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理系女子の恋  作者: 流音
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117、同窓会


私たち北中の同窓会は母校で行われるため、怒るナナコを何とか宥めて、私たち4人は仲良く懐かしい校門をくぐった。

冬休み中にも関わらず、学校は部活動に励む生徒で意外と騒がしい。

私は何も変わってないなーと思いながら、集合場所の南校舎と北校舎の間の渡り廊下に向かう。

そうして歩いていくと、もう結構な人数が集まっていて、着くなり梨衣菜さんが真っ先に私に話しかけてきた。


「谷地さんっ!!来てくれてありがとー!!」

「あ、ううん。こちらこそ、誘ってくれてありがとう。」


彼女の後ろにいる、見たことのあるような元クラスメイトたちを気にしながら会釈する。

梨衣菜さんは「いいよ!」と言いながら、瀬川君や西門君、ナナコに目を向けて、弾かれた様に満面の笑顔を浮かべた。


「うっそ!!瀬川君!?」

「あ、久しぶり。」


瀬川君がいつも通り爽やかに片手を上げて挨拶すると、何人かの女子が梨衣菜さんの後ろからでてきて、キャーッ!と歓声を上げ始めた。


相変わらず瀬川君の人気は健在のようだ…


「中学のときよりカッコいい~!!」「えー!!高校で彼女できたー!?」

「ちょっと抜け駆けしないでよ!!」「やっぱり目の保養~!!」


瀬川君はいつの間にか女子に取り囲まれてしまって、私たちから切り離される。


あちゃー…女子恐怖症が発動しなきゃいいけどなぁ…


私が他人事のように思って見ていると、横で瀬川君を睨むように見ていたナナコがふんっとそっぽを向いた。

私の耳に「また前みたいに戻ってる。」と悪態をついたのが聞こえて、私は聞かなかったことにした。


ナナコはどう見ても瀬川君のことが好きなんだけど…

ナナコは自分の気持ちに気づいていない。

本来なら親友の私が気づかせてあげるべきなんだろうけど、私はナナコの背を押すことはできない。


押したりしたら、両想いの二人はきっとすぐ付き合ってしまう。

私はタカさんのこともあるので、もう成り行きに任せる事にした。


タカさん側にもナナコ側にも寄らずに中立を保つ。

これからどうなるのかは本人達次第。


私はここに向かう道中で考えをまとめて、下手に首を突っ込まないと決めていた。


「あれ?このインテリ系のイケメンさんは…?」


梨衣菜さんがいつの間にか瀬川君の取り巻きから戻ってきて、西門君に目を向けた。

西門君は軽く頭を下げると名乗る事もせず黙っている。

私は梨衣菜さんが困ってるのを見て、横から「西門君だよ。吹奏楽部だった。」と伝えた。


すると梨衣菜さんが「あぁ!!」と声を上げて、後ろに振り返って誰かを呼んだ。

それに反応して何人かが西門君の前に姿を見せる。

集団からでてきたのは小柄でふわっとした感じの女子と黒髪をポニーテールにしている真面目そうな女子。あとは大柄な体格のお相撲さんのような男子。


彼らを見るなり黙っていた西門君が「門田!!」と声を上げた。

門田と呼ばれたお相撲さんのような男子は体格に似合わない可愛い笑顔を浮かべると、「久しぶり」と手を挙げた。


「うっわ!久しぶりだなー!!お前、チューバ続けてるわけ?」

「続けてるよ。これでも吹奏楽の名門いってるからな。今年は全国までいったよ。」

「マジか!!僕はまた今年も銀賞止まりだよ。せめて次の大会に進みてーよ。」


話の内容から元吹奏楽部のメンバーなんだと察して、私はナナコとその場を離れた。

そのとき小柄な女子の目が西門君を見つめて、熱を持ってるような気がしたけど、私は気のせいだろうと思って見ないフリをしたのだった。


「しお。今日は私の傍から離れちゃダメだよ。」

「え?何で?」


急にナナコが私の腕を掴んで真剣な顔をしてきて、私は意味が分からず首を傾げた。

ナナコは飽きれた様に私を見ると「バカ。」と貶してくる。


一体何なんだ…


私が貶されたことにムスッとしていると、ポンポンと肩を叩かれて反射的に振り返った。


「詩織、久しぶり。」


え―――――…


私は話しかけてきた人物を見て目を見張った。


そこには私のことをこっぴどく振った寺崎僚介君が平然と立っていた。

『ゲームセット』という言葉が耳に響いて、私はこの人の事をすっかり忘れていたと声を失った。


後ろにはライブで会った空井君と来居君が気まずそうに視線を下げている。

私は気を遣われてることを感じ取って、とりあえず「久しぶり。」とだけ返す。


すると、僚介君はすごく嬉しそうに顔を輝かせると、昔と変わらない優しい声のトーンで言った。


「詩織、すごく可愛くなったな。すげー驚いた。」

「そう…かな?昔とあまり変わらない気がするけど…。」

「そんなことねぇよ!すごい可愛い。」


昔と同じように爽やかな裏のないような笑顔を向けられて、私は複雑だった。


私…この人にフラれてるはずだよね…?

