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理系女子の恋  作者: 流音
118/246

112、プレゼント


「詩織…。詩織…。」


私は自分の名前を呼ばれているのが耳に入って、暗い部屋の中で目を覚ました。

何度か目を瞬かせてから視界を凝らすと、目の前に井坂君の顔があるのに気付いて大きく息を吸いこむ。


「良かった、起きた。ちょっと寒いけど、付き合ってくんねぇ?」

「え…、今何時?」


私は一瞬自分がどこにいるのか分からなかったけど、お泊りの事を思い出して冷静に尋ねた。

井坂君はケータイで時間を確認しているのか、ぼうっと井坂君の顔が淡い光で照らされる。


「今は…深夜12時前だな…。急がねーと…。詩織、とにかく起きて、これかぶってついてきて。」


私が体を起こすと、井坂君が毛布を私にかぶせてきて、私は寒いのでそれを手に、リビングを出ようとしている井坂君を追いかけようと布団から出た。

周りではあゆちゃんや赤井君が起きる様子もなく、爆睡している。


井坂君はリビングを出ると階段を上って二階に上がっていき、私はまっすぐ井坂君の背を見てついていく。

すると井坂君が夏休みにも来た赤井君の部屋へと入っていって、私は勝手に入ってもいいのかな…と思いながらも同じように中に入った。

すると、井坂君が部屋の扉を閉めてから、私に座るように指示してきて、私はゆっくり腰を下ろす。

そのときに床にマンガや雑誌が転がって座りにくかったので、揃えてから脇に並べて置く。


「詩織、とりあえず目瞑って。」

「え…。なんで?」


私は呼び出されて目を瞑ってと指示されたことに、さすがに警戒した。

まさかとは思うけど、下にあゆちゃんたちがいる状況で襲ってきたりしないよね…?

私は井坂君に何度も前科があるので、じっと身を固めて井坂君を見つめた。


「そんな警戒しなくても何もしねーから。とにかく、目瞑って。」


井坂君は少し照れてるのか、ぶっきらぼうに言って、私は自分を見失ってるわけではなさそうだったので、井坂君の言葉を信じて目を閉じた。


すると、井坂君から何か服の擦れる音がしたと思うと、急に手をとられて体がビクついた。

井坂君は私の指を触ってるようで、変な感触を指に感じる。


「じゃ、目開けていいよ。」


井坂君は私の手を握ったまま言って、私は目を開けると目の前に赤く染まった井坂君の顔が飛び込んできて、目を瞬かせた。

そして見つめ合ってるのが恥ずかしくて自然と視線を下げると、握られてる手の小指に光るものがついていて、それを凝視した。


これって…ピンキーリング…?


「えっ!?これ!!」


私はまさか!?と悟って、声を上げた。

すると井坂君がふっと嬉しそうに笑ってから、小首を傾げて言った。


「ホントは普通の指輪にしようかと思ったんだけど…。高校生なのに、それはちょっとやり過ぎかと思ってさ…。小指は約束する指だから…これもいいんじゃないかって、店員さんに薦められて。すっげーこっ恥ずかしいんだけどさ!!一応、俺からのクリスマスプレゼント。後は付き合って一年記念ってことで…。時間的にもなんとか間に合ったし…。」


