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神族  作者: 鼻づまり
第2章 『森の里・リール』編
9/20

第8話 『森』

温暖の気候、空は快晴で波は穏やか。

この絶好の海水浴日和の大海原で、4人はボロ船に乗って必死にオールを漕いでいる。

彼らにとって、この天候は地獄の猛暑に過ぎなかった。

「ったく帆をズタズタにしやがって。風当てるだけっつったのに何で『風刃フレッジ』になんだよ」

スポーツ刈りの少年、『ソドム』が苛立って文句を言っている。『風の王国•ディーン軍』小隊長の屈強な彼でも、この炎天下の地獄には音を上げざるを得なかった。

「何も言い訳できないです。本当にごめんなさい」

黒髪セミロングのシスター、『風の一族・メープル』はオールを手放し、その場で土下座をして謝った。

「メープル!! オールオールッ!!」

金髪の少年、『雷の一族・レイ』は咄嗟に大声を出したが、時すでに遅し。

彼女のオールは海深く沈んでいき、4本あった貴重なオールは3本へと減少した。

「オール•マイ•ガッ!!」

その行く末を見ながら、ダジャレ好きの『ディーン』の神父は天を仰いだ。




この1年間で、『火の国・メイラ』、そして彼らの故郷の『風の王国・ディーン』が謎の組織によって滅ぼされている。

組織に親友を殺されたことで、神から授かった力、『神力』を暴走させ、その反動で能力と記憶を失ったレイ。

そのレイの暴走を止めるために『封印の宝玉』を使用し、自らの能力を失ったメープル。

組織の襲撃により兄と親友を失ったソドム。

彼らは組織を止めるための旅をしており、現在、非戦闘員の神父を安全な『森の里・リール』に預けるため、組織から奪った船で向かっているところである。




そんな4人の目の前で、巨大な影が海面下から姿を現した。

全長7メートルはあろうかという怪獣、『シーサーペント』である。

シーサーペントは4人を品定めしているようで、すぐには襲いかかってこなかった。

「な、な、な、何じゃこりゃああああッ!?」

「大丈夫。大丈夫ですから神父様は後ろに下がっててください。そしてどさくさに紛れて私の胸を触らないで下さい」

絶叫しながらパニックになりかけている神父を鬼の形相をしたメープルが半殺しにした。





「メープル、『隼風ファルシン』で俺を上空に飛ばしてくれ」

ソドムが唐突に提案した。

隼風ファルシン』とは『神族•風の一族』特有の魔法で、対象の重力を風で除去し、更に追い風を吹かせることで対象のスピードを上昇させるといったものである。

「どうしてですか?」

メープルが不思議そうに尋ねる。

「こんなボロ船で戦ったら船が大破するだろ? 上空に上げてくれりゃあ、あとは俺が奴の首を斬り落としてやっからよ」

ソドムは野生の肉食獣のような表情をしていた。

まるで、今の現状を楽しむように。

「……わかりました。一斬必殺でお願いします」

メープルはニコッと微笑んで答え、ソドムの周囲に風をまとわせた。

(この2人の顔……とても味方とは思えない……、)