二年のときも、三年のときも話なんかしたことなかったのに、なんで今になって話かけてくるの?


私はフラれたこと自体に関しては完全に吹っ切れていたので、僚介君の真意だけが分からなくて顔をしかめた。

するとナナコが腕をグイッと引っ張って、私を僚介君の前から引き離すと、ナナコが僚介君と向かい合った。


「久しぶり。寺崎君。」

「あ、木崎さん。相変わらず隠れ美人だなぁ。」

「お世辞をどうも。そのお上手な口で他の女子にも声をかけに行ったらどう?」


ナナコの言葉に和やかだった空気がピリッと張り詰める。

私は僚介君とナナコが話をしているのを初めて見たので、いきなりケンカ腰なことに口を挟めない。


「厳しいな~。俺、そんなに嫌われるようなことしたっけ?」

「3年ぐらい時を遡って、自分の行動を振り返れば分かるんじゃない?」

「3年って…。あぁ、俺が詩織を振ったことを言ってんの?」


グサッ―――


いくら吹っ切れたといっても、本人の口から聞くとダメージは大きい。

過去の嫌なことを思い出しかけて、ブンブンと頭をふる。


ナナコは僚介君の無神経な態度に腹が立っているのか、私の腕を掴んでいる手が震えていた。


「よっくもまぁ…そう軽々しく口にできたわね!?」

「そっちが先に言ったんだろ?それに、あんなのもう時効だろ。」

「は!?時効ってあんたね!!どんな暴言吐いてしおを傷つけたと思って―――」


「あー、違う!悪い、悪い。俺、それを償おうと思って話しかけたんだよ。」


――――うん?


私は僚介君の言葉にバッと顔を上げて、彼を見つめた。

僚介君は私に目を向けると、申し訳なさそうに顔をしかめる。


「詩織のことは嫌いだったわけじゃない。本当に好きだったんだよ。だけど、俺…中学上がりたてのガキで調子にのったバカだったからさ。恋愛の好きを理解してなかった。だから、詩織にひどい言い方しちまったんだ。それは本当に悪かったって…反省してる。」


好きを理解してなかった…??


私はどういうことだと思って目を瞬かせるけど、ナナコは横で「調子のいいこと言わないでよ!!」と食って掛かっている。


「本当なんだって。俺、中学のときは恋愛を知らなかったんだ。だから身内で恋愛ゲームなんてかこつけて、女子を落として回ってた。今思うと、本当バカな遊びしてたなーって恥ずかしいぐらいだよ。」


身内でゲーム…それであんな言い方…


私はもう耳に『ゲームセット』と響かなくて、気持ちが随分楽になった。

ナナコは「ふざけないでよ!!」と怒っていたけど、私は逆におかしくなってきて笑みが漏れる。


まぁ…ゲームに引っ掛かった私も悪いよね…


「詩織、ホントにごめんな。俺、同窓会があるって聞いて、これだけは謝ろうと思ってたんだ。」


私はここで久しぶりに僚介君の姿をまっすぐ見て受け入れることができた。


僚介君の姿は中学のときとあまり変わっていない。

整った顔立ちに長身の背丈。

服装も小奇麗で今も相当モテるだろうと思った。


そして私の好きだったキュッと細めの精悍な瞳が、嘘じゃないと告げるように澄んでいる。

私はその瞳をまっすぐに見つめ返すと笑顔を向けた。


「いいよ。でも、一つだけいいかな?」

「え…何―――」


―――バシンッ!!!


私は僚介君が言葉を言い切る前に、彼の頬へ思いっきり平手打ちをかました。

叩かれた張本人の僚介君はもちろん、ナナコに空井君、来居君も目を剥いて驚いている。


「これでチャラにするよ。3年前は泣き寝入りしちゃったし。」


私は過去の自分にさよならしようと思って、大胆な行動に出た。

でもやってみると、意外とスッキリしてる自分がいて気分が良かった。


僚介君は叩かれた頬を押さえると、ふっと息を吐き出してから笑い出した。


「あははっ!詩織、なんか変わったな。」

「それは褒め言葉?」


私は昔の自分と違い、彼にどう思われようとも構わなかったので、上から目線で返す。

僚介君は楽しそうに顔を歪めると「もちろん。」と言っていて、私は彼と対等になれたようで誇らしかった。


するとそこへ瀬川君が慌てて走って割り込んできて、声を上げた。


「僚介!!まさか、谷地さんにゲームのこと言ったのか!?」


瀬川君?ゲームって…もしかして知ってたの?


