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神族  作者: 鼻づまり
第3章 『金の王国・ロッド』編
19/20

番外編 『龍火の暗殺者』

『ロッド鉱山』が先の戦いで崩壊し、『水の港・リャワテ』に通じる新しいトンネルが完成するまで、俺達は『金の王国・ロッド』の宿に連泊することとなった。

『雷の一族』レイ、『風の一族』メープル、『森の一族』サン。

俺のことを知りたいと興味津々に迫ってくる『神族』3人がいい加減に鬱陶しいから、俺は彼らに自分の身の上話をすることにした。




60年前、世界中を支配するため、勢力を拡大していた『金の王国・ロッド』。

ロッドは『火の国・メイラ』を従え、『風の王国・ディーン』を攻めていた。

当時の『火の一族』や『金の一族』はその戦争には消極的な姿勢を貫いていた。

そのため、決定打にかけるロッドはディーンを攻めあぐね続け、戦争開始から約30年が経過していた。

その最中、俺は生まれた。




戦時中とはいってもロッドは貧しかったわけではない。

『ロッド鉱山』から採れる金属で国は潤っていたし、当時の支配下の『森の里・リール』や『水の港・リャワテ』から物資の援助も受けていた。

また、ディーンは国を守るだけで、ロッドを攻めてこようとはしていなかった。

だから、戦時中ではあったが国はいつもと変わらない日常を送っていた。




戦争も佳境に入って来た30年前、俺が5歳の時、ロッドは突然炎の海に包まれた。

同時に爆発が多発し、城下町はパニックとなっていた。

今まで他国から攻めてこられた経験が無かったからだ。

今になっても、当時誰が攻めてきたのかは明らかになっていない。

ただ、その時のテロで俺の母親は死んだ。

5歳だった俺はその当時の光景についてはあまり記憶がない。

また、戦争の派遣先で父親も戦死したらしい。

身寄りがいなくなった俺は戦争孤児としてある施設に収容された。




後で聞いた話だが、その時のダメージが大きく、ロッドは戦争から手を引いたらしい。

戦争がその後どうなったのかは俺は知らない。




俺が収容された施設には戦争孤児が多くいた。

外への扉は毎回施錠されるが、中では食事やトイレ、お風呂が用意されている。

5歳の俺はこの場所がどのような場所なのかを理解していなかった。




そこからは地獄の日が始まった。

朝一のアナウンスがなった時に、名指しされた子ども2人が別室に呼ばれ、移動する。

しばらくして、怪我をした1人が部屋に戻ってくる。

もう1人は部屋に戻ってこない。

どこへ行ったのかもわからない。

施設から逃げたのか?

