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理系女子の恋  作者: 流音
162/246

番外4:9組の名物カップル

井坂と赤井、島田の親友:北野視点です。


「やっぱ、すげぇ羨ましいよなぁ…。」


俺の耳にぼやくような小さな声が聞こえたのは、海で遊ぶのを一休みして、俺らの荷物の置いてあるパラソル群でジュースをがぶ飲みしてたときだった。

俺は顔を声のした方に向けないように視線だけそっちに向けると、そこには内村や田村、諏訪といったクラス内でも地味目なオタク男子たちが、海にも関わらず携帯ゲーム機を片手に話し込んでいた。


「お前、谷地さんの水着姿間近で見たんだろ?それだけでもラッキーじゃん。」

「そうだけどさ…。あんとき、現実と直面したっていうか…。」

「現実と直面って?」

「…………谷地さんは井坂君しか目に入らないって…。」


内村がゲーム機を横に置くと、シュンと頭を下げて呟くように言って、周りが「あぁ~…。」と同調している。

俺も同じで、片思いしてる内村にしたらきっついだろうな~と他人事のように思った。


俺ら部外者が外から見てても、最近の谷地さんは井坂一色だ。

何があったかは二人の距離の近さと人目を気にしないイチャつきぶりで、なんとなく察しが付く。

井坂も以前にも増して谷地さんに振り回されてる感じだし、二人のバカップルぶりにどこかよそでやってくれよ…と思う。


「……やっぱり、諦めなきゃだよな…。」


内村が沈んだ声で言った言葉に、俺は思わず顔を向けてしまいそうになってジュースを飲むことで堪えた。

聞き耳立ててると気づかれるわけにはいかない…


「んー。諦める前にさ、玉砕覚悟で告っちまえば?」

「え?」

「谷地さん、優しいからさ。好きだって言われて嫌な顔はしないと思うけど?」

「あ、それは俺も思う。」


げ…嫌な流れになってきた…


俺は告白するなよ~!!と内村に念を送った。


「…そうかな…。」

「そうだよ!このまま諦めるよりは何倍もいいと思うけどな!!お前、よく谷地さんとも話してたりしたじゃん!?その流れでさ!」

「あぁ…席が近かったときの話だろ?あんなのただの友達だし…。」

「それがいいんじゃん!!友達だって思ってたからこそ。ここでドキッとさせて、友達から男にランクアップしねーと!!」

「……うーん…。」


田村や諏訪の励ましに内村は悩んでいるようで、しばらく唸り声が聞こえた。

俺はじっと聞き耳を立てながら生唾を飲み込む。


「……分かった。チャンスがあったら、告おうかな…。」

「よし!!その意気だよ!!」

「頑張れよ!内村!!」


ぎゃーーーっ!!やべーーーーっ!!!


俺は内村の決意を聞いて、平静を装って立ち上がるとなるべく不自然にならないように早足で砂浜を歩いた。


井坂!!井坂に知らせねぇと!!


俺はビーチバレーしてるクラスメイトの所に駆け寄ると、一際目の引く赤井に声をかけた。


「あ、あ、赤井っ!!井坂は!?」

「お~、北野。どうしたんだよ。そんな慌ててさぁ~。」

「いいから!!井坂は!?」


俺はへらへらして緊張感のない赤井にイラッとして声を荒げた。

すると赤井は辺りをキョロキョロと見回すと、首を傾げてしまう。


「さっきまで海で谷地さんとイチャついてたんだけどなぁ…?」

「はぁ?こんな肝心なときにどこ行きやがった!!」

「何?そんな急ぎなのか?」


俺は赤井には事情を言っておくべきか…と思って、赤井の耳元でこっそりと理由を説明した。


「内村が谷地さんに告るつもりらしい…。」

「は!?なんだそれ!?お前、こういう情報ホント早いよなぁ~!!」


赤井が驚いたあとにゲラゲラと笑い出して、俺は「たまたまだっつの!」と言い訳しておいた。

確かに俺は周りのそういう恋愛感情に気づくのは人一倍早いけど、今回のは本当に偶然だ。

内村は谷地さんへの想いは隠し続けて卒業まで持っていくもんだと思ってた。

それが、まさかこんな大胆な決意をするなんて…

海と…谷地さんの水着効果か??


