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理系女子の恋  作者: 流音
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120、家族団欒?


「詩織から離れろよーーーーっ!!」


リビングにやってきた井坂君がお母さんを怒鳴ったあと、私とお姉さんを引き離そうとお姉さんの腕を引っ張っている。

私はくっついているお姉さんと怒ってる井坂君を見て、どうしようかな…なんて呑気に思っていた。


「イ・ヤ・よ!!可愛くない弟より可愛い未来の妹をとるんだから!!」

「は!?妹!?」


ここで井坂君はビックリしたのか顔を真っ赤にさせると、お姉さんから飛びのいた。

私は井坂君も私と同じでそんな未来思ってもなかったんだろうなーと想像して、同じことが無性に嬉しくなった。


「バッカじゃねぇの!?妹とか…!!高校生の俺らに何期待してんだよ!!」

「あれ?お母さーん!!拓海は詩織ちゃんと結婚する気ないみたいだよ~?」


「なっ…!?誰もんな事言ってねぇだろ!!!!!」


井坂君が苛立ちもピークなのか、真っ赤な顔で声を荒げる。

どうやらお姉さんとの力関係では井坂君の方が下のようだ。

お姉さんはニヤニヤ笑いながら相変わらず私を放してくれない。


どうしようかな…


私は口を出すべきだろうかと迷っていると、今までお姉さんに怒りをぶつけていた井坂君とバッチリ目が合った。

井坂君は目が合うなりすぐ逸らしてしまうと、「勝手にしろ!!」と言ってリビングを飛び出していってしまう。


えーーーっ!?


私は井坂君と一言も交わさないまま置き去りにされて、少なからずショックだった。

井坂君に会いに来たはずなのに、こんな状況ってない…

私はお母さんやお姉さんと話すのは嫌じゃなかったけど、井坂君と一緒にいたかったので愕然として肩を落とす。


するとお姉さんがそんな私を覗き込んできた。


「あれ?なんか元気なくなっちゃったね。もしかして、拓海に置いて行かれて寂しい?」


私は図星をつかれてドキッとしたけど、自分の気持ちを誤魔化せる自信がなかったので、正直に答える。


「…はい。あまりにもアッサリしてたから…。」


「~~~~っ!!可愛いっ!!お母さんっ!!詩織ちゃん、すっごい可愛いんだけど!!もう拓海と交換しようよー!!」


お姉さんが冗談だろうことを口にしていて、お母さんがキッチンから「一応大事な弟でしょ?そんなこと言わないの。」とお姉さんを諭して、お姉さんはムスッとしてしまった。

そして、私の耳に入るだけの小声で「絶対、その方が良いのに~」なんてぼやいていて、私は見た目と正反対の子供みたいなお姉さんだなぁ…と思った。


そのときやっとお姉さんが私から離れてくれて、ほっと一息つくと急にリビングの扉が開いて身が縮み上がった。

そうしてビックリして目を瞬かせていると、慌てたように井坂君が姿を見せて、あっという間に私は腕を掴まれて井坂君へ引き寄せられた。


「俺が部屋に戻ったと思って油断しただろ!?ざまーみろ!!」


井坂君はお姉さんにそう吐き捨てると、私を背中へ隠すようにしてしまう。


「拓海!!あんたねぇ!!」

「詩織は俺のだから!!姉さんのじゃねぇよ!!」


俺の……


私が勝手に井坂君の言葉にドキッとして顔を赤らめていると、井坂君に手を引っ張られてリビングから連れ出された。

そして背後にお姉さんの怒鳴る声を聞きながら、足は階段を上り二階の井坂君の部屋へと向かう。


井坂君はその間無言で、部屋に入るなり扉を開けられないようにしているのか、テーブルやら本棚をドアの前に移動させている。


「い…井坂君…。」


私が遠慮がちに声をかけると、井坂君は「ちょっと待って。」と言ってから、扉が開かないか念入りにチェックして大きなため息をついた。

そして私に振り返ってくると、少し怒ってるような顔を向けたまま口を開いた。


「なんでウチにいるんだよ?俺にメールも電話もしないでさ。」

「…ご…ごめん…。ホントは電話しようと思ったんだけど…途中でお母さんに会って…。」

「だからなんでそこで俺に電話しねーんだよ?」


怒ってる…


私は言い訳しようとするけど、口が上手く動かなくて「ごめん…。」としか出ない。

また久しぶりにピリッとした空気を感じて、井坂君を怒らせてることに瞳が潤んでくる。


どうしよう…

井坂君に許可とらないままに、お家にお邪魔しちゃったからいけないんだよね…?