その横で、レイは青ざめた表情で2人を見つめていた。




「行きます。あとはよろしくお願いしますね」

「おう、任せろ」

ソドムはニイッと笑いながら、組織の男から奪った『鋼の剣』を構えた。

「『隼風ファルシン』!」

メープルは魔法でソドムを上空に飛ばした。

ソドムの身体は上空高く舞い上がった。

「あ!? ご、ごめんなさいッ!!」

「どこに飛ばしてんだお前ぇッ!!」

ソドムの身体は明後日の方向に飛んでいき、そのまま海へと落ちて行った。




切り札を失った3人は慌てふためいていた。

「どどどどうすんだよッ! このままじゃ皆食われちまうッ!」

「『井の中の蛙、大海で胃の中に帰る』事態じゃよッ!! ぎゃああああッ!!」

「あわわわわ……ッ!」

そんな3人に対し、シーサーペントは容赦なく襲いかかってきた。

メープルは咄嗟に右腕に風をまとわせ、その腕をシーサーペントに向けて突き出して魔法を唱えた。

「ガガ、『風龍破ガルオン』ッ!!」

すると、彼女の右腕から竜巻が飛び出し、その竜巻が龍となってシーサーペントに襲いかかって上空へと吹き飛ばしていった。

『神族・風の一族』が得意とする大型魔法で、かつて彼女自身も使えていたが、能力を失った時にできなくなっていた魔法である。

「や、やっとできた。『風龍破ガルオン』……、」

新しい技で仲間を守れたことで感慨にふけている彼女。

そんな彼女に向かって、レイと神父の2人は砕けた木片に捕まりながら同時に叫んだ。

「船は大破したけどなッ!!」




ちょうどその頃、『ロッド大陸』のとある洞窟で、組織の幹部で『神族・火の一族』のゲイルは男2人からの報告を受けていた。

「ほう、『ディーン』の見張り3人の反応が突然消えたと、そういうことだな?」

「はい」

「くく……っ」

報告を聞いたゲイルが不敵な笑みを浮かべた。

まるで極上の獲物を見つけた肉食獣のように。

「何かおかしなことでも?」

「おもしれえじゃねえか。そいつがもし行方不明の『風神』じゃなかったとしても、『人造人間』どもを倒すような奴らが『ディーン』に残ってたということだろ? そいつらと戦えるんだったらおもしれえに決まってんだろ」

ゲイルの口からよだれが垂れる。

この人は真性の戦闘マニアだ。

そう感じながら、男の1人がゲイルに訊ねた。

「しかし、奴らのその後の行方は不明なままですが……、」

「『森の里・リール』に向かえ。奴らは必ずそこに来る」

ゲイルが即答した。

そのあまりの自信に、男2人は疑問を感じた。

「……どうして『リール』に来ると?」

「『金の国・ロッド』に来るなら組織から連絡が入るし、そもそもあのボロ船じゃあ辿り着けても『ロッド大陸』にしか行けねえ。となると、『ロッド』以外で奴らがあと向かえる場所は『リール』しかねえじゃねえか」

「……、」

この人、真性の戦闘マニアにしては頭が切れるんだよなあ。

男はそう感じながら、更なる疑問を投げかけた。

「でも、『リール』なんて存在すら確認されていない村です。そんな『リール』に向かうなどと……、」

「一度入ったら抜け出すのが難しい『迷いの森』。その森に囲まれてるから存在がわからねえんだろ?」

「確かにそれはそうですが……、」

ゲイルはニイッと笑いながら告げた。

「だったら『森を焼き払えば』いいじゃねえか」

「な……ッ!?」

男2人は驚きの声を上げた。

もし仮に村があり、人々が住んでいるとすれば、その人々を全員殺すことになる。

罪の無い人々を殺すことに対しては、さすがの2人にも抵抗があった。

「森を焼き払えば弱え奴はそのまま焼け死ぬし、『人造人間』どもを倒したような強え奴なら何とか村を抜け出そうとするだろう。森の周囲を予め大人数で張っていれば奴らを発見するのも簡単なはずだ」