俺は谷地さんと集団に戻ってきた内村の真っ赤な顔を見て知っていただけに、あれが大きかったんだと推測した。

すると、赤井がビーチバレーしてたメンバーに「ちょっと抜ける。」と言うと、俺の肩を掴んで歩き出した。

背後で小波さんの「どこ行くのよーっ!!」という怒った声が聞こえる。


「そんじゃ、井坂を探すか。ま、谷地さんと一緒だとは思うけどさ。」

「あぁ。そうだよな。」


俺は赤井の楽しそうな横顔から、この状況を見逃すわけにはいかないとか思ってるんだろうな…と赤井の本心を予想した。

赤井は基本、井坂のことには何でも首を突っ込みたがる。

これもその一つだろう…。


「つーかさ。井坂が谷地さんとずっと一緒にいたら、内村もさすがに告白なんてできねぇんじゃねぇの?」

「あ、そうか。それもそうだよな。」

「ま、教えてやったときの井坂の反応が見てーから、こうして探すけどなっと。」


赤井は転がってきたビーチボールを避けると、辺りに視線を走らせている。


やっぱりそういう理由か…


俺はまたケンカにならなきゃいいけど…と思いながら、同じように周りに目を向けて歩く。

そうしてしばらく赤井と二人で砂浜をキョロキョロと井坂を探し続けた。

でも全然井坂は見つからなくて、赤井が「海に潜ってんのかな~。」とぼやいたとき、俺の耳に「井坂君。」という声が聞こえて立ち止まった。


ん?今のは谷地さんの声??


俺は赤井の腕を引っ張ると声の聞こえた方向に目を向けて、じっと目を凝らした。

赤井が横で「何だよ?」と言って俺の視線の先に体を向けたのが分かる。

俺は赤井から手を離すと、声のした方向へ足を向けた。


そこは少し岩場がせり出してる場所で微妙に岩が邪魔になっていて向こうが見えなかった。

だから近づいて視点を変えたことで、谷地さんの横顔が見えてドキッとした。


うっわ!!


「うげっ!!!」


俺が心の中で叫んだのと同時に赤井が声に出して、二人で岩場を見て固まった。

そこではまさに井坂が谷地さんに襲い掛かっていて、井坂が谷地さんの首にキスしてるのが見えたからだ。

俺は見ちゃいけない…と方向転換すると、ドッドッと荒ぶる心臓を落ち着けようと深く深呼吸した。


あの…バカッ!!


俺は井坂にいい加減にしろよ!!と怒鳴りたくなった。

それは赤井も同じようで「あのアホッ!!もう知るかっ!!」と踵を返して怒りながら戻って行く。

俺はその背中を追いかけると、何度もため息が出た。


あいつ…ここ海だって分かってんのかな…?

