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理系女子の恋  作者: 流音
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110、クリスマスパーティ


12月24日クリスマスイブ―――――


私は赤井君の家に向かう道すがら、心の中で何度も『拓海君』と呼ぶ練習を繰り返していた。

家では文化祭の井坂君の写真を前に何とか声に出して言えるようになった。

でも、実際本物の井坂君の前で言うとなると言えるか自信がない。


あー…どうしよう…緊張してきた…


私は心臓がバクバクと大きく脈打って、赤井君の家へ向かう足取りが遅くなる。

今日は雪が降りそうなぐらい空気が冷たくて、手も頬も冷たくなるはずなのに私の体は緊張のせいか温かくて、自分がここまで緊張するのはいつぶりだろうか…と考えた。


そうして曇り空の下、トボトボと歩いている内に赤井君の家へ到着して、先に着いていたあゆちゃんと新木さんに出迎えられた。


「いらっしゃーい!!今日、寒いよね~!入って入って!!」


私は2度目になる赤井君の家に「お邪魔します。」と入ると、勝手を知り尽くしているのかあゆちゃんが私にスリッパを勧めてきて、それに倣ってスリッパを借りるとリビングへと足を進めた。

リビングには島田君とタカさん以外のメンバーが揃っていて、私は座ってる井坂君を見ただけでドキッと心臓が跳ねた。


「詩織、遅かったな~。」


井坂君が自分の隣を示して笑顔を向けて、私は固い笑顔を浮かべながら上着を脱ぐと、井坂君の隣に腰を下ろした。


「うん。寒かったから、足が遅くなったのかも…。早めに家は出たんだけどね…。」

「そっか。まぁ、買い出しにいった島田と八牧さんも戻ってねぇし、ちょうど良かったよ。」


島田君とタカさんが一緒に買い出しに行ってるんだと知って、私は珍しい組み合わせに不思議な気分だった。

すると井坂君とは反対側にあゆちゃんが腰を下ろしてきて、私は井坂君からあゆちゃんに目を向けた。


「な~に?しれっと二人並んで座っちゃってさ!!今日はみんなでパーティなんだから、二人だけの空気作らないでよ~?」

「えっ!?そっ、そんなことしないよ!!」

「どーだか。詩織ってば、最近井坂見るとき、明らかに熱こもってるし。見てるこっちが恥ずかしいから。」

「あっ、あゆちゃん!?」


あゆちゃんに思わぬ指摘をされて、私は驚いて井坂君に目を向けた。

すると井坂君が顔をクシャっとさせて笑うと、私の後ろから腕を回して抱きしめてきて、私は体を強張らせて固まった。

目の前ではあゆちゃんがぽかんと口を開けている。


「詩織のそういうとこ参るなぁ~。」


井坂君が後ろから頭をグリグリ押し付けてきて、私はさすがに照れてしまう。

すると我に返ったあゆちゃんがキッチンに目を向けると「赤井ー!!」と赤井君を呼んだ。

そして赤井君が私たちに目を向けるなり、「井坂ッ!!」と突進してきて、赤井君の手によって引きはがされる。


「何すんだよ!!俺の幸せの時間を!!」

「時と場所を考えろ!!お前らのイチャつく姿なんざ、こっちは見たくもないわ!!」

「そんなん目を閉じてればいいだろ!?」

「何だと!?お前、俺らがお前の我が儘にどれだけ我慢して付き合ってきてるか…!!少しぐらいお前も我慢しろ!!」

「そんなのそっちの勝手じゃんか!!俺は自分のしたいことをしてるだけだ!!」


赤井君と井坂君のケンカが始まってしまい、私はどうしたものかとオロオロした。

何故か横ではあゆちゃんがケラケラと笑い続けている。


この状況のどこが面白いのか彼女に聞いてみたい…


私は赤井君にとりあえず謝ろうとすると、井坂君の顔が急にこっちを向いて、私が目を瞬かせてる間に今度は前からギュッと抱きしめられた。


うえぇっ!?


怒ってる赤井君の神経を逆撫でするような行動に、私が驚いて固まっていると、井坂君の「ざまーみろ。」という声が聞こえて、私はわざとやった事を感じ取った。


「こんのっ!!北野!!」


赤井君がブチ切れ寸前という感じで北野君を呼んで、北野君の「え~!?」という面倒くさそうな声が聞こえる。


そして、てこでも私から離れないという様子の井坂君を赤井君と北野君の二人がかりで引き離して、その後は接触禁止令が敷かれ、私の両脇にあゆちゃんと新木さんが配置されることになったのだった。