井坂君がははっと笑って恥ずかしさを誤魔化していて、私は小指に光る指輪を見つめて、感激して瞳が潤んでくる。


嬉しい…。一年記念って…

だから私を起こした時急いでたんだ…


私は胸を鷲掴みにされて、ギュッと胸が苦しくなった。

嬉しくて、ただ嬉しくて涙が溢れてとうとう目から零れ落ちた。


私はそれを手でグイッと拭うと、お返しをしようと、ずっと練習してきたことを井坂君に向かって言った。


「ありがとう、拓海君。すごく、すっごく嬉しい。」


私は自然に名前を言えた事に安堵して、顔が自然と綻ぶ。

私の二度目?の名前呼びを聞いた井坂君は、しばらく固まっていたけど、みるみる目を大きく見開くと震える声で言った。


「え…。も、もう一回言って。よく分からなかった。」


井坂君が指を立ててお願いしてきて、私は苦笑するともう一度「拓海君。」と呼んだ。

井坂君はそれを聞くなり両手で顔を隠して、「うわ…、照れる…。」と呟いて、私は自然と笑ってしまった。


名前呼んだだけで照れるなんて、すごく可愛い…


私は今日何度思ったか分からない事を思って、すごく幸せだった。

クリスマス前にこうして仲直りすることができて、本当に良かった。


私はまだ照れているのか顔を見せてくれない井坂君を見つめて、ハッと井坂君に買ったプレゼントの事を思い出した。


「あ、私もクリスマスプレゼントあるんだった!!ちょっと下から取ってくる!!」


私は名前を呼ぶだけのプレゼントじゃ足りない気がしていたので、井坂君に似合うだろう手袋を買っていた。

自転車通学ということを踏まえて考えたものだ。


私はそれを取りに行こうと腰を上げると、後ろから手を掴まれてグイッと引っ張られた。

そして後ろに尻餅をつくように倒れ込むと、井坂君が腕を回してギュッと抱きしめてくる。


「今はいいよ。せっかくだから、しばらくこうさせて。」


耳元で井坂君の声がして、私は胸がキュンと苦しくなる。

井坂君の体温で体も温かくて、じっとすると井坂君に神経を集中させる。


何だか後ろから匂いを嗅がれてるような気がするけど…、きっと気のせいだよね…


私は小指に光る指輪を見つめて、顔がどうしてもニヤニヤしてしまって、口や頬をもごもごと動かした。


「詩織、変な顔してる。」

「えっ!?変って…、そんな顔してないよ?」

「してるよ。痒いとこでもあるみたいな顔だった。」


私は井坂君に盗み見られてたことに恥ずかしくなる。

すると井坂君は何かに気づいているのか、ははっと声を上げて笑って言った。


「そんなに喜んでもらえるんなら、やり過ぎなプレゼント選んどいて良かった。」


井坂君がほっとしたように言うので、私はもっと安心させようと自分の気持ちを口にした。


「うん。すごく嬉しいよ。これからも一緒にいるっていう約束の証みたいだよね。」

「……みたいじゃなくて、そのつもりなんだけど。」

「え…?」


私が目をパチクリさせて軽く振り返ると、井坂君が照れ臭そうにしていてその顔を見つめた。


「俺なりの決意の表れっていうか…。もう詩織を不安にさせるようなことはしないように、その指輪に誓ったんだ。」


井坂君はそこで一息つくと、視線を落として私の指にはまる指輪を見て言った。


「これから先、大学に行っても、会社で働き出しても…ずっと詩織と一緒にいる。」


井坂君が私の目を見つめて真剣な顔で言うので、私は見つめ返したまま夢のような言葉に胸がつまった。


ずっと…って…


私は井坂君の中の未来に自分がずっといるって事が、すごく嬉しかった。

私もその未来を実現させたい


「うん。私も…。ずっと一緒にいたい。」


私が井坂君の腕をそっと触って言うと、井坂君が嬉しそうに「約束な。」と言って力強く抱き締めてくれたのだった。





***





それから二人の時間に少し名残惜しく思いながらも赤井君の部屋を出ると、リビングに足を向けた。

階段で足音が鳴らないように慎重に歩く。

そうしてそうっとリビングに戻ると、私は自分の寝ていた場所を見て唖然とした。


「あゆちゃん…。」


私が寝ていたスペースには私がいないのをいいことに、あゆちゃんが大の字で寝ていて、私はどこに割り込もうかと考え込んだ。