これには私も驚いたのだけど、私より先に反応したのはナナコだった。


「瀬川君!!やっぱり、あのときの――っ!!全部絡んでたんだ!!許せないっ!!!」


ナナコは何のことを言ってるのか、瀬川君に掴みかかると彼を押し倒して締め上げてしまう。

私はそれをぽかんと見つめてから僚介君に目を向けると、僚介君が焦ってナナコを瀬川君から引き離し始めた。


「木崎さん!!落ち着いて!!歩は何も関わってねぇから!!」


僚介君が空井君や来居君にも手伝ってもらいながら、ナナコを瀬川君から引き離すと、ナナコは「どういうこと!?」と僚介君に目を向けた。

私は、私の知らない話が繰り広げられていて、見ているしかできない。


「歩はさ、俺らが恋愛ゲームで遊んでるって知って、それを止めさせようとさせただけなんだって。歩自身は一切絡んでねぇから。もちろん、詩織を傷つけて殴られたのは俺の方だからさ。」

「じゃあ…あのとき教室で見たのは…。」


ナナコが気を収めて何かを思い出そうとしていて、私は何を見たのか気になってナナコに尋ねた。


「ナナコ。一体何を見たの?」


ナナコは私に目を向けると言いにくそうにしていたが、はぁ…を大きくため息をつくと諦めたように教えてくれた。


「しおが…こいつにフラれたすぐ後に…、私…教室で聞いちゃったの。しおの事、ゲームだったとか次は誰にするか…みたいな話…。」


ナナコの暴露話に僚介君はじめ、空井君、来居君も苦笑いを浮かべる。


「そこに瀬川君もいて…。瀬川君まで絡んでたんだって思ったら、瀬川君のこと許せなくて…。」


ここで以前見た、二人の間の口喧嘩を思い出した。

確か文化祭のとき、許す、許さないって言っていた…

あれは私の話だったんだ…。

私はナナコが私のために怒ってくれてたんだと思って嬉しくなった。


「それが誤解なんだって。瀬川は一切絡んでねぇから。むしろ、絶対に言うなって釘刺されたぐらいで。」

「…そうだったんだ。」


僚介君が申し訳なさそうに説明してくれて、ナナコはへたり込んでいる瀬川君に目を向けた。

瀬川君はバレたことが気まずいのか、ムスッとしてそっぽを向いている。


瀬川君も私のためにずっと内緒にしてくれてたんだ…。

私はナナコに瀬川君に守られていたと知って、心の中で深く感謝した。


ナナコは瀬川君を見下ろすと、一言「バカ。」と言って、瀬川君が複雑そうな顔でナナコを見つめる。


「バカバカバカ!!瀬川君のバカ!!なんで本当のこと言わないのよ!!」


ナナコのバカがさく裂して、瀬川君は苦笑すると「悪い。」と返す。

するとナナコが涙ぐんでいたのか、グイッと顔を手で拭ってから「私もごめん。」と謝って、その場は収束したのだった。


こうして瀬川君とナナコの中のわだかまりは解消して、私も僚介君の本心を聞けたことで大きく前へと進みだすことができた。

それがすごく嬉しくて、ニコニコしていると僚介君が遠慮がちに話しかけてきた。


「詩織。この間、ベルリシュのライブ行ったんだって?」

「え、うん。行ったよ。」

「まだベルリシュ好きだったんだな。俺、慶太からそれ聞いてビックリしてさ。同じだって事が嬉しかった。」

「僚介君もベルリシュまだ好きなんだ?」


私はベルリシュを教えてくれたのが僚介君だった事を思い出して、すごく懐かしかった。

隣の席になったとき、一回聞いてみてってベルリシュのCD渡されたんだっけ…

私はこうして懐かしく思い出せることに笑ってしまって、自然と温かい気持ちになる。


「もちろん。ライブ行きたかったんだけど、冬期講習の真っ只中でさー…参ったよ。」

「そうだったんだ。でも冬期講習って…時期早くない?」

「あ、ウチの高校、超進学校だから二年の冬は長期冬期講習っていって、びっちり二週間ぐらい学校に缶詰にされるんだよ。だから時期も少し前倒しになるんだ。」


私は二週間なんて地獄だな…と夏に行った夏期講習を思い出して、げんなりした。


「へぇ…すごいね…。僚介君って高校どこ行ってるんだっけ?」

「俺は京清だよ。詩織は大浦川の進学クラスだっけ?」


けっ…京清!?あの国公立にバンバン合格者出してる名門の!?


私はお母さんが大輝を行かそうと熱く語っていた事を思い出して、こんなに近くに実際に通ってる人がいることが信じられなかった。

私はそんなに頭が良かったんだと僚介君を見直した。


「詩織の事だから、進学クラスでも上位なんだろ?中学の時から勉強熱心だったもんな~。俺もそれ見習おうと思ってたし。」

「え…!?僚介君、京清行ってるんだから…私なんか足元にも及ばないよ…。」


私はどうして自分の周りには頭の良い人間が集まるんだ…と情けなくなった。


「そんなことねぇよ。俺は、詩織も十分すげぇって思うよ。何かを一生懸命頑張れる奴は、それだけで努力できる天才なんだって!自信持てよ!!」


僚介君が明るく励ましてくれて、私はこの前向きなとこが好きだったんだなーと思い返した。

それだけに励まされた事が嬉しくて、自然と前を向くことができた。


「そうだね。私も負けないように頑張るよ。」

「さすが詩織!!」


僚介君が私に手を差し出してきて、私はその手にパシンッと手を打った。

それが中学一年のときに僚介君と協力して問題を解いたときのようで、私は普通の友達になれた気がして嬉しかったのだった。









初恋相手の初登場回でした。

トラウマも克服です。

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