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神族  作者: 鼻づまり
第3章 『金の王国・ロッド』編
18/20

第16話 『生死』

『火の国・メイラ』、『風の王国・ディーン』を滅ぼし、『森の里・リール』を襲撃した謎の組織。

その組織の幹部、『不死鳥のゲイル』を倒すために『ロッド鉱山』の洞窟内へと足を踏み入れたレイとメープル。

ゲイルと相対し、戦闘が始まった。

ゲイルの圧倒的強さの前に劣勢となり、レイが重傷を負い、メープルが殺害されかけたその時、洞窟の外でサンと共に待機していたリョウがレイ達の元に到着した。




当初の予定では次のようになっていた。

レイとメープルが先に鉱山内に入り、鉱山内のモンスターをなるべく全て倒しながらゲイルの所まで向かう。

その間、リョウとサンは鉱山の入り口付近で太陽の光を浴びながら待機する。

レイとメープルがゲイルの所に到着し、戦闘が始まったら『神力』を目一杯まで上げてサンに合図として知らせる。

その合図とは、メープルの大型真空魔法『双龍破ラクサゴン』が放たれた瞬間。

合図を受け取ったらリョウとサンは急いでレイ達の元へと向かうというもの。




「一応確認するが、裏切りってことで良いんだな?」

横やりを入れられて怒りを感じているゲイルは低い声でリョウに問いかけた。

「ま、そういうことにしといてくれ。アンタらが『龍兄弟』にした仕打ちに比べりゃ、可愛いもんだろ?」

「……、死ぬ覚悟はできてるわけか」

「ただちょっと待ってくれ」

その右手に炎を出そうとしたゲイルをリョウが制した。

「何だ?」

「雷神と作戦会議がしたい。時間をくれないか?」

「……、」

「『相手の長所を最大限引き出した上で叩き潰す』。戦闘狂のアンタのモットーだっただろ? これから俺達の『最強』、ちゃーんと見せてやるからさ?」

それを聞いたゲイルはフッと笑った。

「良いだろう。5分待ってやる。もう少し俺を楽しませてみろ」




ゲイルの反応を確認した後で、リョウはレイの元に移動した。

「悪い。少し遅くなっちまった」

「い、いやむしろナイスタイミングだったよ! よくこんな早く……ッ!」

「お前達がモンスターを退治してくれたからな。サンキュ」

リョウはレイの頭をポンと叩いた。




その時、レイはふと違和感に気がついた。

「あれ? リョウ、サンは? サンはどこに……、」

「逃げたよ」

「え?」

レイの背筋が凍りついた。

リョウと立てた、ゲイルに勝つための作戦。

その作戦の中心になっていたのが彼女だったためである。

リョウは苦笑いを浮かべていた。

「そもそもあのガキに俺達の運命を託すのが間違いだったのかもな。完全に俺のミスだ」

「そ、そんなバ……ッ!?」

そんな馬鹿な、と言いかけてレイは口を閉じた。

自分が今、10歳の少女に対して残酷な言葉を発しようとしていることに気がついたからである。

『神族・森の一族』の末裔で、自分達の中で唯一、神族の『奥義』を使える存在。

しかし、どんなに強くても彼女は齢10歳の子どもなのである。




リョウは右腕のレーザー銃を構えた。

戦闘準備は万端のようである。

「俺達で何とかするしかない。いいか? 当初の予定通り、俺達でもがくぞ。レイ。意地を見せろ!」

先程ゲイルにやられた肋骨が内臓に刺さり、とてつもない痛みを発している。

呼吸も苦しい。

でもそうも言っていられない。

この戦いに世界の命運がかかっている。

「ああ! ゲイルを倒すッ!!」

レイは痛みをこらえて立ち上がり、鋼の剣を構え、気合を入れた。




「作戦会議はもう済んだのか?」

ゲイルが笑みを浮かべながらその右手に炎を宿す。

「ああ。待たせたな。まあ作戦も何も、俺にはアンタを撃つ事しか出来ないんだけどさ!」

リョウが銃口をゲイルに向けながら応える。




「レイ! 俺は風神みたいにお前を庇わんからな! 自分の身は自分で守れ!」

リョウはそう叫びながらレーザー銃をゲイルに向けて乱射した。

(最初に撃った時、ゲイルは俺のレーザーを『受けずに避けた』。つまり、レーザー自体はゲイルに通用する!)

