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理系女子の恋  作者: 流音
169/246

161、様子が変


私はあゆちゃんと赤井君、新木さんと北野君がそれぞれ進学したら遠距離なるという事実にかなりショックを受けていた。

まるで自分のことのように考えてしまって、私は怖くて堪らなかった。

それは井坂君も同じだったのか、聞いた日は様子がおかしくて言葉よりもスキンシップを求めてるようだった。


井坂君にとっても大事な友達の二人だもんね…


私はあゆちゃんや新木さんの力になれるよう、自分ももっとしっかりしないと!!と予備校でガリガリと問題集に向かう。


すると、最近は定位置と化している、隣の僚介君が問題を解いていた手を止めて私を方を覗き込んできた。


「気合入ってんなー。入試まであと一週間だっけ?」

「うん。せっかく推薦もらえたんだからここで合格もぎ取らないとね。」

「ははっ!その勢いならもぎ取れるよ、きっと。」

「そうかな?」


私は誰かにそう言ってもらえると自信につながって更にやる気が出た。


「俺も詩織見習って気合入れねーとな~。一応安全圏にはいるけど、気抜いたら落ちるもんな。」

「そっか、僚介君。西皇、安全圏なんだね。すごいなぁ~。」

「そうでもねぇよ。詩織の彼氏も余裕なんだろ?」

「うん。前の模試はA判定だって言ってた。」

「さすが。予備校にも行かねーですげーよな。」


僚介君は「俺も頑張ろ。」と言うと、問題集に目を戻した。

私は僚介君の動き出した手を見て、井坂君が僚介君のように勉強を頑張っているのを思い出した。


西皇A判定なのに、最近よく勉強してるよね…

井坂君の性格だったら、余裕だって言って少しぐらいサボってそうなのに


私はこのとき初めて井坂君の様子が変だと気づいて、少し嫌な予感が脳裏をかすめたのだった。





***





そうして夏期講習があっという間に終わり、推薦入試を明日に控えた二学期初日。

私はいつも待ち合わせてる場所に井坂君がいて、ほっと安堵のため息をついた。


やっぱり様子が変だなんて思い違いだよね


井坂君は私に気づくといつもと変わらない笑顔を浮かべて手を挙げて、私は駆け寄ると「おはよう!」と明るく挨拶した。


「はよ。今日からまた学校だな~。」

「そうだね。久々の制服新鮮かも。」

「だな。」


すると井坂君はじっと私を見つめてきて、私は見つめられてる事に照れながら首を傾げた。

それを見ていた井坂君がクシャっと顔を緩める。


「何?どうしたの?」

「いや、詩織だな~と思ってさ。」

「うん…?詩織だけど…??」


私がよく分からなくて目を瞬かせていると、井坂君が息をぶはっと吹きだして笑い出した。

何がそんなに面白いのか、私にはさっぱり分からない。

井坂君は私が笑う理由を聞いても答えてくれなくて、結局学校に着いてもずっと笑っていた。


井坂君ってたまによく分からないなぁ…


私は自分の席で鞄を下ろすと、ふっとため息をつく。

するとそこへ赤井君がやってきて挨拶をした後に言った。


「谷地さん。明日だけどさ、一緒に大学まで行かねぇ?」

「明日って…、あぁ!推薦入試だね。うん、いいよ。駅で待ち合わせする?」

「おう。それでいいよ。じゃあ、朝…六時ぐらいかな。駅で待ち合わせで。」

「分かった。六時に駅で。」


私は笑顔で約束すると、頭に六時と刻み付けた。

関西までは乗り継いでも一時間半ぐらいで行ける。

新幹線って意外と早いんだと調べてみて知った。


こうして明日のことを思うと少し緊張してくるけど、今も教室には井坂君の大きな笑い声が響いていて、やけに上機嫌なのが気になって緊張がどこかへ吹っ飛ぶ。


やっぱりどこか変な気がするんだけど…


私は井坂君の笑顔がどこかカラ元気に見えて、じっと見つめてしまう。

