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理系女子の恋  作者: 流音
11/246

10、どう思う?


イメチェンをして家に帰ってきたら、家は大騒ぎとなった。

あの悪態だらけだった弟でさえ、照れ臭そうに顔を赤らめて部屋に飛び込んでいったぐらいだ。

お母さんはスカートの短さに散々文句を言ってきたけど、勉強をきっちりやるからという事でなんとか許してもらった。

私は自分の部屋に入ると、部屋の姿鏡で自分の格好を確認した。


今時の…女子高生みたいだ…


私は小波さんにアドバイスされた通りのスタイルを覚えようと、机からノートを取り出すと一つずつ記入していった。

スカートは必ず膝上にすること。

髪は毎朝きっちりワックスで整えること。

第一ボタンは外して、リボンのゴムはゆるめること。

この時期はセーターを腰に巻くと良いこと。

シャツの袖は捲ること。


書き出すと長くなってきて、開いたノートにぎっしりと書きつくしてしまった。

数学の方程式と一緒で、覚えたらこのノートは見なくてもよくなるはず。

私はノートを机に立て掛けると、毎朝チェックと付箋を貼り付けた。


そしてその日の夜は、明日のことを考えて中々眠りにつけなかったのだった。





***




次の日―――



私は下駄箱から教室までの距離が遠く感じて、下駄箱の前から一歩も動けないでいた。


うぅ…やっぱり恥ずかしい…

スカートがスースーするし、ビューラー?をしたせいで目に空気が直接当たってくる。

唇がリップでヌルヌルしてるのも慣れない。

もう自分は誰だと言いたくなってきた。


私は下駄箱の影に身を隠しながら、このままだと始業ベルが鳴るまで動けない気がしてきた。


「おっはよ!!谷地さん!」

「おわぁっ!!」


後ろから声をかけられて心臓が飛び上がるほど驚いた。

私に声をかけてくれたのは小波さんで、私の声に驚いて固まっていたけど、私の姿を確認して満足そうに笑った。


「うんうん。言う通りにしてきたんだねぇ~。ホント、素直で真面目で可愛いなぁ~。」

「…う…でも、ここから先の勇気が出なくて…。せめてスカートだけでも元に戻しちゃダメかな…?」


私はスカートの裾を引っ張って小波さんに懇願した。

すると、小波さんは腰に手を当てて目を吊り上げてきた。


「なーに言ってるの!?そんなことしたら、せっかく可愛いのに台無しになっちゃう!!ホントに可愛くなってるんだから、自信もって教室行こう!!」


小波さんは強引に手を引っ張って歩いて行こうとするのだけど、私はどうしてもまだ足がすくんで思いっきり抵抗した。


「ほんっとに…無理だよぉ~…!!」

「往生際が悪いなぁ!!可愛くなりたいって言ったのは谷地さんだよ!!」

「そうなんだけど…!!」


私が廊下で必死に抵抗を続けていると、後ろから気配がして振り返った。


「………しお…?」

「―――――っ!?こっ…洸ちゃん!?」


洸ちゃんの驚いた顔が飛び込んできて、私は踏ん張っていた足の力が緩んだ。

その瞬間に小波さんが私を引っ張って走り出した。


わわわわっ!!!


