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理系女子の恋  作者: 流音
131/246

124、ダメじゃない


冬休みは井坂君、それにお兄さん、お姉さんと一緒に年を越して、残りの期間は井坂君と毎日お家デートをしてあっという間に過ぎた。


そして、今日は久々の学校で、私は制服が懐かしいなと思いながら袖を通す。

そのとき自分の姿を鏡で見て、いつも通りの笑顔をを浮かべてみる。


うん。大丈夫。


私は井坂君のお兄さん、お姉さんのことでしばらく落ちていたけど、井坂君と過ごす幸せな毎日の中で気持ちの整理は済んでいた。

私にできるのはお姉さんの願いに報いる事。

それから変わらない自分で居続けること。


私はパンパンと顔を叩くと、気合いを入れて部屋を出たのだった。




久しぶりの通学路に同じ制服姿の生徒が多くなり、白い息を吐き出しながら誰かクラスメイトがいないかな…と辺りに目を向けていると、道の角から自転車が出てきたのを見て、私はその姿に反応して声を上げた。


「井坂君!!」


自転車に乗っていた井坂君は私の声に止まってくれると、振り返ってすぐ手を振ってくれる。


「詩織!!はよっ!」


私はその手にクリスマスに渡した手袋がついているのを見て、嬉しくなりながら走って駆け寄る。


「おはよう!!手袋使ってくれてるんだね。」

「あ、うん。あったかいよ。ありがとな。」

「ううん。使ってくれて嬉しい。」


私がニコニコしていると、井坂君が私のことをジロジロと見てから、遠慮がちに目を逸らしながら言った。


「そ…その…、詩織は…指輪…どこやったんだ?」


井坂君は口をもごもごさせながら言っていて、気にしてますという姿に笑みが漏れる。

私は自分の首につけていたチェーンを引き出すと、そこに通していた指輪を井坂君に見せる。


「ここにあるよ。指につけてたら校則違反で、先生に見つかったら大変だと思って、こうして隠すことにしたんだ。」


私は指につけたいのを断念して、なんとか身に着ける方法を編み出した結果、ネックレスに通すことにしていた。

おそろいのブレスレットですら、いまだに先生から注意されることがある。

それなのに指輪までしていたら取り上げられてしまうに決まってる。

私は絶対に見つからないようにしようと制服の下に指輪を戻す。


「ははっ!詩織らしーな!!校則とか気にしたことなかった!」


井坂君が笑いながら自転車を押しながら学校へ向かっていく。

私はそれを見て横に並んで歩くと、「とられたら大変だもん。」と正直に言った。

すると井坂君がまた笑って「今日はご飯三杯はいけるな。」なんて変なことを口にした。


「ご飯?…なんでご飯??」

「んー?まぁ、いいじゃん。俺が大食漢ってことで。」

「大食漢?…確かに、私よりたくさん食べるけど…そこまでかな…??」

「ぶはっ!!あははっ!!詩織はほんっと面白いよなぁ~!!」


井坂君がお腹を抱えるようにヒーヒー言いながら笑い出して、私は何も面白い事を言ったつもりはなかったので意味が分からない。


「意味わかんない…。」

「分からなくていいよ。詩織はそのままでいてくれた方が、俺的にも都合が良い。」

「何それ!?何か隠し事でもあるの!?」

「うわっ!!ないない!!ないから!!そういうんじゃない!!」


私が以前のようになるんじゃないかと不安が過り、大胆にも井坂君の制服を掴んで詰め寄った。

井坂君はビックリしたのか真っ赤な顔で全力で否定している。


私はそれをじっと見つめて本当かどうかを確かめようとする。

井坂君は私から視線を逸らすとグッと口を引き結んでから、「ないから離してくれ…。」と俯いて懇願するので、私は照れてるだけかな?と思い直して手を放した。


すると井坂君が急に自転車に跨って「先行く!!」と逃げるように声をかける間もないほど、素早く走り去ってしまった。


それを見ていた同級生っぽい女子からヒソヒソと「別れたって本当なんじゃない?まだギスギスしてるよ。」という噂話が聞こえてきて、私はそっちにキッと睨みつける。


違うから!!


