表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理系女子の恋  作者: 流音
101/246

97、みんなで花火


ナナコは公園に着くなり、瀬川君を見て顔を強張らせた。

私はそんなナナコの力になろうと、明るく話しかけた。


「ナナコ!来てくれてありがと!!瀬川君が花火くれたんだ!一緒にやろ!!」

「…花火って…なんでしおに花火を?」


ナナコが睨むように瀬川君を見て、瀬川君は固い笑顔を浮かべた。


「今日、谷地さんに二人三脚一緒に走ってもらったからさ。そのお礼だよ。」

「…そういえば一緒に走ってたね。なんでしおと走ってるのか疑問だったけど。」


つ…冷たい…


私は態度の正反対の二人を見て、背筋が凍るようだった。

このギスギスした空気を打壊すなんて、私にできるのだろうか…?

私は悲しそうに笑顔を浮かべる瀬川君を見て、胸が痛くなる。


ナナコは顔は嫌そうに歪めているけど、内心を知ってるだけに強がりだと分かった。


「ナナには言ってなかったけどさ。俺、女子恐怖症になって…谷地さんとナナ以外の女子、怖くて触れないんだよ。笑えるだろ?」


「……は…?…冗談…。」


ナナコはいつもと変わらない瀬川君を見て、目を大きく見開いて驚いているようだった。

瀬川君はヘラッと笑うと後ろ頭を掻いて言った。


「冗談でこんなこと言わねーって。マジな話だよ。ちょっとトラウマ抱えてさ。この俺が!!今でも信じられねぇよ。」

「……な、何があったの…?」


ナナコが遠慮がちに瀬川君の腕を掴むと、瀬川君は今にも泣きそうな顔で笑顔を浮かべた。


「ナナは気にしなくていいよ。俺が油断してただけだからさ。」

「油断って…ファンの女子に何かされたってこと?」


さすが頭の回転の早いナナコはスパッと言い当てて、瀬川君は参ったなというような顔で私をチラ見した。

私は瀬川君が言いたくないようだと感じて、口を挟んだ。


「そこまでの事ではなかったみたいなんだけど、瀬川君もビックリしてトラウマ抱えちゃったっていうか…」

「そこまでの事じゃん!!トラウマ抱えるなんて!誰にされたの!?私が訴えに行くから教えて!!」


ナナコは私と瀬川君を睨むと、声を荒げた。

私も瀬川君もナナコがここまで怒るとは思わなくて面食らって固まる。


「え…、えっと…訴えるって…どうするの?」

「決まってるじゃない!!校内でそういうことが起きてるんだから、先生に告げ口して退学にしてもらうわよ。」

「たっ…退学!?」


ナナコのぶっ飛んだ考えを聞いて、私は目を剥いた。

私も同じように腹が立ったけど、ここまでの事は思わなかった。


「ちょ、ちょっと待って!それはやり過ぎじゃ…。」

「やり過ぎじゃないわよ!だって、こっちはトラウマ抱えてるのよ!?これぐらいしてもらわないと気が済まない!!」


ナナコは目を吊り上げたまま鼻息荒く言い捨てた。

私は余程お冠だと分かって、どう宥めようか考えた。


「ナナコ。ちょっと落ち着こっか。」

「落ち着いていられるわけないでしょ!?自分の大事な友達が辛い目にあったっていうのに!!」


「大事な…?」


ここで様子を窺っていた瀬川君がボソッと呟いて、ナナコがハッと我に返って瀬川君を凝視した。

瀬川君はぽかんとナナコを見つめていて、ナナコはその顔を見て恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「ちっ、違う!!大事っていうのは、言葉の文で…!!瀬川君のことを特別に思ってるとかそういうんじゃないから!!いち友達として、許せないってだけの意味で言っただけだから!!」