俺は子どもながらにそう感じていた。




その疑問は翌週辺り、俺が呼ばれたことですぐに解消された。

別室に呼ばれた俺は、ロッドの兵士から無言でハンドガンを渡され、施設の広場に案内された。

俺とともに呼ばれたもう1人は剣を携え、泣きべそをかきながら俺を睨み付けている。

広場のアナウンスが鳴る。




『今から目の前の相手を殺しなさい。逃げようとしたら殺します』

「コロス? コロスってどういう意味?」

『目の前の相手に向かってその武器を使うことです』

「そっか。わかった」




当時、何もわからなかった俺は何の疑いもなく銃を相手に構えた。

使ったことが無かったはずなのに、使い方は何となく理解できていた。

相手も俺と同じ5歳ぐらいの子ども。

その子どもは大声で泣き喚きながら剣を振り回して俺に迫って来た。

俺は黙って銃の引き金を引いた。




爆音とともに相手の身体が吹き飛んだ。

仰向けに倒れ、その胸からは大量の血が流れている。




『おめでとうございます。今日の生存者は貴方です。生きる喜びに感謝しながら部屋に戻りなさい』




俺はそこでようやく、自分が相手にしたことを理解した。

銃を持った手が震え、自然と涙が流れてきた。

相手のことを思っての涙じゃない。

『死にたくない』

本能的にそう感じたことによる、自己中心的な恐怖の涙だった。




1人死ぬごとに子どもが1人追加されていく。

後で聞いた話だが、当時、戦争に敗れたロッドはより強い兵を育てようと、子どもたちを収容しては広場で殺し合いをさせていた。

そして、その中で満20歳まで生き延びた者が兵士に昇格するという仕組みを国が敷いていた。

1日1試合、つまり、毎日1人ずつ子どもたちが殺されていった。

自分の順番が回ってくるのは約1週間に1試合のペース。

俺は幼いころから元々射撃の腕と視力の良さに関しては他の子どもと比べて突出していた。

俺は必死に『生』にしがみつき、汚い手を使ってでも試合に勝ち続けた。

試合を重ねる度、俺の中で人を殺すという感覚が麻痺していった。




時は流れ、俺は19歳になっていた。

身体中が傷だらけになりながらも連戦連勝を重ねていた。

人並み外れた射撃能力でレーザー銃を操る俺のことを、周りは『龍火のリョウ』と呼ぶようになっていて、城下町でも有名になっていた。




来週、俺は20歳になる。

あと1勝できれば。




運命のアナウンスが鳴る。

俺の指は緊張で少し震えていた。

大丈夫。

いつも通りやればやっとここから解放される。

いつも通り相手を殺すだけだ。

逸る気持ちを抑え、俺は広場に出た。




そこには5、6歳ぐらいの子どもが剣を構えて立っていた。

感覚が麻痺していた俺は、相手が幼い子どもでも何も感じなかった。

容赦はしない。

俺が生き延びるための犠牲になってもらう。

試合開始のアナウンスが鳴った。

俺はいつも通りレーザー銃を構え、相手の頭部を目がけて引き金を引いた。




瞬間、俺は自分の目を疑った。

子どもはレーザーを『見てから避けた』。

そして、俺に向かって距離を詰めてくる。

俺は慌てて銃を乱射した。

しかし、撃っても撃っても子どもはそれを全て紙一重でかわし、無傷で俺の間合いに飛び込んできた。

俺は距離をとろうとしたが相手の方が速かった。

目にも止まらぬ抜刀でレーザー銃を持つ俺の右腕を斬り上げた。

俺の右腕が宙を舞う。

返す刀で右肩口から胸にかけて斬られた俺は両膝をつき、その場に倒れ込んだ。




それから先のことは覚えていない。

俺は棺桶の中で目を覚ました。

なぜ生きていたのかはわからない。

傷口を見ると血が金属のように固まって止血されていた。

何日ぐらい眠っていたのだろう。

俺は肩の激痛を堪えて棺桶から外に出た。

棺桶は施設の地下室に収められていたようで、辺りは薄暗かった。

俺は光を求めて近くの階段を駆け上がった。




外に出ると信じられない光景が広がっていた。

施設の大人たちが全員惨殺されている。

傷口は全て斬り傷によるもの。

あの子どもがやったのか?