どうすれば、許してくれるかな…?


私はどう言おうかと考えてる間に、瞳に涙が溜まってたのかポタッと一滴落ちて、焦って目を手で押さえた。


なんで泣いてるの!?

私が泣くとか違う!


私は井坂君を困らせると思って、慌てて「ごめん!これは違うの!!」と言うと、前からすごく大きく長いため息が聞こえて、涙目のまま目を向けた。

そこには井坂君がしゃがみこんでいて、私はその姿を見つめて、呆れさせたかと体が硬直した。


「ちがう…俺のが間違ってる…。ごめん…。イラついて詩織に八つ当たりした。」

「へっ……?」


私は井坂君が謝ってきて、頭が混乱した。

どういうこと…?

私が悪いんじゃないの…?


井坂君は俯いていた顔を少し上げると、さっきより和らいでいる表情が見えるようになった。


「俺、詩織に会いに出かけてて…家に行っても留守だって聞かされて…落胆して帰ってきたら、家に詩織いるし…。ビックリして…。でも嬉しくて…。だけど、姉さんがずっと詩織から離れねーからイライラして…、八つ当たりで思ってもないこと言った…。ごめん…。」


私は怒ってたんじゃないと分かって、ほっと胸を撫で下ろした。


良かった…


私は気持ちが楽になって井坂君の前に同じようにしゃがむと、ここに来た理由を伝える。


「いいの。私も井坂君に会いたくなって、勝手に来ちゃったから。井坂君がビックリしたり、戸惑うのも当然だよ。私も悪いから、謝らないで?」


井坂君は私を窺うような目で見ると、「分かった。」と言ってからはにかむように笑って、私に手を伸ばしてくる。

すると井坂君の手が私の頬に触れて、ビクッと体が震えたあとに触れられた所が熱くなってくる。


何、何!?もしかしてキス!?


私は二人っきりというシチュエーションに心臓がバクバクと期待で大きくなり、目を瞑りかけたところで井坂君が言った。


「泣かせるつもりなかったんだ…。ごめんな…。」


井坂君は私の涙の痕を触ってるようで、私は目を大きく瞬かせると勘違いしたことに恥ずかしくなった。

キスされるかもなんて、下にお姉さんたちもいる状態でするわけないよね!!

私は自意識過剰だったと思って、井坂君の手を頬から離すと言う。


「いいんだってば。こうやって井坂君の顔見れただけで充電できたし、全然平気。」


あははっ!と無理やり笑って、赤くなる顔を気づかれないように振る舞う。

そうして自分の勘違いを打ち消そうとしていたら、井坂君に腕を掴まれて不意打ちでキスされた。


へっ!?!?