その子達は私が目を向けるなりサッと視線を逸らしてしまって、私はまた変な噂立てるんじゃないだろうか…と不安になったのだった。





**





「おはよー。」


私がさっきのヒソヒソ話にモヤモヤしながら久しぶりの教室へ足を踏み入れると、タカさんとあゆちゃん、新木さんが入り口側の新木さんの席で固まって「おはよー。」と返してくれる。


「詩織~。大晦日は面白いものを見せてもらったよ。」

「大晦日?」


あゆちゃんがニヤニヤ笑いながら新木さん達に目配せして、私は大晦日のことを思い返した。


大晦日はあゆちゃんには会わなかったはず…だけど。


「ふふっ…、神社の境内で井坂とラブってたよねぇ~。見た瞬間ビビったよ~。」

「えぇっ!?あっ、あゆちゃんいたの!?」


私はあゆちゃんに見られていたことに、恥ずかしくなって体温が上昇する。

あゆちゃんは楽しそうにニヤニヤ笑い続ける。


「ふふふっ!大きな声で告ってたよねぇ~。」

「うそっ!?そうなの!?」

「しおりん~。ホントに井坂君絡むと大胆なことするよねぇ~。」


~~~~っ!!!


私は新木さんやタカさんにバラされて居心地が悪くなる。

このままここにいちゃダメだと、逃げるように背を向けると自分の机に急いだ。

後ろから「逃げた~!」なんてヤジが飛ぶが構わない。


まさか、よりにもよってあゆちゃんに見られるなんて!!


おしゃべりなあゆちゃんのことなので、きっと午後には女子全員の耳に入ってるだろうと思い、気分が沈み込む。


お昼はからかわれないように、お弁当持ってどこかに避難しよう…


私はそう決めて、自分の席で鞄から教科書を取り出した。

そのとき、私の斜め前の席の島田君が私の方を向いて話しかけてきた。


「おはよ、谷地さん。」

「あ、おはよう。」

「さっき何の話してたんだ?小波たち、気持ち悪いぐらいニヤケながらこっち見てるけど。」


島田君に言われてあゆちゃんたちに目向けると、確かにコソコソ話ながらニヤついてる三人が目に入った。


なんか腹立つなぁ…


私は気にする島田君に「何でもないよ。」と返すと、島田君が首を傾げて椅子ごと私の方へ寄ってくる。


「谷地さんっていっつも小波たちにからかわれてない?」

「そう見える?」

「見える、見える。きっと谷地さんの反応が素直すぎるから面白いんだよ。だから、顔に出さないようにしてみればいいんじゃないかな?」

「う~…ん…。そんな芸当ができれば苦労しないんだけどねぇ…。」


私は隠したくても勝手に表情にでるだけに、自分でもこればかりは気をつけようとしても無理だと思った。

すると島田君が吹きだすように笑い出す。


「ははははっ!なんか、そんなとこ井坂に似てるよな!!」

「井坂君に?……そうかな…?」


私は井坂君と似てると言われて嬉しくなる。

さっきまでの沈んでた気持ちが嘘みたいに明るくなった。

島田君はそんな私を見て優しい笑顔を浮かべている。


「やっぱ、いいな。」

「え?」


島田君が呟くように言った言葉に、私が反応して彼の顔を見つめると、島田君が首を左右に振って「何でもないよ。」と嬉しそうに笑った。


なんで、そんなに嬉しそうなんだろう…??


私が島田君の考えてる事が分からなくて目を瞬かせていると、今度は島田君の後ろから井坂君が姿を見せた。

井坂君は島田君の後ろから抱き付くようにのしかかると、どこか不機嫌そうな顔で島田君を横目で睨んでいる。


「よお。島田。久しぶりだなぁ~?」

「いでででっ!!久しぶりの挨拶がひでぇんだけど!?何なんだよ!!」


島田君が井坂君の腕をパンパンと叩きながら、顔を歪めている。