「……、」

「……やれるよな? お前ら『兄弟』なら……、」

ゲイルは2人を、口元は笑いながら鋭い眼光で睨み付けた。

殺られる。

任務をこなさなければ、自分たち2人はこの人に確実に殺される。

そう感じた2人は黙って頷いた。




辺りはすっかり日が暮れていた。

レイ達4人は無事に浜辺に漂着していた。

「驚いた。メープルお前、いつのまに『翔風エルフィン』習得してたんだ?」

感心するソドムの横で、メープルがうつ伏せに倒れている。

「元々は『隼風ファルシン』の応用の飛翔魔法なので……もうすぐ出来るとは……はあ……思ってました……、」

「へえ」

「でも……神力は殆ど無くなっちゃいましたけど……前はこんなに疲れなかった……のに……どうして……、」

メープルの呼吸は見るからに苦しそうだった。

そんな彼女をソドムは元気づけようとした。

「ほらよ、さっきの『シーサーペント』。コイツでも食って元気出せ」

「え……それ……何トンもあるそれを……飛んでる間……ずっと手に持ってたんですか?」

メープルの顔色が変わった。

ソドムを凄い形相で睨みつけている。

「ん? ああ」

「ズ・ッ・ト?」

「ああ、それがどうかしたか?」

メープルは残り少ない神力を振り絞って『風刃フレッジ』を放った。




神力を使い果たしたメープルは深い眠りについていた。

レイ達はひとまず焚き火でシーサーペントを焼きながら、今後について話し合っている。

「さて、どうするか」

レイ達の状況は最悪だった。

たまたま漂着した海岸が『迷いの森』に囲まれており、どのルートを通るにしても『迷いの森』を抜けなければならないのである。

海岸沿いという選択肢もあったが、海岸沿いのルートは両サイドとも崖で行き止まりとなっていた。




「まあ、とりあえず『リール』に行くしかねえだろうな」

全身切り傷だらけのソドムが口を開いた。

レイが慌てて反論する。

「でも俺達だけでどうやって森を抜ける? せめてメープルが回復するまで待っても……、」

「でもよ……、」

ソドムはそう言うと、突然剣をレイの後ろに突き立てた。

レイの後ろには、腹を空かせたサーベルタイガーがレイを襲おうとしていた。

剣はサーベルタイガーの額を正確に貫いていた。

「こんな猛獣だらけの島で寝れるか?」

「……、」

レイはそれ以上何も言えなかった。

「『猛獣はもう十分』……なんつって」

その横では神父がダジャレをかます余裕を見せていた。




部下を50人ほど引き連れている男達は頭を悩ませていた。

「しかし、ゲイル様も人使いが荒い。森を全て焼き払うなどと••••••、」

「私に考えがある」

背中に大剣を2本携えている男が、小さく光る物を取り出してある提案をした。

「これは『ロッド王国』で開発された、『電波を発する発信機』だ。これを1人1つずつ持って移動してもらう」

「俺達が持つのか? これは相手に付けるものなんじゃ……、」

「ふっ、だからお前はいつまで経っても馬鹿なんだ」

直後、小さな爆発がその場で起こった。




「もう一度訊くぜ兄貴? これを俺達が持つ意味は?」

隻腕の男が改めて疑問を投げかけた。

大剣の男は全身黒こげになりながら答えた。

「発信機はこの機械が受信してマップ形式で画面に表示する仕組みになっている。少なくとも、これで方角を誤ることは無くなる。その上で、しらみつぶしに森を捜索すれば……、」

