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理系女子の恋  作者: 流音
174/246

166、邪魔者たち

井坂視点です。


詩織とのラブラブお家デートが流れて一週間…

文化祭が明日と迫った日、俺は詩織とイチャつこうとするとありとあらゆる邪魔が入りイライラしていた。


詩織と準備を抜け出そうとすると、赤井か小波のどちらかがやってきて俺たちを引き離す。

詩織は今まで手伝ってなかった罪悪感もあるから、素直に二人に従ってしまう。

というか…あまり俺とそういう雰囲気にならなくてもへっちゃらなのか、今も黙々と準備を手伝って生き生きとしているぐらいだ。

俺はそんな詩織を見ていると、別にいいか…という気にもなるんだけど、せっかく思い悩んでいたことを詩織に打ち明けてスッキリしたのに、この状況はないと一人気分が悪い。


「おい、黙って仏頂面してるなら、体動かして手伝えよ。」


俺がムスッとして詩織を見ていたのがバレたのか、島田が文句を言ってきて、俺はため息をつくと立ち上がった。


「へいへい。」


俺はそのままの足で詩織の所へ向かうと、詩織を手伝うという口実を作ってイチャつこうと教室の飾りつけをしていた詩織の後ろから声をかけた。


「詩織、俺が代わるよ。」

「え、あ。井坂君。私の所は大丈夫だよ?他に手の足りないところがあるかもしれないし…。」

「いいから。代わって。」


俺は一緒にいたいという気持ちを分かってくれない詩織に苛立って、ムスッとした。

詩織は遠慮していたけど、俺の苛立ちを感じ取ったのか微笑んで、のっていた椅子から下りてくる。

そのときに手を貸すと詩織が少し頬を赤く染めながら「王子様みたいだね。」と呟いて、俺は照れ臭くて少し顔を背けた。


やっぱ、詩織の傍が一番だ…


こんなちょっとしたやり取りでも幸せな気持ちになって、俺は詩織の手を一度ギュッと力を入れて握ってから詩織ののっていた椅子に入れ替わった。

そして振り返って詩織に手を伸ばす。


「それ、取って。」

「あ、うん。はい。」


さっきまで詩織が飾り付けていた造花を詩織から受け取ると、俺はそれをカーテンレールに巻き付けていく。

そうして二つ、三つと共同作業で進めていると、自分のつけた造花のバランスが悪い気がして、後ろにいる詩織に声をかけた。


「詩織、俺がつけた花、なんか曲がってねぇ?そっから見てどう?」

「う~ん…。そうだなぁ…。雑なお前にしてはマシについてる気がするけど、ちょっと曲がってるかもなぁ…。」


―――――ん!?


俺は急に背後から聞こえた低い声に驚いて振り返ると、そこには詩織じゃなくて北野が腕を組んで立っていた。


「あれ!?詩織は!?」


俺がさっきまでいた詩織がいないことに教室を見回すと、北野がふっと息を吐き出して口元を隠しながら笑う。


「さっき小波さんが谷地さんのこと呼んでたから、化Ⅰ室に行ってもらった。」

「はぁ~!?」


俺はまた小波か!!と思って、詩織との時間を邪魔されたことに苛立った。

化Ⅰ室とは化学実験室の隣の空き教室のことで、女子が着替えに使っている。

だからそこに行ったとなると、明日の衣装の最終確認だと分かるけど、よりにもよって俺と共同作業してる時間を邪魔しなくたっていいと思う!


