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理系女子の恋  作者: 流音
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15、脅される


山地さんと揉めた次の日、私は昨日から引きずっている暗い気持ちを抱えて登校した。

靴箱に靴を直して、指定スリッパに履き替えたところで、大きくため息をつく。

私は昨日の井坂君の目が頭から離れなくて、疑われたままだったらどうしようと思って気分が落ち込む。

できるなら、いつも通り接したい。

私は一晩考えた誤解を解く言葉を頭に羅列しながら、教室へと足を向けた。


するとその前を何人かの女子生徒に塞がれて、私は首を傾げた。

その女子たちは私を睨んで、口々に「本当にこいつ?」と言って顔を見合わせている。

その何人かの後ろから山地さんが笑顔で姿を見せて、私は身構えた。


「おはよう。谷地さん。ちょっと話、いいかな?」


私はその冷たい声に逆らえるはずもなく、その女子たちに周りを囲まれるとトイレに連行されたのだった。



トイレまで来ると、私は肩を押されて壁に背を打ち付けた。

このときこれはマンガとかで見る、集団イジメというものではないかと思った。

相変わらず不機嫌そうな女子たちは、私を見て口々に堰をきったように文句を言い始めた。


「拓海と最近仲良いらしいじゃん!?同じクラスだからって、勘違いすんなよ!!」

「そうだよ!拓海は誰にでも優しいんだから、抜け駆けしないでよ!!」

「今まで拓海君が女子と二人で行動なんかした事ないのに、信じられない!!」


私はこんなに井坂君の事を好きな女子がいたんだと、開いた口が塞がらなかった。

この人たちは…私に文句を言ってどうしたいのかな…?

私はこうやってトイレで囲まれる意味が分からなかったので、遠慮がちに尋ねた。


「あ…あの~…私にどうして文句を言うのかな…?井坂君が好きなら…告白すればいいんじゃ…。」


「それができないから、こうしてんじゃん!!」

「そうだよ!!拓海は告白しちゃったら、そこで終わりなんだから!!」


「終わりって…どういう事…?」


私はその言葉を言ったツインテールの女子に目を向けた。

彼女は目を吊り上げると、腰に手を当てて言った。


「中学の時から、拓海は告白してきた子とはしゃべらなくなるの!!今までの優しい姿が嘘みたいに!!だから、私たちは拓海と程よい距離を保ってきたのに!!」

「そうだよ!!急に現れて、一緒に勉強してるなんてクラスメイトだからって調子にのり過ぎなんだよ!!」


ここで彼女たちの怒りの原因が見えた。

要は今まで井坂君とずっと話していたくて彼女になるのを我慢して、告白はしないできた。

でも、クラスメイトである私が現れて嫉妬して、こういった大胆な行動を起こしたってことか…

私は自分と同じ気持ちを彼女たちも抱えてると分かって、妙におかしくなった。


「何、笑ってんだよ!!」


私が微笑んだことで彼女たちの逆鱗に触れたのか、右肩を押さえつけられた。

じわじわと力がかかって徐々に痛みが出てくる。


「ねぇ、谷地さん。もう拓海君と二人で話したりしないって約束してくれないかな?」

「え…?」


山地さんが腕を組んで、鋭く私を見据えた。


「約束してくれたら、あなたの株を下げるような噂は立てないって私たちも約束するから。」

「…株を…下げる…?」

「昨日のことで分かったでしょ?拓海君にあなたの嘘の情報を教えることは簡単にできるんだから。拓海君に嫌われたくないでしょう?」


彼女の言葉に昨日の疑われたときの目を思い出して、背筋が冷えるようだった。

これからも…あの目で見られたら…私…

胸がどんどん苦しくなってきて、私は泣きそうになるのを必死に堪えた。

そんな私の反応が面白いのか、彼女たちの甲高い笑い声がトイレに響く。


私は井坂君に嫌われるのだけは嫌だったので、彼女たちの要望に頷くことしかできない。


すると私が頷いた事で満足したのか、私の肩から手が離れて「それで、いいのよ。」と上からの言葉が突き刺さった。


「西中出身だったら、誰でも知ってるルールをあなたは破った。今までの事には目を瞑るから、今日から約束守ってね?」


山地さんたちはそれだけ言い残すと、項垂れた私を置いてトイレから去っていった。

私は壁に背をあずけた状態でグルグルと言われたことが頭の中を駆け巡って、我慢していた涙が頬を伝ったのだった。





***




その日から私は井坂君を避けるようになり、教室でも二人にならないように努めた。

あゆちゃんたちがいるときは普通に話して、二人になりそうなときはタカさんの所へ逃げる。

もちろん放課後の図書室には行けなくなった。


山地さん達は私を監視するためか、休み時間の度に教室へやってきては井坂君を呼び出していた。

そうやって楽しそうに会話する井坂君と山地さん達を見つめながら、胸がどんどん真っ黒になっていくようだった。

井坂君に嫌われたくない…

でも、前みたいに…井坂君と話がしたい…

私はこんなに近くにいるのに、井坂君との距離がどんどん離れて行くようで悲しかった。



そして明日からテストという日になった放課後、私が荷物をまとめていると井坂君が横から話しかけてきた。


「谷地さん。今日は図書室来る?」

「え…。」


井坂君が私の様子を窺っているのか、少し遠慮がちに顔をしかめていた。

私はそんな顔が見たくなくて、視線を鞄に戻すと無理やり笑顔を作った。


「ごめん。今日は家で勉強するよ。」

「……やっぱ…迷惑だった?」

「え…?」


井坂君の悲しげな声が聞こえて、私は井坂君を見た。

彼は鞄を肩にかけると、眉間に皺を寄せていて泣きそうな顔をしていた。


「俺が行き始めてから…来なくなったしさ。迷惑だったんだろ?俺…今日は行かないからさ。図書室で勉強しても大丈夫だよ。じゃあな。」


ち…違う!!