「なるほどね。わざわざ森を焼き払わなくても『リール』を見つけられるってことか」

「そゆこと」

2人はニヤリと笑い、50人の部下に発信機を渡して『迷いの森』の中に解き放った。




その頃、レイ達4人は『迷いの森』の中を彷徨っていた。

レイがメープルを背負い、ソドムが3人を守りながら猛獣を斬り倒していくという構図となっていた。

そんな中、レイはふと呟いた。

「……なあ、さっきから同じところグルグル回ってるように感じるんだけど」

「知るか。とにかく黙って歩け」

ソドムの機嫌はすこぶる悪かった。

レイには彼の機嫌が悪い理由に心当たりが無かったが、彼の次の言葉でそれを理解した。

「ったく……レイが弱すぎるから……、メープルと密着なんて羨ましいにもほどが……、」

戒められている気もしたが、ソドムの本音がダダ漏れになっていたので、レイはそれを聞かなかったことにした。




「ここから10時の方向に真っ直ぐ……、そこに『リール』があります……、」

その時、レイの肩越しから小さな声が聞こえた。

メープルが探索魔法『捜風カーラ』を使ってレイ達を案内し始めたのである。

「バ……ッ!? お前寝てろよッ! そんなことしたら神力が……ッ!」

尽きてしまう。

そう言い切る前に彼女は口を挟んだ。

「だって……いつまでたっても着かないじゃないですか……、」

「……、」

レイ達は反論できず言葉を詰まらせた。

追い打ちをかけるように彼女は続けた。

「このままじゃ……4人仲良く『食いちぎられる』のがオチですよ」

「怖えよッ!?」

「そこは素直に『食べられる』で良いんじゃね!? いや良くねえけど!」

あまりの表現の怖さに、レイ達は口を出さずにいられなかった。




「お! 明かりが見える! あれが『リール』か!?」

更に2時間ほど歩いて、レイ達はようやく『森の里・リール』を視界に捉えることができた。

夜明けで太陽が出始めていたが辺りはまだ暗かった。

「それじゃ……おやすみなさい……、」

案内を終えたメープルは安心したように再び深い眠りについた。

「はあ、『足も髭もボウボウ(棒)』じゃよ」

「それだけ元気なら大丈夫でしょ。どさくさに紛れてメープルの身体触ったら蹴り殺しますよ?」

「!?」

メープルに近づいていた神父の両手が固まった。




緊張感の無い会話をしているレイと神父に対し、ソドムが突如大声を上げた。

「伏せろッ!」

レイ達は咄嗟に身をかがめた。

すると、レイの傍の木の幹に一本の矢が刺さった。

村からはまだ100m以上離れている。

その正確な射撃に驚くレイ達だったが、続いて2本目、3本目の矢が飛んできて同じ木の幹に突き刺さった。

「何で!? どうしていきなり撃って来るんだよ!?」

「わしらまだ何もやっとらんぞ!?」

「……!? 待て。矢に紙が結ってある」

それはいわゆる矢文というものだった。

よく見ると、3本全てに結わえつけてあった。

レイ達は1本ずつ取り出して読んでみた。


1本目 『ようこそ森の里・リールへ』

2本目 『今からあなた方を村に案内します』

3本目 『どうぞ中の方までいらしてください』


数秒の間を置いて、レイ達は同時に叫んだ。

「普通に案内しろよッ!!」




『森の里・リール』は外敵から身を守るため、入り口の門以外は高い柵に囲まれていたが、村の中は野菜畑や牧場など想像以上に栄えていた。

4人は村長の家へと案内され、村民から熱い歓迎を受けていた。

村長と思わしき老人がお茶を用意しながら満面の笑顔で話しかける。

「いやはや! メープルさんのご一行じゃったか! どうりで『迷いの森』を抜けられたはずじゃ!」

「彼女を知ってるんですか?」

「もちろんじゃ! いつも我々の薬草を買いに来てくれるからの! あんなカモ……もといありがたいお客様もそうそういないものじゃよ!」

「……、」

(今……カモって……、)

(さらりと本音を言ったな)

(『カモよ、come on!』なんつって)

レイ達3人は静かにお茶をすすった。




ソドムはお茶をすすりながら村長に質問した。

「なあ、村長は知ってるのか? 『迷いの森』をどこの誰が作ったのか」

(『迷いの森』を……? つくった……?)

レイにはソドムが何を言っているのか理解できなかった。

「知らぬよ。というより知りたくもない。あんな恐ろしいもの。じゃからその話題はどうか控えとくれ」

村長の身体は小刻みに震えていた。

「……、ふーん……、」

ソドムはそれ以上追及せずに再びお茶をすすった。

「……?」

レイは村長の反応に違和感を感じていた。



その時、ソドムが村長の後ろの壁に隠れている人影を見つけた。

「誰だ。そこで何をしている」

ソドムが訊ねると、その人影は急いで手紙を書き、矢に括り付けて弓をレイ達の方に構えた。

レイ達3人はその様子を見て同時に叫んだ。

「だから普通に話せよ!」




人影が目の前に出てきた。

10歳くらいの少年だった。

少年は全身に汗をかきながら自己紹介を始めた。

「ぼぼぼぼくははははそそそそそ……、」

「落ち着きなよ」

レイは優しく彼の肩に手を置いた。

「あわわわわ……!」

パニックになった少年はレイ達から離れ、手紙を書いて矢に結び付け始めた。

「レイ、矢と弓を取り上げろ」

「よしきた」

苛立ったソドムの指示で、レイは黙って少年を取り押さえた。




その様子を見かねた村長が代わりに説明を始めた。

「コイツはワシの孫じゃ。その名も『リール三世』!」

「……は?」

レイ達は一瞬耳を疑った。

村長は説明を続ける。

「我が一族は代々『リール』の名を受け継ぐことにしたのじゃ。ちなみにワシが『リール一世』。その方が王族っぽくて格好いいからの」

対して歴史もない名前を受け継いだ少年は耳まで真っ赤になっている。

(かわいそうに……、)