私は洸ちゃんに挨拶する間もないまま、彼女に引っ張られて教室まで連れてこられた。


「おはよーう!!ほら、谷地さんも!!」


私は上がる息を整えながら顔を上げると、クラスメイトの視線が突き刺さって思わず俯いた。


「お…おはよう…ございます…。」

「何で敬語なの!?ほんっと谷地さんって面白っ!!」


小波さんに背を叩かれて、思わず口から空気が飛び出してむせる。

緊張からいつもみたいに言葉が出てこない。


「しおりん。本当に可愛くなったね。」


廊下側の席に座っていたタカさんが駆け寄ってきてくれて、私はいつも通りの彼女に緊張が緩んだ。

そして「ありがとう。」と彼女に返したとき、周りをクラスメイトに取り囲まれた。


「谷地さん!!どうしたの!?何か心境の変化!?」

「すっごい可愛くなったね~!これ、小波のアドバイスでしょ?」

「もち!!昨日、一緒に行ってきてさぁ~。谷地さんの素材の良さに驚いたよ!!」

「ホントだ!!肌すっごい綺麗だよね!」


数少ない女子のクラスメイトから質問攻めにされて、私は返答を小波さんに任せた。

そんなとき井坂君の反応が気になって、ちらっと彼の席の方を見たけど、まだ彼は来ていないようでそれに少しほっとしてしまった。


なんだ…緊張して損しちゃった…


そのあとチャイムが鳴るまで、私はクラスの女子にずっと囲まれていて、やっと自分の席に戻る事ができたときに洸ちゃんと目が合った。


そういえば、さっき挨拶できなかったな…


私は洸ちゃんの感情の読めない顔を見つめると、笑顔で声をかけた。


「おはよう。さっきは何も言えなくてごめんね。」

「いや…それはいいんだけど。どうしたの、その格好?」


言われると思ってただけに、私は考えてきた理由を口にした。


「ちょっと遅い高校デビュー…的な?憧れてたから、小波さんに教わったんだ。」

「ふ~ん…。なんか…しおっぽくないよな。」

「…そうかな。」


ムスッとしながら洸ちゃんに言われて、私はちょっとショックだった。

どう見ても洸ちゃんは私の変化を良く思ってないようだったからだ。

私は席に座ると、一限の準備をして頬杖をついた。


何だか…思ったよりも嬉しくないな…


私はまだ来ていない井坂君の机を見て、ふうとため息をついた。


すると、急に教室の扉が開け放たれて井坂君が寝癖をつけた状態で入ってきた。


「やっべー!!寝坊した!!間に合って良かったぁ~…。」

「井坂!!ギリセーフ!!もうちょっとでアウトだぜ!?」

「何だそのアウトになってほしそーな言い方!!」


井坂君が島田君のからかいに怒って返しながら、こっちに向かってきて、ドキドキと心臓が高鳴っていく。

私は短いスカートの裾を握りしめて俯く。


井坂君の反応が怖くて彼の顔が見れない!!


私が手に汗をかいてビクビクしていると、隣の机に鞄を置く音が聞こえてきた。


「谷地さん、おはよー…ってあれ?」


井坂君が気づいた声が聞こえて、おそるおそる顔を上げて井坂君を見ると、井坂君が口を開けて固まっていた。

その反応にやっぱり変だったんだ!!と思って、胸が苦しくなってきた。

ある程度予想していたとはいえ、やっぱりショックで目を逸らしてしまう。

私は何か言わないとと焦ると、とりあえず挨拶を返すことにした。


「お…おはよう。井坂君。」


私が声をかけたことでハッと気づいたのか、井坂君が席に座りながら口角を持ち上げた。


「びっくりしたー…。谷地さん、なんか変わったな?」

「うん。遅い高校デビューって感じで…小波さんにやってもらったんだ。」

「そっか。小波のやつ、おせっかいだよなぁ~。」


井坂君の笑い声を聞いて、彼の態度がいつも通りのような気がして、私はさっきのは勘違いかも…とひとまずほっとした。


その後にどう思う?って聞きたくなるが、その返事を聞くのが怖くて、臆病な私は声が出ない。

井坂君ももう私に興味はないのか、私の方を見ずに準備をしているし、私は聞きたいことを飲み込んで、じっと机を見つめることしかできなかったのだった。





***





そしてその日の休み時間は代わる代わる、色んな人が私に質問しにやってきた。

島田君や赤井君等、目立つグループのメンバーはこぞって興味津々のようだった。

中でも島田君の一言には驚いた。


「谷地さんってすっげースタイルいいよな!!」


その言葉に私が頭がオーバーヒートして真っ赤になっていると、赤井君と井坂君の二人が島田君を同時に叩いていた。


スタイルってどこら辺のことなんだろう…?


