第6話 『仲間』
『獣の王国・サベット』。
『風の王国・ディーン』から遥か東の大陸にある王国で、その国は『神族・獣の一族』によって統治されている。
自給自足で国が成り立っているため、他国との交流が少ない国として有名である。
従来ではとても、他国に戦争を仕掛けるとは思えないような国である。
『ディーン』を滅ぼした組織。
その組織と戦うための旅。
ソドムはその目的地として『サベット』を挙げたが、メープルにも多少は納得できる部分があった。
ここ2、3年、恐竜やモンスターなどが横行し、世界の生態系のバランスが崩れつつある。
しかし、それらを司る『神族・獣の一族』が解決のために行動しているという情報は全くないのである。
さらに、ソドムはこう付け加える。
「『ディーン』を襲った集団の殆どがモンスター。それも『恐ろしく統制のとれた奴ら』だった。元々知性の無いモンスターを統率することは『火の一族』ではできない。つまり……、」
「影で『獣の一族』が加担してた……ってことですか?」
「可能性は高いが断言はできない。だから、実際に行って訊いてくるってわけだ」
メープルは黙って頷いた。
2人の意志は既に固まっていた。
「それで、船はあるんですか?」
メープルがふと気になったことを問いかける。
『ディーン』は元々海に面している港町であり、かつて船は大量に存在した。
しかし、今回の襲撃で城下町の船は全滅。
この国に船が残っているのかは定かではなかった。
それについて、ソドムはある可能性を挙げた。
「確か、『城の地下』に、緊急時用の船が何隻かあったはずだ。他国に攻められたときに国王様達が逃げられるようにな。隠し階段でしか繋がっていないような場所だから、恐らく奴らに気づかれていない可能性がある。その船を使おうとは考えているが……、」
「ん~……、」
「可能性は薄いけどな。何なら2人で船造るか?」
「私たちだけじゃイカダもまともに造れませんよ?」
2人は顔を見合わせて苦笑いした。
「そういえば、レイ君はいいんですか?」
「ん?」
「出発3日後って言ってたんですよね? もしレイ君が戻ってきて家に私たちがいなかったら『嘘つかれて置いてかれた』って思うんじゃあ……、」
メープルが思い出したように訊ねた。
ソドムは呑気な口調で答える。
「大丈夫。まだ戻って来ねえよ。どうせ『火事場の馬鹿力』使わねえと『コピー』に勝てねえだろ? そうなったら『全身筋肉痛』でしばらく動けねえはずだから」
「……へ?」
「通常壊れた筋線維が元通りに修復されるまで約48時間。つまり、少なくとも2日は休むはずだから……、」
「ちょっとソーちゃんソーちゃん」
メープルが強引に話を遮って来た。
彼女は冷汗をかきながら重大なことを訊ねる。
「もしかしてレイ君が『神族』だってこと、忘れてません?」
「ん?」
「『神族』は一晩でどんな怪我や痛みも回復するんですけど……、」
「……、」
「……、」
「……、」
「……、」
2人はしばらく顔を合わせて固まった。
レイがあまりにも弱すぎるため、ソドムはレイが『神族』であることをすっかり忘れていたのである。
そして、数秒後、ソドムは体を起こして立ち上がり、ニッと笑顔を見せながら次のように言った。
「神父様呼んで来い。急いで戻るぞ」
「な、な、な、何じゃこりゃああああッ!?」
『メープルの家』に戻って来たレイは驚愕の悲鳴を上げた。
そこは惨状だった。
部屋の中は誰のものかわからない血によって斑に真っ赤に染まっており、殺人現場のようになっていた。
この正体がメープルの『風刃』によって舞った『ソドムの血飛沫』であるということは、レイには知る由もなかった。
部屋に2人の姿は無い。
2人は何者かの襲撃にあったのではないか。
大怪我で動けない中で。
だとすると部屋に散乱したこの血は……。
レイの頭の中はそのような不安でいっぱいとなった。
(は、早く2人を助けに行かねえと……ッ!)