でも井坂君は腕を離そうとせず、そのままで睨み続けている。


「まぁまぁ、こういう挨拶も一風変わってて面白いだろ?」

「面白くねぇよ!!俺はただ痛ぇだけじゃんか!!放せっつーの!!」


島田君が渾身の力を振り絞って井坂君の腕を引き離すと、井坂君は諦めたのかアッサリ島田君から離れた。


なんだかよく分からないけど、こうしてじゃれ合える関係って羨ましいかも…


私はふんっとそっぽを向く井坂君と、首をさすってる島田君を見て笑みが漏れた。

するとそれを井坂君に見られていたのか、不機嫌そうな井坂君の目が私に向いた。

私はそれだけでドキッとしてしまって、サッと目を逸らしてしまう。


あ…あからさまに逸らしちゃった…


もっと機嫌悪くなったんじゃないだろうか…とおそるおそる視線を戻すと、案の定井坂君の表情が険しく歪んでいて息をのんだ。

そして井坂君はその表情のまま「邪魔みたいだから戻る。」とだけ言って、不機嫌オーラを纏って赤井君のところへ歩いて行ってしまう。


「あー…。あいつホント子供だな。」

「……私…のせいだよね…?」

「ははっ!谷地さんから声かけに行けば、すぐ機嫌治るよ。」

「そうかな?」

「そうだよ。試しに二人になりたいって言いにいってみなよ。」


私は自信満々な口ぶりの島田君に向かって首を傾げた。

島田君は「騙されたと思ってさ。」なんて言って、どこか楽しそうに笑っている。


私はこのまま井坂君を放置するわけにもいかなかったので、島田君にとりあえず笑顔を向けると「行ってくる。」と言い残して席を立った。

そして、赤井君を前にしても、顔を仏頂面にしかめている井坂君のところへ行き、声をかけた。


「井坂君。ちょっといいかな?」


井坂君はちらっと私を見ると、「何?」とぶすっとしたまま言った。

私はその態度に少し傷ついたけど、なんとか機嫌を直そうと井坂君の制服の袖をギュッと握った。


「ふ……、二人に…ならない…?」


私は島田君に助言を受けたようにそのままを口にした。

自分らしくない発言に井坂君がどう思ったか気になって、袖を握りしめたまま井坂君を見ると、井坂君が目を丸くさせて私を見つめていた。


あ、あれ?…なんか言い方おかしかったかな…?


私は井坂君の表情に恥ずかしくなってきて、パッと目を逸らして俯くと手を井坂君の袖から離した。

すると、その手をガッと掴まれて、私は反射的に顔を上げた。

目の前では井坂君が立ち上がっていて、何も言わずに手を引っ張って教室を出て行こうと足を進める。


私は戸惑いながらも手を引かれるままについていくと、井坂君が今は誰もいない多目的室へと入っていった。

そしてしっかり扉を閉めてから、井坂君が振り返ってきて、私は井坂君の表情が和らいでることにホッと安心した。


良かった…怒ってるわけじゃなかった…


私が安心から、ほわ…と穏やかな気持ちになっていると、井坂君が手に力を入れてから言った。


「二人になって何するわけ?」

「あ…、そっか…。」


私は言ったもののそこから先の事は考えていなかったので、何て言おうか困った。

さすがに井坂君の機嫌を直すためだけに言いました…なんて言えないよね?

私はしばらく考え込むと、さっきの事を思い出して言った。


「あ!!お昼!井坂君、お昼私と一緒に食べない?」

「昼?」

「うん!!今までお昼一緒に食べたことないよね?教室じゃなくて…中庭とか、屋上とかで二人で食べたいなー…なんて。ダメかな?」


私は今日はあゆちゃんたちと食べるわけにはいかなかったので、名案だと気分が明るくなった。

これならあゆちゃんたちから逃げられて、井坂君と一緒に食べられるから、一石二鳥だ。

