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理系女子の恋  作者: 流音
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158、独り占めしたい

井坂視点です。


俺は今、風呂から上がった詩織と自分の部屋で二人きりになっていて、かなりドキドキしていた。

今にもさっきの続きがしたくて体が疼いているし、一瞬でも詩織と目が合ったら理性が吹っ飛ぶ。


それだけ詩織の風呂上がりの姿は衝撃的だった。

バスタオル一枚に隠された濡れた肌を目にして、手を出さない男なんてこの世にいるものか。

鉢合わせしてしまったのは事故だけど、ああいうシチュエーションは頭の中で何度も妄想していた。

だから置かれてる状況にも関わらず、詩織に溺れた。


まぁ、両親や姉さんたちにはバレなかったんだから別にいいだろう。


俺はじっと詩織の抱え込んでる鞄を見つめて、何か会話しないと変な気分になると思い口を開いた。


「詩織、さっきから大事そうに鞄抱えてるけど、何が入ってんだ?」

「え!?!?あ、と…その――――。」


詩織は見るからに焦ってオロオロし始めると、ちらっと俺を見てから可愛く手を合わせてくる。


「お願い…。井坂君、目瞑って?」

「え――――。」


俺は目を瞑るという行為に色んな妄想が駆け巡って、顔がぼふっと一気に上気した。


なんだ!?

目を瞑ったら何かサービスしてくれるっていうのか!?


俺は積極的な詩織も知ってるだけに期待に胸を膨らませながら、「分かった。」と答えて目を瞑った。

ドクンドクンと大きく鳴る自分の心臓の音を聞きながら、何をしようとしてるのか肌で感じ取ろうと努める。


すると何かカサカサと音がした後に、詩織の柔らかい手に左手を掴まれてゾワッと鳥肌が立った。

触られてるだけなのに、これはこれで変な気分になってくる。

俺は我慢、我慢…と自分に言い聞かせる。


そうしてギュッと目を瞑り続けていると、詩織から「目開けていいよ。」と言われ、目を開けてから触られてた左手に目を落とした。


「あ。」


そこには銀色に光る指輪が小指につけられていて、俺は驚いて詩織を見た。

詩織は赤い顔を手で隠しながら、「誕生日おめでとう。」とつぶやいて、指輪の説明をし始める。


「あのね、これ、私の指輪に似てるやつを店員さんに探してもらったんだ。あ、ちゃんと男性ものだから安心してね。」


詩織は少し焦っていて、俺は詩織が一生懸命話してくれる姿に感激して言葉が出てこない。


「私と一緒で学校にはつけていけないだろうから、チェーンもあるんだ。これで首から下げてくれると嬉しいな。あ、えっと…おそろいみたいに…。」


詩織が照れながら「おそろい」と言った姿に、俺は嬉しさが溢れて詩織にガバッと抱き付いた。


詩織!!大好きだっ!!!


すごく嬉しいプレゼントに感動して涙目になりながら、詩織の耳元で「サンキュ。」と呟く。

俺はそれ以上の言葉が口から出なくて、ジンと鼻の奥が熱くなり鼻をすすると、詩織が優しく俺を抱きしめ返してくれた。


「良かった…。ちょっとやり過ぎかなって思ったんだ…。」


詩織はここでギュッと腕に力を入れると、俺の首の辺りに頬ずりしながら「独り占め。」と楽しそうに笑った。


―――――――!!!!!!


俺はその可愛い独占欲の言葉に全身を骨抜きにされ、ヘロヘロと力が抜けて後ろ向けに床の上に寝転んだ。

感動で目は潤んでるし、顔は真っ赤ですごくカッコ悪い。

俺はそんな姿見せたくなくて、サッと腕で顔を隠した。


でも詩織は俺が黙り込んでることで気づいたのか、寝転んだ俺のお腹にベタッとくっついてきて「照れてる。」と笑い出す。


もう可愛いな!!

家に帰したくなくなるから、そういうことはやめて欲しい


俺は腕の隙間から詩織の嬉しそうな顔を見て、その笑顔だけで充分誕生日プレゼントだと思った。

すると詩織が俺のお腹の辺りに顔をくっつけて隠すと、ぼそっと俺に聞こえるだけの声で言った。


「生まれてきてくれてありがとう、井坂君。ずっと大好き。」


詩織…


俺は潤んでた目から涙が零れ落ちて、焦って手で顔を隠した。

誰かの言葉にこんなに感動するなんて初めての経験で、涙をどう止めればいいのか分からない。


自分の誕生日に、こんなに嬉しい事を言ってもらったことなんて今までない

俺が生まれた日にありがとうなんて…

そんな俺がいて良かったみたいに…


俺だって同じことを詩織に思ってる


詩織が生まれてきてくれて良かった

俺と出会ってくれて本当に良かった


俺のこと好きになってくれて、本当に、ほんっとーに良かった!!