真相はわからなかったが、俺にはふとその考えが浮かんだ。




城下町は少しざわついていた。

俺は町人に何かあったかどうかを訊いた。

町人は俺の姿(止血されているとはいえ、右肩と上半身が血まみれ)に驚きの表情を見せていたが、すぐに何があったのかを教えてくれた。




どうやら俺は3日間眠っていたらしい。

意識を失った当日、目を覚ます3日前の夜から未明にかけての時間。

城が何者かによって襲撃され、国王が暗殺されたのだという。

悪名高い国王だったが、国王不在により国全体が混乱していた。




「ちょいとお前さん」

その時、血まみれで右腕の無い俺を見て、老人が話しかけてきた。

『金の王国・ロッド』の科学者で名を『トスティ』という。

俺の右肩に、特製の義肢をつくってくれるとのことだった。

見るからに怪しい老人だったが、失うものは何も無いと感じていた俺はトスティの手術を受けることにした。




術後、目を覚ました俺の傍に、4人の若者が集まって来た。

その4人がキバの兄貴も含む暗殺集団『龍兄弟』の面々。

全員、国からの殺し合いに参加させられていたメンバー。

関わりは無かったが、施設にいた頃からお互いに顔は認識していた。

皆、死にかけたところをトスティに助けられたそうだ。




4人は俺を勧誘した。

『戦争や殺し合いが多発している今の腐った世界。その世界を俺達で変えてみないか?』

それがキバの兄貴の言葉だった。

それで何かが変わるのなら。

俺はそう思って兄貴の手を取った。




国王暗殺の日から、小心者の悪戯息子が新国王になった。

周りの国の挑発はするものの戦争を起こさなくなり、国は穏やかになった。

戦争で受けたダメージも『ロッド鉱山』からの経済力で、見る見るうちに元通りになっていった。




しかし、殺し合いを容認していた前国王の側近達。

国民から高額な税収を巻き上げる役人達。

国は変わったが、それでもまだ腐った奴らがいる世界なのは変わらない。

俺達がこの腐った世界を変えなければならない。

そう思っていたが、『龍兄弟』という組織自体はとても小さなもので、世界を変えるには圧倒的に力が足りない。

地道に要人を1人ずつ暗殺していったが、こんなものでは世界は到底変わらない。

そう思っていた矢先、『火の国・メイラ』が滅んだ直後、『不死鳥のゲイル』が俺達に話を持ち掛けてきた。




『火の国・メイラ』を滅ぼしたのが『組織』だと俺達に伝えた上での交渉。

奴が言うには今、世界の国々を滅ぼして自分達の国をつくろうとしているとのこと。

もし協力するなら、世界を支配できた時にお前達の希望を叶えようというものだった。

俺達が奴に敵う道理は無いし、今の腐った世界を壊してくれるならそれに越したことは無い。

何よりも、一国を簡単に滅ぼせる組織がいることに俺達は興味を引かれた。

『龍兄弟』の皆の意見は一致していて、暗殺者として『組織』の傘下に就くことを決意した。




また、強制はしないが『神力』の実験体になってほしいと『組織』から話があった。

強くなるためには欠かせない人体実験だとのこと。

俺とキバの兄貴は応じなかったが、レガスやトフル、ラグーンはそれに応じた。

今に関して思えば、殺し合いの中で生死を彷徨った彼らは、自分達が生きるために強さに飢えていたのだろう。

それからは、表向きは他国との貿易に派遣される商人団体として、裏の顔は要人の暗殺部隊として、俺達『龍兄弟』は活動した。




「こうして約1年間、俺達『龍兄弟』は『組織』のために任務をこなしてきたってわけよ」

そこまで話したところて反応を見ると、10歳のサンは爆睡していた。

まあ、ガキならこんなもんだろ。

そう思っていたら、メープルが俺の手を握って来た。

「ちょっ!?」

俺はその手を振りほどこうとしたが躊躇した。

メープルがその瞳に涙を浮かべている。

「そういう、ことだったんですね」

彼女はそう言うと下唇を噛んで下を俯いた。

「リョウちゃん……そんなに苦しい人生をずっと……、」

「まあ、苦しいも何も、俺達にとっちゃそれが『普通』なんだよ。特に悲観することは無い」

俺の気持ちを考えるな。

俺は所詮殺人者だ。

俺はそう言い聞かせるように、ゆっくりと彼女の手をほどいた。




「リョウ達が世界を変えるために頑張って来たのはわかったよ」

レイが口を開いた。

「お前は自己中心的だと言いながら、実は自分を一番後回しに考えてる。自分のことを殺人者と言いながら、世界のことを常に考えてる。そのことについては素直に凄いと思う」

甘い。

甘すぎるよお前達。

俺は、俺達はお前達も殺そうとしたんだぞ。

俺達の世界ではそんな甘い考えで生きられない。

俺の内心は徐々に苛立ってきていた。

「だけどさ」

レイの口調が突然強くなった。

「お前は何でもかんでも諦めすぎてる。自分を犠牲にし過ぎてる。この世界でもっと、もっと自分のやりたいことを前面に押し出してもいいんじゃないか!?」




「俺のやりたいことって何だよ」

ボソッと俺の本音が言葉に出ていた。

気がついたらレイを睨み付けていた。

レイ達は戸惑いの表情を見せていた。

感情は殺し合いをさせられていた時に捨てたはずだ。

何で今更、こんなに怒りの感情が湧いてくる?




