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理系女子の恋  作者: 流音
160/246

153、色ボケ

井坂視点です。


衣替えも終わった六月下旬―――

もう気温も夏へシフトして暑くなり始めた教室で、俺は半袖の夏服姿の詩織を見つめてスライムのように机に体を預けていた。


「夏服っていいよなー…。」

「あん?急になんだよ?」


俺は半袖からスラッと伸びる詩織の白い腕を見て、顔がニヤけてくる。

俺が「別に~。」とテンション高めの声で返事すると、赤本を見ながら問題を解いていた赤井が俺をじとっと見てきた。


「お前、最近ご機嫌だな?」


俺は何か怪しんでる赤井を上目づかいに見ながら「まぁな。」と鼻で笑いながら返す。

赤井はそんな俺を見て「気持ちわり~。」と嫌そうな顔をしながら赤本に目を戻す。


やっべ~…顔が元に戻らねぇ~


俺はニヤニヤしてしまう口を手で押さえながら、気分はずっと上がりっぱなしだった。


まぁ俺のこのウキウキするほどのご機嫌っぷりの中心にいるのは、当然のように詩織なんだけど。


初めて詩織から触られて攻められたとき、俺は自分が感じてることを受け入れた。

大好きな詩織の細い指や唇に反応するのは、男なら当たり前のことだ。

恥ずかしい事じゃない!

俺はこういうのもアリかと思ってたんだけど、やっぱりやられっぱなしは我慢できなくて、詩織に襲い掛かってしまった。


途中の中断は非常に辛かったけど、放課後にはできたことだし、まぁそれはいい。


そしてあれから、俺は詩織が欲しくなると社会科準備室に連れ込むようになった。

あそこは先生も滅多に来ないし、内側から鍵もかかる部屋だ。

二年の階だけど、一番端の人気のない場所にあるので多少声が漏れても誰も気づかない。

こんな素晴らしい部屋があったのかと思う好立地教室に味をしめてしまって、俺は週…まぁ、そこそこあの部屋に行くようになってしまったというわけだ。


詩織は最初こそ学校だから!と思ってたようだったけど、今じゃ俺に毒されてきて素直に受け入れてくれている。

ま、基本放課後にしかしないって決めてるってのもあるけど。


授業が絡むと真面目な詩織は絶対そういう気分になってくれないから…

これは最初の中断で身に染みている。


そして、結果的にあまり我慢しなくても良い状況になった俺は、毎日がハッピーになり、こういうルンルンモードになったわけだ。


あ~…幸せだーーー…

もう、満たされ過ぎて家に帰ってからの勉強も効率上がりまくりだし

詩織がいれば余裕で西皇受かる気がする~…


俺は返ってきたばかりの全国模試で西皇の合格率A判定だったのもあって、余裕しゃくしゃくだった。

詩織も桐來がB判定だったようで、嬉しそうに報告してくれた。


俺たちの未来は明るい


俺はすべてが順風満帆で、今後変なことが起こりませんように…と詩織の楽しそうな横顔に願ったのだった。





***





そんなある日、俺は担任である藤ちゃんから呼び出されて進路指導室へやってきていた。

進路指導室には藤ちゃん以外にも二、三人先生がいて、それぞれ机に向かいながらテストの採点していたり、パソコンと睨めっこしていたりとそれぞれ仕事をしていた。

そんな静かな部屋の中で、俺は相談スペースになっているのか、簡単な一枚の衝立のあるソファに藤ちゃんとテーブルを挟んで向かい合っていて、何を言われるのかとドキドキした。


