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人類最後の首脳会議

 人類滅亡まで、あと24時間。


 地球に赤い光線が照射された。縦にまっすぐ地軸と平行に、包丁でリンゴを真っ二つに割ろうとしたかのように。更に例えるなら、バーコード読み取り機が当てられたような状態である。


 地球は回り続けるが、赤い光線は一緒に回ったりしない。公転にはぴったり着いてくる。つまり、地球に住む人には時速1,666キロで赤い光線が迫ってくることになる。


 光線が行き過ぎた後はどうなるか。地面は深くえぐられて蒸発し、真っ赤なマグマがドロリと溶けて流れ出していく。そこに居るものは皆、消滅する。


 つまり、全ての者が死ぬ。焼け死ぬなんてレベルじゃ無い。一瞬で消えてしまう。苦痛もあったもんじゃない。あまりの速さに、恐怖すら感じること無く消えてしまう。


 確かに光線の迫る速度はとてつもない速さだが、最大で24時間弱の猶予がある。人類はすぐに気がついた。


 ただし、その地球規模の怪光線。その実態を観測するのに、丸1日では無理が在るかも知れないが、まあ、仮に把握が出来たとしよう。


 そして世界各国の首脳陣が対策を取るべく首脳会議が開催される。集まる時間が惜しいので、当然の如くテレビ会議が活用される。


 しかし、解決を求める策などひねり出せる訳もない。議題を読み上げる最中さなかでも、次々と各国首脳のモニタが消失していくのだ。逃げ場所も無い。光線を止める手段も、それを調査する時間も無い。首脳陣の苦悩は頂点に達する。こんなこと、どうせなら知らない方がよっぽどマシだ。何も知らずに死んだ方が幸せだ。そう口々に語り合う。


 成る程、そうか。

 と、いうかのように、手早く結論が上げられた。


「みんな、死に方を考えよう。国民の皆が苦しまずに死んでいく方法を考えよう。出来るだけ国民が気付くことなく、死んでいける方法を考えようではないか」


 しかし、各国それぞれの国民性がある。文化も違う。なので、各国、あるいは文化圏ごとに対策を取るより仕方が無かった。


 そして、各国から順次発表された。それは赤い光線が届くその順序で行われ、それぞれの国が消滅する光景がモニタ画面で映し出された。


 ある国は云った。


「我が国は祈りを捧げよう。神に祈り、全ての人類の平安を祈ろう。地に伏して祈りを捧げれば、赤い光線の襲来に気付くことも無いだろう」


 さて、その国の最後の時がモニタ画面に映し出された。モニタ画面には、平伏している国民の姿が見える。国民は神の慈悲に包まれながら、赤い光線で消失した。


 ある国は云った。


「我が国ではスポーツが盛んだ。人気選手の緊急記者会見を行おう。なあに、本当に試合をする必要などないのだから」


 そして、その国の最後の時が映し出される。人々は発表された試合カードに驚喜しながら、赤い光線で消失した。


 ある国は云った。


「我が国に対策は必要ない。我が国の幸福度が高いことは知っているだろう? だから、何もせずとも皆、幸せに死んでいくことが出来る」


 その通りだった。モニタ画面には、その国民が幸せな笑顔と共に、消失する姿が映し出された。


 ある国は云った。


「なあ、お前の国の方が先に焼かれて滅亡する筈だよな。その滅亡する姿をテレビで放送させて貰おうじゃ無いか。そうすれば、皆は喜びのうちに死ぬことが出来るというものだ」


 これもまったくその通り。国民の人々は、憎むべき隣国が赤い光線で溶けていく有様に喝采しながら、彼らもまた消失していった。そして、残る首脳はその国が先に消えたのを見てホッと溜息をついた。


 さて、もう残る国も数少ない。彼らは日頃の対立も忘れ、ネクタイを緩めてくつろいだ。


 もはや、この場は会議では無くなっていた。皆、好みの飲み物や食べ物を取り寄せ、それぞれにくつろいでいる。モニタ越しに、お国自慢の酒を乾杯して酌み交わした。


 そう、人類にとってもっとも平和な時が訪れたのだ。それが最後の瞬間であるのだ。なんとも皮肉な成り行きでは無いか。


 さて、あと数カ国を残すところとなったのだが、ある極めて高い文明を誇る某国の対策を紹介して、この終末の話を終えることにしよう。


「我が国では、もはや多くの国民が事態を把握している。だから、何かに目を向けさせて苦痛を和らげることは困難だ。だから、全ての事態を国民に向けて公表しようと思う」


 ある国がその発表に意見した。


「それでは、無駄な苦痛を招くだけでは無いか。せめて、事態を知らない者達だけでも、何も知らずに死なせてやってはどうか」


 だが、その国は考えを改めようとはしなかった。


「あなたは我が国の国民性を理解していないようだ。いや、もう時間が無い。このまま、発表に移らせて頂こう」


 その国の首脳は会議に背を向け、全ての国民に語り始めた。


「国民の皆さん。もう事態はご存じでしょう。我々全ての者に『死』が迫っています。この国の、この社会の滅亡が迫っているのです。我々はもうこれまでです。だから、次のことを発表します」


 その国の首脳は両腕を大きく広げて発表した。その姿はまるで、十字架のようであった。


「これから、全ての人類が消失します。全ての記録もまた消失されます。あなたの過去も経歴も、財産も、輝かしい功績も、全て失われます」


「しかし、失われる記録は全てです。全ての負債、借金、支払いの残り残高はもちろん、テストの赤点や始末書、あなたの犯罪記録に至るまで、全て失われるのです」


「その全てを取り戻すことは不可能でしょう。世界中にも、それらの複写を保管できる場所は無いのです」


「だから、こうしましょう。私はこの時をもって、あなた方の財産を全て没収します。しかし、あなた方の負債も借金も全て帳消しにして、そして全ての罪に恩赦を下しましょう」


「私はもう皆さんを守ることが出来ません。その代わり、国民の皆さんに課した義務も、責任も全て取り下げることにしましょう。納税も、労働も、その全てから皆さんは解放されるのです」


「さあ、全ての記録は失われました。全てを忘れましょう。そして、あなたの側に居る全ての人と手を取り合いましょう。あなたの周りに居る人々は全て見知らぬ人々なのです」


 さて、その国の人々は幸せに消失出来ただろうか。


(完)

発想元:よくある人類滅亡を想定した話ですが、各国首脳の動きは風刺の意味を込めたつもりはありません。ただし、某掲示板で見かけた「このとき、あの国はどうした」などというコピペを思い出し、参考にしたような気がします。

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