私がビックリして目を大きく開いていると、井坂君はすぐ口を離して至近距離で私をじっと見つめてくる。

その熱い視線にドキドキして、耳の奥にまで自分の鼓動が響く。


「……会いたかった。」


井坂君は少し苦しそうに眉間に皺を寄せて言って、私は胸がギュッと締め付けられる。

昨日一日会わなかっただけなのに…

私は自分も一緒だったので、気持ちが通じ合ってると感じて嬉しくなった。


「私も。」


私が井坂君をじっと見つめ返して言うと、井坂君の眉間の皺がなくなる。

その後、今度は不意打ちじゃなく優しく確かめるようにキスされて、ゆっくり目を閉じた。


幸せー……


私がそうして幸せに浸ってると、突如部屋の扉がゴッ!!と大きな音を鳴らして開けられようとして、本棚にぶつかった。

その音に我に返って、私も井坂君も扉に目を向ける。


「拓海っ!!急に静かになったけど、何やってんの!?」


外からお姉さんの怒る声がして、いったいいつからいたんだろうか…と私はサーっと血の気が引く。

井坂君はそれにみるみる顔を歪めると、立ち上がって本棚やテーブルをどけて扉を開け放った。


「勝手に外で耳澄ましてんじゃねぇよ!!姉さんだからってやって良いことと悪いことあるだろ!?」


井坂君は廊下に立つお姉さんを見て、肩を怒らせながら声を荒げる。

お姉さんはそんな井坂君を見て仁王立ちすると、ふんっと偉そうに言う。


「だって心配じゃないの!!あんたが詩織ちゃんに襲い掛かるんじゃないかって、姉として!!」

「んなことするわけねぇだろ!?大体、やるとしても姉さんたちのいないときにやるに決まってんだろ!!」


え!?


私は驚きの言葉が聞こえた気がして井坂君の背中を見つめる。


「何ですって!?今、いないときとか言ったわね!!まさか、もう経験済みだとか言わないでしょうね!?」

「なっ…!?!恥ずかしげもなく、んな事口にすんな!!アホか!!!!」


きょ…姉弟って、こんなことまで言い合うもの…!?


私は大輝とこんな話をしたこともなかったので、目の前のケンカを見つめるしかできない。

井坂君は恥ずかしいのか耳まで真っ赤になっていて、見てるこっちが可哀想になってしまう。

でもお姉さんは井坂君のその様子に逆に安心したのか、少し表情を和らげる。


「その言い方だとまだみたいね。良かった…。やっぱり拓海と陸斗は違うね~。私、早とちりしちゃった。」

「その言い方やめろ!!あいつと比べられると反吐が出る!!」

「もう!まだ仲が悪いの~?いい加減、少しは仲良くしなさいよ。」


お姉さんが怒ってる井坂君の額を小突くと、腕を組んだ。

井坂君はお姉さんから顔を背けると、イライラしながら吐き捨てる。


「向こうが仲良くする気なんかねぇじゃねぇかよ。いっつも詩織に手出してきやがって…。」

「そうなの?あいつもまだ手が早いのね~。弟の彼女にまで手を出すなんて、見境ないのもそろそろ改めて欲しいわよね~。」


お姉さんが飽きれた様にため息をついて言って、私は少し悲しげな表情のお姉さんが気になった。

そのとき、玄関がガチャと開く音がして誰かが帰って来たようだった。


私は今家にいるメンバーから考えると、帰ってくる人物に一人しか心当たりがない。

しばらく下から物音はしなかったけど、急にバタバタと走る音がするとリビングを開け放つ音と一緒に「美空!!」と聞こえて、お母さんが「おかえりー」と言う声と共に、また走る足音がして、今度は階段を駆け上がる音に変わった。


私は立ち上がると帰って来た人に挨拶しようと、井坂君の隣に移動した。


そしてその人は二階に姿を見せると、私の見たことのない嬉しそうな顔を浮かべた。


「美空!!」

「やっほー、陸斗。久しぶりー。」


お姉さんは駆け寄るお兄さんに手を挙げて、久しぶりとは思えない軽い挨拶をする。

お兄さんはそんなお姉さんを見て、嬉しそうなんだけど泣きそうに顔を歪めて、「変わらねぇな。」と無邪気な笑顔を見せる。


私はそんなお兄さんを初めて見たので、挨拶するどころか二人を見つめて驚きを隠せない。


あれって…私の知ってるお兄さん…だよね…??


お兄さんは表情がゆるゆるで、まるで照れたときの井坂君そっくりだ。

それに井坂君や私に対する偉そうで高圧的な雰囲気がなくなっている。

それどころかお姉さんを前にして、お兄さんはまるで褒められたい子供みたいに、可愛い笑顔を見せている。


どういうこと…??


私は楽しそうに会話する二人を見ながら、疑問で頭がいっぱいだった。


「帰るなら俺にメールくれよ。そしたら、もっと早く家に帰ったのにさ…。」

「あははっ。だって、陸斗この時期いっつもデートで忙しいじゃん。今も5、6人入れ替わりで器用に付き合ってるんでしょ?」


え!?