俺は一気に飾りつけのやる気をなくすと、北野にバトンタッチしようと手を伸ばす。


「俺、こういう細かいのやっぱ面倒くさい。北野、チェンジ。」

「はぁ?お前の方が背、高いんだからやれよ~!俺だって暇じゃねーんだから。」

「えー!?お前もちょっと曲がってるとか言っただろ!?俺、こういうの向いてねぇんだって!」

「だったら、そういうバランスにうるさい奴、相方につけてやるよ。」

「は!?そんなんいらねぇし!!」


俺がやりたくないだけだ!!と思いながら反論していると、北野が長澤君を呼んで、俺は一気にこの場から逃げ出したくなった。

北野は「よろしくな。」と言い残すと、俺と長澤君を残してさっさとどこかへ行ってしまう。


長澤君はメガネを少し指で持ち上げると、置いてあった造花を俺に渡してくる。

俺はそれを受け取るしかなく「サンキュ。」とだけ言って、背を向けさっきと同じ要領で造花を巻き付けていく。


でもその空気たるや、詩織のときとは息苦しさが違って、俺はだらだらと変な汗が背を伝った。


なんでこんな緊張すんだよ…

あ、そーか。あんまり二人で話したこともねーし…

ましてやこんな風に二人で作業するとか初めてだからだ


俺は心の中で俺と長澤君の関係を分析する。


すると後ろから長澤君が話しかけてきた。


「井坂君。東聖受けるって本当?」

「――――へ!?…あ、誰かから聞いたとか?…まぁ、一応…そうだけど…。」


俺が造花を受け取るついでに振り返って答えると、長澤君はじっと俺を見つめて言った。


「まぁ、狭いクラスだからね…。誰かが話してると自然と耳に入るんだ。でも、東聖なんて…よくそんなレベルの高いとこ受けようと思ったね。予備校とか塾にも行ってないんだろ?」

「東聖は…俺の学びたい教授がいるから行こうと思っただけで…。本当は西皇に行こうと思ってたから…。予備校も塾も…なんていうか、今更だしさ…。」


俺は長澤君と進路の話をしてることが不思議で、何度も顔色を窺いながら口にした。

長澤君は俺からスッと目を逸らすと「すごいね…。」とだけ言い、飾りを指さしてきた。


「あれ、少し斜めに曲がってるよ。」

「あ、あぁ。悪い。」


俺は指摘された飾りの向きを変えるために、また長澤君に背を向ける。

すると、後ろから長澤君が独り言のように呟くのが聞こえてきた。


「井坂君はいいね…。欲しいもの何でも手に入ってさ…。」


……欲しいもの…??


俺が曲がってた飾りを直して振り返ると、長澤君はまた次の飾りを手渡してきた。

それが今のことを追及するなと言われてるようで、俺は『欲しいもの』のことを聞くことができなかったのだった。



そうして長澤君との連携でなんとか教室の端まで飾りをつけおえると、ちょうど教室に小波たちが戻ってきて教室がざわめいた。


なんと小波たち接客女子が明日の衣装姿で教室へ戻ってきたからだ。

小波と新木、それに篠原が入り口に見える。


「どう、どう?スカート丈とか男子的に見て、良い感じ?お客さん増えそう?」


小波がニコニコと笑いながら赤井に駆け寄りながら尋ねて、教室内にいた男子の目が小波に集まる。


「いいんじゃねぇ?俺的にはもう少し短くてもいいかなと思うけど。ま、あまり短すぎると心配だしな。」

「何それ!!照れるでしょ!!」


小波と赤井が夫婦漫才のようにやっていると、教室の扉がガタッと揺れる音がして、そこにメイド衣装姿の水谷と制服姿の八牧が誰かと揉めてるのが見えた。


「ほんっとに無理だから!!明日でいいよ!明日で!!」

「ここまで来て悪あがきしない!!ちょっと見せて感想聞くだけなんだから!」

「そうそう!ゆずももう諦めなって!」

「ダメだってば~!!恥ずかしくて無理~!!」


どうやら声から判断するに千葉さんと詩織っぽいんだけど、余程教室に入りたくないのか八牧と水谷が入り口で踏ん張っている。

俺が手伝いにでも行こうかと足を入り口に進めたとき、「いい加減にしろっ!!」と福田さんの声がしてメイド服姿の詩織と千葉さんがつまずきながら教室に飛び込んできた。


詩織はこけるのを何とか堪えると、焦って顔を上げて俺と目が合うなり真っ赤になってしまった。


俺はというと詩織のいつもと違う姿に唖然として、上から下まで確認するように見たあと、カッと顔に熱が集まって口元を手で隠す。


やっべ!!思わず見惚れた!!