俺は恥ずかしいので口には出せなかったけど、心の中で何度も詩織にお礼を言った。


俺だって詩織が大好きだ!!


俺は涙が収まるまで、ずっと腕で顔を隠していて、詩織も詩織で俺のお腹に顔を突っ伏したまま黙っていて、ただ二人でいる空気に胸がいっぱいだったのだった。






***






それから俺は、結局詩織に何もできないまま二人の時間に浸り、時間を気にした母さんや姉貴に促されて(怒られて…)、明日も夏期講習があるという詩織を家に送り届けることになった。

詩織も俺も何だか胸がいっぱいで送る道すがら、ほとんど会話しなかった。

そして俺は名残惜しく詩織と別れて家に帰ってくると、姉さんが堂々と俺の部屋にいてビックリして後ずさった。


「なっ、人の部屋で何してるんだよ!?」

「何よ~。せっかく誕生日プレゼントあげようと思って待っててあげたのに!!そんな言い方するならあげなーい!」


子供か…


俺はそこまで姉さんからのプレゼントが欲しいわけでもなかったので「別にいいよ。」と返して、ベッドの上に腰かける。

すると俺の返答が不服だったのか、姉さんがぷくっと頬を膨らませてきた。


「詩織ちゃんと誕生日過ごせて満足なのかもしれないけど、そんな言い方はないんじゃないの!?私だって拓海の誕生日があるからーっと思って、いつもより早く帰って来たっていうのに!!」

「あぁ…。それでいつもより一週間ぐらい早く帰ってきたんだ?てっきりただのきまぐれかと思ってた。」


俺は姉さんが俺のことを考えてくれてたのが意外で少し見直した。

姉さんは更に頬をパンパンに膨らませると、腹いせのように小さな紙袋を投げつけてきた。


「ふんっ!!どうせ拓海の中の私の存在価値なんて、詩織ちゃんの半分以下ですよーっだ!!それ、いらなかったら詩織ちゃんにあげて!!」

「え、あげるって…。」


俺は変なところで拗ねてる姉さんに呆れながら紙袋を開けた。

すると中から出てきたのは合格祈願のお守りと鉛筆で、俺は姉さんなりに俺のことを考えてくれてたんだと嬉しくなった。


「サンキュ、姉さん。ありがたく使わせてもらうよ。」

「どうぞ。どうせ、拓海はそんなのなくても軽ーく受かっちゃうんだろうけど。」

「そんなことねぇよ。もしかしたら、西皇じゃなくて東聖になるかもしれねーし、心強い。」


俺はお守りを握りしめると、鉛筆と一緒に机の上に置いた。


「え…?拓海、東聖って…何言ってんの?詩織ちゃんも東京方面の大学に行くわけ?」

「は?んなわけねーだろ。詩織は関西の桐來だよ。夏休み明けに推薦入試受けるんだって、今から頑張ってるんだからな。」

「え!?えぇっ!?それなら尚更意味分かんないんだけど!!東聖受けたら、詩織ちゃんと離れ離れなんだよ!?」

「んなこと分かってるっつーの。」


俺は当たり前のことを聞いてくる姉さんにため息が出た。


「分かってるって…なんでそんな落ち着いてるの!?離れ離れだよ!?傍にはいられないんだよ!?」

「しつこいな!!もしかしたらって言っただろーが!!俺の教わりたい教授がもしかしたら東聖に行くかもしれないから、一応候補に入れてるだけ!まぁ、可能性は低いから西皇になるだろうけど。」


俺が細かく説明すると、姉さんは落ち着きを取り戻して表情を和らげた。


「なんだ…、それならそうと言ってよ。ビックリしたでしょ。今日も詩織ちゃんいなきゃ生きていけないような顔してたのに、気でもふれたのかと思ったわ。」

「………。」


俺は詩織がいないと生きていけないという言葉の通りだったので、今度は姉さんに反論できなかった。

姉さんは自分のことのように「あー良かった~。」と緩んだ笑顔を見せる。


ま、姉さんは姉さんなりに俺のこと色々考えてくれてんだな…


俺は詩織以外の人間に心配されるなんてむず痒くて、姉さんから目を背けた。

すると姉さんが何かに気づいたのか笑い声を収めると、話題を切り替えてきた。


「あれ?拓海、そんな指輪今までつけてたっけ?」

「え?―――――あ。」


俺は詩織からもらった誕生日プレゼントをつけっぱなしにしていて、慌てて手を背中に隠した。


今まで指輪なんてつけたこともねーから、すっげ恥ずかしい!