ナナコが真っ赤な顔で言い訳を並べていて、それをじっと見ていた瀬川君が吹きだすように笑い出した。


「あははははっ!!!ナナ、必死!!俺、そんな事思ったりしねーよ。嫌われてると思ってたからビックリしただけで!ははははっ!!」


瀬川君に笑って流されて、ナナコは顔をクシャっと悔しそうに歪めると拗ねるように言った。


「嫌うとか…、前はそうだったけど…今は違うから!一応、大事な友達にしてあげてるんだからね!!」

「何、その上から目線!!ナナらしいけど、まさか大事な友達認定されてるとは思わなかった!!はははっ!!」

「いっつまで笑ってんのよ!!私はあんたのために腹立ててたってのに!!ムカつく!!」


ナナコが腕を組んでそっぽを向いて怒ってしまい、瀬川君はお腹を抱えて笑いながらその場にしゃがみこんだ。


「あははははっ!!ナナ真っ赤だし!!貴重なもん見れたー!!マジで今日は最高な日だ!!はははっ!!」

「人の事で勝手に笑うとか失礼でしょ!?勝手に貴重とか最高とか言わないでくれる!?」

「俺にとってはそうなんだって!!サンキューな!ナナ!!」

「わっ!!!くっつかないでよ!!暑苦しいっ!!!」


瀬川君が大喜びでナナコに抱き付いて、ナナコが怒りながらもどこか嬉しそうな顔で瀬川君を引きはがそうとしている。

私はケンカしながらも、関係がいつの間にか修復した二人を見て心から嬉しかった。


花火の力は必要なかったなぁ…


私がニコニコと頬を緩ませていると、私の横へ西門君が走ってやって来て、立っている前髪を直しながら言った。


「あれ何やってんの?」

「あ、西門君。早かったね。打ち上げ抜けてきたんだ?」


私が横を見上げると、西門君がメガネを触りながら私の方を向いた。


「うん。瀬川に来なきゃ仲間外れだとか脅されたからさ。」

「あははっ!瀬川君、そんな言い方したんだ!」

「それよか、あれは何なの?」


西門君がじゃれ合う二人に目を戻して目を細めた。

私は笑いが込み上げて声に出して笑ってから、教えてあげた。


「昔に戻ったってだけだよ。やっぱ幼馴染っていーよね。」

「……何それ?意味分かんない。」


西門君は飽きれるように笑うと、私の頭をクシャっと撫でてから優しく目を細めた。

そんな西門君の様子から私は小馬鹿にされた気分で、ムスッと不機嫌になる。

私はクシャクシャにされた髪の毛を直すと、西門君の脇腹を小突く。

すると身を捩った西門君がお腹をさすりながら、慣れたように小突かれた事を流して言った。


「そういえば、しお。なんで打ち上げに来なかったんだよ?井坂君とか小波さんがかなり怒ってたけど?」

「あはは…実は家で爆睡しちゃって…。」

「なんだ。しおらしーな。そんな事じゃないかと思ったよ。」


西門君がまた私をバカにしてる事が伝わってきて、私はそっぽを向いてムスッとした。

そんな私を見て西門君が横で笑っている。


西門君って絶対私のこと見下してるよね。


私はムカムカして顔をしかめていると、瀬川君が手を振って声を上げた。