「! ふん。つまらねえ真似を」

ゲイルはリョウのレーザーを軽々と避けている。

(凄まじい反射神経と長年の戦闘経験の勘もあって『俺が引き金を引いたのを見てから避けている』。俺の射撃技術以前に当たるわけないよな。でもそれで良い!)

リョウはひたすらに連射を続ける。

その間、ゲイルの意識は完全にリョウに向かっていた。

「……、」

(焦るな……、そのタイミングが来るまでじっくり溜め続けろ……、)

レイはその場から動かずに電撃魔法『電撃波エルシェイブ』の電力を溜めることに神経を注いだ。




ゲイルはリョウのレーザー銃を避けながら一気にリョウとの間合いをゼロ距離にまで詰めてきた。

「甘え。甘すぎる。ただの狙撃手が『神族』に勝てると思ってんのか?」

「……ッ!!」

「『灼熱拳バルフィング』」

ゲイルは炎を宿した右拳をリョウのわき腹に向けて突き出した。

『風の王国・ディーン』を襲撃した時、タールとソドムの身体を貫通させた技。

『神力』でその身が守られている『神族』には通用しないが、人間の身体は『鋼の鎧』ごと貫通させることができる。

その拳がリョウのわき腹にヒットした。




「!?」

だがここでゲイルはその感触に違和感を感じる。

ヒットさせた拳がリョウの身体を貫通しない。

直撃したところで拳が止まっているのである。

リョウが口から若干血を吐きながら笑みを浮かべる。

「アンタと……お揃いってわけよ」




『金の王国・ロッド特製のプラチナ金属の繊維で編み込んだ短パンだ。多少の熱じゃ燃えねーんだぜ?』




ゲイルの炎でも燃えにくいプラチナ金属の繊維。

その繊維で作られたシャツをリョウはあらかじめ用意していた。

全てはこの瞬間のため。

シャツは今の攻撃で砕かれたものの、リョウの身体は多少のダメージのみですんだのである。

(ゼロ距離……攻撃直後……反撃するなら今!!)

リョウは渾身の力を込め、打ち終わりのゲイルの頭部に向かって引き金を引いた。




「!?」

そこで信じられないことが起こった。

ゼロ距離で放ったリョウのレーザーを、ゲイルは身体ごと右に倒れるようにして避けたのである。

しかも、倒れ込みながら左の拳でリョウのこめかみを殴り飛ばした。

「が……ッ!?」

咄嗟の一撃だったため、その左拳に炎は宿していなかったが、並の人間ならば即死するぐらいの威力があった。

殴り飛ばされたリョウは意識を失ったかどうか確認ができない状態だった。




(ここしかない!!)

電撃を溜めていたレイはここで踏み切った。

ゼロ距離からの回避、そこからの咄嗟の反撃。

ゲイルにはもう余裕は無いはず。

更に、さっきまでの戦闘で、ゲイルの意識からはレイの存在感は消えている。

余裕が無い状態で意識外からの攻撃。

これなら避けられないはず。

「いっけええええッ!!」

レイはゲイルの背後から不意打ち気味に電撃魔法の『電撃波エルシェイブ』を放った。




「!? く……ッ!!」

ゲイルの反応が完全に遅れた。

しかし、それでもゲイルはこの電撃を避けようと身体を咄嗟に左にひねりながら倒した。

電撃はゲイルの左肩を掠めて外れた。

(!? そんな……ッ!?)