するとあゆちゃんがからかいにやって来て、私は遊ばれないように明日赤井君と一緒に行くことをネタに言い返した。

あゆちゃんはそれに素直な嫉妬を示して、私はからかいよりもひどく絡まれることとなったのだった。





***





昼休み―――――


私は赤井君と一緒に進路相談室に呼び出されて、藤浪先生を目の前にしていた。

藤浪先生はどうやら明日の激励をしてくれるようで、気をつけることを淡々と続ける。

それを赤井君と二人で頷きながら聞いていると、藤浪先生は言い終えたのか言葉を切ったあとにふぅと大きく息を吐いた。

そして優しげに目を細めて言う。


「お前らならきっと大丈夫だ。担任の俺が保証してやる。今までやってきたことを全部ぶつけて来い!!」

「はい。」「はい。」


私と赤井君のはっきりした返事を聞いて、藤浪先生は満足そうに頷いたけど、今度は心配そうに身を乗り出してきた。


「くれぐれも道中には気をつけるんだぞ。必ず二人で行動すること。赤井、自分の彼女じゃないからって谷地を放って行くなよ。」

「そんなことしませんよ。もしそんなことしたら小波にも井坂にもど突かれるだけじゃ済みません。」

「ははは!!そうだな。お前は責任感ある奴だから、頼りにしてるよ。」

「え。先生、俺のことただのおちゃらけた奴だと思ってなかったんですね?」

「バカにするなよ。何年お前らの担任やってると思ってる。赤井が誰よりもクラスメイトを大切にする奴だってのは分かってるよ。」


先生が真面目に返した言葉に赤井君は照れ臭いのか、頭の後ろに手を回してから「褒めても何にも出ませんよ~。」と軽く流している。

先生はそんな赤井君を見て笑いながら、今度は私に目を向けた。


「谷地。こんな奴だけど、きっと井坂みたいに頼りになるから遠慮するなよ?道中は赤井から離れない事。約束してくれるな?」

「はい。分かりました。」


私は藤浪先生が私たちの関係図を熟知してることに苦笑いしながらも、先生のいう事に従おうと頷いた。

すると椅子をカタンカタンと揺らしていた赤井君が立ち上がった。


「藤ちゃん、言いたいのはそんだけだろ?教室戻ってもいいよな。」

「あぁ。わざわざ呼び出して悪かったな。良い報告待ってるからな。」

「はいはい。谷地さんとダブルの合格通知、期待すればいいよ。」


赤井君が自信満々に言ってのけて、先生は呆れてから「お前って奴は…。」とぼやいて頭を抱えた。

私はそんな先生を横目に赤井君と二人で「失礼しましたー。」と進路指導室を後にした。


すると廊下をしばらく歩いたところで赤井君が楽しそうに笑いながら言った。


「藤ちゃんも心配性だよな~?あんなダラダラ長ったらしい事注意するなんてさ。」

「あはは。私たちが受験一番手だから、先生も気を張ってるんだよ。」

「そうかもしれないけどさ~。大学までの道中の心配なんて小学生じゃないっつの。」

「まぁ、確かにね~。なんだかお父さんみたいだったよね。」

「だよな!?俺、親父を前にしてる気分だった!あー!!帰ってからもまた同じこと言われるんだろうな~!」


赤井君が嫌そうに顔を歪めて言って、私はそんな赤井君に笑ってしまう。

そうして二人でなんやかんやと藤浪先生の話で盛り上がりながら教室の傍まで戻ってくると、ふと視線を感じて目を前に戻すと、井坂君が立ち尽くしているのに気付いた。


「あ、井坂君。」


私が廊下の真ん中で立ち止まってる井坂君に手を振ると、赤井君も井坂君に気づいて「おう井坂!」と声をかけた。

でも井坂君は反応を見せなくて、大きく目を見開いたまま固まっている。


私はどうしたのかと思って赤井君と顔を見合わせると井坂君に駆け寄った。


「井坂君、大丈夫?」

「お~い、井坂。どうしたんだ?」


私と赤井君が同じように井坂君の顔を覗き込むと、井坂君はハッと我に返ったように身体をビクつかせ、なぜか赤井君だけを片手でドンッと押した。

