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理系女子の恋  作者: 流音
136/246

129、熱がある


「詩織~…、頭痛い…。」

「え!?頭って熱あるのかな!?」


二限と三限の間の休憩時間に井坂君が机の上に突っ伏した状態で言って、私は慌てて自分の額と井坂君の額に手を当てて体温を確認した。


うーん…なんか分かりにくいな…

ちょっとだけ井坂君の方が高い気がする…


私は保健室に行って体温計と冷えピタをもらってこようかと思っていたら、袖をクイッと引っ張られた。

袖を引っ張っていたのは井坂君で、私を上目づかいに見ると口を開いた。


「手じゃなくておでこで熱測ってくれよ…。」

「え!?おでこ!?」


私は思わぬ要望にかぁっと顔に熱が集中した。

私が教室の中だということもあって無理!!と言おうとすると、それを遮るように「何でもするって言った。」と井坂君が目を細めて私を突き刺すように見てくる。


う~~~!!確かに言ったけど!!


私はキョロキョロと教室内に目を向けて誰もこっちを見ていないのを確認すると、大きく息を吸いこんですばやく井坂君の額に自分の額をくっつけた。


そして目を瞑って熱があるかを確かめるために集中する。


あ、こうすると井坂君の方が高いのが分かるかも…

やっぱり熱あるんだ…


私は薬か冷えピタか貰いに行こうと思っていると、熱く熱をもった唇に口を塞がれたのに気付いてバチッと目を開けて腰を抜かすように離れた。


キッ、キッ!!キスされた!!!