「井坂。模試の結果はすごく良かったな。」

「え、あ、はい。まぁ…。」


俺は模試の結果を褒めてくれるだけか?と思って少し安心した。

見るからに藤ちゃんの様子はいつも通りだし、怒ってるような雰囲気ではないからだ。


「お前の結果は校内で一番だったらしくてな…。他の先生たちから、西皇だけじゃなく、東聖も受験してはどうだという声が上がっている。」

「はぁ…。東聖ですか…?」


俺は西皇とは正反対の場所にある、超有名大学の名前を言われてピンとこなかった。

東聖は合格発表がニュースでも取り上げられる程の難関校だ。

俺は別に腕試しがしたいわけでもないのに、その大学を受験する意味が分からなくて首を傾げる。


すると藤ちゃんが腕を組むと、ふぅと息を吐いてから言った。


「俺はお前が西皇を受験したいという理由を知っていたから、東聖の話なんかどうでも良かったんだが…。ちょっとした噂を小耳に挟んでな…。」

「はぁ…。」


「お前が西皇に行きたい理由である小木曽教授なんだけどな…。東聖に招致されるかもしれないって話が出てる。」

「…………―――――え!?」


俺は信じられない話に耳を疑った。


「え!?え!!!それってどういう事ですか!?」


俺は立ち上がるとテーブルに手をついて藤ちゃんに詰め寄った。

藤ちゃんは少し仰け反ると、両手を前に出して「落ち着け。」と宥めてくる。


「あくまで噂だよ。本当かどうかは知らないからな。」


藤ちゃんの言い方に少しほっとするけど、その噂が出てる時点でそういう可能性があるってことなんじゃ…と不安が消えてくれない。


「まぁ、お前の進路に関わってくるから、一応話をしたんだが…。もし、これが本当だった場合。お前、進路はどうする?」

「え…。」


藤ちゃんは真剣な目で俺を射抜いてきて、俺は小木曽教授のいない西皇を想像して、すぐ答えが出た。


「小木曽教授が東聖にいるってんなら、東聖を受けます。」

「……だよな。」


藤ちゃんは俺の答えが分かっていたのか、少し口角を持ち上げて頷いた。


「まぁ、まだ可能性の話だから。今は西皇ってことでいいよな?」

「あ、はい。もちろんです。」

「よし。じゃあ、これからの模試は一応東聖になることも考えて、希望大学に東聖にチェック入れとけよ。あと、東聖の方が西皇より少し難関だからな。もうちょっと勉強頑張っておけよ。」

「はい。」


俺は満足そうな藤ちゃんに返事をしてから進路指導室を出て、そこでふと詩織の顔が浮かんだ。


あ…、もし東聖になったら…詩織と超遠距離になっちまう…


俺は地元を挟んで正反対にある東聖と桐來を考えて、どうしようかと思った。


まぁ…もしもの話だから…今から心配しなくてもいいか…


俺は詩織を変に心配させるのも嫌だったので、そうなったときに話せばいいかと教室へと向かった。

そうして三年の階に戻ってくると、詩織がなぜか4組の前にいて足を止めた。


なんで4組なんかに…?


