6 落ち込むマスターと蛇の娘
【海凪空side】
目が覚めると、僕は溜め息をついた。まだ殆どの人が眠っている。いや、眠っている訳じゃないんだろうけれど。小さく欠伸をした後、まだ痛む頭に片手をあて、少し顔をしかめる。...また紅ったら、腕上げて。主に殺人的な。周りを見回してみると、紅がいない。この阿鼻叫喚の図から言って...自分を責めているのだろう。きっとどこが悪いのかの観点はズレているのだろうが。彼女が落ち込んだ時に行く場所といったら決まっている。あの...穴場だろう。街中が見渡せる、綺麗な場所。
僕は適当に毛布等をかり出し、全員にかけてからアジトを出る。目指すは紅のいる場所に。
【藤咲紅side】
そこは、紅にとっての休息の場所であった。自分しかいない空間。此処なら普段つけた仮面だって、とることができる。心が弱い時には、安心して休む事が出来る。普段、明るく楽しく、を信条に笑い続けていた紅だったが。それもやっぱり此処までで。
あっ、という間の出来事だったのかもしれない。それとも、気が遠くなる程長時間のことだったのかもしれない。紅の企画した、闇鍋大会。皆楽しんでいてくれたのだと思う。自分の料理は、反応はさておき楽しく食べれた自信はある、でも。その闇鍋大会で、体調を崩す仲間があらわれた、ということはショックでたまらなくて。
「.........うう」
しっとりとした唇から嗚咽を漏らしながら、フードに隠れた頬を涙で濡らす。分からない。なんで、自分ではなく仲間を傷つけてしまったのだろうか。何故、自分はなんの疑問を抱く事もなく、料理をしたどころか仲間に食べさせてしまったのだろうか。何故、自分は。
.......こんなにも、無力なんだろうか。そんなことを思うと、余計に辛くて。もう、嫌だってなるのに、逃げられなくて。現実を突きつけられた感がして。もう、どうしようもなく嫌になって。責任感、無力感、そんな色々なものに突かれた感じがして、すごく嫌だった。自分の慢心が、あの悲劇をもたらしたのだから。送りつけたのは...誰?誰誰誰誰?震えた身体をさらにすくませながら、負けじと震える手でフードの端をつかみ、さらに深く被る。
「...ハァ、居た。」
突如息をきらせたような淡々とした、でも大好きな声が聞こえる。
「...空。」
若干瞳を見開き、そして驚き、自分を追ってくれた事への嬉しさをこめて、名前を呼んだ。振り返らなくても分かる。大事な幼馴染み。振り返ると、やっぱりその彼だった。そして、その後に感じるのは、自分を責めた言葉。どうしよう_こんな、自分の様子を見せたくなかった。昔の、あの時だって、隠してたのに。一瞬顔を歪めるが、すぐににっと微笑み、フードを外す。___いつもと変わらない、“藤咲紅”を貫いていく。
「......大丈夫?」
どうやらボクは演技がそこまで上手じゃなかったみたいだ、なんて心の中で嘲笑すると、いつもの様子で笑った。
「...何をいってるんだいっ?ボクはなにもないけどねっ?」
ひゅうっと吹いた風に黒髪が靡くと、涙を笑顔に隠したまま、いつもの調子で話す。
「.........そう。」
心配と寂しさをこめた空の笑みに、ケラケラと笑いながら空の肩を気楽に叩いてみせる。その中でも決心する。強くならなくてはいけない。もっと、有能にならなくてはいけない。楽しくなくてはいけない。
もっと、シアワセじゃなくちゃいけない。ね、そうでしょ?そんな自問自答を頭の中で繰り返す。空の訝しげな表情から逃げるように、周りを見回した。そこに映ったのは、物陰に隠れていた、白髪の少女。蛇と戯れているようだ。赤い瞳には、神秘的さが窺える。無機質な雰囲気のある、けれど小さな幼い子。
空を後ろにつれかけよると、その少女はゆっくりと紅を見上げた。少女の肩に乗っていた白蛇には、警戒心はないようで少し安心する。少女はこんどはふと小首を傾げ、言う。
「...真神歌雨って、知ってる?」
まがみ、うたう...。勿論、知っている。アジトの大切な仲間。知ってるよ、と微笑むと少女は若干安心したように微笑み、自己紹介。
「......そう...わたし...ましろ...真神...ましろ」
「ましろちゃんねっ、よろしくっ!ボクは...シアワセアジトマスター、藤咲紅だよっ!」
「僕は、海凪空...。」
そして一通り終わった後、その少女の飼っているらしい無数の蛇についてふれる。
「...蛇...格好いいー!!」
子供のように目をキラキラさせる紅。どうやら、蛇はわりと好きらしい。爬虫類が得意な女子というのも考えものな気がしなくもないが、まあ紅だし仕方ない。もう一つ言うなら、さっきまでその格好いい蛇を率先して入れていた気がするのだが...と空は渋い顔。どうやら、買い物袋の中身に気付いていたらしい。
暫く蛇と戯れた後、紅は思い出したようにましろに質問をする。
「そういや、ましろちゃんって、何処のアジトに所属しているんだいっ?」
「アジト・・・・?・・・・・わたし、どこにも入ってないよ?お姉ちゃんを、さがしてるの・・・」
お姉ちゃん、とはきっと、いや確実に歌雨のことだろう。きょとんとして答えるましろに一瞬紅は驚いたような表情を見せる。へえ、お姉ちゃんを探す何て、良い子だなー、とかなんとか。
「ほお...じゃあ、ウチにくる?」
「紅、いきなりそれは...」
「......うん......そうする...」
案外即答だった。空は不思議そうにましろを見るが、紅は当然、といった様子。いうに、姉を捜している、そしてその姉が自分のアジトにいるんだから、来ると思っていたらしい。
とりあえず少女をスカウトし終わった後、また問題を思い出す。そうだ、この後きっと、なにかある、だろう。不吉な事が。面倒な事が。...まずその前に、コスプレを着替えないとな。未だウエディングドレスを着たままの紅は苦笑した。




