ?」

「謝ったって…っ!!このっ、天然バカ女!!!!」


西門君が珍しく思いっきり私の頭を叩いてきて、私は痛みと衝撃に目を瞑った。


「いったぁ…。」

「痛いのは当たり前だ!!しおはそんだけのことを井坂君にしたんだからな!?」


私が叩かれた頭を擦って西門君を見ると、西門君は怒り収まらぬようでこめかみに青筋が見えそうだった。


「そんな、思いっきり叩かなくったってさ…。井坂君にはちゃんと話もしたのに…。」

「しお。」


私が言い訳を並べようとすると、ナナコが軽くパシンと両頬を挟んできて、険しい顔で言った。


「僚介君と一緒に井坂君の前から消えて、井坂君を死ぬほど心配させたのはしおでしょ?」

「死ぬほどって…そんな大げさな…。」

「大げさじゃないよ。光汰と俺のとこに来た井坂君は顔が真っ白で血の気がなかった。この熱い炎天下の中で。これがどういうことか、説明しなくても分かるだろ?」


私に対して滅多に怒らない瀬川君まで、怒った顔で冷静に諭してくる。


そういえば…私の所にきた井坂君、すごくホッとした顔してた…

それだけ私の事心配で、一生懸命探してくれてたってことだよね…


私はさすがに自分のしたことが軽率だったと反省して、皆に謝った。


「ごめんなさい…。僚介君についていっちゃったこと…軽はずみだった…。皆に心配かけて…本当にごめんなさい…。」


私がしゅんとして謝ると、皆の怒りは少し落ち着いたのか空気が和らいだのを肌で感じた。


「しお…、井坂君にはちゃんと謝ったのよね?」

「うん。井坂君にはちゃんと説明して、謝ったよ。でも…そこまで心配させてたなんて思わなかったから…謝り足りないかもしれない…。井坂君、すぐ許してくれたから…。」


「井坂君は優しいからな!!」

「そんだけしおのこと信じてるんだろうな。ほんっと、井坂君ってしおバカだよなぁ…。」


瀬川君が自分のことのように偉そうに言うのに続いて、西門君が呆れながら言う。

二人がどれだけ井坂君のことを理解してるかは知らないけど、何だか腹が立ってくる…。


「本当、彼氏の鑑みたいな人だね。なんでそんな人が、しおがいいのかと疑っちゃうんだけど。」

「そうだな。」

「井坂君なら女子、より取り見取りだもんな!」


「ちょっと!それ、私に失礼じゃない!?」


三人が珍しく団結してるのに私がぶすっとして返すと、三人はそろって笑い出した。


「あははっ!冗談だって!でも、あんな好物件彼氏、失いたくなかったら、僚介君にフラフラしちゃダメだからね!?」

「そうだぞ。しおは井坂君に好かれてるからって、最近調子に乗り過ぎてる。」


「え!?!?」


「調子っていうか、安心しきってるんだよな。なんていうか、自分に何があっても井坂君は自分のことを許してくれるって余裕が見える。」


「ウソ!?余裕なんかないんだけど!!」


私がそんなバカな!!と目を白黒させていると、三人の話が誇大していく。


「片思いしてるときのしおの方が可愛げがあった。」

「あ、そうかも。しお、井坂君と話せるだけで顔輝かせてたもんな。」

「それが今じゃ、井坂君を振り回す余裕な女。女ってやっぱ怖いな~!」


「瀬川君!私、そんなんじゃないから!!」


瀬川君の言い方が妙に重みがあって、私は焦って言い返す。

瀬川君は女の子との接点も多いし、過去の事件からのトラウマもあるから、真に迫って聞こえる。


「しお、今は井坂君に他の女の影がないからって安心してるけど、これから先もそうとは限らないんだからね?いつまでも自分への気持ちが変わらないとタカくくってるとひどい目に合うんだから!」


これから先……


私はナナコの言葉についこの間のことを思い出した。


『俺、東聖を受験することに決めたんだ。』


あのとき胸に刺さった言葉―――――


当たり前に隣にいた存在が、急にいなくなってしまう


そんな想像をしてどれだけ怖かったか…


それを思い返して、私は体中の体温が冷えて外界の音がシャットアウトされた。

胸の痛みがズキズキとひどくなり、目から自然に涙が零れ落ちる。


イヤだ…


井坂君が傍からいなくなるなんて考えられない

あの笑顔が見れなくなるなんて、想像もしたくない




「……しお??」


さっきとは打って変わったナナコの心配する声が聞こえて、私はハッと我に返って慌てて涙を拭って笑顔を作った。


「ご…ごめんっ!なんでもない…。」


井坂君と泣かないって約束したのに、早速泣いてちゃダメだ!!