「そろそろ花火しよーぜ!!谷地さん、ライターってどこ!?」

「あ、うん。私、ここに持ってる!」


私は制服のポケットに入れてきていたので、それを取りだして瀬川君の元へ駆け寄った。

そのときに拗ねたように照れているナナコが目に入って、私は嬉しくなった。

仲直りできたことを喜んでいるんだろうその表情を見て、私はナナコに笑顔を向ける。

するとナナコが私の笑顔の意味を汲み取ってくれたのか、笑顔で返してくれる。


私はナナコの幸せを分けてもらったような気分で、このまま昔の私たちの関係に戻れそうで顔が綻んだ。


すると、瀬川君が一番に手持ち花火に火を灯して、辺りがパアッと明るくなった。

緑色の光が花火から発せられている。


それを見た私とナナコが同時に手に花火を持って、瀬川君の火を借りて灯していく。

後から西門君も加わって、私たちの周りだけシューっという花火の音と灯りに包まれた。


「わーっ!綺麗だねー!!」

「懐かしーねー!!小6のときだっけ?こうやって花火したの!!」

「確かそう。姉さんが使わなくなった花火持ってけってくれたんだよ。」

「そうだった!!景ちゃんがくれたんだよね!あれってなんでくれたんだっけ?」

「知らないよ。僕はラッキーぐらいにしか思わなかったし、何も聞かなかったから。」

「景子さんってどこか不思議なとこあるよな?」


瀬川君の言葉に私たちは「あるある!!」と同意して、笑い声が湧き起こった。

西門君だけは自分のお姉さんのことなので、不思議そうな顔をして首を傾げている。


「あのときも楽しかったけどさ。今も結構テンション上がるもんだな!!」

「だね!!なんかあのときに戻った気分!!」

「あははっ!!それだけ私たちはまだ子供だって事だよね!」

「言えてる!!高校生っつってもガキだよなー!!」


瀬川君が花火を振り回し始めて、私とナナコは悲鳴を上げながら逃げた。

こうしていると本当に小学生に戻ったように錯覚する。

あのときも瀬川君が花火を振り回していて、私とナナコはキャーキャー言いながら逃げ回ったんだ。


私は思い出し笑いをして、お腹が捩れそうだった。

やっぱりみんなで花火をするのは楽しい。


今日見た嫌な光景も全部吹き飛んでいく。


ウジウジしてた自分がバカみたいだ。

私はもうキスのことなんてどうでもよくなって、井坂君を信じると決意を固めた。


さっきの電話からも分かるように、井坂君は私のことを一番に気にかけてくれている。

それだけで十分だ。


好かれてるんだから、それでいい。


私は西門君を盾にすると、瀬川君の花火攻撃をなんとか躱した。

西門君の怒る声を聞いて、私がヘラッと笑いながら謝っていると、背後で名前を呼ばれて振り返った。


「詩織ー!!お待たせー!花火持ってきたよー!!」

「……あゆちゃん…??」


私はあゆちゃんや赤井君たちクラスメイトの何人かがこっちに来るのを見て、井坂君よりあゆちゃんたちが先に来たことに違和感が過った。


あれ…?井坂君…どこ??