私は引き留めようと声をかけようとしたら、教室の入り口に山地さんがいるのが見えて口を噤んだ。

彼女は「拓海君!!」と彼を呼んで、井坂君はそんな彼女と並んで歩いていってしまった。

私は井坂君に対する誤解がどんどん膨らんでいく事に、どうすればいいのか分からなかった。


一緒に勉強したかった…

迷惑だなんて、思ったことない…


私は今にも涙が零れそうで、グッと唇を噛みしめると鞄を握りしめたのだった。




***




そして次の日から始まったテストは散々だった。

私は今まであまり勉強が手につかなかったのもあって、手ごたえがさっぱりで自分の不甲斐なさに頭が痛くなった。

席が遠くなったのもあって、井坂君とは仲直りすることができず、気まずい距離間のままだ。

恋愛に左右されて勉強がおろそかになるなんて、初めての経験だった。



そして返却されてきた結果は中間より大幅に下がった。


私はその結果を眺めて、投げ捨てたい衝動にかられた。

というのもいつもの席に戻った私と井坂君だったけど、あれから一度も言葉を交わしていないからだ。

こんなのイヤだ…苦しい…

どうすればいいの…?

私は結果用紙に力をこめてグシャッと握りつぶした。



「今日は神社で夏祭りだぜ~!!クラス全員参加な!!神社の鳥居に5時に集合で!!」


赤井君が教卓に立って笑顔でみんなに言って、私は以前井坂君の家に行ったときの約束を思いだした。


浴衣で一緒に回る…って言ってた…よね?


私は仲直りするチャンスだと思って、ギュッと拳を握りしめると、気分を少し持ち直したのだった。





そして、約束を守るために慌てて家に帰ると、私は浴衣を探した。

もう長い間着ていないのでどこに入っているのか分からない。


私はリビングに下りると、お母さんに声をかけた。


「お母さん!私の浴衣ってどこにあるの?」

「浴衣!?いきなり、何を言ってるの?それより、テストの結果戻ってきたんでしょ?見せなさい。」


お母さんにピシャリと言われて、私はグシャグシャにしてしまった結果表を思い浮かべた。

あんなの見せたら、しばらくお説教されるに決まってる。

私はどうしても夏祭りに行きたかったので、誤魔化そうと口を開いた。


「ま…まだ返ってきてないんだ。だから、今日の夏祭りに行くのに浴衣出してほしい。」

「そうなの?でも、あなたの浴衣なんて中学のときのものだから、きっと小さくて着れないわよ?」


お母さんに言われて、私は自分が中学でも背が伸びていた事を思い出した。

浴衣は…着れないか…

私は浴衣は諦めることにして、とりあえず集合場所に行く事にした。


「分かった。じゃあ、このままで夏祭り行ってくるね。」

「詩織。ちょっと待ちなさい。行く前に、一緒にあなたの部屋に行きましょ。」

「え…?」


私はお母さんが私の部屋に行こうとするので、その背について行った。

お母さんが私の部屋に来るなんて久しぶりの事で、何だか嫌な予感がする。

お母さんは私の部屋に入ると、まっすぐに私の鞄を手に取った。

それを見て冷汗が背中を伝う。


ヤバい!!あの中には結果表が…!!


私はお母さんから鞄を奪う事もできずに、口を開けたり閉めたりしている事しかできない。

案の定、結果表がお母さんに見つかり、眉を吊り上げたお母さんが振り返った。


「詩織。これは何?」

「……テストの…結果…。」

「そうよね!!さっき返ってきてないって言ったわね!?お母さんに嘘をついたの!?」

「…ご…ごめんなさい。」


私はこんなことなら正直に見せていれば良かったと肩を縮めた。

お母さんは私に結果表を突き付けてくると声を荒げた。


「それにこの結果、中間のときより悪くなってるじゃない!!紙もグチャグチャにして!!スカート短くするときにあなた言ったわね!?勉強を今までより頑張るって!!それなのに、これはどういう事!?」

「その…今回は色々あって…。」

「色々っていうのは、あなたがその格好をし出した事に関係あるんでしょ!?高校に入って悪いお友達にでも唆されたんでしょ!!」

「ち…違う!!これは、私が変わりたいって思ったから!!」


私はあゆちゃんの事を悪く言われているような気になって、否定した。

お母さんは怒りを鎮めてくれる様子もなくて、私は息を飲み込んだ。


「変わりたいって、それで成績落としてたら意味がないでしょう!?こんな点数で夏祭りなんて認めません!!ここで勉強してなさい!!」

「そっ…そんな!?お母さん!!お願い!!明日から頑張って勉強するから!今日だけは夏祭りに行かせて!!」


私はお母さんにすがりつくように懇願した。

でもお母さんは聞く耳を持ってくれなくて、私を振り払うと「ダメです!!」と言い切った。


「夏祭りぐらい我慢しなさい!!でないと、夏休みも夏期講習に行かせるわよ!?」


私は夏休みまで勉強させられるのかと思って、口を噤んだ。

こんなのってない…

私はお母さんに逆らえなくて、その場にへたり込んだ。

お母さんはそれを見て満足そうに、私を見下ろした。


「とにかく、晩御飯までここで勉強してなさい。勝手にいなくなったら許しませんからね!」


お母さんはそう言い残すと、扉を閉めて出ていってしまった。

私は何もかもが上手くいかなくて、床に手をつくと約束を守れない事に胸が痛くなったのだった。







出身中学が明かされました。

井坂と赤井、タカさんは西中出身です。

ちなみに詩織と西門は北中出身です。

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