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理系女子の恋  作者: 流音
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寄り道:対策会議

詩織の親友、小波あゆみ視点です。


文化祭一日目の営業が終わった後、私たちのクラスでは明日以降の営業に向けての対策会議が開かれていた。


「詩織、ごめんな?」

「もういいよ。その代わり、この写真ちょうだいね?」

「いいよ。他にも欲しいのあったら言ってくれよな。」

「いいの!?じゃあ、ちょっと確認させて。メモ取るから!!」


そう開かれていたはずなんだけど…

私たちは視界の端でイチャつきながらカメラを覗いているバカップルに注目してしまう。


「……あいつら、会議中だってこと忘れてるよな?」


島田が飽きれた様に目を細めて二人を見つめて言った。

それに同調するように何人かが頷く。


「なんだか最近バカップルぶりに拍車がかかってきた気がするのは俺だけか?」

「そんなことないよ。私もまさに今思ってたから。」

「俺も。」


「遠距離になることが変に絆固くしたのかな?」


島田や北野、マイがコソコソと話す横で私がボソッと言うと、皆の目が私に向いた。

それだと言わんばかりに全員が目を見開いている。


「それか!!」

「そうだよ!谷地さん一筋なあいつのことだ。離れる前にここぞとばかりにイチャついてるに違いない!!」

「だな。残り少ないからこそ見境なくなってんだろな…。」

「は~…、あの二人は何年経っても変わらなそう~…。」


マイが少し羨ましそうに詩織を見てぼやくと、文句を言っていた面々の口が閉じる。

そしてマイと同じようにイチャつく二人を見て、どこか穏やかに目を細めはじめる。


「まぁ、あの二人はこのままがいいよな。」

「そうだな。ま、俺らが大人になって大目に見てやろうぜ?」

「ははっ!!そうするか!!」


う~ん…皆、寛大になったもんだなぁ~…

これはやっぱり慣れだよね?


私は昔だったら絶対邪魔しに入っていただろう面々を見て、ふっと笑みが漏れた。


まぁ、私たちも遠距離っていうのが分からない立場でもないもんね…


私は井坂や詩織を放っておいて、サッサと今日の話し合いに入ろうと赤井に目を向けたんだけど、当の赤井は井坂の真横に移動するなり、井坂の頬をつねり出した。


「おい。今は会議中だ。そういうのは帰ってからやれ!!」

「あだだだだっ!!!わにすんあよっ!!!」


大人になれないのが一人いた…


私はもう見慣れた光景にため息をつくと、あわあわと焦っている詩織の横へ移動した。


「赤井。もうやめなって。それより早く1-9対策の話進めないと、帰る時間どんどん遅くなるよ。」


私が宥めると赤井はあっさり井坂に絡むのをやめて、「それもそうか。」と井坂からみんなへ目を移した。

井坂はつねられた頬を抑えながら「ふざけんなっ!」と怒鳴っていて、詩織は「ごめん。私のせいだね…。」と井坂に対して謝る。

けれど井坂は詩織には優しいもので、「詩織のせいじゃねぇよ。」となんとも嬉しそうな笑顔を詩織に向ける。


あーあ…、ったくバカップルなんだから…


私は少し羨ましいと思いながらも、二人にしてあげると話し合いの輪に向かった。


するとそこでは赤井が腕を組んで唸っていて、周りの面々の顔も険しく歪んでいた。

どこで話が止まってるのかと様子を窺う。


「1-9は廊下や中庭でパフォーマンスしてたんだろ?」

「あぁ。俺が見たのは、寸劇の一部っぽいCMを中庭でやってた。背中にご丁寧に宣伝貼り付けてアピールしながらな。」

「『御用だー!』って言いながら廊下走ってるのも見たよ。」

「あ、それ。すごい効果だったよね。廊下にいた人がゾロゾロとアレどこでやってんの?って興味津々だったし。」

「そうそう。詩織の弟君が宣伝してるから、女子の集客半端ないはずだよ。」


皆の話を聞き、赤井の顔がどんどん険しく歪む。

そして口をグッとへの字に曲げて、考え込んでいるのが見て取れた。


「アレに今から対抗しようとなると、かなりインパクトのあることやらないといけないんじゃねぇ?」

「だよな。着ぐるみ着て練り歩くか?」

「なんだそれ!!俺らのカフェに何の関わりもねぇじゃん!!」

「だって、インパクトでいうと着ぐるみって効果ありそうじゃん?」

「まぁ、そりゃそうかもしれねぇけどさぁ~。」


あちこちからため息が漏れだして、いい案が浮かばないのを感じ取り、私は何か打開する案はないかと考えた。


インパクトのある宣伝方法か…

1-9が廊下や中庭で宣伝してるのに張り合うとなると、同じ環境下でやるのが一番手っ取り早いよね

だけど寸劇や漫才じゃ1-9と同じでインパクトないし…

もっと派手で目を引くような…


私はここでふとあるテレビ番組でやってたことを口にした。


「フラッシュモブ…。」


「え??小波、なんか言った?」


私はこれしかない!!と自分の思い付きを信じて、皆の前で声を上げた。


「この間、テレビでやってたの!!フラッシュモブっていう、たくさん人がいる雑踏の中から、こうダンサーが出てきて、街中を舞台に踊り出すやつ!!やってたのはプロポーズが何かだったんだけど…。そこを宣伝に変えて…、校内放送を使わせてもらって音楽を流せば…私たちにもできるんじゃないかな!!」