人に見られるかもしれない環境でよくやるよ…


恋は盲目と言うけど、ここまでくるか…と俺は心底井坂に呆れ果てた。


「あいつら…電車でもイチャコラしてやがったクセに…。最近、見境ねぇな…。」


赤井がイライラしながらぼやくように言って、俺は電車の話は初耳だったので訊いた。


「電車って何の話だよ?」

「あん?あいつら、ここに来る前の満員電車で人が見てねぇのをいいことにキスしてやがったんだよ。」

「はぁ!?キス!?!?」


俺は羞恥プレイのような所業に目を剥いて驚いた。

赤井はムスッとすると、嫌そうに続ける。


「あぁ。俺は人より背が高いからさ。遠目に見えちまったんだよ。あんときほど井坂をブッ飛ばしてやりたいと思った事はねぇな。」

「はは…。もう、呆れて言葉もねぇなぁ~…。」


俺は盲目どころか自分を見失ってねぇか?と井坂に問い正してやりたくなった。


俺だってマイの事は好きだけどさ…

そんな人前でイチャついていたいほど、自分を見失う事はねぇしなぁ…

大体、相手が嫌がるだろうと思って、大抵はブレーキかかるはずなんだけど…


俺は自分の彼女である新木舞の顔を思い返して、自分には絶対無理だと思った。


「もう勝手にさせとこうぜ。内村のことを考えてた俺らがバカみたいだ。せいぜい谷地さんが告られてから焦ればいいんだよ。」


赤井が影のある悪い顔でニヤッと笑って、俺は相当怒ってるな…と感じた。

まぁ、俺も同意だから放っておくけど。


そうして俺たちがビーチバレーしてるメンバーの所に戻ってくると、小波さんが「赤井!!」と怒った顔でやって来た。


「どこ行ってたの!?せっかくの海なのに、男同士でつるまないでよ!!」

「まぁまぁ、そう怒るなよ。井坂の一大事だと思って焦ってたんだよ。」

「は!?井坂?」


小波さんは少し怒りを収めたのか、吊り上げてた眉を下げると首を傾げた。

するとその後ろからマイが走ってきて、俺を見るなり顔を輝かせるので、俺はその姿に和んだ。


「そう。そう思って忠告しに探しに行ったらさ。あいつ、谷地さんとイチャこいてて。ムカついたから何も言わずに帰ってきたわけ。」

「詩織と?あー…、なんか春以降ますますラブってるからねぇ~。」


小波さんは仕方ないなぁ~みたいな顔で笑っていて、赤井も「だろ?」と言って笑い出す。

すぐに空気が和らいだ二人を見て、なんだかんだこの二人も似た者同士でお似合いだよなと思った。

そこでマイが俺の横に並んで、「詩織の話?」と訊いてくるので、俺は頷いてから説明した。


「あそこの岩場で井坂とイチャついてたんだよ。場所考えろっつー話だよなぁ?」

「へぇ…。そうなんだ。」


マイがここでなぜか元気をなくしてしまって、俺は何だ?と表情を見て何を考えてるのか察そうとした。

でも、表情だけでは到底分からない。

だから尋ねようと口を開いたら、赤井が「もう昼にしようぜ!」と声を上げたので、俺は赤井に目を向けて「おう。」と返した。


あ、訊くチャンス逃したかも…


俺が赤井からマイに目を戻したら、マイはいつも通りに戻っていて「行こ。」と笑顔で手を繋いできた。

だから、俺はそこまで重要なことじゃねぇのかも…と気にしないことにしたのだった。





***





そして海の家で昼をとることになった俺たちは、大所帯でテーブルを占拠して、店の半分を乗っ取るような形になってしまった。

まぁ、他にも店はあるわけだし構わないだろうと思って、俺はマイと赤井に挟まれる形で座敷に腰を下ろした。

赤井の隣にはもちろん小波さん。

そんで島田は俺らに気を遣ってか、本田や渡利と女子メンバーが集まってるところで場を盛り上げていた。

そして、例のバカップルはというと、俺らからも女子メンバーテーブルからも遠い店の角のテーブルで並んで座っていた。

谷地さんを隅っこに座らせてる井坂を見て、あれは他の男と接触させないためだな…と分かってしまった。


ホント、谷地さんに振り回されてるなぁ…


俺はただ並んで座ってる二人なのに、やっぱり距離間が近い気がして、昼を食べながらもイチャつくことが目に見えていたので、二人から目を逸らした。

すると赤井が横で酒を飲んでるかのように、ジュースの入ったコップをテーブルにダンッと置いて、声を上げた。


「あいつらクラスメイト皆で来てるってこと分かってんのか!?」

「あいつらって…詩織と井坂の事?」

「決まってんだろ!!」


赤井がまた怒りが再発したのか小波さんに食って掛かっていて、小波さんが呆れたように笑った。


「まぁまぁ、いいじゃない。あの二人が別れてたときの事を思うと可愛いもんだって。」