俺が指輪してない方の手で赤くなる顔を隠すと、姉さんは新しいからかいネタを見つけたと言わんばかりにベッドに乗ってくると隠した手を引っ張ってきた。


「な~に?詩織ちゃんからのプレゼント?分っかりやすいんだから~!!」

「べっつにいいだろ!?離せよっ!!」

「イヤよ。よく見せてくれるまでは離さな~い!」


「は!?あだだだだだっ!!」


姉さんは俺に跨るように体重をかけてくると、腕を捻りあげるようにして指輪を見出して、俺は苦痛に顔を歪める。


「わ~!!男物のシルバーリングだね!詩織ちゃん、買うとき恥ずかしかっただろうなぁ~。」

「痛いんだけど!!手、放せ!!」

「拓海だけじゃなくて、詩織ちゃんも相当拓海のこと大好きなんだねぇ~。可愛い~!」

「話聞けよ!!!」


姉さんは指輪をキラキラした目で見たまま独り言のようにしゃべり続けていて、一向に手を離そうとしない。

すると部屋の入り口に兄貴がやって来て、俺と姉さんを見るなり顔を歪めて睨んできた。


「おい!何やってんだよ!?」

「あ、陸斗!見て!!拓海が詩織ちゃんからもらったんだって!!」

「あ?詩織ちゃんからって…あぁ、そういえばお前誕生日だったな。」


だったな…って兄貴の中ではその程度かよ…

まぁ、期待してなかったけど


姉さんは兄貴に指輪を見せるためか手を更に引っ張って、俺は痛みに顔をしかめた。


「いい加減手離して、上からどけよ!!」


「へ~…。男物のシルバーリングか。詩織ちゃんもやるなぁ~。こんなバカのどこがそんなにいいんだか。」

「ね!!あの純粋な詩織ちゃんが指輪だよ!?もう私、詩織ちゃんの成長ぶりにキュンときちゃってさぁ~。」


「話してないでどけっつーのに!!!」


俺の怒鳴り声に全然耳を傾けない二人に苛立っていると、兄貴まで俺の上にのしかかってきて更に苦しくなった。


「だな。詩織ちゃん、家に来るたび綺麗になってるしな。きっと学校でもモテるんだろ?」

「あ、そうかもしれないね!!拓海も陸斗に似てるから学校でモテてるだろうし、モテる女とモテる男でお似合いなんだろうな~!」

「おいおい、こいつはねーだろ?見た目はそこそこかもしれねーけど、中身てんでヘタレじゃねぇか。その点、詩織ちゃんは中身も真面目で純粋で全然すれてねーから、かなりな好物件だし、真面目な男子にウケよさそうだよ。」

「それはあるかも!詩織ちゃんって誰にでも優しそうだもんね。」


意外と二人の詩織の評価は当たっていて、俺は内心その通りだと思うのと一緒に早くどけーっ!!と叫んだ。


「でもさ、詩織ちゃんが拓海に指輪だよ?これって、やっぱり拓海も学校でモテてて、詩織ちゃんも心配だから贈ったんじゃないの?私のものだよ~っていう独占欲の表れだよね?」


え…!?


俺は詩織の「独り占め」と言ったときの顔を思い出して、ぐわっと顔の熱が上がった。


あれはあの空気の中から出た言葉じゃなくて…

指輪にもそんな意味がこめられてるのか?

俺と同じように、詩織も!?


俺は詩織に指輪を贈ったとき、同じように独り占めしたい気持ちがあった。

でもまさか詩織もだとは思わなかった。


やっべ…すげー嬉しい…


俺は詩織を送ってきたばかりなのに詩織に会いたくなって、体の奥がウズウズし始める。


「まぁ、そうともとれるか。女子ってあんま指輪、男に贈らねーもんな。」

「あ、そういうものなんだ。私、経験ないから分からないけど。」

「え?美空、純に贈ったことねーの?」


「え、うん。ない…けど。あれ?これって贈るべきなの?っていうか、陸斗はどうなの?どうせ彼女たちにバンバン指輪ばら撒いてるんでしょ?」

「俺、指輪なんてたけーもん贈ったことねぇよ。大体、そこまで相手を独占したいなんて気持ち持ったことねーし。」

「へぇ…。そう…なんだ。」


ここでやっと姉さんの手の力が弱くなって、俺は手を引き抜いて悲鳴を上げていた腕を触ってほぐした。


なんか兄貴と姉さんの間の空気変わった?


俺は気まずいような沈黙が流れてると気づいて、横から口を出した。


「あのさ、もう用ないなら部屋帰ってくんない?」


「え、あ。ごめん、拓海。ずっと乗っかったまんまだったね。」


姉さんは慌てて俺の上からどくと、部屋の真ん中ぐらいまでいって複雑そうな顔をした。

後から兄貴も俺の上からどくと、「18歳おめでとー。」とだけ言って部屋をサッサと出て行ってしまった。

姉さんはそんな兄貴の背を見て、なんとも言えない微妙な顔をしてる。


「姉さん?兄貴となんかあんの?」

「え!?ううん!何もないよ!拓海、ホントに今日はおめでとう。詩織ちゃんと仲良くね!」


姉さんは早口でわっと捲し立てるとドアをバンッと激しく閉めて出て行ってしまい、俺は何がなんだか意味が分からなかったのだった。












これで井坂の誕生日おしまいです。

次から進路へと話を戻します。

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