「まだだッ!!」

レイの気持ちからあきらめが漂う中、リョウが叫びながらプラチナ金属の繊維を電撃に向かって投げた。

「俺に勝った時を思い出せ!!」




レイがリョウとの戦いで勝った時、その決め手になったのは『電撃波エルシェイブ』。

あの時はあらかじめリョウの武器に電気を帯電させておき、電磁誘導で向かわせることで直撃させた。

レイはリョウから投げられたプラチナ金属を見る。

その金属に先程の電撃が直撃しており、帯電して残っている。

次にゲイルの身体を見る。

序盤で斬りつけたわき腹付近に電気が残っている。

ゲイルは必死に避けた直後で体勢を立て直せていない。

ここだ。

ここしかない。

「うおおおおッ!!」

レイは帯電させたプラチナ金属繊維からゲイルに向かって電撃を操作して発射させた。

「何ッ!?」

「『誘導雷デルサイト』ォッ!!」

誘導された電撃は間違いなくゲイルに直撃した。




「ぐうおおおおォッ!!」

ゲイルの身体が電撃で崩れ、片膝をついた。

「ここで終わらせるッ!!」

そこにレイが『鋼の剣』で斬りかかった。

「……ッ!! クソッたれがァッ!!」

ゲイルは渾身の力を振り絞り、周囲一帯に炎の海を広げる魔法、『大炎界ラフラルド』を唱えた。

「ぐわああああッ!!」

炎の勢いでレイとリョウが吹き飛ばされた。




リョウはこの攻撃で完全に意識を失い、レイも最早立ち上がれない程の重傷を負った。

(ここまで追い詰めたのに……まだ足りないのか……ッ!?)

絶望感が押し寄せる中、レイは炎の海の中に1人の少女が飛び込んでいくのを確認した。

「まさか……!?」

レイには信じられなかった。

それは先程、リョウから『逃げた』と聞かされた幼い少女の姿だった。




『神族・森の一族』の少女、サンは外で太陽光エネルギーを溜め終えた後、リョウとともにレイ達の元に到着していた。

そして、リョウの到着時から、瀕死のメープルの傍で神力を使わずに薬草で彼女を介抱していたのである。

その姿は、メープルが初めから仕込んでおいた『幻覚香ハルセンス』の効力によって、レイとゲイルには見えないようにされていた。




(熱い!! でも、レイ兄ちゃん達が受けた痛みはこんなもんじゃないッ!! 我慢我慢ッ!!)