レイは急いで『風の洞窟』へと向かおうとした。
「!」
その時、洞窟へと続く階段の下から男女3人の声が近づいてきた。
「ったく。飛翔魔法すら使えねえのかよ。『風の一族』だろお前」
「あれからまだ1週間ちょっとですよ? 無茶言わないでください! あの魔法、元々かなり難しいんですから!」
「良いのう。『チワワの痴話げんか』」
「神父様は黙っててくださいッ!」
その3人は賑やかに階段を昇り、『メープルの家』に無事到着した。
部屋で、安心して腰が抜けているレイの姿を確認した3人、そのうちの2人(ソドムとメープル)は瞬時に彼に土下座した。
「いやそれにしても……俺の鼻血といいソドムの出血といい、この部屋どんどんグロテスクになってるな。ホントごめん、メープル」
レイは部屋を見回しながらそう呟いた。
しかし、メープルにはそれを気にしている素振りは無い。
レイにはそれが疑問だった。
「大丈夫ですよ♪」
自分の部屋が殺人現場のようになっているというのに、メープルはただただ笑顔でそう答えるだけである。
(自分だったら多少気にするけどなあ……、)
レイがそう思いながらメープルを見ていると、彼女は目を輝かせてこう付け加えた。
「近日中に壁紙全部真っ赤に貼り換えますから♪ 『血塗られた家』なんて、何か映画みたいで素敵じゃないですか?」
「怖えよッ!?」
レイとソドムはそう叫ばざるを得ない心境だった。
ソドムは次に向かう目的地について、詳細をレイにも説明した。
「でも何で『獣』なんだ? 襲撃の主犯は『火の一族』だったんだろ? だったらそいつの故郷に……、」
レイは素朴な疑問をソドムに投げかける。
「奴の故郷、『火の国・メイラ』はもう既に滅んでる」
「え……、」
ソドムのその言葉にレイは戦慄を覚えた。
さらに彼はこう補足する。
「つい去年のことだ。爆発と同時に国全体が炎で燃え上がった。今考えりゃあ、あれも『火の一族・ゲイル』自身でやったことだったのかもな」
『火の国』に次いで今回の『風の国』。
この1年で2つの国が滅んだことになる。
世界規模で何か恐ろしいことが起ころうとしている。
『悠長な時間も俺たちには無い』。
ソドムが以前そう話していた理由が、レイにはようやく理解できた。
旅に出る支度をしながら、レイはふと呟いた。
「『獣の王国・サベット』か。何か動物園みたいな……、」
「んなこと言ってっと猛獣に食われるぞ」
「そうですよ。爪一枚ずつ剥がされちゃいますよ?」
「んなことする猛獣いねえよ」
これから危険な旅に出ようというのに、3人の会話はまるで緊張感が全く無い呑気なものだった。
『自分の力』を少し身に着けたレイの『自信』。
2人にメープルが寄せる絶対的な『信頼』。
『神族』2人と共に戦えることに対してのソドムの『希望』。
この3人の中に『不安』という文字は最早微塵も無かった。
「なあ、メープル」
「? 何ですかレイ君?」
レイは記憶喪失後初めて会って以来、ずっと気になっていたことをメープルに訊ねることにした。
「お前、俺が記憶喪失になった後、まるで『初対面』みたいな態度とってたよな?」
「!」
「あの時、何で話してくれなかったんだ? 俺がお前の『幼馴染』で『神族・雷の一族』だって」
問い詰めるような口調になってしまうのは承知の上だった。
その上で、今のうちに彼女の真意を確かめようとレイは考えたのである。
自己満足であることはわかっている。
しかし、彼女に対する『絶対的信頼』を得るために、レイには必要なことだった。
「う~ん……、」
彼女は少し考えた後、真剣な表情で口を開いた。
「あの時話したら……信じてくれました?」
「……!」
「私だったら、多分無理ですね」
レイはその一言に言葉を詰まらせる。
確かに、初対面の相手からいきなり『アンタは神族だ』なんて言われたところで、そのような夢物語、信じる方がおかしい。
『幼馴染』についてもそうだ。
見知らぬ女から『幼馴染』と言われたところで、恐らく当時の自分なら信じられないだろう。
今の自分が彼女を信じられているのは、あくまで『彼女に幾度となく命を救われたから』である。
「それに、レイ君に『責任』を感じてもらいたくなかったんですよ」
「!」
レイが言葉に詰まっていると、メープルはニコッと微笑みながら彼に語り掛けた。
「レイ君は本当に正義感が強い人でした。それこそ、『幼馴染を守れなかったことで神力の限界を超えちゃうぐらい』。『正義感が強い』っていうのは同時に『重圧に押し潰されちゃう危険性も高い』ということにもなるんです」