レイ達は少年に哀れみの目を向けた。




その後、レイ達はリール三世の部屋に案内され、そこで寝泊りをする事になった。

話している内にリール三世の緊張が徐々に解け、普通に話せるようになっていた。

リール三世が自ら話しかけた。

「ねえ」

ソドムが茶化すように応答する。

「何だ? 『ルパン』」

「どこの怪盗だッ! メープル姉ちゃんからは『リー君』って呼ばれてるよ」

「そうか」

「メープル姉ちゃんを連れてる時点でアンタ達が悪者じゃないのはわかってる。その上で訊きたいんだけど、どうしてここに来たの?ここよりも『ロッド』の方が行きやすいわけだし。 何か目的あるんでしょ?」

リーは真面目な表情で問いかけてきた。




ソドムが答える。

「まあ、神父をここで預かって欲しいと思ってな」

「何で? 『ロッド』じゃダメなの? そもそもアンタ達の国は?」

『迷いの森』で外界からシャットアウトされているためか、リーは何も知らないようだった。

そのことを踏まえた上で、ソドムはこれまでの経緯を説明した。

流石に、『風の王国・ディーン』が滅んだことにはリーは動揺を隠せなかった。

そして、何よりも驚愕だったのは、そこに『金の王国・ロッド』が加担している可能性が高いということ。

『迷いの森』で囲まれているとはいえ、『リール』は『ロッド』から最も近い位置にある。

組織の次の標的が『リール』になってもおかしくないのである。




「……、」

リーは言葉を失っていた。

そこでソドムは本題に入った。

「お前の知ってる範囲で良い。今度は俺の質問に答えて欲しい」

「な、何?」

「『神族・森の一族』って知ってるか?」

「知らない」

この質問に対し、リーは即答だった。

さっきから豊かだった彼の表情が無表情となっていた。

初めて見せる彼のはっきりとした拒絶。

『森の一族』についてはレイにとって初耳だったが、彼にとって答えたくない質問であることはすぐにわかった。

「見回りに行ってくる」

リーはそう言うと足早に部屋を出て行った。




そんな彼を見つめながら、ソドムはふと呟いた。

「レイ、気づいてるか?」

「ああ」

レイにはソドムが言いたいことがすぐにわかった。

さっきの拒絶。

村長のそれは『森の一族』に向けられたものだったが、リーの見せたそれは明らかに『自分達』に向けられたものだった。

彼はむしろ『森の一族』を守ろうとしている。

「このままじゃ『森の一族』が危ねえってことはわかってんだろ?」

「……、」

レイは黙って頷いた。

その上でソドムはレイに頼み込む。

「アイツを説得しに行ってくんねえか? こういうの、口悪りぃ俺よりお前の方が向いてんだろ」

「……!」

「頼む」

「……ああ!」

レイは一瞬躊躇したが、決意を固めた。

ソドムに頼られている。

そう思えるだけで気持ちが弾んだ。




朝日は昇り、辺り一帯を明るく照らしていた。

「……、」

そんな中、リーは見張り台で1人、遠くを眺めていた。

「よっ!」

レイは見張り台を登り、リーに話しかけた。

「!?」

リーは驚きのあまり見張り台から転落しそうになったが、レイが彼の右手を掴んで引き上げた。

「いくら何でも驚きすぎでしょ。何か考えてたの?」

「……、」

「……もしかして、彼女とか?」

「だだ、誰が『サン』のことなんか! いくら『森の一族』の彼女が心配だからってそんな……!」

(口軽ッ!? 今適当に言ってみただけなのに!)