サンは炎の中を突っ走り、ゲイルとの間合いをゼロ距離に縮めた。

「何ッ!?」

ここに来たところでようやく、ゲイルは彼女の姿を確認する。

その表情は驚きを隠せない。

身体が光り輝いている彼女はその両手の掌をゲイルに向けて構えた。

「今なら……確実に当たる……ッ!!」




「くそッ!!」

避けようにも、ゲイルの身体は先程の電撃で痺れており、満足に身体を動かすことができない。

ゲイルは避けることを諦め、その身を防御に徹することにした。

両手をクロスさせ、その身を構える。

「『森の神力』奥義ッ!! 『陽光滅弾サンライトバレイション』!!」

彼女の掌から、ゲイルの身体を包み込むように巨大な光弾が放たれる。

「ぐぅ……うおおおおおおおおッ!!」

太陽からの光熱でつくられた巨大な光弾はゲイルの身体を巻き込み、更にその周囲の岩壁や炎の海を広範囲に消し飛ばしながら『ロッド鉱山』の遥か外まで飛んで行った。

「おわっ……たあ……、」

その行方を見届けたレイは、安心してその場に突っ伏した。




レイ、リョウ、メープルの3人はサンから治療を受けていた。

レイとリョウはすぐに意識を取り戻したが、メープルのダメージは深く、未だに意識が戻らない状態でサンが治療を継続して行っていた。

サンが空けた大穴から光が差し込む。

それは今のレイ達にとってはまぶしいぐらいだった。

「強敵なんてもんじゃなかったな。あれだけ作戦を練って皆満身創痍になってるし」

「わかってたことだろ? 相手は『不死鳥』。作戦を練っても勝てる可能性は限りなく低かったさ」

「……だな」

「ま、死人は出なかったんだし上出来だろ。残りの組織との戦い、果たして何人生き残るかな?」

「おいおい、縁起でもないこと……!」

言うなよ、と言いかけたところでレイは口を閉じた。

レイの視線の先はサンが空けた大穴。

いくら何でも光が強すぎる。

今の時間帯、あの角度に太陽は無いはずだ。

じゃあ、あの光は。




レイの視線に気づいたリョウは後ろを振り向き、唖然としていた。

「おいおい、嘘だろ?」

先程から差し込んでいた外の光は太陽光ではない。

ゲイルがつくりだしていた光だった。

ボロボロになったゲイルが宙に浮いており、その背中から太陽のように光り輝く大きな翼が生えている。

「あれじゃまるで……、」

「『不死鳥』……だな……、」

リョウも苦笑いを浮かべる。




「あ……あ……そんな……、わ、私の目一杯の奥義をぶつけたのに……、」

サンが怯えた声を出す。

タフなんてもんじゃない。

原子破壊レベルの光弾が直撃したあの状態からどうやって生き延びられたのか。

コイツだけ本当に不死身なのか。

レイ達はパニックに陥っていた。




ゲイルは高笑いを発した。

「くはははッ! 4人がかりとはいえここまで俺を追い詰めるとはな! 俺に奥義を出させたのはこれで2度目だ!」

「く……ッ!!」

動けるレイとリョウが同時に前に出た。

メープルとサンを守らないと。

その気持ちでいっぱいだった。

最早、自分の命は二の次に考えていた。

「『炎の神力』奥義。『炎翼焼尽レイミストバーン』」

ゲイルは炎の翼で『ロッド鉱山そのもの』を横に一刀両断した。

「!? 山を……焼き斬った!?」

砕かれて支えを失った鉱山が内部から崩れていく。

「くそッ!!」

レイとリョウは急いで2人を抱え、安全地帯を探して逃げ込んだ。

後方から声が聞こえる。

「敢闘賞だ! これで終わりにしておいてやる! 生き残ることが出来たらまた殺り合おうぜッ!!」

次から次へと巨大な岩が崩れ、レイ達に襲い掛かってくる。

「畜生ッ!!」

レイ達4人は逃げきれずに、崩れていく岩に巻き込まれていった。





「う……、」

真上から照り付ける太陽の光でレイは目を覚ました。

生きてる?