「……!」
「きっとレイ君、記憶喪失で私のこと忘れちゃったってわかったら、気にしなくていいって言っても『責任』感じちゃうでしょ? だったら『初めて会った』ことにしちゃった方が良いんじゃないかって思ったんです。『レイ君には、神族という重圧から解放されたのんびりした生活を送ってもらいたい』。あの時はただそれだけでした」
「……、」
「まあ、今じゃあまり意味がなくなっちゃいましたけどね。あははッ♪」
メープルの話を聞きながらレイはふと思った。
彼女が発したこの言葉、実は彼女自身にもそのまま当てはまるのではないだろうか。
『幼馴染を守れなかった』。
その感情は彼女にもあるのではないだろうか。
ソドムの言葉が蘇る。
『大きな力を得るってことはその分だけ大きな責任も伴う』。
自分と彼女の中に眠る、『神力』という『大きな力』。
それに伴う大きな『責任』、『重圧』。
彼女はそれを、自分の分まで全て背負い込もうとしているのではないだろうか。
あの時も。
そして、これからもずっと。
「メープルッ!」
このままではメープルが『重圧』に潰されてしまう。
かつてそうだったと言われている自分と同じように。
そう感じたレイは、思わず彼女の両肩を持っていた。
「え!? な、何ですか?」
レイは溢れる思いをそのまま口に出した。
「俺が言えた義理じゃないかもしれないけど……『約束』してくれ! お前が今言った『重圧』、絶対に1人で抱え込もうとするな! 少しでも辛いと感じたら必ず『相談』しろ! 1人じゃ無理な『重圧』でも、2人で分けて背負えばきっと、きっと何とかなるから!」
「レイ君……、」
「お互いに助け合うからこその『仲間』だろ!?」
「……、」
それを聞いたメープルは、ニコッと笑い、右手の小指を立てて答えた。
「わかりました。レイ君も『約束』ですよっ♪」
「……! ああ!」
2人はその場で指切りをした。
(この2人、完全に俺がいること忘れてんだろ……、ま、別にいいけどよ)
ソドムはその光景を、ため息をつきながら眺めていた。
「『薬草食う約束』、なんつって」
そんなソドムに、神父が目を輝かせて指切りを迫って来た。
「……誰がするか」
「!?」
冷たくあしらうソドムに神父はショックを受けていた。
旅の支度を整えた3人は重大なことに気が付いた。
「……まあ、結局神父様もついて来るしかないよな」
地理に疎いレイをよそに、ソドムとメープルは神父の今後について話し合っていた。
「はい。よく考えたらここ、『食べ物』無いですもんね。ここから一番近くて信用できる国って『金の王国・ロッド』ですかね?」
『金の王国・ロッド』は『風の王国・ディーン』から南の大陸にある国で、『ディーン』とは深い親交がある。
お互いに経済協力を行っており、難民の受け入れも行っている良心的な国である。
神父も受け入れてくれるかもしれない。
「問題は……、」
「そこに行くための『船』がこの国にあるかどうか……ですよね?」
「……結局そこだよな」
2人は大きくため息をついた。
その様子を見ていた神父はレイにボソッと呟いた。
「何か大変そうじゃのお」
アンタの話だアンタの。
他人事のように呟く神父に対して、レイは心の中でツッコんだ。
丁度その頃、『風の王国・ディーン』のかつて城があった場所の地下に、フード付きのコートを纏った2人の男が座っていた。
大柄な男が小柄な男に問いかける。
「でもよ、ホントに残ってんのか? 組織に反逆する『神族』2人組ってのは。もう組織が殺しちまったってことはねえのか? だとしたら俺達ひでえ待ち損だぜ。何なんだろうな今回の任務は……、」
「……、」
「チ……相変わらずダンマリかよ。ホントつまんねえよな、お前」
大柄な男は振り返って後ろに置いてある巨大な檻を見ながら呟いた。
「コイツと共にいなけりゃならねえこっちの身にもなってほしいぜ。組織の奴らはよ」
巨大な檻の中からは雄叫びが響き渡っていた。
神父も含めたレイ達4人は『風の洞窟』を抜け、『ディーン』に向かって森の中を駆け抜けていた。
森の中では数々の猛獣やモンスターが襲い掛かってきたが、そのほとんどをソドムが短剣で討ち倒していった。
レイはソドムの指示で、『制限解除』を温存しているため、後方で神父の護衛を行っていた。
その中、レイには気になっていることがあった。
メープルも戦ってはいるのだが、その動きに精彩を欠いているのである。