「あ、それ。私もテレビで見たことある!!普通の通行人が急に踊り出す奴だよね?」

「そう!それ!!」


マイも知っていたようで、私はマイと二人で分からないメンバーに訴えた。


「普通に隣を歩いていた人が流れ始めた音楽に合わせて踊り出したら、誰でもビックリするでしょ?人目も引くし、一回やるだけでも十分宣伝になると思う。」

「うん。あれなら1-9のゲリラ寸劇より効果あると思うよ!!」


「……イマイチどういうものなのか想像できないけど、そんなに良い宣伝方法なのか?」

「これ以上のものはないと思うよ!!」


赤井の問いに私とマイが自信満々に頷くと、赤井が島田や北野と顔を見合わせた。


やっぱりどういうものなのか実際目にしないと理解してもらえないよね…


私は何か良い方法がないかと考え込んでいると、教室の扉の開く音と共に長澤君の声が聞こえた。


「藤浪先生からパソコン借りてきた。これで実際にどういうのか見てみればいいんじゃないかな?」


私たちはあまりにもナイスなタイミングでパソコンを手に現れた長澤君を見てポカンとした。

長澤君は私たちが黙りこくっているので、「何?」と不思議そうに顔をしかめる。


「何って…、長澤。ナイスタイミングなんだけど。俺らの心でも読んでたわけ?」

「そんなわけないじゃん。ネタ考えるのに情報源あった方がいいかなって思っただけで…。まさか先にネタが出てくるとは思わなかったけど。」

「それでも、パソコン持ってくるなんて…やっぱ、頭の良い奴は違うな!!なんつーか、目の付け所が違うっていうか…、頭の回転が速いっていうか!!」

「そうだよ!!俺、パソコンなんて思いつきもしなかったしな!」


男性陣が長澤君をベタ褒めし始めて、長澤君は照れたのか少し頬を赤く染めながら話し合いの中心にパソコンを置いた。

そして手慣れた様子でキーボードを操作しながら「フラッシュモブの動画すぐ出ると思うけど…。」と話を戻そうとしている。


長澤君って褒められるのに弱いんだ…

なんか可愛いな…


私は彼の意外な一面に笑ってしまいそうになるのを堪えると、いまだ長澤君を褒めて盛り上がる面々と一緒にパソコンの画面を見つめる。

長澤君は簡単にフラッシュモブの動画を出すと、画面の前から退いて集まりの後ろから同じように動画を見た。

皆は動画が始まると静かになって食い入るように見つめて、時折「なるほど…。」と誰かの呟く声が聞こえた。


「これさ…やるのはいいけど、練習しないと難しいんじゃねぇの?」


島田が顎をさすりながら言った言葉に、動画に目を向けていた皆の視線が島田に集まる。


「確かに小波の言う通り、人目も集めるし宣伝効果はあると思うよ。でもさ、ちゃんとしたモノってのが大前提だろ?二年のパフォーマンスだってさ、夏休みの期間使って練習したわけじゃん?それと同等のものをたった一日も時間のない中やるのは無謀すぎると思うんだけど。」


去年パフォーマンスの中心を担ってた島田からの厳しい意見に、少し乗り気になりかけていた皆の気持ちが下がっていくのが空気で伝わってきた。

私も正論を言われて、動画と同等の仕上がりのものは今からじゃ難しいだろうと思い口を閉じる。


すると今まで黙り込んでいた赤井がパソコンを閉じて、いつものように明るい表情を見せた。


「それはこれと同等のレベルをするならって話だろ?」

「……??どういうことだよ?」


赤井が皆と真逆の前向きな笑顔で言った言葉に、私は期待の目を向けてしまう。

それは皆も同じようで、じっと赤井を見て次の言葉を待っている。


「俺らがやりたいのはフラッシュモブじゃなくて、あくまでこのリラクゼーションサロンの宣伝だろ?だったら、ダンスを難しくする必要はないじゃん?」

「……難しくする必要ないってどういう事だよ?」


「だから、俺らがここの衣装着て、音楽に合わせて簡単なステップだけとかのダンスでアピールさえできればいいんだよ。衣装にはこれでもかって時間をかけて作ってるわけだし、衣装着て練り歩くだけでも効果あるのにダンスすんだぜ?集客効果あるに決まってんじゃん!!」


赤井に自信満々に言われて、私たちはできるかもしれないという気持ちが芽生え始める。


「…確かに。執事やメイドの衣装に、仮面までしてるわけだし…激しいダンスなんか最初から無理だもんな。足のステップと簡単なフォーメーションで済むようにすれば…何とか間に合うか…。」


島田はもうダンスの構成が頭の中ででき始めているのか、さっきの否定的な姿勢とは打って変わって生き生きと目を輝かせ始める。

すると赤井が島田の肩を叩きながら嬉しそうに言う。


「俺もフォーメーションとか考えるの手伝うからさ、なんとか明日に間に合うようにできるか?」

「やるだけやってみるか…。1~2分ぐらいの短いものならなんとかできるだろ。」


島田から出た『やる』という返答に赤井が満面の笑みで拳を作った。

それを合図にするように皆もやる方向へ気持ちが固まり、ざわざわと騒ぎ始める。


でも、次に出た島田の言葉に皆の顔が変わった。


「ダンスが決まり次第、皆には練習してもらうから、今晩は寝ないで練習な。各自、今すぐ親の了承もらってくれよ?」


………えーっと…それは今夜は帰れないってことかな…??


私は横にいたマイと顔を見合わせると、顔を引きつらせることになったのだった。










長澤君が地味に目立ってる回でした。

フラッシュモブ宣伝がどうなるかは次話以降にて。

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