私はあの日した井坂君との約束を思い返して、泣いてたことを誤魔化すように精一杯笑った。


「たっ、確かにちょっと調子のってたかも!今後は井坂君を誰にも奪われないように、僚介君にきちんと断っておくよ。」


私が泣いた事を隠そうとしているのがナナコたちに伝わったのか、あえて追究せずに三人は笑顔を見せてくれる。


「そうだな。まずは寺崎にどういうつもりだったのかハッキリ聞くこと。予備校で一緒なんだろ?」

「うん。そこできっちり話しておくよ。」


「だったら、しおは寺崎の名前呼びを止めた方がいいかも。」


ナナコがスパッと言いきって、私と瀬川君、西門君の三人はその理由が分からなくてナナコを見つめた。

ナナコはふっと短く息を吐くと、私を指さして説明する。


「これはただの女の勘なんだけど、寺崎がしおに馴れ馴れしいのは、根底に昔のことがあるからだと思うのよね。」

「昔の事って…、しおが寺崎に告ったってやつか?」

「そう。自分は相手に好かれてるって分かってると、余裕が出てくるじゃない?井坂君に対するしおみたいに。」


また言ってる…


私は自分にそこまでの余裕なんてなかったので、皆の認識違いにムスッとした。


「そうか…、寺崎は谷地さんの自分に対する態度が昔と変わらなかったから、調子乗ってあんな大胆なこと…。」

「そう!彼氏の前から彼女を連れ去るなんて、相当なことがないとできないわよ!だから、まずは昔とは違うんだってとこを、名字で呼ぶことで壁を作る!!はい、しお!寺崎君って言ってみて!」


「え!?て…寺崎君?」

「はい、オッケー!!次からそうして呼べば、そうそう手出ししてこないでしょ!」


私はナナコの勢いに流されて名字で呼んでみて、この呼び方も意外としっくりくるな…と感じた。

ナナコは瀬川君と笑い合っていて、私は相当色々心配させてたんだと気づいて、申し訳なくなった。


ありがとう…ナナコ…


私は心の中でナナコにお礼を言うと、瀬川君と普通に話をして嬉しそうにしているナナコの背を押そうと、ナナコの腕にしがみついて瀬川君の方へ押した。


そうして二人を物理的にくっつけてドキドキ効果を狙おうとしたんだけど…

照れたナナコに力で押し負けて、後でこっぴどく怒られる羽目になってしまったのだった。





***





私が西門君と一緒に教室へ戻ってくると、井坂君が赤井君や島田君と何やら話をしながら待ってくれていて、私はガランとした教室に焦って駆け込んだ。


「ごめんっ!井坂君。もしかして待ってくれてた?」


「あ、詩織。もう瀬川たちとの話は終わったのか?」

「え…、なんでそれ知って…??」


私がナナコや瀬川君と話をしていたことを知っている井坂君に不思議に思っていると、井坂君は島田君や赤井君と目を合わせてから言った。


「俺らさっきまで藤ちゃんにこき使われててさ。そのとき、詩織が幼馴染たちと揉めてるのを見たんだ。」

「谷地さん、よく教室に顔見せにくる女子に怒鳴られてたよな~。」

「平謝りしてる谷地さんマジで面白かった!」


ナナコに怒られているときのことか…と分かると、恥ずかしい所を目撃されたもんだと顔が熱くなった。


「西門君も珍しく怒ってたよな?そんなに谷地さんに腹が立ったんだ?」


帰る準備をしていた西門君に赤井君が話しかけて、西門君は話しかけられたことに少し驚いているようだった。


「まぁ…、ちょっと今回のことには、さすがに僕も自分を抑えられなかったっていうか…。」

「へぇ?今回の事って、一体谷地さん何したんだよ~?」


ニヤニヤしながら赤井君が私に追及してきて、私は散々説教されたあとだったので口が裂けても言うもんかと口を噤んだ。

すると横で島田君が笑い出す。


「その様子じゃかなり絞られたみたいだな~。でも、ちゃんと叱ってくれる幼馴染って貴重だと思うぜ?」

「え?」


島田君が西門君にも目を向けながら、少し羨ましそうに言う。


「なかなか自分のしたことを真正面から怒ってくれる存在っていないからさ。俺は幼馴染って関係の二人がいいなって思う。それだけ信頼関係があるってことだもんな。」


信頼関係か…


私はちらっと西門君を見て、確かに島田君の言う通りだと納得した。


良くも悪くも自分にこうして面と向かって怒ってくれたり、助けてくれたりする存在っていうのは大事にしなきゃならない…


小さい頃から当たり前みたいに一緒にいたから、その大切さに気付かなかった


私はふっと頬を持ち上げると島田君に「そうだね。」と返してから、西門君に向かって「ありがとう。」とお礼を言った。

すると西門君が少し嬉しそうな顔をしてから、私の横に視線をずらして言った。


「井坂君。そんなに睨まなくても、しおに手を出したりしないから。」

「え?」


「「は!?」」


西門君の言葉にビックリして横にいた井坂君に目を向けると、井坂君は焦って顔を手で隠してから「睨んでない!!見てただけ!!見てただけだから!!」と焦っていて、私はそれがおかしくて笑ってしまった。

西門君は「じゃあね。」と言うと、サッサと教室を出て行って、その直後に赤井君と島田君が井坂君を茶化し始める。


「おっ前!!ほんっと、どこでもかしこでも嫉妬ばっかすんだからなぁ~!!」

「西門君はただの幼馴染だろ?幼馴染の信頼関係と彼氏彼女の信頼関係は違うだろうがよ~!」


「うっるさいな!!そんなんじゃねぇって言ってんだろ!?勝手に勘違いすんな!!」


井坂君がからかう赤井君と島田君を拳で小突き、それを発端に三人のじゃれ合いが始まる。


「やめろっ!こんにゃろ!!」

「うわっ!そこはやめっ!!」

「うわははははっ!!こしょばいって!!」


三人があまりにも楽しそうにじゃれ合うので、私はそれを見てずっと笑っていたのだった。







詩織、瀬川、ナナコ、西門の幼馴染メンバーの絡みでした。

井坂、幼馴染に嫉妬する―――は継続中です(笑)


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