私が床に手をついてへたり込んで井坂君を見上げると、井坂君はふっと笑みを浮かべた後に「ごちそーさま。」なんて言ってきて、私は真っ赤な顔で口をパクパクさせるしかできなかった。


~~~~っ!!!井坂君はずるいっ!!


私はしてやられたことにムッとしながら立ち上がると、そのとき視線を感じてその先に目を向けると、篠ちゃんが真っ赤な顔でぽかんとこっちを見てることに気づいた。

私は顔に集まってた熱が一気に冷めて、思わず「違うっ!!」と大声で叫んでしまった。


篠ちゃんは「見てない、見てない!」と慌てて背を向けて逃げていくので、私は焦って追いかけて彼女を捕まえて懇願した。


「篠ちゃん!!見なかったことにしてっ!!お願い~!!」

「分かってる!分かってるから!!言わなくても分かってる!」


篠ちゃんはへばりつく私の背をポンポンと叩きながら渇いた笑いを浮かべて言って、私は気を遣われてることに泣きたくなった。


「ホントに違うから~!!」

「もう、分かってるってば!!しおりんがそういう事平気でするような子じゃないのは知ってる!だから、泣かないでも大丈夫だから。」


篠ちゃんに宥めるように背中をさすられて、私は自分が涙目になってることに気づいた。

篠ちゃんは照れてはいるものの、優しい笑顔で私を見つめてくる。

その表情から、本当に分かってて黙ってくれると分かって、心底安心して更に瞳が潤む。


見られたのが篠ちゃんでホントに良かった…

ホントにほんっとに良かった…


私はその場に脱力してへたり込むのと同時に、はたと薬と冷えピタのことを思い出して、気を取り直して篠ちゃんにお礼を言って、保健室へと向かって走ったのだった。





***




そして薬と冷えピタを保健室でもらったところで休憩時間が終わってしまい、私は井坂君に渡すだけ渡して席についた。

私は授業を受けながら井坂君の体調が気になり、ちらっと井坂君の席を盗み見ると、井坂君は自分で冷えピタを貼ったあとに机に突っ伏して、寝てしまったようだった。

目を閉じた顔がこっちを向いていて、寝顔に癒されてしまう。


やっぱり寝顔が可愛い…


私がほわ…と胸が温かくなりながら、井坂君の寝顔を見つめ続けていると、前の席の長澤君が先生にあてられたのか立ち上がったので、私はハッと我に返り教科書に目を戻した。


そして後の時間は井坂君が気になりつつも、しっかりノートをとって授業に集中したのだった。



昼休み―――



私はお弁当を手に三限から眠り続けている井坂君の席にいって、彼を起こそうと声をかけた。


「井坂君。お昼だよ?ご飯食べない?」


井坂君は私の声に反応するとゆっくり瞼を持ち上げて目を開けた。

そのあと大きく伸びをすると、欠伸をしてから言った。


「もう昼かぁ…。寝たらちょっと楽になった気がする。」

「ほんと?良かったぁ。」

「あ、でも体はだるいから弁当は食わせてくれよな?」

「へ?」


私がぽかんとすると、井坂君はお弁当を鞄から出して机の上に広げお箸を私に渡してきた。

私はお箸を受け取って、まさか…とお弁当と井坂君を交互に見つめる。


「はい。そこ座って。よろしくな。」


私は食べさせてほしいとおねだりされてることをやっと理解して、促された席に座ると小声で訴えた。


「い、い、井坂君!これはちょっと…人目もあるし、やめない?」

「なんで?俺らが付き合ってるのはクラス全員知ってんだし、今さらだろ?」

「そうかもしれないけど!!でも、恥ずかしいし…見せつけるみたいで…ちょっと…。」


私は周りから見ても嫌だろうと思ったのだけど、井坂君はケロッとした様子で口を開けてくる。


「いいんだって。誰も見てねーよ。はい、早くしねーと時間なくなる。」


私は口を開けてる井坂君を見て、しばらく迷ったけど、風邪を移した自分のせいだと言い聞かせて覚悟を決めた。

井坂君のお弁当にある煮物の小芋をお箸で掴むと、前回のあ~ん再びで井坂君の口に運んだ。

井坂君はそれをパクっと口に入れると、キュッと頬を持ち上げて嬉しそうに笑う。


「詩織に食わせてもらうと、いつもの十倍ぐらい上手く感じるな。」


井坂君が本当に嬉しそうに言うので、私は恥ずかしさが消えてこっちまで嬉しくなった。

胸にふわふわとした優しい気持ちが広がる。


たまにはこういうのも良いかも…


私は幸せな時間に笑みが漏れてしまいそうで、頬に力を入れてこらえると、次はご飯かなとご飯をお箸で掴んだ。

そのとき誰かにその手を掴まれて、私はびっくりして顔を上げた。


「そこまで。教室内でのラブ弁は禁止!!」


そこにいたのは赤井君で、赤井君は私からお箸を取り上げると、目を吊り上げた。

