3 マスターの暴走はいつも通りだからね。
「んーむっ...何れもいいなぁ...これも、これも...。」
シアワセアジトマスターこと藤咲紅も、闇鍋の具材を買う。
「...仮面娘。お前...」
呆れたように話しかけて来る、店員...武器屋店員の杉原伊都は、じとっ、と紅を見る。そう、此処は、武器屋で。今買おうとしているものは、闇鍋の具材で。さて、矛盾点は見つけただろうか。
紅は、散々悩みに悩んだあげく、とあるものを選択した。
「あ、これいいなっ!...くぅ、600円...。」
紅が目を留めたのは、にょろにょろと動く、どくどくしく黄色、赤、青、オレンジ等で彩られた、蛇だった。それでも紅は、言った。
「イトちゃんっ!これちょーだいっ!200円ツケで!!」
「...仮面娘、色々突っ込みたいところだが...はあ。」
なにか言おうとした武器屋の女主人だったが、諦めた様子で、あいよ、と袋にいれて渡す。そう。彼女は、巷で噂される、“料理界の殺し屋”なのだから。今までで彼女の料理に瀕死に陥った人数は不明。幼馴染みの機転と努力と犠牲すらなければ、殺人すら起こしていそうだとかいないとか。
良い買い物をした、と笑顔で袋をぶんぶんとふって移動する。
「...退屈だし、もうちょっと見て行こうかなー。」
ふと目を留めたのは、雑貨屋。いかにも女の子が好みそうなファンシー雑貨が置いてある。彼女は、その中のテディベアに一目惚れ。とぼけたような表情がツボにハマったらしく。“とぼくま。”というそのままな名前だが、もふもふとした柔らかそうな毛も、最近様々な少女に人気らしい。
抱きしめたい。その衝動をまず抑え、周りに自分の知り合いがいないかを確認する。念のため、頭上や足下まで確認するのだから、隙がない。そして、いないことを確認した後、ぎゅぅぎゅぅと抱きしめた。
時間を忘れるどころか、もう目的すら忘れてしまったころ...。
空が通りかかった。
「...紅?」
コンビニから出て適当な買い物を済ませた直後、空は彼女の姿を見かける。
大きなテディベアを抱いて夢心地な紅の方へ行くと、空は苦笑しつつ尋ねる。
「...最初の目的、覚えてる?」
「What does this all mean?(意味が分からないっ、つまり、どういうこと!?」
「目的だよ。...最初に紅がいったんでしょ?」
「え?...うん、モチロンオボエテタヨー。」
「...絶対覚えてなかったでしょ...」
「お、覚えてたよっ、ほら、アレでしょ、アレ...」
目を泳がせつつ答える紅に、小さく溜め息をつく。紅はようやく思い出したのか、袋をつかむと、ピースサイン。どうやら勿論覚えてるよ!とでも言いたかったらしく。まあ今思い出したということは、既に出た冷や汗でバレバレなのだが。つくづく紅は嘘が苦手だなぁとか幼馴染みなりの愛情をこめて苦笑をする。
「...覚えてなかったんだね」
まあ思い出したんならいいか、と思い引き返そうとするが、紅はついてこない。いや、ついてこようとはするのだが、とぼくまを抱きかかえたまま、動かない。きょどきょどとした瞳で、空を見て、とぼくまを見ての繰り返し。勿論幼馴染みの言いたい事は分かる訳で。
「.......欲しいの?」
空のその言葉に、紅は赤面した。
「え、ほっ、欲しい...!?え、いや、欲しくなんかないけど...?」どうやら、自分のキャラには合わないと思っているようで。一度そう言って突き放すが、やはり名残惜しいのだろうか。紅は、言葉を付け加える。
「もっ、勿論っ、買ってあげたいっていうんなら受け取るけどねっ!?」
クールな容姿だというのに、リアルツンデレ発言。ポニーテールがさわっと揺れて、彼女の腕に包まれたテディベアがくすぐったそうな表情をした気がした。ど?ど?と上目遣いになる紅を見る。可愛い。少しにやっとしそうになるのをこらえつつ、あくまでもクールに帰りを促す。
「ふ〜ん...じゃあ帰ろう」
「はっ!?いやいや〜。きっとボクに買い与えたいと思っているんでしょ?ね?ね?」
空の無言に、涙目になりつつ、素直になれない紅はテディベアを置く。
「まっ、嫌っていうんなら別にいいけどぅ〜。ボクが欲しいわけじゃないしっ!」
「嘘つきだね...」
空はそういうと、紅にテディベアを持たせた。涙目の彼女の頬に触れ、涙を拭うと会計に連れて行く。そして、素直になればいいでしょ、と付け加えると、「...ありがとっ」と照れくさそうに言いながら、紅は幸せそうに微笑んだ。18000円の、テディベアを抱くと、紅は本当に無邪気で、無垢な笑顔を見せる。
用語説明。
【とぼくま。】
まき小説の世界観で人気のクマのぬいぐるみ。巷では人気。とぼけたような表情が名前の由来。




