第13話 『粛清』
『火の国・メイラ』と『風の王国・ディーン』を滅ぼした組織。
その組織との関わりが疑われている『金の王国・ロッド』に到着した『雷の一族』レイ、『風の一族』メープル、『森の一族』サン、元組織の暗殺者である『龍火のリョウ』の4人。
その4人に対して組織の刺客が差し向けられた。
刺客の名は暗殺集団『龍兄弟』。
かつてリョウが所属していた集団である。
『金の王国・ロッド』の国外にある森で、レイ達『神族』と『龍兄弟』の全面対決が始まった。
「『大樹縛』!」
『神族・森の一族』の10歳の少女、サンは地面に両手を置き、『蔦縛』の数倍の強度を誇る束縛魔法を唱えた。
地面から大木の幹が生え、『龍鱗のレガス』と呼ばれる大男に絡みついて行く。
大男を縛り付けている間、サンは飛翔魔法『大葉翼』を唱えて、大量に自分の背中に生やした葉の翼で空に飛びあがった。
メープルの飛翔魔法『翔風』とは異なって、継続して飛び続けたり、自由に移動したりすることはできないが、瞬間的に真上に飛ぶことは可能な魔法である。
上空からサンは両手を下のレガスに向け『神族・森の一族』の神力で1・2を争う攻撃力の大型魔法を唱えた。
「『八岐大蛇』ッ!!」
サンの両手から龍の形をした8本の大木が、蛇のようにうねりを上げながら次々と縛り付けたレガスを押し潰していった。
並の人間ならば、無数の肉片となるような威力の魔法。
まともに食らえば生きてはいられないというものである。
サンは本来、人殺しができるような少女ではない。
だから、生物と戦うときは普段は力をセーブして殺さないように戦っている。
しかし、初めの『木槍』を放った時、レガスの『龍鱗』の異常な硬さを知った。
並大抵の魔法ではレガスに傷1つ付けられない。
サンは危機感を感じていたのである。
彼女には最早、手加減をする余裕など無かった。
そしてサンはすぐに次の行動に移った。
レガスのいる位置から出来るだけ遠くに向かって彼女は全速力で逃げ出したのである。
『八岐大蛇』の手応えがいまいちと感じたためである。
(……ったく! 嘘でしょ……!? 何なのよあの硬度ッ!?)
「……、」
レガスは大木の縛りを蹴散らして立ち上がり、1本の大木を右脇に抱えながら、サンの後を追いかけ始めた。
「はあ……ッ! はあ……ッ!」
「……、」
単純な短距離走であればサンの方が走るのが速いが、いかんせん10歳の少女と屈強な暗殺専門の戦士。
追いつかれるのは時間の問題だった。
サンの表情は険しいものになっていた。
(『八岐大蛇』でも傷1つ付かないなんて……ッ!)
サンは逃げながら次の作戦に移っていた。
一歩間違えれば命を落としかねない、大博打の作戦に。
『風の王国・ディーン』のシスターで『神族・風の一族』のメープルは、右の掌で真空魔法『鎌風』の刃を作っていた。
「させない」
『龍翼のラグーン』と呼ばれる男は龍の翼を羽ばたかせ、右手に持っている『鋼の剣』でメープルに斬りつけてきた。
(……ッ! 速い……ッ!)
メープルは紙一重で斬撃を避けた。
剣がメープルの服を掠めた。
「……、」
メープルは相手を冷静に分析する。
(速さは速度上昇魔法の『疾風』以上……、『隼風』と同じくらい……かな……?)
ラグーンはもう一度横薙ぎに剣を振るった。
狙いは的が比較的大きめなメープルの『腹部』。
しかし、これも紙一重でメープルはかわした。
かわし際、メープルは先程まで作っていた右手の『鎌風』を飛ばしたが、間一髪でラグーンはこれを避けた。
(動きを見切られてる……ッ!?)
ラグーンは驚愕の表情を浮かべる。
メープルはすぐさま次の魔法を唱える構えをとった。
「今度は……こっちから行きますよ?」
「!?」
メープルの周囲で風が吹き荒れる。
「『隼風』ッ!」
メープルは再び『鎌風』を作りながら、速度上昇魔法の『隼風』を唱えた。
『風の王国・ディーン』での戦いで使用した、目にも止まらぬ速さから鎌鼬で斬りつける合わせ技。
前回はこの技で敵の首を斬り落とした。
まともに決まれば一撃必殺の技である。
「何ッ!?」
ラグーンは必死に体を捻り、辛うじてメープルの刃をかわした。
刃はラグーンの右片翼をかすめ、右片翼に傷をつけた。
「ぐ……ッ!!」
「今ので分かりました。この空中戦、あなたでは私に勝てません。これ以上の戦いは無意味です。そこをどいて頂けませんか?」
メープルは敢えて挑発をして相手の出方を見ることにした。
これで相手がおとなしくどいてくれるようならば、レイの救援に早く向かえる。
どかなかったとしても、この言い方をすれば相手は逆上して、戦いにおける冷静な判断力を失う。
どちらにしても、自分にとっては有利に働く展開だと彼女は読んでいた。
「俺を……甘く見るなああああッ!!」
ラグーンは後者の方だった。
メープルの言葉に彼は逆上し、龍の翼を大きく羽ばたかせた。
「……ッ!?」
直後、彼の翼の周囲を風が大きく嵐のように吹き荒れ、気流が大きく乱れた。
(強い風……ッ! これじゃ『隼風』が使えない……ッ!)