すっげー可愛い…


俺は詩織のフリフリスカートに黒の太ももまである靴下(?)の辺りに注目してしまって、サッと視線を逸らした。

なんだかいけないものを見てる気分になったからだ…


詩織は恥ずかしいのかスカートの裾を引っ張りながら、真っ赤な顔で目を泳がせていて、周囲から「おぉ…。」とか「やっぱなぁ…。」という小さな感想が聞こえ始める。


俺はそこでハッと我に返り、慌てて詩織に駆け寄ると姿を隠そうと詩織の前に仁王立ちした。

そして教室内にいた男子共に睨みをきかせる。

すると何人かは目を逸らしてさっきまでやっていた作業に戻っていき、あとは詩織以外の女子に目を向けていき少し警戒を緩める。


ったく、人の彼女ジロジロ見んなっつの…


俺がふっと息を吐いて腕を組むと、後ろからシャツをツンツンと引っ張られ、俺は顔だけで振り返った。


「これ…どうかな?似合ってる?」


詩織が二つくくりという珍しい髪型の上に、上目づかいで小首を傾げて訊いてきて、俺はその可愛さに直視できずに視線を逸らして大げさに声を上げた。


「に、似合ってるよ!すげー…似合ってる…。うん…。…持って帰りたいぐらい可愛い…。」


俺が顔が熱くなるのを我慢しながら告げると、詩織がはにかむように笑った。


「嬉しい…。でも、ちょっと照れる…。えへへっ…。」


詩織が真っ赤な顔で笑うのにつられて、俺も笑顔になる。

お互い顔が真っ赤に照れるて笑い合ってるなんて、傍から見たらおかしな光景だろう…

でも、このとき俺は詩織しか目に入ってなくて、照れて笑う詩織を独り占めしてる気分だった。


それこそ、ここには俺と詩織しかいないような錯覚を起こすぐらいの幸せを感じていたんだけど、そんな時間は長く続かず無粋な声に俺のスウィートタイムはあっけなく終わりを迎えた。


「男子も着替えてきてよ。そんで一緒に最終チェックしよ!!今なら化Ⅰ空いてるからさ!!」

「お、それいいな!!おい、接客担当メンバー着替えに行くぞー!!」


赤井が元気に声を張り上げて一番に教室を出て行き、俺は傍を通った島田に声をかけられた。


「おい!お前も接客だろ!?着替えに行くぞ!」

「………俺はあとでいい。」


俺はこんなに可愛い詩織を教室に残していけなくて、そう告げた。

でも、島田は俺の気持ちも知らずに俺の腕を引っ張ってくる。


「我が儘言うなよ!!帰んのが遅くなるだろ!?」

「俺は早着替えできんだから、後でも充分なんだよ!!」

「はぁ!?だったら今サッサと着替えればいいだろ!!」

「じゃあ、ここで着替える!!」

「はぁぁぁ!?!?もう、意味の分かんねぇこと言うんじゃねぇ!!」


意味の分かんねぇことじゃねぇし!!

俺という詩織のガードマンがいなくなったら、詩織が野蛮な男子の目に晒されることになんだぞ!?

そんなの我慢できるか!!


俺は口には出せない、詩織の身の危険を自分が守らないとと意地になる。

でも俺には邪魔者だらけで、最終ブチ切れた小波に背中をど突かれる。


「なに往生際悪いことやってんの!?早く確認したいんだから、サッサと行け!!バカ!!」


小波のど突きは女と思えない程、俺の背中に抉るような衝撃を与えて、俺がフラついているところを島田に連行された。


いっつ!!あいつ、手加減ってもんを知らねぇだろ!?