井坂君は「いいけど…。」と言いながら、なぜか眉間に皺を寄せ始める。


「で?それだけ?」

「え…?それだけって…?」


私は井坂君がそれ以外に何を期待してたのか分からなくて、ぽかんとして聞き返した。

すると井坂君はまた不機嫌そうな顔に戻ってしまった。


「そんな話、二人にならなくたってできるだろ。」

「あ…、そういえばそうか…。」


私はまた不機嫌になってしまった井坂君に対して焦っていると、井坂君が大きくため息を吐いた。


「詩織って…ホント分かってねぇよ…。二人になりたいって言ったら、こういうことだと思うだろ?」

「え…―――」


井坂君はそう言うと、私の手を引き寄せ顔を近づけるとキスをしてきて目を見張った。


えぇーーーっ!?


私が口を引き結んで固まっていると、井坂君が口を離してから腰に手を回して抱きしめてきた。


あ、朝から!!朝からこんなのっ!!!


私は心臓がバクバクいっていて、顔も真っ赤に染まりパニック寸前だ。


「学校が始まると、家とは違ってこういうことできるからいいよなぁ。」

「いっ、井坂君!が、学校は勉強するところで、こういうことする場所じゃ―――」

「分かってるよ。でもいいだろ?せっかく誰もいない教室があるんだからさ…。」


井坂君に耳元で囁くように言われて、私はゾクッとしてしまって反論できない。


う~~~!!井坂君はずるい!!


私は足の力が抜けそうで、井坂君のシャツを掴んでしがみついていると、井坂君が今度は耳の下辺りにキスしてきて体がビクついた。

そのあとも頬や首筋にキスされて、その度にビクついて体を強張らせた。


「ふっ…小動物みてぇ…。」

「なっ!?小動物って…だってくすぐったいから―――!!ひゃっ!!!」


私がからかわれたのに食って掛かってる途中で、井坂君の手が太ももに触れてきてビックリして声を上げた。

井坂君の手が太ももを優しく撫でていて、私はそれを引き離そうと抵抗するけど、腰をがっしりと掴まれ体を井坂君に密着させていてそれができない。


「いっ、井坂君!!」

「制服だとスカート短くていいよなぁ…。」


えぇ!?

この人は誰!?


私はスケベ発言としか思えない言葉が井坂君から飛び出したのが信じられなくて、目が飛び出るかと思うほど驚いた。


なんで!?いつもこんなに積極的じゃないのに!!

ていうか、思ってても口に出す井坂君なんて初めてなんだけど!!!


私はこんな井坂君が初めてでどうすればいいのか分からなくて、オロオロしてしまう。

すると、井坂君の腕の力が緩んで井坂君が私の顔を覗き込んできた。


「触るのダメだった?」


~~~~っ!!!!


井坂君の表情が悪い事をしたあとの子供のような顔になっていて、私は胸をギュッと掴まれキュンとしてしまった。


「だ…ダメじゃないけど…。」


私は本心では学校ではやめて欲しかったけど、井坂君の懇願するような顔を見ていたらそんなこと言えなかった。

井坂君はほっとしたように可愛い笑顔を向けてきて、さらに胸がキュンとしてしまう。


井坂君には敵わない…


私がつられて笑顔になると、ちょうどチャイムが鳴って、井坂君は「続きは昼休みな。」と言って手を繋いで歩き出す。


私はさっきの名残からまだドキドキして、恥ずかしいんだけど幸せな気持ちだった。

そのせいか井坂君の「続きは昼休み。」という言葉の意味を深く考えなくて、後悔することになったのだった。








井坂の変態具合が続きます。

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