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理系女子の恋  作者: 流音
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それぞれの選択:詩織Side


毎日、毎日…同じ夢を見る。


井坂君と聖奈さんが仲良く並んで歩いている。

そして、私の見てる前で堂々とキスをする。


私は呆然とその光景を見つめて、声を出すこともできない。


ただ、触らないで…と心が裂けそうに痛む。

涙が溢れて止まらなくて、目をギュッときつく瞑ったところで目を覚ます。



私は涙で濡れてる顔を拭いながらゆっくりベッドから体を起こして、時間を確認する。


時刻は朝の5時前…


私はまただ…と思いながら、そのまま項垂れた。


テスト期間真っ只中だというのに、毎朝悪夢にうなされて以前よりもだいぶ早く目を覚ます。

眠った気が全然しなくて、頭が重いしスッキリしない。


でも目を閉じただけでも、また見ていた夢を思い出しそうで寝なおす気にもならない。


私はどうしようか…としばらく考え込むと、とりあえずベッドから出てケータイを手に取った。

そしてセットしていたアラームを切って、何気なくメールのチェックをする。


しかし誰からもメールは届いていなくて、私はふと毎日メールをくれてた井坂君の事を思い出しそうになってケータイを閉じた。


自分から別れを切り出したクセに、何を期待してるの…?

バカみたい…


私はずっと心の奥にある想いを断ち切るように、鞄から教科書を取り出して机の上に広げた。

そしてスウェット姿の寝巻のままノートを開いて、テスト勉強することにした。


今日はテスト初日だ。


ここで以前の私のように躓くわけにはいかない。


私はその一心で黙々と教科書とノートに目を走らせ、ペンを動かし続けた。

たびたび浮かびそうになる想いをもみ消すかのように、頭に入りきらない程の情報を叩きこむ作業を延々と…。






***






無事一日目のテストがすべて終了して、私は皆が帰り始めるのを気にしながら、ただぼーっと机の上を見つめていた。

寝不足の頭に知識を詰め込んだせいか、こうしているのが楽だったからだ。

でも、詰め込んだおかげでテストの出来は上々だった。


明日もこの調子で頑張らないと…


私は鼻から息を吸いこむと、机の上から目の前に視線を移して、目の前にいた人物に息をのんだ。


「やっとこっち見た。」

「に…西門君。」


私は睨むように私を見つめる彼を見て、愛想笑いを作る。

すると西門君が大げさにため息をついた後、私の腕を引っ張って立たせてきた。

私は何だ?と思いながらも、されるがままに腕を引かれて教室を出る。

西門君は私の鞄をいつの間にか手に持っていて、私は彼の背中と鞄を交互に見て声をかけた。


「ま、待って!どこ行くの!?」

「どこって、帰るに決まってるだろ。」

「え…?」


私は急に一緒に帰る流れになってる事に驚いた。

西門君は靴箱まで来ると、靴に履き替えてからやっと私に振り返った。

そして相変わらず睨むような目で私を見て言う。


「顔色悪すぎ。明日も明後日もテスト続くんだから、さっさと帰って寝ろよ。」


私は彼が心配してくれてるのを感じ取って、申し訳なくなりその場で俯いた。

すると西門君が私の頭をベシッと叩いた後に、私の靴を靴箱から出して目の前に置いた。


「愚痴でも何でも聞くから。さっさと靴履く!」


西門君は急いでいるのか早く靴を履きかえるように促してきて、私は彼の不器用な優しさだと分かっていたので素直にそれに倣った。

そして靴を履きかえてスリッパを靴箱に直すと、西門君が私の手を引っ張って大股で歩き出した。

そのとき聞き覚えのある声が背後でして、私は頭だけで振り返る。


「井坂君っ!今日も勉強の追い込みさせてね~!!」


そこには井坂君と聖奈さんが二人で向かい合って立っていて、私はそのツーショットに胸がズキンと痛んだ。

今まで何回も目にしてるはずなのに、まだ胸が痛むことに嫌になる。

顔をしかめて前に顔を戻すと、前から西門君が「走れ!!」と言ってきて、彼が急に走り出した。


「えぇっ!?」


私は突然の事にこけそうになったが、西門君に手を引かれていたので、何とかついていく。

そして二人で走って校門を出た辺りで、私は西門君が急いでいた理由をやっと理解した。


井坂君と聖奈さんが後ろにいるって分かってたから、あんなに急かして帰らそうとしていたんだ。


私は西門君のさり気ない気遣いが胸に沁みて、目の奥が熱くなる。


なんで…皆、こんなに優しいの…?