彼女は以前使っていた『鉄の槍』をレイに預け(当然レイはそれを使えないのだが)、素手で『神力』を使ってモンスターと戦っている。
レイに『鉄の槍』を預けた理由について、彼女は『武器を持つことで油断が生じるから』と言っていたが、レイには全く理解ができなかった。
さらに、勢い余って木に激突する場面も多々見られた。
(アイツ……どうしたんだろう……、)
ソドムは彼女を気にする素振りは見せていなかったが、レイには彼女が心配で仕方がなかった。
4人は無事に『ディーン』の城の前に到着した。
城は2階から上が崩れてなくなっている状態だった。
「ひどいな」
そのあまりの惨状に、レイの口から言葉が洩れた。
その間、メープルの探索魔法『捜風』はもう始まっていた。
彼女はすぐに、地下へと続く階段が2つあることに気が付いた。
1つは以前レイが入れられた『牢獄』。
そしてもう1つは……。
「こっちですね」
メープルはそう言って他3人をそこに案内した。
その階段付近の瓦礫はきれいにどかされていた。
階段を見ながらソドムが呟いた。
「この下にいるかもな。組織の奴ら」
「え!?」
レイは驚いてソドムの顔を見る。
「瓦礫がきれいに片付いてるってことは『城が崩れた後』に瓦礫をどかしたってことだろ? もし国王様たちが逃げたとなると『城が崩れる前』のはず」
「!」
「まあ、城の船を奪って出国してる可能性も考えられるが……2人とも用心しろよ」
3人はグッと気を引き締めて階段を降り始めた。
その中、神父が後ろでふと呟いた。
「『この階段の臭いかいだん?きっと臭い草いるぞい』」
次の瞬間、メープルは階段を笑い転げ落ち、ソドムとレイは神父を殴りつけていた。
「お~い。大丈夫かメープル?」
3人が続いて階段を下まで降りると、メープルが階段の一番下の段に座っていた。
彼女に怪我は無さそうだったが、表情は優れなかった。
彼女の視線は真っ直ぐ先を見据えていた。
階段の最下層は広いスペースとなっており、奥には大きな帆船と小さな船が一隻ずつ見えた。
「……やっぱりいやがったか」
ソドムが舌打ちをする。
その前方には、フード付きのコートを纏った見知らぬ男2人とその傍には巨大な檻があった。
「うお! ホントに生き残りがいやがった! 奴らが『神族』か!? 2人じゃなく3人組じゃねえかよ!」
レイ達に気づいた大柄な男が叫んだ。
(3人組? 4人じゃなくて?)
レイはふと気になって階段の方を振り向いた。
すると、神父はいち早く階段の数段上の所で隠れていた。
(……ちゃっかりしてんなあ。まあこの方がいっか)
レイはフウッと一息吐いて『檜の棒』を構えた。
ソドムが相手を睨み付けながら訊ねる。
「1つだけ聞いておく。お前ら、『火の一族・ゲイル』の仲間か?」
「ゲイル様を知ってるってことは貴様ら反逆の『神族』だなッ!? 貴様ら全員、今ここで葬ってやるッ!」
「反逆? まあ先に仕掛けたのお前らだけどな」
ソドムはフウッと息を吐き、レイ達の方を振り返って言った。
「聞いたな? アイツら、容赦いらねえからな」
「首跳ねちゃってもいいですよね?」
メープルは既に速度上昇魔法の『疾風』の風を巻き起こしていた。
「殺すなよ? 『生け捕り』にして『組織』のこと全部吐かせるからな」
「じゃあ『4分の3殺し』にします♪」
「ああ、それで良い」
2人は不気味に笑いながら戦闘態勢に入った。
そんな2人を眺めながら、レイは思った。
(……どっちが『悪』だかわかんねえなこりゃ)
「え?」
レイがふと相手の方を振り向いた瞬間、背筋が凍った。
小柄の男の姿が見えなくなり、代わりにレイの首元に刃が迫っていた。
一瞬の間に、その男は距離を詰めていたのである。
男は右手に持っている小刀でレイの首を狙っていた。
レイはその刃に全く反応できていなかった。
「レイ君ッ!」
その刃を咄嗟にメープルが真剣白刃取りで掴み、手元を捻ってその刃を折った。
しかし、武器を失くしてもその勢いは止まらない。
小柄な男は標的をメープルに変更し、勢いそのままに右拳でメープルに殴り掛かった。
「くッ!」
メープルは両腕を十字に組んでその攻撃を防御したが、華奢な彼女の身体は大きく後方に吹き飛ばされた。
小柄な男はさらに彼女に追い打ちをかけようと距離を詰める。
その速度は人間のものとは思えなかった。
「メープルッ!」
「行くなッ!」
レイが援護に入ろうとしたが、その身体をソドムが制した。
「な、何すんだソドム!?」
「ここでお前が行ったら奴らにその隙突かれるぞ。まずは『目の前の敵』に集中しろ」
