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理系女子の恋  作者: 流音
12/246

11、嬉しい共通点


スカートの短さにも慣れてきた頃――――


私は西門君に呼び出されて、人気のない階段の下へ来ていた。

目の前には不機嫌な西門君の姿。

私は呼び出される身に覚えがあるだけに、彼の視線から目を逸らした。


「なぁ、何で最近洸ちゃんって呼ばないわけ?」

「……何のことかな…?」


私は赤井君に誤解させてしまったと気づいてから、西門君の事を洸ちゃんと呼ばないようにしていた。


「分かっててやってんだろ?しおはイメチェンしてから、変になったよ。」

「変とか言わないでよ。可愛いって言ってくれる人だっているんだから。」

「そんなに可愛いって言われたかったわけ?だったら、僕が何回でも言ってあげたのに。」

「へっ!?」


彼は冗談なのか本気なのか分からない言葉を発していて、私は西門君を凝視した。

西門君はムスッとしたままで、何も考えずに言ったことが見て取れた。


「……西門君に可愛いって言われてもなぁ…。」

「また、西門君って言った!!罰ゲームって言ったよな!?本当に実行するけど、いいよな!?」

「罰ゲーム…?」


そういえばそんな事も言ってたな…

西門君は何か考え込むと、指を立てて口を開いた。


「これから西門君って言う度に、ジュース一本な!!」

「えぇっ!?そっんな!!」

「何でもないだろ?こんなこと。言わなければいいだけなんだし。」


そうだけど!!

私は誤解を解くためにも、もう『洸ちゃん』と呼ぶつもりはなかった。

それだけにハイリスクだ。

洸ちゃんとも西門君とも言わずにするなんて…どう考えても無理だ。

多少の出費は覚悟するしかない。


「わ…分かった。その罰ゲーム受けるよ。」

「よし!!決まりな!」


西門君は急に上機嫌になると教室に向かって歩いていく。

私はその背に続きながら、大きくため息をついた。


名前一つでなんでこんなことに…


先行きが暗くなりながら教室の前に来たとき、私の目に見覚えのある可愛い女の子が映ってピタ…と足を止めた。


「拓海君!!」


井坂君の名前を平気で呼ぶ、その『しおり』さんに私は目が離せなくなった。


今日もすごく可愛い…

井坂君の名前を呼ぶ姿なんか、本物の彼女みたい…


私が羨ましくてじっと見つめていると、彼女に呼ばれた井坂君が教室の中から姿を見せる。


「何か用?」

「これ!借りてたCDだよ!!すっごく、良かった!今度は家まで借りに行きたいな~。」


家…?