その横には北野君と島田君もいる。


「何だよ、赤井。邪魔すんな。見て分かるだろ?俺の体調が悪いのが。しんどいから詩織に食べさせてもらってんだよ。」

「そういう理由なら谷地さんじゃなくたっていいよな。俺が食べさせてやるよ。」

「はぁ!?」


赤井君が私にどくように手で示してきて、私は自分のお弁当を持って席からどいた。

すると赤井君がそこに座ってご飯を掴んで「あ~ん。」と意地悪そうな顔でお箸を突き出している。


「やめろ!!男にそんなことしてもらっても嬉しくもなんともねぇよ!!」

「うっせー!!人が親切でしてやってんだ!!黙って食え!」

「嫌だ!!詩織とチェンジしろ!!」

「誰が変わるかアホ!!!」


井坂君が風邪とは思えないほどの元気な様子で赤井君と言い争いを始めて、私はどうしようかと様子を見守るしかできない。


「だいたい朝からお前らベタベタし過ぎだ!!午後は俺がお前の面倒見るから、谷地さんはこいつに接触禁止!!」

「は!?ふざけんな!!!」

「島田!!谷地さんをあっちに連れてけ。」

「え!?」


赤井君が島田君に言った事で、私はなぜか島田君に腕を掴まれ、井坂君の席からあゆちゃんたちの所へ連行された。


え、うそ!?ホントに接触禁止!?


「ちょっ、待って!!島田君!」

「これも井坂と谷地さんのためだって。今は赤井のいうこときいてやってよ。」

「でも…!!」

「しばらくしたら赤井も面倒くさくなるだろうし、それまで様子見ててよ。な?」


島田君は赤井君の性格を熟知しているのかそんな事を言って、私は赤井君と言い争いを続ける井坂君を見つめて心配になった。


あんなにギャーギャー言ってたら、体調悪化するんじゃないかな…?


私はあゆちゃんたちに一緒に食べようと誘われたのもあって、結果的には赤井君の指示に従ってしまった形になってしまったのだけど、井坂君は赤井君と昼休み中ずっと揉めていたのだった。



それからは赤井君の宣言通り、私は井坂君と接触させてもらえなくて、次に井坂君と話ができたのは放課後になってからだった。


「もう帰るっ!!!」


掃除時間中も赤井君と言い争っていた井坂君は、教室中に響き渡る大声でそう言うと、ズンズンと私に大股で向かってきた。

私は掃除をしていたタカさんと話をしている途中だったので、突然のことに井坂君をじっと見つめて固まった。


「詩織、帰るぞ。」

「え?帰るって、私掃除手伝ってて―――」

「いいから!!」


井坂君は私の腕をグイッと引っ張ると、私の机から私の鞄を持ってきて、荒々しく教室を飛び出した。

私はみんなにバイバイも言えずに引き連れられて教室を出て、廊下をしばらく歩いた所で突如井坂君にべたっとくっつかれた。


「い、井坂君…。ちょっと重いよ…。」

「うん…。」


井坂君は私をほぼ抱きしめるようにして横をゆっくり歩いていて、すぐ横に井坂君の顔があるので緊張してしまう。

若干頬に熱をもった息がかかるし、顔が照れて熱くなってくる。

井坂君はやっぱり体調が悪化したのかほぼ体重を私に預けてくるので、重いし周りの生徒からの視線が痛い。


私は見られてるのを気にしないように靴箱で靴に履きかえると、またベタッとくっついた井坂君と一緒に校舎を出た。


「あ、井坂君。そういえば、今日自転車は?」

「今日は歩いてきた。自転車出すのが面倒だったし…。」

「そっか。じゃあ、今日は私が家まで送るね。」

「うん。頼む。」


井坂君が珍しく素直に私の言う事に頷いてビックリした。


もしかして熱高くなって弱ってるのかな…??


私は一刻も早くお家に帰って寝させた方がいいな…と思って、早歩きで井坂君の家へと向かったのだった。





***




井坂君のお家に井坂君を送り届けると、井坂君のお母さんがリビングから慌てて飛び出して出迎えてくれた。


「あらあら詩織ちゃん!!いらっしゃいって拓海!!どうしたの!?」


お母さんは私にぐったりしながらへばりついている井坂君を見て、驚いて目を瞬かせた。

私はしんどそうな井坂君の代わりに説明する。


「あの風邪ひいたみたいで…というか私が移したんだと思うんですけど…。その、熱があって…辛そうなので私が一緒に…。」

「まぁ!!そうだったの。朝、起きるの遅いな~なんて思ったのよねぇ~。ずっと無言だったし、朝ごはんもあんまり食べてなかったわね。そういえば。」


お母さんはお気楽そうにふふと笑っていて、私はあまり心配していないお母さんを見て苦笑いを浮かべた。


井坂君のお家って風邪ひいてもこんな感じなんだ…


「詩織ちゃんには悪かったわねぇ。もうこっちで預かるわね。重かったでしょ?」