***





「じゃー、ここで王様ゲーム!!!!」


タカさんや島田君が帰ってきて、クリスマスパーティが盛り上がり始めたときに、赤井君が割り箸を片手に声を上げた。

私はあゆちゃんとジュースを注ぎ合っていたので、それを止めて赤井君を凝視する。


「王様ゲームって…。赤井、そんなの準備してたのかよ。」


北野君が紙コップ片手に呆れたように言って、赤井君は満面の笑みで頷いた。


「おう!!去年もやりたかったんだけど、できなかったからな!!さ、皆引いてくれ!!」


赤井君が手の中で割り箸を混ぜながら突き出してきて、皆イヤな予感しかしなかったが、しぶしぶ割り箸を引いていく。

私は自分の割り箸を見て『3』と書いてあるのを確認すると、皆の様子を見回した。

皆、似たように少し顔をしかめていて、ただ一人だけが嬉しそうに手を挙げた。


「やった!!俺、王様だ!!」


赤井君が嬉しそうに言って、すぐさま周りからブーイングが飛ぶ。


「お前!!自分で作ってズルしたんじゃないだろうな!!」

「まさか!!偶然だって!お前ら、自分で好きなもの引いたじゃねぇかよ!!」

「後ろに王様の棒隠してたりしてねーよな!?」

「するわけねーじゃん!!確認しろよ!」


赤井君が両手を挙げて無実を証明して、赤井君の服の中などを確認していた島田君が横に首を振った。

どうやらイカサマはしていないらしい。

皆は仕方なく赤井君の王様を受け入れると「お題は何だよ?」と北野君が促した。

赤井君は大げさに腕を組んで考え込むと、「最初だからな~。」と言った後に私たちを見回した。


「じゃあ、1番が3番と握手で!!」


私は自分が当たったことに体がビクついた。

でも普通のお題だったのでホッとする。


「なんだ、そんな簡単なお題なの。」

「まぁまぁ、序盤だからな。で、1番、3番は誰だ~?」


赤井君が訊いてきたので、私は「3番は私。」と手を挙げると、視界の端で井坂君が同じように手を挙げた。


「げ!!井坂と谷地さん!?マジで!?」

「こんなゲームでもペアになるとか。二人の絆は強いなぁ~。」

「赤井、どうせならもっとすごいお題にしとけば良かったのに。」


北野君が縁起でもないことを言って笑い出して、私は北野君の言葉とは思えず彼を凝視した。


「じゃあ、まぁ。二人が握手で。はい!!」


赤井君が握手しろと促してくるので、私は井坂君を見つめて手を伸ばした。

井坂君も同じように手を伸ばしてきて、ギュッと握手する。

皆の視線が私たちに注目されていて、何だか握手してるだけなのに恥ずかしい…


「はい、オッケー!じゃ、次行くぞー!!」


王様である赤井君の許可が下りて、私が手を放そうとするとクンッと引っ張られて井坂君が手を放してくれなかった。

私はその手と井坂君を交互に見ると、彼に声をかけた。


「井坂君?」

「おい!!井坂、いつまで握手してんだ!!放せ!!」


赤井君が井坂君の手をビシッとチョップしてくると、手を引き離してきて、私は井坂君の様子を見ながら手を引っ込める。

井坂君はどこか嬉しそうに笑って「ちぇっ。」と言っていて、子供みたいな姿に胸がキュンとなる。


うわわ…可愛い…


私は瞬間的に顔が熱くなって、あゆちゃんの体の影に隠れて身を縮めた。

するとあゆちゃんが「ちょっとの隙でもイチャつくなぁ~。」と飽きれた様にぼやいた。



その後も王様ゲームは進み、あゆちゃんと北野君が腕相撲をしたり、新木さんとタカさんでハグしたり、島田君が赤井君を肩もみしたりと変なラインナップが続いた。


そしてまた王様が回ってきた赤井君が何か企んだ笑顔を浮かべて、もったいつけるように言った。


「そろそろすんごいのいってもいいよな?」


赤井君が『すんごいの』と溜めるので、私も皆も自分の番号を確認して生唾を飲み込む。

今度の番号は5番だ。


「じゃあ…2番と…。」

「うわっ!!2番、俺だ!!」


ここで井坂君が頭を抱えて机に倒れ込んだ。

それを見たあとに、私以外のメンバーは何か必死に祈り始めた。

赤井君はそれを面白いといった様子で見てから、早口で続きを言った。


「6番がキス!!」

「うえっ!?6番だれ!?詩織!!何番!?」


皆が一斉に私の番号を確認しにきて、私は当たらなかった事にほっとしながら割り箸を見せた。

井坂君がどこかで期待していたのか、違うことを確認するとむすっとふてくされてしまった。

私はそんな姿も可愛いと思っていると、見るからに顔色のおかしい人が固まっているのが目に入った。


「おい、島田。まさか、お前6番とか言わねぇよな?」


井坂君が真っ先に島田君の異変に気づいて、顔面蒼白の島田君に声をかけた。

皆の視線が一斉に島田君に向く。


「その、まさかなんだけど。」


島田君がおそるおそる割り箸を見せてきて、皆が悲鳴を上げる。


「うそーーーーっ!?島田!?島田と井坂でキスするの!?」

「うげーっ!?見たくねぇんだけど!!!」