俺は涙目になりながら小波を睨むと、俺は詩織の身の安全をなんとか確保したくて、教室を出るときに八牧に「詩織を頼む。」と目で訴えた。

なぜなら、俺の中では女子の中で八牧が一番詩織を守ってくれそうだと思ったからだ。


俺は心の中で頼むぞー!!と八牧に願うと、化Ⅰに連れてこられるなり、素早く早着替えを実行した。


執事の衣装は去年一回着てるから、着方は分かっている。

俺はクラスの女子がアレンジしただろう燕尾服を身に着けると、革靴に履き替え身だしなみを整えないまま化Ⅰ室を飛び出した。

そして勢いよく教室に駆け込むと、詩織の姿を探す。


詩織はさっきと変わらない場所で八牧と何か話をしていて、俺は八牧がさり気なくガードしてくれていたと安堵した。


詩織は駈け込んで来た俺に気づくと、目を丸くさせてから慌てて駆け寄ってくる。


「井坂君!襟、曲がってるよ?すごくカッコいいのに、なんだか皺になってるところもあるし…。ボタンもかけ間違えてるよ?一体どうしたの?」


詩織が俺の襟を直してくれながら苦笑しながら言って、俺は掛け違えたボタンを直しながら答える。


「ちょっと慌てて着替えてさ…。」

「??それって、さっき言ってた早着替えがどーのっていう?」

「まぁ…そんなとこかな…。」


俺が詩織が心配で慌ててたとは言えずに誤魔化すと、詩織は目を細めるとクスクスと笑い出す。


「ほんとに早かったからビックリしちゃった。それに、この姿…去年みたいで…すごくカッコいい…。」


カッコいい…


俺は詩織に褒められたことに照れて頬が熱くなる。


さっきも一回聞いたような気もするけど、詩織にこんなに嬉しそうに言われたら、俺だってすごく嬉しい。


そうして俺が身だしなみを整えながら詩織に照れ笑いを返していると、横に八牧がやって来た。


「そうして衣装そろえてると、二人すごくお似合いだよ。二人とも背が高いからモデルみたいだしね。」

「タッ、タカさん!モデルは言い過ぎだよ!!井坂君はともかく私はそんな柄じゃないし…。」


詩織が照れてるのか頬を手で抑えながら八牧に必死に訴えていて、その姿がなんとも言えず可愛い。

八牧はわざとなのか詩織を見てケラケラと笑いながら、ケータイを取り出す。


「謙遜しないの!写真撮ってあげるから。しおりん、ツーショット写真欲しいっていつも言ってたでしょ?」

「タッ、タカさん!!」


詩織は俺にツーショット写真欲しいと言ってたというのを聞かれたくなかったのか、八牧の口を押えてから恥ずかしそうに俺を見る。


これは…俺がどう思ってるのか窺ってるんだよな…?


俺は写真なんてどうってことないので、普通に返した。


「いいよ。八牧、写真撮ってくれよ。そんで、その画像俺と詩織のケータイに送ってくれ。」


俺がそう言うと、詩織は八牧から離れてキラキラと目を輝かせ始める。

そんな分かりやすい表情に俺が笑いを堪えると、八牧がこっちにケータイを向けて言った。


「はーい。じゃあ、撮るよ。これ、全体が入る方がいいの?それともアップ??」

「アップで!!」


詩織は八牧の問いに即答すると、俺の横に並んで髪を整えている。

俺もそれに倣って少し髪をかき上げて執事っぽくしておくと、八牧が「もっとくっついてくんないとアップ撮れない!」と言うので俺は詩織の肩を掴んで顔を近づけた。


すると詩織がコチンと緊張してるのが伝わってきて、俺はおかしくて自然と笑みが漏れた。


いつももっとくっついたりしてるのに、変なとこで恥ずかしがり屋だよなぁ~


八牧が「OK!!いくよ~!」と言ったのに反応して、俺はピースしてケータイに目を向けた。

直後カシャと音がして、八牧が俺たちに撮った画像を見せてくれる。


「どう?これでいい?」


ケータイに写った俺たちは頬が赤く染まっていて、まるで付き合いたてのカップルのようだった。

でも、俺も詩織も嬉しそうな顔でピースしていて、画面越しでも幸せだというのが伝わってくる。

俺はこの写真に大満足で「いいよ。サンキュ。」と返して詩織を見た。


詩織はというと、撮った写真よりも嬉しそうな顔で画面を食い入るように見ていて、よほど気に入ったのが伝わってきた。


そういえば去年も二人で撮った写真握りしめて嬉しそうにしてたもんな…


俺は去年の文化祭のことを思い返して、今年は去年よりもたくさん写真を撮る事をこのときに決めた。



それからは他の接客担当メンバーとせっかくだからと集合写真を撮り準備がストップしてしまい、結局、前日準備は遅くまで続くことになってしまったのだった。










とうとう高校最後の文化祭の始まりです。

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