「で……でもこのままじゃメープルが……ッ!」
ソドムはレイの胸ぐらを掴みあげて怒鳴った。
「ここでお前が行った方が『迷惑』だっつってんだよッ! メープルがそんな簡単にやられるタマかッ!? お前は『アイツを信じて』『自分の役割果たすことだけ』を考えりゃ良い!」
「……ッ!」
「お前がメープルに言ってた『仲間』! それをお前の『単独行動で壊す』ようなマネだけは絶対にすんじゃねえぞッ!」
ソドムは歯を食いしばっており、その口からは血が出ていた。
彼自身もメープルを助けに行きたい気持ちは強い。
しかし、1人でも自分勝手な行動をとればその瞬間チームは崩壊する。
軍に所属していたソドムはここにいる誰よりもそのことを知っているため、助けに行きたい気持ちを最大限押し殺して、『単独行動の危険性』をレイに訴えているのである。
「……わかった」
自分勝手な行動で、2人の負担を増やしたくない。
レイは静かに頷いた。
「おいおいこんな時に仲間割れか?」
大柄の男の声がし、振り返って見ると、男は傍にあった巨大な檻の扉を開けていた。
そこから、大きな雄叫びをあげてモンスターが姿を現した。
レイにはそのモンスターの姿に見覚えがあった。
「え……、」
レイの身体に鳥肌が立った。
3mはあろうかという巨体で頭には2本の角、体色が赤く、その右手には巨大な棍棒が握られている。
まさに、『風の洞窟』で一度戦った、あの時の『鬼』そのものだった。
大柄の男は『鬼』に指示を与える。
「あの2人をぶっ潰せ」
「俺はあの男をやる。『鬼』はレイ、お前に任せるぞ」
その時、ソドムが唐突に耳打ちした。
「お前……何言って……ッ!」
レイは驚きを隠せなかった。
『鬼』はかつてメープルとの2人がかりでも苦戦した相手。
自分1人だけでは勝てる気がしない状態だった。
ソドムは補足説明した。
「『鬼』はそれほど強くねえ。身体はデカいが隙もデカい『パワーバカ』だ。今のレイなら十分倒せる。だが問題は大柄の男。奴の実力はまだ未知数。もしかしたらさっきメープルをぶっ飛ばした小柄の男以上かもしれねえ。そんなあぶねえ奴相手に今のお前を戦わせるのは無謀過ぎる。だから奴は俺が相手する。いいな?」
「……、」
「奴を早く倒せたらすぐにお前の援護にも行ってやるからよ」
ソドムはニッと歯を見せて笑った。
「……ああ、わかった」
レイは恐怖を感じつつもその提案に頷いた。
不安そうにしているレイの肩をソドムは思い切り叩いて言った。
「おいおいもっと肩の力抜けよ。大丈夫だって。俺もメープルも、レイの強さは十分認めてるぜ? 何てったって『光の欠片』とって来たんだからよ! 気楽に行けよ『スーパールーキー』!」
「スーパールーキー……、」
ソドムのその言葉によってレイの中に自信がわき始めた。
レイは『檜の棒』を脇にしまい、メープルから預かった『鉄の槍』を両手に構えた。
(この魔法を使えば『鉄の槍』も十分扱えるはず……ッ! 俺も『神族』だ! 意地を見せてやる!)
そして、『シンの山』で身に着けた、『雷の一族』の身体強化魔法を唱えた。
「『制限解除』!」
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。
あまりのテンポの遅さに『まだ出航しねえのかよ』って感じですが、申し訳ありません。
バトルで字数がとてつもないことになりそうだったので、今回は『前編』という形で話を分けました。
バトルの度にテンポが遅くなりそうですが、どうかご了承頂ければ幸いです。
今回のテーマはまさにタイトル通りです。
『仲間』とは何か。
私自身、かなり悩んでいるテーマです。
『勝手に単独行動をとらない』ことは当然のことですが、『相手に負担をかけるから相談しない』ことは少し違うと考えています。
それだと『じゃあ周囲にかけたくないぐらいの大きな負担を全部1人で背負うつもりなのか』ということになります。
『仲間』にとって最も迷惑になってしまうのは、個人が『負担で潰れてしまうこと』なのではないでしょうか。
確かに頼りすぎてしまうことも考えものではありますが、辛いときこそ『仲間』を信じて頼ることが一番大事なのではないかと私は思います。
次回は戦闘です。
文章が迷走するかもしれませんが、暖かく見守って頂ければと思います。
また、話のストックが尽きてきたので、1章が終わった後暫く充電期間に入るかもしれません。
本当に申し訳ありません。
もしよろしければ、これからも『神族』を宜しくお願いします。