私は自分の貧乳を見て、ふっと息を吐いた。

いや…そう意味じゃないだろう…。

女子と男子では見方が違うっていうのを知った日だった。



それから、私は怒涛のような一日を終えると、質問ラッシュに疲れ果てて机に突っ伏した。

クラスメイトは掃除を終えると部活に行ったり、帰ったりしてしまって私は教室に一人だった。

今日はタカさんが図書当番なので、図書室に行こうかとも思ったが、井坂君に何も聞けていないことが心残りで、教室に残ってしまったのだ。


そんな井坂君はどこに行ったのか、鞄だけが机に残されている。


私はこのまま突っ伏していると寝てしまいそうだったので、席を立つとベランダに足を向けた。

そしてベランダに出るとグラウンドと中庭を眺めて、井坂君がどこにいるのか探せないかな~なんて考える。


こんなに井坂君の事ばかり考えるなんて、私はよっぽど井坂君の反応を楽しみにしていたんだなぁ…


ベランダの柵に腕をのせると、そこに頭を預けて下を向く。


一番可愛いって思ってほしい人の反応が聞けないって…

こんな気持ちなんだなぁ…


私はふうと大きく息を吐き出すと、肌をなぞる風に目を瞑った。


すると背後で扉の音が聞こえて、私は顔を上げると急いで教室の中に戻った。

井坂君だと思ったのだけど、入ってきたのは残念なことに赤井君で私を見て驚いた顔をしていた。


「谷地さん。まだ残ってたんだ?」

「あ…うん。ちょっと……。」


私は目を泳がせて誤魔化そうと試みるけど、良い言い訳が見つからない。


「ふうん。谷地さんさぁ、イメチェンのきっかけって何だったの?」

「うえっ!?それ、聞くの!?」

「だって気になるからさ~。だってイメチェン前は、谷地さんがこんなに可愛いなんて知らなかったわけだし。」

「かっ…可愛い!?」


私は聞きたかった言葉を赤井君から聞かされて複雑だった。

赤井君はふっと微笑むと、鞄を背負いながら私を見た。


「可愛いよ。きっとこれから、色んな奴に告られたりするんじゃない?」

「そっ…そんなのあり得ないよ!!私…地味だし…、可愛くもないし…。」

「谷地さん、自信もっていいと思うよ。俺の目から見たら、充分可愛いから。」


赤井君が人懐っこい笑顔を向けてきて、私は胸がグッと熱くなった。

お世辞だったとしても、面と向かって言われると嬉しい…

私はこういう反応を井坂君に期待していたんだと思って、目の奥が熱くなってきた。

赤井君の前で涙が出そうになって、私は彼に背を向けた。


「あ…ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。」


私は指で零れそうになった涙を拭うと、鼻をすすった。

すると、いつ近寄って来たのか赤井君が顔を覗き込んできて、驚いた。


「泣くほど嬉しかったんだ?谷地さんって、やっぱ反応が可愛いよね。井坂が構いたくなるのも分かるなぁ~…。」

「え…?」


私は急に井坂君の名前が出たことに驚いて、赤井君を見つめた。

彼はニッと悪戯っ子のように笑うと、私から離れた。


「きっかけの話は大体予想つくからいいや。谷地さんが名前で呼ぶ人と関係あるんだろ?」

「名前…って誰のこと…?」

「誰って、西門君の事じゃん?校外学習のときぐらいから名前で呼び合ってるし、付き合ってるんだろ?」

「うえぇっ!?こっ…!?」


私は思わぬ誤解を植え付けている事に気づいて、名前を言う前に思いっきりむせた。

何度か咳をした後、思いっきり否定する。


「違うよ!!洸ちゃん…西門君とは幼馴染なだけ!!名前で呼ぶのは昔のクセっていうか…。保育園から知ってるのに、今更好きとか絶対にないから!!」

「そうなんだ。俺らはてっきりそう思ってたけど。」

「俺らって…?」


私は赤井君の言い方に嫌な予感がした。


「そりゃ、俺と井坂と島田とかその辺だよ。」


ガーン!!!