タカさんと新木さんの間は…無理だな…体の大きい私が入れる隙間じゃない。

私は最悪ソファを借りようかと思っていたら、井坂君がこいこいと手を動かしてるのが見えて、私は彼に近寄った。


「詩織、一緒に寝よ。」

「えぇっ!?!?」


私は心臓が跳び上がるほど驚いて、皆が寝てるのに声を大きくしてしまった。

慌てて自分の口を押えると、全力で首を横に振る。


「無理だよ!一緒とか…狭いし、赤井君たちにだって迷惑だよ。それに、心臓絶対もたない…。」


私は並んで寝てる想像をしただけで心臓はバクバクいっていて、顔が熱くなって平常心じゃいられなくなった。

でも井坂君は自分の横の空いてるスペースをポンポンと叩くと促してくる。


「大丈夫。赤井の奴、もう半分以上布団から飛び出してるし、こうやってスペース空いてるんだ。有効活用しようぜ?…それとも、俺と一緒に寝るのイヤ?」


私は井坂君にまっすぐ見つめられて、「イヤってわけじゃ…。」と答える。

こんなに可愛く言われたら、断るなんてできない。

私はキョロキョロと周りを見回して、皆が寝てるのを確認すると、こんなチャンス滅多にない!!と前向きに考えた。

そして、大きく息を吸うと「お邪魔します。」と言ってから、井坂君に背を向けて横になった。

そこに井坂君が布団と毛布をかけてくれる。


うぅ…やっぱり緊張する…

こんなので寝られるのかな…


私が目をギュッと瞑って身を縮めていると、背中に温かさを感じた瞬間、肩に重みを感じて目を開けた。

すると目の前に井坂君の腕らしきものがあって、体がカチンと固まった。


「こうやって寝るの俺の夢だったんだ。」

「そ…、そうなんだ。」


後ろから井坂君の吐息がかかって体がどんどん熱くなって、私は過呼吸になりそうだった。

答える声も裏返る。

井坂君はそんな私の心境も知らず、嬉しそうに「詩織あったけー…。」と言ってくるし、私は全然緊張が抜けない。


あったかいどころか、熱いから!!


私は自分が汗をかきはじめていて、落ち着け!!と自分に言い聞かせる。

そうして一人悶々と格闘していると、いつの間にか後ろから定期的な寝息が聴こえ始めて、首だけで後ろに振り向いた。


そこには井坂君の健やかそうな寝顔があって、胸がギュンと締め付けられた。


可愛い…写真撮りたい…!!


私は自分の手元にケータイがないのを歯痒く感じて、見悶える。

そして体も井坂君に向けると、目にしっかり焼き付けておこうと、しばらく井坂君の寝顔を見つめた。


今度、いつ見られるか分からないしね。


私は彼の無防備な寝顔に嬉しくなっていると、自分もウトウトし出して一度目を擦る。

そうして最後に井坂君の寝顔をじっと見つめると「おやすみ。」と声をかけてから、ゆっくり目を閉じたのだった。






***






翌朝、私はクスクスという笑い声を耳にしながら目を覚ました。

目を開けても目の前は真っ暗で、温かいのも相まってまた瞼が落ちてくる。


でも耳に「良い顔してるね~。」というあゆちゃんの声が入ってきて、朝だ!!と体にスイッチが入った。

そして目をぱっちりと開けて体を動かしてみて、自分の状況に気づいた。


「うむっ!!――――うぇっ!?」


私は目の前が暗かったのは、井坂君の胸に顔を近づけてるからだと分かり、そして身動きがとれないのは井坂君に抱きしめられてるからだと分かった。


「あ、詩織。起きたみたい。」


あゆちゃんが笑いながら言っていて、私は何とか身を捩ると顔だけ真上に向ける事に成功した。

そうするとあゆちゃんやタカさんの笑ってる顔が見えるようになった。


「あ、あゆちゃん!!タカさん!」

「詩織~。おはよー。朝からラブラブだねぇ~?」

「しおり~ん。大胆なことしたねぇ?」


起きる早々、二人にからかわれて私は顔に熱が集まる。


「そっれは!!夜に寝る場所がなくなって!!」

「はいはい。そういう理由を作ったんだよね~。」

「違うから!!そもそもあゆちゃんがっ――――!!」


私が言い訳をしようとしていると、抱きしめられてる手が強くなって、私は横顔が井坂君の胸に密着してぐわっと体温が上がる。

すると耳に「詩織…。」という井坂君の寝言?が聞こえてきて、更に熱くなって汗が吹きだしてくる。


うわわわっ!!