一体何が……。

レイは辺りを見渡した。

サンとリョウが横たわっている。

気を失っているようだが、呼吸は確認できるので命には別条は無さそうだ。

崩れた岩がレイ達の周りを避けるように落ちている。

レイは前を見た。

目の前に、ボロボロの身かわしの服を着た、手足包帯だらけの少女が立っている。

その周りには強い風が吹き荒れていた。

風の防御魔法、『風守デシルド』で、レイ達を岩から守ったのである。




「メープル……?」

レイが声をかけると、メープルは振り向いて笑顔で応えた。

「良かった……、皆……何とか無事……に……、」

そう言いかけながら彼女はその場に両膝をつき、うつ伏せに倒れ込んだ。

「メープルッ!?」

レイは急いでメープルの元に駆け寄った。

呼吸はわずかに確認できるが衰弱が激しい。

唇も紫色になっている。

もしかして『神力』が尽きかけているのではないか。

唯一、回復魔法ができるサンも奥義を出した反動やレイ達に回復魔法をかけていた影響で、『神力』が尽きたように眠っている。

「くッ! 何とかしないと!」

レイは渾身の力を振り絞って身体強化魔法の『制限解除デストリクト』を唱え、メープルも含め弱っている3人を連れて、『金の王国・ロッド』に急ぎ足で戻っていった。




その頃、『不死鳥のゲイル』はロッド大陸を離れ、サベット大陸に到着。

森に入る前に奥義を解除し、森の中で休息をとっていた。

「ロッドを捨てて逃げ帰るなんて、恥さらしもいいとこだね」

上空から1人の少年がゲイルの前に降り立った。

組織の中で『死神のシュウ』と呼ばれている少年である。

「……、」

ゲイルは無言でシュウを睨み付けた。

「生物達を通じて見てたよ。不意打ちで奥義を食らって、『まだ誰かが潜んでるかもしれない』って恐怖からあの行動になったんでしょ?」

「……、」

「オジサンの奥義は一度使うと半日は『神力』が使えなくなる。万が一、もう1人潜んでたら完全に負けちゃうもんね」

「……何が言いたい? 俺を消しに来たのか? 『龍兄弟』の時みたいによ」

ゲイルはそう言いながら右手に握り拳を構える。

「無理しないでよ見苦しい。今のオジサンで僕に勝てるわけないでしょ?」

「……ッ!」

図星を突かれ、プライドをズタズタにされ、それでも何もできない今の自分に嫌気がさしたゲイルは歯を食いしばった。




シュウは本題に入った。

「『組織』への反逆者はわかっているだけで4人。しかも本来集まるはずがない『神族』が3人も手を組んでる。もう単独じゃ勝つのが難しいレベルなのは今回で十分にわかったでしょ?」

その言葉に対してゲイルは舌打ちをする。

「パパが呼んでるよ。幹部でミーティングをするってさ。僕が本部まで乗せてってあげるから来なよ」

「……、」

「……別に今ここでオジサンを消しちゃってもいいんだよ?」

行動を起こさないゲイルに嫌気がさしたシュウはイラついた声でゲイルを脅す。

「……ッ!! わかったよ!! 行けばいいんだろ行けばッ!!」

ゲイルは歯を食いしばりながらシュウに掴まった。

「初めからこうしてればいいんだよ。行くよ!」

シュウの身体が巨大な大鷲に変化し、大空に飛び立っていった。




太陽が沈んで暗くなった頃、『金の王国・ロッド』の門番2人が話している。

「またリョウさんが3人抱えて戻って来たんだって?」

「いや今回はリョウさんがボロボロで意識が無かった。担いできたのはもう1人の男の方だったよ」

「マジか!? リョウさんがボロボロになるなんて、一体どんな怪物と戦ってきたんだよ!?」

「さあな。その男もボロボロで倒れる寸前だったし。ロッド鉱山が大崩壊したのと何か関係があるんじゃねえか?」

門番はタバコを吸いながら夜空を見上げた。




『金の王国・ロッド』の城下町の病院。

そこにレイ達4人は同室のベッドで眠っていた。

迅速な治療で全員最悪の事態は回避できた。

レイは目を覚まし、起き上がって外を見た。

雲が無く、星空が見えそうな感じだった。

レイは星空をはっきり見たいと思って起き上がり、病院の屋上に上がった。

そこには空に雲が全くかかっておらず、満天の星空が広がっていた。

そこでようやくレイの中に、生きているという実感が生まれた。




「『神族』が寝なくていいのか? 回復しねえぞお?」

後ろで声がした。

振り向くとそこにはニヤケ面で近づいて来るリョウの姿があった。

「リョウこそ寝なくていいのか? 俺達より回復が遅いのに」

「バーカ。寝れるわけねえだろお?」

それはそうか。

あの死闘の直後で興奮も収まり切れていないし、まだまだ身体の節々が痛む。

実は自分の目が覚めたのもそうだったしな。

レイはリョウの気持ちがわかるような気が……。

「せっかく嬢ちゃんたちの寝顔をゲットできるのに」

したと思ったけど気のせいだった。

後でコイツを簀巻きにしておこう。

レイの笑顔が引きつった。




「一仕事して生き延びた後の星空は格別だろ?」

「あ、ああ」

急にまともなことを言い出したリョウにレイは驚いたが、慌てて頷いた。

「暗殺者って仕事はさ。成功すれば自分は生き延びられて生活費も入る。失敗すりゃあ任務中に死ぬか雇い主に殺されるかされる。殺るか殺られるか。常に生死と向き合ってんだ」

