5 シアワセな空気の変化
そんなこんなで、コスプレ大会へと発展していた、わけだったの、だが。
ピンポーン、ピンポーン。軽快な音。どうやら誰かが尋ねてきたようだ。
「はぁいっ!!」
元気よくマスターが飛び出すと、宅配業者の人が、ヘラヘラと笑いながら、木箱を抱えて立っていた。
「宅急便です。食料品なので、即日調理でお願いします。」
「んー?食べ物?...まあいいやっ、ありがとーっ!」
「ではこちらにサインか判子をお願いします。」
マスターはさらさらっ、と女の子特有の丸っこい字でサインをすると、木箱を受け取る。
「ありがとうございました。」
宅配業者の少年は、紙を受け取ると軽く会釈をし、去って行った。少年の顔がちらりとも窺えなかったのは何故だろう。
「...ますたーっ、それなーに?」
弥郷が明るく尋ねると、マスターはぱこっ、と箱の蓋を外す。中に入っていたのは、真っ赤な、食用肉。とても美味しそうで、材料としてはなかなかのものだろう...が。
...ゾクッ。ただ、寒気がした。コレは、一体...?
「...それ、本気で食べるの...?」
「なんか嫌な感じだよねー.........」
柚子の心無しか心配そうな表情を筆頭に、他メンバーも様々な言葉をあげる。
ざわ、ざわ。
さっきまでの盛り上がった雰囲気とは全く違う、疑心案儀になりそうな雰囲気。
なんとなく、居づらい雰囲気の為か、誰からともなく、なんとなく上を見上げる、と。小さな、小さな、カメラ。黒くて、よく見ないと気付かない、そんなちょっとした違和感。
「何かしら、このカメラ...?」
メンバーの視線が、凍り付いた気がした。その小さなカメラは、ただハイテクなものなのに、昔から親しんで来たような...そんな、感覚があった。何処かで見た事がある。何処かで、何処かで_______
ふと、頭によぎるのは、ふわふわな髪のゆれる、常に笑顔で人気者の少女_____僕の幼馴染みを思い出した。こんな落ちこぼれの僕にまで優しくしてくれて、常にクラスの中心で盛り上がっていた、そんな僕の、大切な幼馴染み。百合は、今あっちでなにをしているのかな、とか思おうとして、止まった。.......何故?なんでここにあるんだよ?こんなの他に持っている人...いるよな、いるいる。きっとたまたま。たまたま持っている人が、たまたま僕が所属したアジトにしかけただけ。
「...違う、よな」
幼馴染みと重なっても、そんなわけ、ない。ないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないないない、ない。彼女は、こっちに来てはいけない存在。ここにいてはいけない存在。だって危ないかもしれないじゃないか。それに、此処へ来るには多分...。彼女は、僕に明確な敵意なんて見せない。僕達に向けて、こんなことをするような子では、ない。
_____そう、信じたい。
「監視されてる...」
「へー、最近よく聞くストーカーかな、誰がお目当てだろうね?」
「狙いは...藤咲紅...マスター、とか?」
「...マスター!」
「すとーかー?...あははっ、面白い冗談だねっ」
そこまで言うと、マスターは、いつも通りの筈なのに、何故か恐怖を感じさせる笑顔で。
「...ボクが、黙って狙われるわけ、ないだろ?」
そういうと、また元のマスターに戻るとけらけらと楽しそうに笑いながら、肉の料理に向かっていった。どうやら料理をするらしく。
ひそっと弥郷が耳打ちする。
「......マスターが料理するんなら、たとえお肉が危なくても危なくなくても同じで危ないよね」
マジかよ。だが、ここで軽い冗談っぽく言ってくれた彼女の言葉に、僕は微笑んでありがとう、と言った。僕には、彼女があのお肉を食べたとしても大丈夫だと思うよ、心配しないで、と言われているような気がして。さっきまで肉を見ていた翔琉が何故か僕を睨んでいた気がするが気にしないことにする。
暫く待つと、マスターのいつもと同じ明るい声がした。
「出来たよーっ!!」
何故か奇怪な紫色の液体。既にお肉は入っているらしい。いや、これ絶対肉の前に液体にも問題あるだろう。全員が冷や汗。歌雨さん...なんで止められなかったんだっ!?
「うん。とりあえずどうやって紫色にしたんだろう。」
「きっと......ア〇〇ラシとか...?」
なんでだよ。どうして◯メフ◯シにしたんだよ。意味分からない。撤回すべきだな、マスターはただの優しくて頼りになる人じゃなかった!
「マスター...」
どこか拝んだような声を出す人達の声に気付いているのかいないのか、楽しげに可愛らしく微笑むと、電気を消すマスター。悪魔か。
「んじゃっ、皆食べて食べてッ!」
「.........ゔ」
詰まったような声をあげ、誰かが恐る恐る箸をつけた。そのとたん耳にするのは一旦耳にしてしまえば二度と忘れる事のないような悲鳴。......。うん、分かった。これは地獄だ、地獄なんだ。僕は生前そんなにヒドいことをしただろうか、それともご先祖様が悪いのか。どっちでもいいから救って下さいお願いします。その悲鳴を耳にしても尚挑む勇者達。マスターはというと、不思議そうにどした?と首を傾げる。
「...紅」
空さんが口元を抑えているのが闇に慣れてきた目でも分かる、が、すぐに外し、微笑んだように息を漏らす。
「......美味しかった」
空さああああああああああああああああん!!!!!
マスターは満足そうに微笑んでいた。もうなんだよ、皆倒れる前に口々に美味しかったと呟いてるし!もはや囈言だよね!?暖かすぎるよ皆さん!!僕も手をつけよう、仕方ない、せめて食材だけでも当たりを.........
バタン。
★
マスターである紅は、満足そうに微笑むと、そろそろ皆食べ終わったのかな、と思い電気のスイッチに動く。自分は味見などしていない。なるべく皆に食べて欲しいから。電気をつける。
パチッ。
するとそこには、見るも無惨な光景。全員が、倒れている。...なんで?なんで、なんでなんでなんで。もしかして、お肉が原因?マスターである自分が、それを気にすることもなく使ってしまったから。そういうことか、そういうことなんだ、どうして、どうしてボクは。肝心な時に馬鹿なんだろう。いつまでたっても守れない。
あああああああああああああああああああああああああああああ。
どうしようもない虚無感に襲われた紅は、小さく呟いた。
「ちょっと外散歩して来る。」
誰も起きていないだろうが、それでも、言いたくて。ごめんなさい、という言葉を呟こうとして、さらに敗北感。あれは、誰だろう、誰だろ誰だろ誰だろ誰だろ誰だろ。誰が送って来たんだろ。
いつもなら軽々開く扉を重く感じるのはやっぱり、この気分のせいだろう。
パーカーのフードを深く被ると、瞳を伏せた。いつも落ち込んだ時にいく、穴場へと。