赤井君は数歩たたらを踏んで後ろに下がると、ビックリしたように井坂君を見つめる。


「あ、悪い。」


井坂君は無意識に赤井君を押したようで、赤井君から視線を下に向けると謝った。

赤井君はそんな井坂君を見て何か感じ取ったのか、いつものようにヘラッと笑うと「変な奴だな~。」と茶化しながら教室へ入っていった。

私は井坂君と残され、少し俯いている井坂君を見つめて胸が騒ぐ。


やっぱり変だ…


私は井坂君が何を考えてるのか知りたくて、少しかがんで井坂君の顔を覗き込むと声をかけた。


「井坂君、どうしたの?」


井坂君は私と目を合わせると、ギュッと口を引き結んでから私の手を握ってきた。

私は井坂君の手がすごく冷たいことに驚いて、胸のざわめきが大きくなった。

井坂君の考えてることが知りたくて仕方なくて、冷たい手を温めるように両手で握る。


「井坂君、本当にどうしたの?私…頼りにならないかもだけど、話聞くよ?何か悩んでるなら力になりたい。」


私が精一杯訴えると、井坂君はギュッと眉間に皺を寄せてからやっと重い口を開いた。


「じゃあ、学校終わるまでずっと一緒にいてくれ…。」

「え?ず、ずっとって…授業は…?」

「今日、始業式だからあと大掃除とLHRだけだろ?」


あ、そっか…


私は井坂君の様子が変なことに頭いっぱいで、今日の時間割がすっ飛んでいた。


「で、でも。大掃除サボるわけには…。」

「詩織。」


私が皆に迷惑かけると言いかけた所で、井坂君が強めの声で私の名前を呼んで、少し潤んだ瞳で私を突き刺してきた。

私は井坂君の考えてることはさっぱり分からなかったけど、井坂君が何かに悩んでるのは明白だったので、少し考えてからクラスメイトより井坂君をとることに決めた。


ごめん。皆、いつか必ず埋め合わせするから。


私はあゆちゃんに怒られるだろうな…と思いながら、不安そうな井坂君に笑いかけた。


「分かった。いいよ。」


井坂君は私の返答を聞くなり、安心した子供のように笑みを浮かべて、私はその顔にギュッと胸が詰まった。


井坂君…


私は優しく抱き締めてくる井坂君を見ながら、きっと井坂君は打ち明けてくれないだろうというのが分かってしまった。

私は井坂君の温かさに身を委ねながら、ふっと朝の嫌な予感が戻ってきて、井坂君をギュッと抱きしめ返した。


これが勘違いならいい…


私はギュッと目を瞑ると、嫌な想像を打ち消すよう願った。





***





井坂君は大掃除がある校内にはいられないと、学校の裏にある大浦川の河川敷までくると土手に腰を落ち着けた。

私は井坂君と手を繋いだままだったので横に座ると、言葉の少ない井坂君を盗み見た。


井坂君は流れる川をじっと見つめたまま何も言わない。


私は井坂君の真剣な横顔に声がかけられず、スッと前に目を戻した。


思い悩んでいる事、話してくれないのが悲しい…

井坂君のことだから、きっと明日の私の受験に影響が出るとか…色々配慮してくれてるのかもしれないけど…

隠される方が辛いってこと、本当に分かってないよね…


私は以前も井坂君が隠し事をしてたことを思い返して、バレないように細く息を吐いた。

すると沈黙を破るように井坂君の声が響く。


「文化祭。今年も一緒に回ろうな。」

「え、あ、うん。もちろん。」


私は急な話に戸惑いながらも頷く。

するとやっと井坂君が少し笑顔を見せて、私は胸の苦しさが和らいだ。


「去年、一緒に回ったのすげー楽しかったし…。今年は最後だもんな。赤井達に邪魔されたとしても、絶対回ってやる。」

「あははっ。さすがに赤井君たちも邪魔はしないよ。」

「分かんねぇだろ?あいつら気まぐれで邪魔すんだからさ。」


私は井坂君が口にした『最後』という単語が引っかかって怖くなったので、気にしないように明るく返した。

井坂君もさっきまでの空気が嘘のように明るく笑顔を浮かべる。