「あ、いえ。」


お母さんが私から井坂君を引き離して支えようとすると、井坂君がお母さんの手を振り払った。

そして据わった目つきでお母さんを睨みつけて、覇気のない声で言った。


「今日は詩織に看病してもらうから、母さんは来んな!!人が体調悪いのに気付きもしなかったクセに!」

「なによ!あなたが朝機嫌悪くて黙ってるのなんて普通のことでしょ?それを体調悪いのと比べるなんて無理な話よ。気づかなかったのは仕方ないじゃない!」

「詩織はすぐ気づいたけどな!もう部屋行く!!」


井坂君はお母さんと口喧嘩しながら靴を脱ぐと私を引っ張るので、私はどうしようかと迷ったけど井坂君の力が強くて、このままだと引っ張り込まれると思ったので靴だけ脱いだ。


「拓海!!詩織ちゃんに迷惑でしょ!?放しなさい!!」

「うるさいな!!母さんには迷惑かけねーよ!!俺と詩織のことはほっといてくれよ!!」


井坂君は私を引っ張ったまま階段を上りだして、私はケンカだけでも宥めようとお母さんに向かって言った。


「あの、私は大丈夫なので!井坂君をベッドに寝かせたら、ちゃんと帰りますから。」

「母さんは絶対部屋に入ってくんなよ!!」

「拓海!!詩織ちゃんに何かしたら許さないからね!!」

「風邪ひいてんのにするわけねーだろ!!さっさと部屋に戻れって!!」


私の声も耳に入らないのか二人は口喧嘩をやめてくれなくて、お母さんは「もう!!」と言いながら怒ってリビングに戻っていった。

井坂君は井坂君で「家も学校も口うるさい奴ばっかで嫌になる。」とブツブツ言いながら部屋に向かう。


う~ん…井坂君って熱出すと不機嫌になるのかな…?


私が井坂君の背中を見つめて考えていると、井坂君は部屋に入るなり扉をキッチリしめてから私をギュッと力強く抱き締めてきて、急なことに心臓がビクッと跳ねた。


「い、井坂君…。どうしたの?しんどいならベッドに入ろうよ?」

「やだ。」

「やだって…。しんどいんだよね?風邪ひどくなっちゃうよ。」

「だって…俺がベッド入ったら詩織…帰るんだろ?」


え…?これって…帰らないでって言われてる??


井坂君は「そんなんイヤだ。」と言っていて、甘えられていることに胸がキュンと苦しくなった。


か、可愛いっ!!!


私は井坂君がすごく愛しくなってギュッと抱きしめ返すと、ある提案をした。


「じゃあ、井坂君が寝るまで傍にいるから。とりあえずベッドに行こう?」

「ヤダ。信用できない。」


信用できないって…


私はどうにか休ませたかったので、何かないかと唸って考え込んだ。

すると、井坂君が何を思ったのかボソッと思いもしないことを言った。


「詩織も一緒に寝てくれるならベッドにいってもいい。」

「え!?寝る!?」

「うん。」


ね、ねねね寝るって…添い寝っていう意味だよね!?

その、深い意味はないよね!?


私はかぁぁっと顔が熱くなって、どうしようかしばらく悩んだ。


照れるけど…今は井坂君の体調が一番だよね…


私は大丈夫と自分に言い聞かせると「いいよ。」と返事を返した。


「あ、でもブレザーだけは脱いでもいいかな?皺になっちゃうし。」

「うん。俺も脱ぐ。あ、ベルトも苦しいから外そう。」


私と井坂君はお互いにブレザーを脱ぐと、井坂君はネクタイとベルトも外してベッドに向かった。

そして井坂君は先にベッドに横になると私を隣に促してきて、私は一度生唾をのみ込んでから熱で赤い顔をしてる井坂君の横に潜り込んだ。


狭いので自然と密着していたら、井坂君が赤井君の家に泊ったときのようにギュッと抱きしめてきて、私の顔が井坂君の胸にぶつかった。


心臓がドックンドックンと大きく鼓動してる音が耳の奥に響いて、私は自然と呼吸を止めていて思わず大きく息を吸いこんだ。


ヤバい…ドキドキし過ぎて心臓が壊れそう…!!!


私がドキドキしてることを悟られないように、細く呼吸しながら井坂君のシャツをギュッと握りしめると、急に井坂君の体が真上に動いて私は大きく目を見開いて彼を見上げた。


「い、井坂君?」


井坂君は私の上に跨るようにして私を見下ろしていて、私はふと嫌な予感がした。


「詩織…。」


井坂君は熱っぽい声で私を呼ぶと、ぐっと顔を近づけて深いキスをしてきて体が一気に強張った。



まさかという単語が頭の中を埋め尽くして、今にもパニックになりそうで目の前がチカチカとフラッシュし始めた。






我が儘な井坂のターンでした。

二人の仲が発展するのか…次話に持越しです。

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