二人の仲の良さそうな姿に胸が痛くなってくる。


「家って…。持ってるのはそれで最後だから、新譜が出たら持ってくるよ。」

「そうなんだ~。残念!でも、そのときを楽しみにしてるね?」


『しおり』さんはやっぱり可愛い。

こんな格好したって…彼女には勝てない…

私は教室に戻りたくなくなって、来た道を戻るように走った。


そして渡り廊下から外に出ると、自販機の横で立ち止まって息を整えた。


外見を変えても中身は全然変わってない。

すぐ自信がなくなって、すぐ嫉妬する。

こんな自分…もうイヤだ…。


私は自販機の横の段差に座ると、膝を抱えて俯いた。

すると廊下から足音が聞こえてきて、パッと顔を上げる。


「あ、やっぱり谷地さんだった。」

「え…。井坂君…。」


井坂君が手に何か持ったまま私に近寄ってくると、走ってきたのか汗を手で拭った。


「やっぱ外はちょっと暑くなったよなぁ~。」

「…な…何でここに?」


私は彼がなぜここに来たのか分からなくて、目をパチクリさせて彼を見つめた。

井坂君は横目で私を見ると、ふっと口角を持ち上げてから私の隣に座った。


「なんか、谷地さんがイメチェンしてから話してなかったな~と思ってさ。教室から後ろ姿が見えたから、追いかけてきたんだよ。」


彼の言葉に顔が熱くなってくる。

私と話したいって思ってくれたって事…だよね…

私はさっきまでの嫉妬はどこへやら、胸がギュッとなるぐらい嬉しかった。


そしてニヤける顔を俯かせると、ふと井坂君が持ってるものが目に入った。

井坂君の手に握られている見覚えのあるものに、私は驚いて飛びついた。


「コレ!!ベルリシュの新譜!!」


私は大好きなバンドのCDに胸が高鳴った。


「井坂君も好きなの!?これ…レンタルじゃないよね…。いいなぁ…。私もやっぱりアルバム買えば良かった…。」


私はお小遣いを溜めるために、大好きなバンドでもCDは買えなかった。

でも、こうしてジャケットを見ていると、どうしても欲しくなってしまう。


井坂君は私の食いつき具合に驚いているのか、しばらく驚いた表情で固まっていたけど、ふっと笑うと私にCDを差し出してきた。


「谷地さんも好きなんだ?ベルリシュ。俺も好きでさ、CDは全部家にあるよ。」

「そうなんだー…。私は買えないから、レンタルして家のパソコンでエンドレスで聞いてるんだぁ…。新譜の二曲目が特に最高なんだよね~。」

「あ、分かる。俺もあの曲が今、一番のお気に入りなんだ。」


私は差し出されたCDを受け取って、ジャケットをうっとりと眺めた。

同じバンドが好きで、同じ曲がお気に入りだなんて…なんて素敵な共通点なんだろう…

私はベルリシュ好きの人に会うのも久しぶりだったので、口から勝手にベルリシュの話題が溢れてくる。


「だよね。ベースのKEIの音がすごく良いっていうか…。こう胸にくるんだよねぇ~。あれを聞く度に胸がギュンってなるんだぁ。」

「KEIやばいもんなぁ!ライブのDVDも持ってるんだけどさ、俺KEIの手元ばっかガン見するしな!!」

「ライブのDVD!?そんなの見たことないよ!いいなぁ~。私もKEIの手元見たいよ。」

「なんなら貸すけど、見たい?」

「えっ…いいの!?」


私は嬉しい申し出に顔が綻んだ。

井坂君は嬉しそうな笑顔を浮かべると頷いて「明日持ってくる。」と言ってくれた。

私は持っていたCDを井坂君に返すと、頭を下げてお礼を言った。


「ありがとう。すっごく嬉しい。」


井坂君はCDを両手で弄ぶと、私を見て目を細めた。


「俺もベルリシュ好きなやつと会えて嬉しいよ。なかなかこんなコアな話できねーもんなぁ?」

「そうそう。私も何度タカさんに話を流されたか分かんないよ。」


井坂君は声を上げて笑い出すと、「俺も!!」と言って嬉しそうにしている。

私はベルリシュの話で井坂君との距離が縮まったようで、すごく嬉しくて目の奥が熱くなってくる。

この笑顔が…ずっと私のものだったらいいのにな…

私は欲張りなことを考えてしまって、彼から目を離すとまっすぐに前を向いた。

すると、笑いを収めた井坂君が声のトーンを落として尋ねてきた。


「ちょっと…変なこと聞くけどさ…。…谷地さんって…赤井の事…どう思ってる?」

「……赤井君?…どうって…どういう意味?」


井坂君の聞きたいことが上手く分からなくて、私は彼に目を戻した。

井坂君は私と目が合うと、サッと逸らして手で顔を隠してしまった。


「いや…この間…二人が手を繋いでるの見て…さ。その…赤井と付き合ってるのかと思って…。俺…てっきり谷地さんは西門君と付き合ってると思ってたから…。」

「ちっ…違う!!その両方共、誤解だから!!」


私はこの間の教室での事を見られてたことにも驚いたけど、赤井君と同じ誤解をしてる事にも焦って言い返した。


「西門君とは付き合ってないし、ただの腐れ縁で幼馴染なだけ!!赤井君との事は…、その…赤井君が好きになったことないとか言うから…ちょっと相談にのってただけというか…、手を繋いでたのも赤井君が勝手に…!っていうかドキドキするかっていう確認で、からかってきたようなものだから!!」


私は思いつく言い訳を必死に口に出した。

井坂君に誤解されているのだけは嫌で、なんとか彼には分かってもらいたかった。

すると井坂君がちらっと横目で私を見ると、急に吹きだしてきた。


「ぶっ!!必死過ぎるでしょ!!顔、真っ赤だし。そんなに否定しなくても。」

「あ…え…?だ…だって…。」


私は熱い頬を手で押さえると、楽しそうに笑う井坂君を見つめた。


私が好きなのは…井坂君だけだよ…


今にも口に出してしまいそうになって、グッと口を噤んで頬を持ち上げた。


「……とりあえず、誤解だから。私、誰かと付き合うとか経験したことないし。すごーく縁遠いものだと思ってるから。」


私はこの気持ちを胸にしまい込むと、膝を抱えて空を見上げた。


「縁遠いかぁ…。そうでもないんじゃないかな?」

「へ?」


井坂君は私と同じように空を見上げると、優しい声で言った。


「俺も経験なんかないけどさ、気が付いたら…ってこともあるし。せっかく高校生になったんだから、そういう事も楽しまないとな!!」

「…そうだね。ちょこっとだけ、期待しとこうかな。」


私は経験がないって事が本当なのか気になりながらも、差し障りのない返答を口にした。

井坂君には好きな人っていないのかな…?

私はあれだけモテるのに彼女がいないことが気になり始めて、それを自然に聞けない自分の下心にきつく目を瞑ったのだった。






ベルリシュというバンドはこれからもことあるごとにでてきます。

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