俺が4組の中を覗き込んでいる詩織を観察していると、中から瀬川が顔を出して、その姿にムッとしてしまう。


相変わらず仲良いな…

まぁ、瀬川は別に好きな奴がいるわけだから、心配する必要はねぇんだけど…

やっぱ直に目にするってのは嫌なもんだな…


俺はこのままでは嫉妬で話を邪魔しにいってしまいそうだったので、迂回して教室に帰ろうかと考え始めた。

そのとき瀬川の横に見覚えのある男の顔が見えて、俺はそいつを食い入るように見つめてしまった。


あいつ…

確か、柔道部の佐伯とかいう…


俺はガタイの良い佐伯の詩織を見る緩んだ顔に、一年のときのことを思い返して体が勝手に動いた。

大股で廊下を進むと、何か話を聞いている詩織と佐伯の間に割り込むように手を差し入れて、佐伯を睨みつける。


「よぉ。久しぶりだな。」

「い、井坂君?」


後ろから俺の登場にビックリしたのか詩織の引きつったような声が聞こえたけど、俺の目はまっすぐ佐伯に向いていた。

佐伯は俺を見て少し顔を強張らせていたけど、ちらっと横にいる瀬川に目を向けて助けを求めているようだった。

それを感じ取ったのか瀬川が佐伯の前に出て、俺と向かい合う。


「よ、井坂君。久しぶり。佐伯とは顔見知りだったっけ?」

「…まぁ、一年のときにちょろっとだけ。」

「あ、柔道部の見学に一回来てくれて…。」


佐伯がそのときの事を思い出したのか瀬川の後ろから声を上げた。

それを聞いた瀬川が「へぇ…。」と意外そうな顔を浮かべる。


「あ、誤解しねーで欲しいんだけど、谷地さんに声かけたのは桐來のこと聞きたかっただけなんだ。」

「?桐來?ってなんで?」

「俺も佐伯もスポーツ推薦で桐來を受けようかと思っててさ。俺らインターハイで一応良い成績残してるから、受けてみないかって声がかかってさ。」

「へぇ…。スポーツ推薦…。」


俺はそういう受験方法もあるのか…と思った。

すると今まで俺の後ろで黙ってた詩織が、俺の腕を優しく掴んでから前に顔を出して言った。


「一般の試験もあるみたいでね。どういう勉強しとけばいいかって聞かれてたの。ほら、私も桐來受けるから。」

「あぁ…。そういうこと。」


俺は詩織に腕を触られてることにドキドキしながら、平静を装って頷いた。

こうして人前でくっつかれると、自分が詩織の特別なんだって感じて頬が緩んでくる。

詩織は説明したあと、瀬川達に話を戻して口を開いた。


「話中断しちゃったけど、さっき言ったみたいに基本は赤本をやって、指定されてる科目を重点的に要点を押さえて勉強すれば大丈夫だと思うよ。その辺は私よりも先生たちの方は詳しいだろうから、聞いてみればいいと思う。」

「だよな。桐來なんて有名大学、俺らの頭でも入れるチャンスなんだ。スポーツテストも頑張らねぇとな。」

「だな。」


瀬川は明るくケラケラ笑って佐伯の背を叩いて、佐伯が遠慮がちに頷いて微笑んだ。

それを満足そうに見ていた詩織がハッと何か思い出したのか、俺から離れるとどこかに足を向けて言った。


「あ、私、藤浪先生に呼ばれてたんだ。ちょっと行ってくる!」


詩織は俺に「また後で。」と言い残すと慌てて走っていってしまった。

俺はその背をじっと見つめながら、詩織も呼び出されてたのか…とため息をついた。


どうせなら一緒に行けば良かった…


俺がそう思って前に顔を戻すと、目の前で瀬川が含み笑いしていて気味が悪かった。


「なんだよ?」

「いや?井坂君ってホント顔に出るな~と思ってただけだよ。」

「顔?」


なんだそれ?


「ぶわははははっ!!もうダメだ!我慢できねぇっ!!」

「な、なんで笑うんだよ!!」


急に爆笑し出した瀬川に食って掛かると、瀬川が佐伯に目配せしてから言った。


「だって、井坂君、めっちゃ可愛いからさ。」

「は!?カワイイ!?」


俺は初めて言われた言葉に目を丸くさせた。

瀬川の後ろで佐伯も頷いていて、なんだか腹が立ってくる。


「可愛いよ。表情とか態度が全部、谷地さんのこと好きだーって言ってるように見えるんだからさ。」

「なっ!!へ!?」


確かに想ってはいたけど、他人からそう見えてることにビックリして、俺は挙動不審になる。

更にそれが面白いようで瀬川が笑い続ける。


「あはははっ!すっげ正直だよなーっ!なんか見てて微笑ましいよ。」

「………からかってんのか?」

「ちげーよ!羨ましいってこと!!な、佐伯!」


俺が不満げに口にすると、瀬川が佐伯を見て言って、佐伯は俺と目が合ったことに視線を逸らすと、「まぁ…。」と小さな声で言った。

その態度からまだ詩織の事が好きなのだろうか?と怪しんでしまう。

それは瀬川も同じだったのか苦笑すると、場をとりなすように言った。


「ま、温かく見守ってるからさ。谷地さんのこと、泣かさないでくれよな?」

「そんなの分かってるよ。」

「ならいいよ。じゃ、またな。」


瀬川は佐伯の背をポンと押すと教室の中へ戻っていって、俺も教室へ戻ろうと足を進めた。

そのとき佐伯の顔を思い浮かべて、ふと考えを巡らす。


……幸せ過ぎて忘れてたけど…、詩織って何かとモテてんだよなぁ…

詩織はそういう気持ちにホント鈍いから、全然気づいてないけど…


まぁ、詩織を好きな奴らも俺の存在を知ってるだけに、ぶつかって玉砕するって覚悟ある勇者もいねぇから、…余計に詩織は気づかねぇし…

またそいつらは、ずっと想いだけを抱えて、詩織のことそういう目で見てるからなぁ…

隙あらばって思ってそうで、気が抜けねぇっつーか…


皆が皆、詩織に告ってフラれて諦めてくれれば気が楽なんだけど…


俺はすごく自分本位な考えをしていて、腕を組みながら廊下を歩き続ける。

そのときに「拓海君っ!」と何人か話しかけてくる女子がいたけど、俺は軽く無視して通り過ぎる。


こうやってあからさまな好意が分かれば、詩織も俺みたいに軽くあしらえるような気もすんだけどな…

詩織に好意を寄せる奴らは巧妙に自分の気持ちを隠して、友達として寄ってくるだけに厄介だ。


俺と詩織の差はなんだ?