「そっ…りゃそうだけど!!あれはどう見てもただのデートだろ!?」


赤井が二人が別れてたときの事を思い出したのか一瞬怯んだけど、取り直して二人を指さした。


「まぁ、デートだけどさ。気にしなきゃいいじゃない?っていうか、赤井も井坂ぐらい彼女にご執心になって欲しいぐらいなんだけど。」

「は!?あんな恥ずかしいことやれってか!?」

「そうよ!!私はあんだけ井坂に想われてる詩織が羨ましいの!!」

「はぁぁぁぁ!?!?」


赤井が小波さんの発言に「ふざけんなっ!」と少し照れながら言い返す。

小波さんは一歩も退くつもりはないのか赤井に身を寄せ始めて、赤井が俺の方へ寄ってきて狭い。


「ほらほら、私、可愛い水着新調したんだよ?ちょっとは褒めてくれたり~、大好き~って言ってくれてもいいじゃん!!」

「言えるかっ!!そういうのは人のいないとこでするもんだろ!?」

「だったら、すぐ人のいないとこ行こ?私は全然ウェルカムだから。」

「な!?何言って!!!」


小波さんの大胆過ぎる押せ押せモードに赤井が珍しく慌てている。

俺はそんな二人をジュースを飲みながら、冷静にあっちもこっちも熱いな~と他人事のように眺めた。

赤井は「北野!助けろ!!」と俺に懇願してきたけど、俺は巻き込まれるのはゴメンだったので小波さんに協力して、赤井を押し返した。

小波さんは「サンキュー!」と言うと、赤井を引っ張る形で海の家から出て行ってしまって、俺は隣のスペースが空いて窮屈さから解放された。

赤井の「覚えてろよ!!」という怒声がかすかに聞こえたけど、俺は少し横に寄ってマイと空間を空けると声をかけた。


「あいつら、ホント面白いよな~。」


俺が笑いながらマイを見るとマイはさっきみたいに元気がないようで、少し俯いていて、俺はどうしたのかと覗き込んだ。


「マイ。どうした?」


俺がそう声をかけると、マイがキッと俺を睨んできて身体に緊張で力が入った。


「北野は何も思わないの?」

「え?何もって何が?」


いつもと違うマイの低い声にビビって、俺はじっとマイから目が離せなかった。

マイは俺の両腕をガシッと掴んでくると怒ったように言う。


「あゆじゃないけど、北野ももっと私でいっぱいになってよ!!」

「へ!?」

「私だって詩織が羨ましい!!なんでいっつもそんな冷静なの!?」

「れ、冷静って…ちょ、落ち着けよ…。」


俺は怒ったままじゃ話できないと宥めようとしたのだけど、マイは何を思ったのか俺の顔をガシッと掴むとキスしてきた。


!?!?!?!?!


俺は心臓が飛び上がるぐらい驚いて固まると、頭の中が色んな思考でいっぱいになった。


マイはいつも冷静な奴だ。

自分からこんな事する奴じゃない。


初めてキスした時だって、マイはのぼせ上がるぐらい真っ赤になってしまって、恥ずかしいと連呼していた。

だから、俺はこういうスキンシップに関してあまり求めなかった。

俺らには俺らのペースがあるし、気持ちが通じ合っていればそれで十分だった。


それなのに、マイは俺の想像を超えたことをしてきて、俺は目にマイしか入らなくなってどうしようかと思った。


俺は自分を見失ったりしない、俺は井坂じゃないんだ。

マイが嫌がる事は絶対しない。


「北野は…私のこと好きじゃないの?」


マイが俺の顔を掴んだまま泣きそうな顔で言ってきて、俺は今までの考えを頭の隅に押しやった。


「俺が井坂みてぇになっても困らないわけ?」


俺は挑発されて自分を押さえていたので、自分にしては乱暴な言い方をしてしまう。

マイは真っ赤な顔のままでじっと俺を見つめると、「困るわけない。」と口にした。


俺はマイの言葉を聞いてストンとさっきの表情の意味を理解した。


あれは冷静過ぎる俺に不満があったからなんだ。

俺が良かれと思ってしてたことが、マイにとったら不満だった。

だったら、俺がマイに気を遣う理由なんかなくなる。


「じゃあ、その言葉後悔するなよ?」


俺は念の為、前押しするとマイの頬に触れてから口付けた。



そして、マイに思うように触れられた満足感から、どんどん自分が盲目になっていくのを感じた。


俺も井坂と同じか…


俺は今まで散々井坂を貶してきた事を心の中で謝ると、井坂の気持ちを理解できる自分に、少し複雑な気分だったのだった。











冷静な彼の側面を描きたくて上げました。

内村の話は本編へ引っ張ります。

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