「!」

「だから『生』への執着は誰よりも強いと思ってる。まあ、自分が生きるために他人の命を奪ってんだから、究極に自己中心的な職業だがな」

「……、」

「『龍兄弟』にいた頃は、任務完遂後に皆で宴会開いてたよ。バカやったりしながらさ。その時は任務をこなしたことよりも、皆で生き延びられたことに対して乾杯してたな」

「……、」

「お前らも含めて簡単に命を投げ出そうとするバカが多いから、感じて欲しいわけよ。食事にしても星空にしても、周りを見ればこんな身近に生きる喜びを感じられるものがあるってさ」

「……、」

ここに来て初めて、リョウのことが少し理解できた気がする。




『この腐った世界』。

かつての『龍兄弟』、『龍爪のキバ』は世界のことをこのように言っていたが、今までの話を聞く中で一つ分かったことがある。




1年前に『火の国・メイラ』が滅んだ時に、『風の王国・ディーン』が自分とメープルを国から追い出したこと。

『森の里・リール』がサンとサンの母親を村から追い出し、猛獣がはびこる森の中に放り込んだこと。

60年前から30年間にかけては『火の国・メイラ』と『風の王国・ディーン』、『金の王国・ロッド』が戦争をしていたとも聞いている。




人間は残酷な生き物で、時として自分が生き残るために他人を犠牲にすることが多い。

国王暗殺事件が起こった15年前の『金の王国・ロッド』はどんな国だったのかはわからないが、軍事国家だったと聞く。

リョウ達『龍兄弟』はどんな過酷な人生を歩んできたのだろう。

世界を憎み、『暗殺者』として歩み始めたきっかけは何だったんだろう。




「……、」

「おいおい。間違っても俺の気持ちを理解しようとするなよ? どんなに美学を重ねても『殺人者』は『殺人者』。世界の底辺の男なんだからよ?」

「……ッ!? そんなこと……ッ!?」

「迷うな。お前はお前の大切なもののために生きろ。それだけだ」

リョウはそう言い残すと階段を降りて行った。

「……、リョウ……、」

「さてと。嬢ちゃん達の寝顔をゲットしよ♪」

「ちょっと待てェッ!!」

レイは慌ててリョウを追いかけていった。




『組織』は世界を滅ぼそうとする過程で、メープルやソドム、サン、リョウの大切なものを多く奪った。

彼らは今も『組織』に抗い続けている。

記憶喪失になった自分にはこの世界の歴史はわからないし、本当に今の世界が正しいのかはわからない。

でも、自分の大切な人達が『組織』と戦っている以上、自分も彼らのために『組織』と戦う。

『組織』が自分の大切なものを奪うというのなら、自分もそれに抗い続けてやる。




もう迷わない。

一度拾ったこの命、自分の大切なもののために精一杯使おうと思う。

『神族』を読んで頂き、ありがとうございます。

不定期更新となってしまい誠に申し訳ございません。

ストックはありませんが、話が完成し次第更新していきますので宜しくお願いいたします。


今回で第3章の本編は終了です。

第3章は戦闘を中心に書かせて頂きました。

その中で、『暗殺集団の宿命』、『神族との生死をかけた戦い』を通じて『命』について掘り下げようと考えました。

『龍兄弟』の末路、レイ達が生き残れたこと、生き残った先にある日常、景色。

何のために生きるのか。

拙い文章力だったとは思いますが、少しでもお伝えすることができたのなら幸いです。

第4章も、書いていく中でテーマを見つけて掘り下げていこうと考えています。


次回はリョウの人生を描いた番外編を投稿する予定です。


今後とも『神族』を宜しくお願い致します。

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