レイはリーに対して衝撃を感じていた。




「……、」

『森の一族・サン』について口を滑らせてしまったリーは頭を抱えてしゃがみ込んでいた。

そんな彼にレイは優しく話し掛ける。

「そんなに落ち込むことないよ。俺らもただ彼女を守りたいだけだし」

「……守りたい?」

彼は鋭い眼光でレイを睨み付ける。

「な、何?」

その眼光にレイはややたじろいだ。

リーは口を開く。

「そんなこと言って結局アンタらはさ……、」

「え?」

「全員ロリコンなんでしょ?」

「違えよッ!! ソドムはどうか知らんけどッ!!」

レイは全力で否定した。




気持ちを落ち着かせて、レイは本題に入った。

「『迷いの森』をつくったのってその『サン』って子なんだろ?」

「……ああ」

「ソドムから聴いたんだけど、『迷いの森』ができて『森の里・リール』が地図上から消えたのはおよそ1年前。『火の国・メイラ』が滅んだ時期と丁度重なる」

「『火の国・メイラ』が滅んだ時、皆で『サン』と母親を村から追い出したんだ。『神族』っていう理由だけで。その後、母親が猛獣に食べられたって聞いた。『迷いの森』はその時にできたんだ。村人を永遠に『リール』に閉じ込めるために。母親を殺された復讐のために」

「……、」

リーは下を俯いた。

「アイツは……誰よりも人を憎んでる……、」




「……ホントにそうかな?」

「え?」

リーは意外そうに顔を上げてレイを見た。

レイは笑顔で語る。

「だってさ、『迷いの森』のおかげで村は豊かじゃん? 牧場の牛も、偶然村に迷い込んできたんだろ?」

「う、うん。村の人達は『奇跡』って言ってるけど……、」

「『サン』が森を操作して送った可能性って考えないの?」

「え?」

「もう一度考えてみなよ。『迷いの森』がつくられた意味。『村の外は猛獣だらけ』なんだろ?」

「……あ!」

リーは気づいたようだった。

彼女は『村人を出さないため』に『迷いの森』をつくったのではない。

『猛獣が村に来れないようにするため』に『迷いの森』をつくったのだということに。

「な? ちょっと見方を変えるだけで全然印象が違うでしょ。真実ってそんなもんだよ」

レイはニッと彼に笑いかけた。




「そこでだ。『迷いの森』が彼女によってつくられていることは組織にも知られてる。だから、『迷いの森』が存在する限り、『彼女がそこにいる』って証拠になって組織にも狙われることになる」

「だ、大丈夫でしょ。『迷いの森』がある限り……、」

「その森が焼き払われたら?」

「!」

可能性の一つとして考えていなかったわけではない。

しかし、信じたくは無かった。

『迷いの森』がある限り、ここは安全だと思いたかった。

リーは恐る恐るレイの顔を見た。

レイは真剣な表情に切り替わっていた。

「組織の中に『火の一族・ゲイル』がいる。森を一瞬で焼き払うことは奴にとって造作もないこと。このままじゃ彼女が危ない」

「……、」

リーは言葉を詰まらせた。

「だから頼むッ!」

そんな彼にレイは土下座をし、声を張り上げて頼み込んだ。

「俺達は彼女を保護し次第、ここから離れようと考えてる。少なくともそれで彼女は守れるんだ! だから教えてくれッ! 彼女の居場所をッ!」




「……、正確な場所まではわからないけど、大体の方角なら教えるよ。だからお願い……ッ!」

目を見ればわかる。

この人は嘘をついていない。

本当に彼女を守ろうとしてくれている。

今まさに彼女に危険が迫っている。

本当は自分が彼女を守りたいが、村人たちや自分では到底『神族』に太刀打ちできない。

でも、組織よりも先に彼ら旅人が彼女を保護して逃げてくれれば、彼女は助かるかもしれない。

それならばいっそのこと。

小さな少年は彼らに希望を託した。

「サンを助けてッ!!」




人に頼まれる機会はだんだん増えてきているように感じる。

それは自分が『信頼』され始めているということ。

それだけ自分の力が大きくなっているということ。

それに伴って大きな『責任』も伴っている。

今回は特に『たくさんの人の命』がかかっている。

今こそ『神族』としての自分の力を役立てる時。

『たくさんの人の命』を守るためにこの力を使う。

レイは覚悟を決め、少年の言葉に応じた。




「ああ! 俺達に任せろッ!」

はじめましての方ははじめまして。

お久し振りの方はお久し振りです。

素人の『鼻づまり』と申します。

この小説を読んでいただきありがとうございます。

約1年半ぶりです。

私生活がある程度落ち着いてきたので、執筆を再開しました。

現在はストックが3話ほどあるので、1か月に1話ずつまた投稿しようと思います。

少しでも楽しんでいただけると幸いです。


……この小説、何とか完結させたいです。

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