言った本人である赤井君が気持ち悪そうに言って、北野君が横で大笑いしている。


「お前!!やる方の身になれよ!!!男同士とか最悪だからな!?」

「いやだぁ~…。俺、ファーストキスなんだけどー…。」


島田君が心底嫌そうにぼやいて、私は悪いと思いながらも吹き出してしまった。

井坂君は「ファーストキスとか言うな!!更に気持ち悪い!!!」と怒鳴っている。

あゆちゃんと新木さんは悪ノリして、手を叩きながら「キース!!キース!!」と囃し立てている。


「おい!!赤井!!このキスは口にか!?違う場所じゃダメなのか!?」


井坂君が焦ったように赤井君に尋ねて、私は両手で口を押えて笑うのを必死に堪える。


「俺は口のつもりで言ったからなー…。ぶっちゃけそこまで男同士のを見たいわけじゃねぇけど…。まぁ、今後のネタとして口で頼む。」

「はぁぁぁ!?!?ネタってお前なぁ!?」

「最悪だーー!!早く彼女作っておけば良かったぁ~…。」

「わははははっ!!!」


島田君が頭を抱えて蹲ってしまって、井坂君は何とか口は避けようと赤井君に食って掛かっている。

その横で北野君がずっと笑い続けている。

私はもう笑いが我慢できなくて、手を外すと声を出して笑う。


「井坂!!男らしくぶちゅっと一回でいいんだよ!!島田もすぐ終わるからな!!」


赤井君が井坂君の肩を叩いたあとに島田君の背をポンと叩いてから、ケータイを二人に向けて手で何か合図した。

それを見た井坂君が赤井君からケータイを取り上げて、「お前はバカか!?」と頭をバシンと叩いて島田君の前にしゃがんだ。

島田君はずっと「いやだぁ~。」と言っていたけど、井坂君に声をかけられて嫌そうに顔をしかめて体を起こす。


それを見て、本当にやるんだと私は声を出さないように手で口を押えて息をのむ。

あゆちゃんたちも同じように囃し立てていた声を収めると、じっと二人を見つめ始める。

赤井君も北野君も笑うのを止めて、じっと様子を見守ると、島田君が心底嫌そうに口を引き結んで目をきつーく閉じたときに、井坂君が大きく息を吸ってから軽く島田君にキスした。


キス自体はものの一秒にも満たなくて、その直後、すぐに口を離した二人が「おえーーっ!!」と言って、その場に手をついて項垂れ、私たちは爆笑の渦に飲み込まれた。


「わっははははっ!!!マジでやった!!マジでやったぞ!!」

「井坂!!ナイスガッツ!!」

「あははははっ!!!最っ高!!!あはははっ!!!」


皆が見悶えるようにお腹を抱えて笑っていて、私も同じように涙が出そうなぐらい笑って井坂君に同情した。

すると、怪訝そうな顔をした井坂君が立ち上がって、私の腕を掴んできた。


「赤井、ちょっと洗面所借りるぞ。」

「おう。いいぞー!」


井坂君は赤井君に許可をとると、なぜか私を連れて部屋を出る。

私は暗くなってきたから、一人だと寂しいのかな?と腕を引かれるままについていく。

そして、洗面所まで来ると井坂君がそこの扉をきっちり閉めてから、私に振り返るなりキスしてきて驚いた。


「んっ…!!」


私は急のことにドキドキして目を閉じていると、長いキスの後、井坂君が「マジで気持ち悪い…。」と呟いた。

私は目を開けると、嫌そうに歪めている井坂君の顔が飛び込んできて、思わず笑ってしまった。


「そこまで、嫌だったんだ?」

「嫌に決まってるだろ。しばらく感覚残りそうで気分最悪だよ。」

「あはははっ!見てる方は面白かったんだけどね。」


私は正直な感想を伝えると、井坂君が私の横の壁に腕をついて身を寄せながら言った。

私は距離の近さにドキドキしながら、意地悪そうな光を宿す井坂君の瞳を見つめる。


「笑い事じゃねぇよ?これから詩織には彼女として、毎日俺にキスしてくれないと。」

「えっ!?毎日!?」

「そう。いわば、消毒作業だな。詩織のキスで島田とのキスを忘れさせてくれねぇ?」

「消毒って…。」


私は毎日キスする想像をするだけで、心臓が爆発しそうなぐらい苦しかった。

洗面所は寒いはずなのに顔の熱が一向に引かない。


「それじゃ、今日の分な。」


井坂君はにやっと笑うと顔を近づけてきて、私は思わず手を出して止めた。


「待って!もう、今日の分はさっきやったから、終わりじゃないの?」

「さっきのはノーカンだよ。今からが今日の分。」

「えーっ!?」

「えーっ!?って、クリスマスなんだから、いいじゃん!!」


井坂君が子供みたいに駄々をこねてきて、私はもうちょっといじりたくなったけど、これ以上は気の毒かな…とキスを受け入れることにした。


「いいよ。今日の分の消毒ね。」


私が笑って自分から唇を合わせると、井坂君は少し驚いていたけど、私の後ろ頭に手を当ててキスに応えてくれたのだった。









王様ゲームを書きたかっただけの話でした(笑)

まだ続きます。

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