私はお姉さんの発言にビックリして、思わずクリスマスに会ったれいなさんを思い出した。


「まぁ…そうだけど。美空が帰ってくるなら、そんな誘い断ってたよ。」


えぇ!?5、6人と付き合ってるって…これは周知の事実なの!?

私は認めたお兄さんも信じられなかったけど、お姉さんに照れてる姿も意外過ぎて何が何やら訳が分からない。


「相変わらず、姉さんには甘いのな~兄貴は。」

「うっせ!!お前は黙ってろ!!」

「あははっ!陸斗って私の事大好きだもんね~!」


井坂君まで普通に会話に加わり出して、私は一人頭を悩ませる。


兄弟間ではこれが当たり前!?

意味わかんない!!


「美空だって、俺のこと好きだろ?」

「まぁね~。好きじゃなかったら双子やってないよねぇ…?」


「はいはい。勝手にやってろよ。もう二人で結婚すれば?」


お互いに好きだと言うお姉さんとお兄さんに向かって、井坂君が茶化していて、私は顔が引きつる。

お兄さんは明らかに照れて黙り込み、お姉さんは笑いながら「冗談ばっかり~!」と言っている。


これって…姉弟愛?

…ホントにそうなのかな…??


私はどう見てもお兄さんのお姉さんへの気持ちは本物に見えて、れいなさんを前にしたお兄さんと違いすぎてイヤな想像をしてしまう。


「つーか、お前何、詩織ちゃん連れ込んでんの?この家族勢揃いしてるときにさ。周りから固めようって魂胆か?」

「そんなんじゃねぇっつーの!!母さんが道で会った詩織を勝手に連れてきたんだよ!!」


ここで初めてお兄さんの目が私に向いて、私は慌てて「こんにちは!」と挨拶した。

お兄さんは「ふ~ん。」と言うと、私にいつも通りのニヤッとした笑顔を向けてくる。


なんなんだろう…?


「そういや美空。いつまでこっちにいられんの?」


お兄さんはお姉さんに目を戻すと、さっきのように照れずに平常通りで尋ねた。


「年明けの二日までだよ。三日には純の家に挨拶に行くことになってて。」

「あ、純さんとまだ続いてんだ?」

「まだとか言うな!!」


井坂君が言った言葉にお姉さんが怒って、それを見てるお兄さんの目がどこか寂しそうに細められるのを見てしまった。


「あ…の、純さんっていうのは…?」


私は話の内容が分からずに尋ねると、お姉さんがニコッと笑って教えてくれた。


「純は私の彼氏だよ。今はお互い帰省してきてて、三日にあいつの家に新年の挨拶に行くことになってるんだ。」

「へぇ…。」

「もう何年だっけ?純さんと付き合って。」

「うーん…と、中学からだから7年ぐらい?」

「7年!?」


私はそんなに長い間付き合うなんて想像もできなかったので、驚きで声が裏返った。

お姉さんも「長いよねぇ~。」なんて言って笑っている。

井坂君も横で「すげぇよな。」と微笑んでいる。


でも、ただ一人お兄さんだけはギュッと眉間に深い皺を刻んでいて、顔を背けて黙っていた。


私はその態度で、お兄さんに対する色んな疑問が一つにつながった。


井坂君から散々お兄さんの事を聞いてきた私だから分かる。


お兄さんはお姉さんの事が姉弟としてじゃなく、一人の女性として好きなんだ…と


中学の頃から荒れ始めたのも、お姉さんに彼氏ができたから。

お姉さんの事をずっと好きだったから、行き場のない気持ちをぶつけていたんだ。

それに今も5、6人と付き合って、それを周りに知らしめてるのも、何か憤りからくる行動で、お兄さんが望んでしていることじゃない。


軽い態度や威圧的な言い方だって、全部叶わない苦しい気持ちを抱えていたから…


そう思うと、今までの事に辻褄があって、胸が痛くなる。


私は楽しそうに話す井坂君とお姉さんの少し後ろで、黙ったまま険しい表情をしているお兄さんから目が離せなかったのだった。












お姉さんは非常に動かしやすいです。

詩織が少しずつ双子の核心に迫っていきます。

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