その光景をあゆちゃんとタカさんがケラケラと笑いながら「井坂、詩織を抱き枕にしてる~!!」とか「しおりん真っ赤!!」と他人事のようにからかってくる。

私はもうこの辱めに耐えられなくなって、堪らず寝てる井坂君の体を揺らした。


「井坂君っ!!起きてっ!井坂君!!」

「…うぅん……。」


井坂君は顔を歪めるとゆっくり瞼を持ち上げて、私の顔を見るなり嬉しそうに顔を綻ばせた。


「詩織…、おはよ。」

「おはよう。井坂君。」


私は何とも嬉しそうに笑顔を向けられて、顔が熱くなりながら私も頬が緩んでしまう。

すると、また腕の力が強くなってギュッと抱きしめられると「朝からサイコー…。」と現状を分かってないように井坂君が言う。

私はその腕の中でもがくと「井坂君周り見て!!」と焦って口にした。

それと同時ぐらいに井坂君が「ごふっ!!」とうめき声を吐き出して、腕の力が緩んだ。


「朝から見せつけんな!!アホ!!!」

「このムッツリめ!!俺らの存在忘れてただろ!!!」

「わははははっ!!井坂、デッレデレだなー!!」


私が緩んだ腕から抜け出して周りを見ると、赤井君と島田君が怒っていて、北野君が井坂君を指さしながら爆笑していた。

赤井君の足が井坂君の背中の傍にあることから、赤井君が井坂君の背中を蹴ったのだと理解した。


井坂君はしばらく蹴られただろう背中を押さえて黙っていたけど、ガバッと起き上がると赤井君たちに向かって怒鳴った。


「なんで蹴るんだよ!?せっかくの幸せな目覚めに水差しやがって!!」

「胸がムカムカするほどの甘々なシーン見せつけられてるこっちの身にもなれ!!」

「ホントにな!!誰がお前のデレた顔を見てなきゃなんねぇんだよ!!」


「うっせーな!!付き合ってんだから、ベタベタしたって構わねぇだろうが!!」

「場所考えろっつってんだよ!!そういうのは人目のないとこでやれ!!」

「もう朝から気分最悪だぜー!!」


赤井君と島田君から文句が出てきて、井坂君は立ち上がるとギャーギャーと言い争っている。

それを横目に私も体を起こすと、にやにやしているあゆちゃんやタカさん、新木さんに囲まれた。


「井坂って詩織の前だとあんな顔すんだね~。見てるこっちがギュンときたよ。」

「いつものクールな顔が緩みっぱなしだったね。あ、しおりんもだけど。」


私はあゆちゃんとタカさんからからかわれて、恥ずかしくてなんとなく乱れた髪を整えようと頭を触る。


「…しおりんはいいなぁ…。井坂にすっごい愛されてるよねぇ…。」


新木さんがどこか遠くを見るように呟いて、私もあゆちゃんもタカさんも新木さんに目を向ける。

新木さんはふぅとため息を吐くと、ちらっと井坂君を茶化して騒ぐ北野君を見て言った。


「私も北野の隣で寝れば良かった。」


そう言った新木さんの表情が恋する乙女の顔で、私は胸がキュンとときめいてしまった。


新木さん、可愛い…


私がまたふぅとため息を吐いた新木さんを見つめていると、横からあゆちゃんがムスッとして言った。


「私も!!」

「え?」

「私も赤井の隣で寝たかった!!」


あゆちゃんが言いながら照れてるのか、顔を真っ赤にさせていて、私はポカンとした新木さんと顔を見合わせて、ぷっと吹きだした。


「あはははっ!!あゆ~!あんなにしおりんの事からかってたのにー!!」

「そうだよ!自分もしたかったんだね~!!」

「あははっ!だからしおりんの事、あんなに羨ましそうに見てたんだ~!」


「うっるさいな!!いいじゃん!!私だって恋する女子だもん!!彼氏とベタベタしたいわよーっ!!」


あゆちゃんが開き直って本音を打ち明けてきて、私たちは朝から爆笑していた。


外はどうやら雪も止んでいるようで、朝の眩しい光が部屋の中に射しこんでいる。

それが私たちを照らして、最高のクリスマスになりそうな予感がしていたのだった。





パーティの話はここで終了です。

次は二人だけのクリスマスですvv

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