「ほんと…、あいつら…自分のことそっちのけで俺らのことばっか気にしてるよなぁ…。」

「……え?」


私は井坂君の声が少し元気がなくなったのを感じ取って、井坂君に顔を向けた。

井坂君はまたぼーっと川面を見つめていて、横顔が寂しげに見える。


「……どうやったら、あいつらみたいに強くなれんだろ…。」


井坂君が独り言のように呟いた言葉に私はなぜか胸が痛くなって、思わず井坂君の腕をギュッと放さないように掴んでしまった。

井坂君が「どうした?」と優しい目を向けてくる。


「え…と…。」


私は自分でもなんで掴んだのか分からなかったけど、急に不安になったのだけは確かだった。

心臓が変にドキドキしていて、井坂君がいなくなるような怖い不安が全身を走り抜けた。

だから、反射で掴んでしまった。


井坂君が離れないように

私の傍からいなくならないように…


私は何か言わないとと頭で必死に考えると、井坂君を励ますつもりで自分の思うことを口にした。


「い、井坂君は十分強いよ!!西皇がA判定で余裕なのに、勉強ずっと続けてるし…。赤井君がどれだけ勉強してるかは知らないけど、井坂君の方が何倍もすごいって私は思う!!だから、私も頑張らなきゃって思ったんだよ!?」


井坂君は私の言葉を聞いてなぜか眉をひそめて悲しそうに「うん。」と俯いてしまう。

私は何か言い方を間違えたのを感じ取り、もっと違う言い方を模索して焦る。


ど、どうしよう…

どうすれば元気になる?


私は井坂君の腕を掴んだまま悩むと、井坂君が嬉しそうな顔をしてたときのことを思い返して、脈絡のないことを口にした。


「私は井坂君の全部が好き!!」


「――――――へ?」


時間差で井坂君の丸い目が私を映してきて、私は頬が熱くなりながら続けた。


「悩んでて言葉が少ない井坂君も、強くなりたいって自信のない井坂君も…私は全部好き!!だから、私に全部ちょうだい?」


私は井坂君が私から好きだと言った時に嬉しそうな顔をしていたのを思い出して、照れながらも真剣に口に出した。

少しでも井坂君の力になるなら、恥ずかしい言葉なんて何度だって口にできる。


私は井坂君のいつもの笑顔が見たかった。


すると面食らっていた井坂君は言われた事をやっと理解してくれたのか、私と同じくらいぼわっと真っ赤になると顔を隠しながら照れ笑いを浮かべた。


「全部って…。俺、何あげればいいんだよ…。」


私はクシャっと緩んだ井坂君の顔を見て胸がキュンッとときめいた。


可愛い…!!!


私はやっと井坂君の心からの笑顔が見れたことに安心して、気が緩んでため息と一緒に笑みが漏れた。

するとそれを見てた井坂君が目を細めてから優しくキスしてきて、胸がさっきとは違う嬉しいドキドキでいっぱいになる。


「俺も詩織の全部欲しいな…。」


井坂君が口を離すなりそう言って、私は自分と同じ言葉なのに井坂君が口にするとあっちの意味に思えてしまって顔を強張らせた。

井坂君はそんな私を見て楽しそうに笑ってから言った。


「ここで詩織が想像してるような事はしねーから安心しろよ。仮にも明日受験だろ?」

「あ…あははっ!そうだよね。ご、ごめん。」


私は自分のスケベな妄想に恥ずかしくなって変な汗が出てきて手で拭った。


私のバカ…


すると井坂君が私をギュッと抱き寄せてから耳元で小さく呟いた。


「……俺も、ごめんな…。」


「え?なんで謝るの?」


私が謝られる意味が分からなくて尋ねると、井坂君は抱きしめる力を強めてから「何でもない。」と言った。


私はそのときの謝罪の意味を深く追求せずに何かのきまぐれなんだろうと流した。


井坂君がとても大きな隠し事をしてるなんて、思いもせずに…











次は詩織の受験の話になります。


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