赤井君の返答に私はさっきと違う意味で涙が出てきそうだった。

井坂君にまで誤解されてるなんて…最悪だ…。

私は今後名前呼びは封印しようと心に決める。


「本当に違うから…。私、ちゃんと好きな人がいて…その人のために…可愛くなりたいって思っただけだから…。西門君は全然関係ないの。」


私はショックから声のトーンを落として告げた。


「へぇ~…いい事聞いたなぁ~。可愛くなった谷地さんに好きな奴か!!俺じゃないよな?」

「っぶ!!違う!!本人目の前にこんな事言えるわけないよ!!」


私は今日何度目か分からない赤井君の言葉に驚かされて、思わず吹き出してしまった。

赤井君は「冗談だよ~。」と言いながら笑ってるし、本当に心臓に悪い。

私は赤井君と話しているとパワーが吸い取られるような気分だった。


「あはははっ!そんなにその好きな奴のことが好きなんだ?自分変えちゃうくらいに。」


私は明るく前向きな赤井君を見て、その姿が少しだけ井坂君に重なった。

私は井坂君の笑顔を思い返して、頬が熱くなるのを感じながら口に出した。


「…うん。大好き…だよ。」


井坂君がいたから、また恋ができるようになった。

彼のおかげで、クラスメイトとも向き合えた。

きっとこれから先、何があっても彼を好きで居続けられる自信がある。

私は彼と同じクラスで本当に良かったと思った。


「…なんか、気持ち伝わってきたよ。上手くいくといいな!誰かは知らねーけど!」

「ありがとう。今日、赤井君と話せて少し前向きになれたかも。」

「そっか!俺も谷地さんと話せて考えさせられたよ!!女子の気持ちが少し分かった!」


赤井君が明るく笑って女子と言ったのを聞いて、私は小波さんの顔が脳裏を過った。


「あ…あのさ!赤井君は好きな人いるの?」

「俺?う~ん…どうしよっかなぁ~…言おうかな~。」


私は小波さんに恩返しできるかもしれないと思って、赤井君の返答をドキドキしながら待った。


「まぁ、谷地さんから聞いちゃったわけだし、言おうかな。俺さ、好きな奴いないんだよね。皆、可愛く見えてさ、谷地さんの言う『好き』って気持ちになった事ねーんだ!高校生にもなって、変だよな?」

「ううん…そんな事ないけど…。そうなんだ…。」


私はてっきり両想いだと思ってただけに、赤井君の返答は少なからずショックだった。

でも、好きな人がいないって事は、これからの頑張り次第で好きになってもらえるかもしれないって事だよね!?

私は小波さんにそう伝えようと決めた。


「なぁ、せっかくだから聞くけど、好きってどんな感じなの?やっぱりマンガみたいに、キスしたりハグしたくなる気持ちの事なのかな?」

「キッ!?そっ…それは極論すぎないかな…?そういう行為って…好きになった後の気持ちな気がするけど…。最初は…ただ、隣で笑顔が見れたらいいな…とか、一緒にいたいなっていう所じゃないかな?」

「へぇ…。それってどういうときに思うもんなわけ?」

「えっ!?どういうとき…?」


具体的に聞かれると困る。

私はいつそういうことを思っているだろうか…?

私は教室にいるときも、家に帰ってからも考えたりすることもある。

ふと思い返す感じだ。


「…一人になって…ふっと寂しくなったときかな…?…今、隣にいてくれたらいいのにって感じかな?」

「ふ~ん…。俺、寂しいとか思ったことねーしなぁ~。」

「あ、あとは手が触れただけでドキドキしたりもするよ。目が合うだけで嬉しかったり…そういうのも好きって気持ちからくるものだと思う。」


私は井坂君との事を思い出して、彼に伝えた。

ペンダコを触られたときは、体に電流が走るみたいにドキドキした。

手を握ったわけでもないのに、過剰な反応だと思う。


「手かぁ…。」


赤井君はそう言うと、私の手を握ってきて驚いた。


「!?なっ…!?何!?」

「いや…実践してみようと思ったんだけど…。谷地さん、手細いなぁ~。強く握ったら折れそうなんだけど。」

「――――っ!?そんな事言ってないで、放してくれないかな?」


私は男の子と手を繋いだ経験なんてないだけに、赤井君の事が好きなわけでもないのにドキドキしてくる。


うわわわっ!!やめてー!!


「でも、これはこれでなんかドキドキするなぁ~。これって好きってことか?」

「ちっ…違うと思うけど!だって私もドキドキしてるから!!」

「あ、そうなんだ。」


赤井君は満足したのかやっと手を放してくれて、私は息を吐いて安堵した。

このままじゃ、心臓がおかしくなりそう…

私はフラフラと自分の机に戻ると鞄を手に持った。


「そろそろ帰るよ。なんか、すごく疲れたから…。」

「あ、そう?じゃあ、一緒に下駄箱まで行くよ。」


私は赤井君といるとまた心労が重なりそうでげんなりしたけど、話を聞いてもらった事もあるので仕方なく頷いた。

赤井君ってお日様みたい。

ずっと浴び続けると、その光にやられるっていうか…

日焼けしてしんどいみたいな…

私は小波さんの赤井君を好きという気持ちだけは理解できそうにないな…と横で鼻歌を歌ってる赤井君を見て思ったのだった。







詩織のイメチェン回でしたが、結局井坂の反応は見られませんでした~

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