私がクラスメイトの中に井坂君の姿を探そうとキョロキョロしていると、あゆちゃんが同じようにキョロキョロして言った。


「あれ?井坂は?」

「うん…来てないんだけど…。皆と一緒じゃなかったんだ…。」


私が声を落として言うと、あゆちゃんが焦ったように赤井君に向いて言った。


「井坂のやつ、私たちよりもだいぶ早くファミレス出てったよね?まさか、迷ってるとか??」

「はぁ!?こんな知り尽くした地元で迷うとかねぇだろ!?」

「ちょっと井坂に電話してみる。」


島田君がケータイを取り出して電話をかけようとしたけど、それをあゆちゃんが止めた。


「待って!井坂のケータイ、私が持ってるんだって!!あいつ、私と詩織が井坂のケータイで話してる間に出てったから。」

「あ、そうだった。」


島田君が肩を落としてケータイを下げて、あゆちゃんと赤井君は考え込んでしまった。

私は井坂君が来ないことに少し心配だったけど、場所は知ってるはずなのでいつか来るだろうと思って、明るく皆に言った。


「井坂君、どこかに寄ってるのかもしれないし、花火しながら待ってようよ。場所は知ってるんだから、いつか来るよ!」


皆は私を気遣っていたようで、私が明るく言うのでしぶしぶ頷いてくれた。

私はせっかくの楽しい気分を変な空気にしたくないだけだったのだけど、井坂君がいないことに寂しさもあって、私は自分の相反する気持ちに苦笑するしかなかったのだった。





***





それからどれだけ待っても井坂君は現れなくて、花火を終えたメンバーたちはゾロゾロと帰り始めた。

瀬川君はナナコと仲直りしたのもあってナナコと…それにタカさんまで引き連れて帰っていった。

なぜタカさんが一緒かというと、瀬川君が送ると言い出したためだ。

瀬川君は私が思うよりタカさんに心を許しているのかもしれない。

ナナコは複雑なようで微妙な表情を浮かべていたけど、タカさんは予想外の申し出に戸惑いながらも嬉しそうだった。


私は今後厄介な三角関係が巻き起こるのではないかと嫌な予感がしてたが、口を出さずに見守ろうと帰る三人の背を見送った。


西門君はいつも通り自由な感じで一人で帰ろうとしていたので、私は思わず引き留めた。

ゆずちゃんの気持ちを知っているのに呼び出した後ろめたさもあったからだ。

私のお返しとして、西門君ににゆずちゃんを送るように指示して二人で帰らせる。

これで彼女を悲しませたことをチャラにできるといい。

私は上手く行きますように!!と赤い顔をしていたゆずちゃんに祈った。


そして私はあゆちゃんから井坂君のケータイを預かると、あゆちゃんと赤井君に別れを告げてベンチに腰かけた。

すると帰りかけていた島田君が私に振り返って尋ねてきた。


「谷地さん、帰らねーの?」

「うん。井坂君が来るかもしれないし。お母さんに呼び出されるまでは待とうかなーなんて。」


私は井坂君のケータイを握りしめて、きっと来ると変な自信があった。

井坂君はいつも私が会いたいと思っていたら、気持ちをくみ取るように現れる。

今日もきっとそうだと思って、自然に笑顔が浮かぶ。


島田君は「そか…。」と言うと、少し考えた後に私の横に腰を下ろしてきた。

私は帰らずに座ってしまった彼を見て、目を何度も瞬かせる。


「え?島田君、帰らないの?」

「だって、一人で待つとか危ないだろ?暗いしさ、見通しはいいけど人通りも少ないし。何かあったら大変じゃん。」

「で、でも…体育祭の後で疲れてない?」

「平気。どうせ帰ったって飯食って寝るだけだし。俺の事なら気にしないでよ。」


島田君がニカッと笑って言って、私は彼の優しさに嬉しくなった。

確かに暗い公園に一人でいるのは心細い。

だから島田君が一緒だとすごく安心だ。


私は彼の厚意に甘えることにして素直にお礼を言った。


「ありがとう、島田君。いつも優しいよね。」


私は自分の周りにいる男の子は皆優しいな…と瀬川君に借りたパーカーを見て思った。

こんなに優しい皆に囲まれて、私は幸せ者だ。

島田君はふっと微笑むと、顔を前に戻して頭を掻きながら言った。


「優しいのは、谷地さんが優しいからだよ。」

「…ん??私、優しいかな?」


私は誰かに優しくした覚えがなくて、首を傾げた。

すると島田君が喉を鳴らしながら笑って、肩を震わせた。


「優しいよ。だって、この状況がまず優しいだろ?」

「この状況って…?」

「来るかわからない井坂を待ってるじゃん。こういうの優しくなきゃできないって。」

「そういうものかな…?私はただ…井坂君なら来るって信じてるだけだけど…。」


私は島田君には理解できないだろう不確定な自信を根拠に言って、少し恥ずかしい。

でも島田君は何か分かってくれたのか、悟ったような目で言った。


「そういうの…いいよな。二人にはずっとそうでいて欲しいよ。俺の憧れ。」

「憧れって…。」


私は島田君に褒められたのが分かり、更に恥ずかしくなった。

信じるとか大層なことを口にしているけど、ついさっきまでは自信がなくて疑ってばかりだった。


でも、瀬川君に言われて気づいた。

私の見てきた井坂君は、やっぱり私に隠し事のできるような人じゃないってこと。

だったら、私を見る井坂君の目を…気持ちを…信じる。


そう決めた。


私は井坂君のたくさんの言葉を思い返して、ベンチにもたれかかると目を瞑った。


きっと来る…


私は自分のケータイが鳴るまで、島田君と並んで井坂君を待っていた。


でも、その日井坂君が公園に姿を見せることはなかったのだった。









瀬川とナナコの仲直り話でした。

井坂が来なかった理由は次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