見た目か?雰囲気か?


俺は自分に話しかけてくるのは軽そうな女子ばかりで、詩織に好意を寄せる男子は真面目そうな奴ばかりだという事に気づいた。


う~~~ん……


真面目な奴ほど本気だから厄介なのかもしれねぇなぁ…


俺は教室の前まで来ると、教室には入らずに窓にもたれかかると廊下から中を見つめた。

そしてクラスメイトに目を向けて、じっと詩織に好意を持ってる奴を観察する。


一番近いのは島田だろ…

まぁ、あいつは俺らの仲を壊す気はないみたいだから、安心してっけど…


後は西門君か…

でも西門君も千葉さんに好意持たれてるわけだし…

それに幼馴染って関係を今更壊そうとは思ってねぇみたいだから…まぁ、一応大丈夫か…


それから…一番何考えてるのか分からなくて危険なのが…

長澤君と内村…だな。

この二人は、そこそこ頭もキレるから隙あればって思ってそうで怖い…


真面目な奴程、何かスイッチ入ったときに何するか分かんねぇしな…


俺は机に向かって一心不乱に勉強している長澤君と、地味な面子で集まってマンガ片手に話をしている内村を交互に見て、何もしてくんじゃねぇぞ~と念を送った。


そうして俺が教室内に目を光らせていると、突如詩織の顔が割り込んできて、心臓が飛び上がった。


「うおわぁっ!!!」

「えっ!?ごっ、ごめん!驚かせちゃった?声かけたんだけど。」


詩織は俺が大声を上げたことに一歩飛び退いて、困ったように謝った。

俺はそんな詩織の腕を掴むと引き寄せて、逆に自分が謝る。


「悪い。考え事してて気づかなかった。驚かせたよな?」

「ううん。大丈夫だよ。」


詩織ははにかむように笑うと頬を赤らめ始めて、どうやら俺と距離が近いことにドキドキしてるらしいことを感じ取った。


俺も顔に出るって言われたけど、詩織も大概顔に出るよな…


俺は詩織の表情から好きだ~って空気を感じて、頬が一気に緩む。

すると詩織が「あ。」と声を上げて、嬉しそうに言った。


「さっき藤浪先生に話聞いてきてね!私、桐來の推薦受けられるみたいなんだ!!」

「え!マジ!?やったじゃん!!」

「うん!!受かるか分からないけど、一応受けてみるね!」


詩織の表情はキラキラと輝いていて、相当嬉しかったんだと分かった。

俺がそんな詩織を見て心から良かったと安心していると、ふと視線を感じて詩織の向こうへ目を向けた。


すると教室の中から長澤君がこっちを見ているのが見えて、俺は長澤君の表情から詩織を見てると分かったので、詩織の腰に手を回してグイッと引き寄せた。

そして詩織が「井坂君?」と言う声を遮るように詩織に口付けた。

詩織は最初ビックリして体を強張らせたけど、詩織の手が俺の背に回ってるのを感じて薄く目を開けた。

そのとき詩織の後ろ頭を手で押さえて少し向きを変えると、教室内に視線を走らせる。


俺の視線と長澤君の視線が交わりバチッと目が合った瞬間、長澤君が焦ったように机に目を戻すのが見えた。

俺はそれに安心して詩織から口を離すと、今度は違うところから視線を感じて目を向けると内村が目を見開いてこっちを見ていた。


あいつもかよ…


俺はイラッとしてしまって、目を細めて内村を挑戦的に見ると、詩織の耳元にキスしてわざとイチャついた。

詩織は「ひゃっ!」と可愛い声を上げて、俺にしがみついてくる。

そこでさすがに内村も視線を逸らして、俺はやっと詩織にだけ意識を傾けることができるようになった。


これで、詩織には何もしてこねーだろ


俺は詩織の背をギュッと抱きしめて、詩織に頬ずりするようにくっついた。

詩織は「どうしたの?」と不思議そうに訊いてきたけど、俺は「詩織を味わってるだけ。」と言って誤魔化した。


見せつけるためだけにキスしたとは、言えねーよな


俺はそれから赤井に怒鳴られるまで、詩織とくっついていて廊下だということを忘れていたのだった。












井坂、詩織の周囲に警戒するターンでした。


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