【間幕】少年の居ぬ場所に
少女は泣いていた。もう一週間以上光が差し込まれない部屋。真っ暗な暗闇の中、その少女はただただすすり泣く。もうすでに涙は枯れ、これ以上に無い程弱っている。食べ物なども全く喉を通っていない。少女の横には、クラスメイトからの手紙の数々。
でも、その少女はその手紙を見てすら、いなかった。
少女は、悲しかった。そして、愛おしかった。
狂おしい程の愛情を注いだ相手が、その相手が、もう自分の隣に居てくれない。
その少女は、それを知ったとき、どれだけ愕然とした事か。
ただただ、愕然として、なにも出来ないその無力さに、悔しんで。
それでも、少女は彼を愛していた。
少女はスポーツが好きだった。 彼が褒めてくれるから。
少女は勉強が好きだった。 彼が驚いてくれるから。
少女は学校が好きだった。 彼がいてくれるから。
少女は友達が好きだった。 彼の涙を見せてくれるから。
少女はヒトが好きだった。 彼の分類される物だから。
少女は自分が好きだった。 彼が好きで居てくれるから。
少女は、彼が大好きだった。
狂おしい程に。とても、とても大好きだった。
彼のことならなんでも知っているんだ。
彼の、好きな音楽、ちょっと変わった習慣。
小さいときの様子。ちょっとしたトラウマだって。
服に隠れて見えない筈のお腹のホクロだって。
彼の好きな人のタイプだって。
みんなみんなみんなみんなみんな、知ってる。
少女は、それだからこそ、好きだった。
彼の目が好き。彼の頬が好き。彼の髪が彼の口が彼の耳が彼の香りが、彼の腕が彼の足が彼の胸が彼の膝が彼の肘が彼の手が、彼の顔が、彼の身体が、彼の中身が、大好き。
やせ細った身体を、無理矢理にも動かして、タオルを手に取る。
彼の使っていた、タオル。
これを取ったとき、彼はどれくらい驚いていたのかな、それとも気付かなかったのかな。部屋に落ちていたタオルを取ったとき、そんなことを思っていた。
彼の匂いがほのかに香るタオルを顔につけると、嗅いで嗅いで嗅いで、嗅いだ。
「ねえ...どうやったら会えるの...?」
そうつぶやきながら、眠りについた。
「......嗚呼」
ようやく落ち着いたのだろうか、少女はもぐっていた顔をようやく、上げる。
そして、泣いている間に思いついたのだろうか、少女は少し笑みをみせた。
彼がいなくなってからは見せた事のなかった、幸せそうな微笑み。
「ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふ」
シャッ、カーテンを引くと、まぶしい光が見える。
暗闇になれていた少女は、少し目を細めると、時間を確認する。
朝の6時43分。どうりで光が痛いくらいなわけだ。
少女はそう思いながら、にっ、と笑った。
もうすぐ、もうすぐだ。
少女はずっと考えていた。
愛しい愛しい彼に再び会える方法。
再び抱きしめられる方法。再び隣で笑う方法。
ドアを開くと、そこには嬉しそうな母親の顔があった。
ようやく前を向いてくれたのね、と微笑む母に大丈夫だよ、と声をかけて。
少女は、前をむく。
「.......もうすぐ会えるからね...。隼人。」
少女はそういうと、玄関を開け、学校へ向かう。
目指すは屋上だ。
......早く会いたい。会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい。
百合はその狂う程に感じるその感情に急かされるように、学校への足を速めた。