今まで確かに俺は誰かの元で働いてきた。

自分の希望に関係なく、ただひたすら仕事をこなすために。

それは人生の中で親や感情を失くし、戦うサイボーグと化していたから。

こんな自分でも、少しでも世界を良くするために貢献できたという証明が欲しかったから。

上からの命令を忠実に実行する。

ただそれだけ。

それ以外は何も無い。




彼らは俺に無かったそれを何か持っているのか。

彼らの希望、彼らがやりたいこととは何なのか。

俺は急に知りたくなった。




「逆にお前らは何だ? 仮に『組織』を潰せたとして、世界が平和になったとして、その中でお前らは何をしたい?」

彼らは躊躇したが、レイ、メープルの順で質問に答えていった。

「俺は……リョウやサン、メープル、ソドム、ナナも一緒に世界一周旅行したいかな。俺って記憶1回消えちゃってるからさ、皆で楽しい記憶をいっぱい作っていきたいと思ってる」

「私もレイ君とほとんど被っちゃうんですけど、世界中の『薬草』巡りをしてみたいです。薬草畑で寝そべってみたりしてみたいなあって」

「そっか」

彼らにはやりたいことがちゃんとあって、それを叶えるために今動いてる。

じゃあ俺は?




黙り込んでいる俺に、レイ達は詰め寄って来た。

「リョウがやりたいことって何?」

「俺は……、」

「うんうん♪」

2人の目が輝いている。

本当にこの2人は鬱陶しい。




「生きたい」

「え?」

2人が困惑した表情を見せた。

自分でもこの言葉が出たことは意外だった。

「奥さんをもらって、家でも買ってまったりと生活したい。そして子どもをつくって、長生きして最後は皆に看取られて。その情景が今、頭に浮かんだよ」

「……、」

「当たり前のような普通の生活。多分それが、俺がやりたいことだ」




俺がそう言うと、2人は目を輝かせて俺の手を握って来た。

「良いじゃんそれ! 俺達が全力でサポートするよッ!」

「ぜひやりましょうッ! 恋人探しは私に任せて下さいッ!」

「いや恋人はまだ早いっしょッ! まずは多く知り合いを見つけて遊びに行くことからだよッ!」

2人が言い争ってるうちに俺は部屋からさっさと退散し、階段で屋上に上がっていった。




自分が生きる理由。

それがこんなに小さなものだったとは思わなかった。

だが今はそれで良い。

今まではそれすらも有り得ない人生だったんだから。

生きていればまた大きなやりたいことが見つかるだろう。

まずはこの鬱陶しくも愛おしい3バカの夢をしっかりと叶えてやる。

それが、今の俺にできる精一杯の仕事だ。




次の目的地は『水の港・リャワテ』。

そこで船を手に入れて『サベット大陸』に向かう。




さてと、部屋はうるさいから、今日は屋上で寝ることにしよう。

『神族』を読んで頂き誠にありがとうございます。

また、掲示板でアドバイスをして頂いた方々にも感謝申し上げます。

今回は1人称で読みやすい文章を心掛けて挑戦してみました。

まだまだ足りないところはありますが、またアドバイスを頂ければと思います。


今回はリョウの人生について描かせて頂きました。

この話で、大まかな世界観が説明できたのではないかと思います。


60年も前から戦争が起き、それが30年に渡って続き、30年前にロッドが撤退。

戦争も一旦終焉。

兵力の強化を企んだロッド国王は15年前に暗殺される。

『金の王国・ロッド』弱体化。

ここから『龍兄弟』は活動を開始。

1年前、『火の国・メイラ』が滅亡。

この直後、『組織』と『龍兄弟』が手を組む。

現代、『風の王国・ディーン』が滅亡。

『森の里・リール』が襲撃される。


設定に矛盾が無いように心掛けていますが、大体こんな感じで考えています。


リョウの人生に合わせて、今回のテーマは『希望』にさせて頂きました。

それぞれに『夢』、『希望』はあっても大人になると忘れがちになりやすいのではないかと思います。

童心に帰って自分のやりたいことをイメージするという大切さを作者も最近知りました。

これからも大事にしていきたいと思います。


次回からは第4章、『水の港・リャワテ』編です。

どんなストーリーにするかはぼんやりと考えていますが、今までのように路線変更が沢山ありますので、その都度ストーリーを考えていきたいと思います。


これからも『神族』を宜しくお願い致します。

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