私は島田君に始まり、あゆちゃん、タカさん、西門君…

クラスのみんなに救われていると感じて、色んな感情が我慢できなくなった。


私が弱いばっかりに皆に心配ばっかりかけてる!!


自分への苛立ちと、情けなさから頬を涙が伝って自然と足を止める。

すると、それに気づいた西門君が同じように足を止めて振り返ってきた。


「…ごめん…。ごめんっ…。」


私は繋いでいない手で涙を拭いながら、西門君に謝った。

西門君はふっと息を吐いたあと、私の頬に手を当てて涙を一緒に拭ってくれながら言った。


「別れたばっかで、あれはきついよな…。しおは頑張ってるよ。」


西門君が珍しく優しい顔で慰めてきて、私は「頑張ってる」なんて言われる資格なかったので首を横に振った。


「頑張ってないよ…。ただ…逃げただけ…だよ…。」

「頑張ってるよ。僕はしおがどれだけ井坂君を想ってきたか…知ってる。だから、しおが出した答えが相当辛いものだって事も分かってる。…しおは…悪くないよ。」


「悪くない」と言われて、私はまた涙が溢れた。


井坂君に嘘をつかせることになったのは自分のせい。

気持ちが離れてしまったのも自分のせい。

別れを切り出したのも自分が傷つくのが嫌で逃げたせい。

全部、自分が悪いと思うことで、井坂君が聖奈さんと一緒にいるのを正当化しようとしていた。

そうする事で泣きそうになる気持ちを封印していた。


でも、西門君に自分の心の内を見透かされた事でその封印が解けてしまった。


私が「悪くない」なら、誰が「悪い」のか…


私はその矛先を向けたくない人へと向けてしまう。


「井坂君は…っ…、なんで…内緒にしてたのかなぁ…っ…。私より…っ…聖奈さんを好きなら…、どうしてちゃんと言ってくれなかったんだろう…。ひどい…ひどいよっ…。」


私は井坂君に向けるべき言葉を西門君にぶつけた。

西門君は黙って私の言葉を聞いてくれる。


「私はっ…信じてたっ…。井坂君なら言ってくれるって…、本当の事を話してくれるって…。信じてた…。それなのに…っ…。どうしてっ…!?」


私は西門君の服を掴んで揺らすと、その場にゆっくりとへたり込んだ。

涙の滴が頬を伝って地面に染みを作る。


今も目の前に井坂君と聖奈さんのツーショットが浮かぶ。

自分から身を引いたとはいえ、どうすれば良かったのか今でも分からない。

苦しくなりたくなくて逃げたはずなのに、逃げた今の方が苦しい。


すると西門君が私の前にしゃがみこんでから、頭をポンポンと叩いてきた。

そうした後、何も言わないので、私は涙を拭いながら顔を上げた。

そこには西門君が仕方ないなぁという顔で微笑んでいて、また頭をポンと叩いてくる。


そんな彼に昔もこうされたことを思い出して、私はふっと気持ちが楽になった。


中学のとき、それこそ初恋の人に手酷いフラれ方をした私を西門君は励ますでもなく。

ただこうして頭をポンポンして黙っていた。


あのときと同じ。


何も聞かずに、ただ傍にいて支えてくれている。


私は中学の頃から何も成長していないと気づいて、また涙が出そうだったけど何とか堪えた。

これ以上泣いて西門君を困らせたら、それこそ昔と同じだ。

少しでも成長した自分でいたくて、ゴシゴシと顔を拭くと無理やり笑顔を作った。


西門君は私の笑顔を見て安心したのか、頭をクシャっと撫でてくると笑った。


私は西門君の笑顔を見て、泣くのはこれで最後にしようと心に決めた。


いつまでもウジウジしていると、周りの人の方が心配してしまう。

自分はもう大丈夫だって事を分かってもらえるように、想いを断ち切っていこう。


私は鼻から大きく息を吸うと、西門君に「ありがとう。」とお礼を告げたのだった。








今まで影の薄かった西門君登場でしたー。

次は井坂Sideをお届けします。

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