ラグーンはメープルを睨み付け、こう呟いた。
「受けてみろ。俺の『奥の手』」
先程のメープルの作戦には例外がある。
逆上した相手が我を忘れて普段の実力以上のものを発揮する場合である。
(……、失敗したかな……、)
メープルは苦笑いを浮かべた。
その頃、『神族・雷の一族』の金髪少年のレイは『龍脚のトフル』と対峙していた。
メープル達が駆けつける前にレガスによって負傷させられた左腕は使えないため、右腕1本で『鋼の剣』を振るって対応していた。
電撃魔法『電撃拳』で全身を電気で覆いながら、身体強化魔法の『制限解除』で火事場の馬鹿力を引き出し、『超速伝導』で瞬間的に反応できる反射神経を駆使して、その上で全神経を防御に徹している。
「どうした? 逃げるだけで何もしないのか?」
「さあな!」
(お前の隙が無さ過ぎて攻撃に移れねえんだよ……ッ!! くそ! 強いぞコイツ……ッ!)
龍の脚で蹴り出される速度がとてつもなく速い状態。
速さだけならメープルの『隼風』と大差無い状態だった。
それに加え、かつてのレイの親友、ソドムと同等レベルの抜刀術。
レイの感覚としては、ソドムとメープル、同時に2人相手にしているようなもので気が抜けないばかりか劣勢になっていた。
(でも、今も少しずつだけど、『布石』は撒いている! あとは『相手が勝手に崩れるのを待つ』だけ!)
レイはトフルの斬撃を受け、時々肩を浅く斬られたりしながら、反撃の機会をうかがった。
「ぜー……はあ……はあ……もうダメ……疲れた……、」
レガスから逃げ続けていたサンの体力がとうとう限界に来て、サンの足が止まった。
サンは後方を確認する。
すぐそこにレガスが迫っていた。
(もう割り切っちゃうか……、ここからは一か八か……、)
サンは逃げることを止めた。
「!」
彼女の姿を確認したレガスは、右脇に抱えていた大木を彼女目がけて投げつけてきた。
「うわッ!?」
彼女は左に渾身の力でジャンプしてこれを何とかかわした。
しかし、着地が出来ずに両膝が膝折れして体勢が大きく崩れた。
(あっぶなッ! もう少しで『落ちるとこだった』!)
レガスは突進し、立てない彼女に向かって右拳を突き出した。
(ここ……ッ!!)
サンはレガスが攻撃する瞬間を狙って後方に大きくジャンプした。
彼女を追うレガスの拳はサンの鼻を掠めて空を切った。
「バイバイ」
「……!」
レガスの身体を突然の浮遊感が襲う。
彼は状況が呑み込めていなかった。
(何故だ……! ここも周りもずっと『森』だったはず……! なのに『どうしてここが崖で、俺は今落ちてるんだ』……!?)
レガスはサンと一緒に崖下に転落していた。
彼女は崖の壁から生えていた大木の根元に着地。
落ちていくレガスを見届けていた。
『幻覚香』。
『神族・森の一族』特有の幻惑魔法である。
『大樹縛』を放った時にサンの左肩にこの香りを発する花を生やし、念じてレガスに対して発動させていた。
幻覚の内容は『レガスにこの周囲一帯が全て森だと思わせること』。
森があるところの地形を理解するのは彼女にとって造作もないこと。
森に崖があることと、崖の壁から木の根が生えていることは初めからわかっていた。
だから、彼女は初めから『崖に向かって逃げていた』のである。
(まだだ……ッ!!)
レガスは咄嗟に崖の壁を殴りつけた。
拳が崖にめり込んで、それ以上の落下を防いだ。
レガスはサンを睨み付ける。
「……、」
(待ってろ……今すぐ上に昇ってやる……、)
レガスがロッククライミングのように上に昇ろうとした時、彼はサンのある変化に気がついた。
(何だあのガキ……、『全身が光ってやがる』……?)
実はサンは、『八岐大蛇』を放って以降、『神力』を全く使っていない。
全てはこの瞬間に全てをかけるため。
『神族・森の一族』にはある特性がある。
『光合成』。
太陽から降り注がれる『光』を『エネルギー』に変える性質である。
『森の一族』には元来その能力が備わっていて、そのエネルギーで戦闘中も常に『自動回復』ができるのである。
また、『森の一族』は、敢えて『自動回復』をシャットアウトし、その全てを『攻撃』のエネルギーに変換することもできる。
そして、『神力』、『自動回復』を使わずにひたすら『攻撃用』に光エネルギーを溜め込み、それを一気に放出した時、溜め込んだ時間に比例して大きくなる『触れたもの全てを消失させる光弾』が放たれるのである。
『神族・神の一族』のシンも昔よく使用していたという、数ある『神族』の技の中でも1、2を争う攻撃力を持つ『神族・森の一族』に伝わる奥義。
「今なら……確実に当たる!」
サンはレガスに向かって両手を構えた。
(まずい……!)
レガスは崖にめり込んでいる拳を慌てて引き抜こうとするが、今の彼に彼女の攻撃を避けられる術は無かった。
一方その頃、上空では超大型の乱気流が吹き荒れていた。
大気がラグーンの龍翼に集まっている。
(これって……もしかして……、)
メープルにはこの技の特性が推測できた。
彼女がかつて得意にしていた大型魔法と類似しているのである。
ラグーンの龍翼の周りに2つの竜巻が出来上がった。
「喰らえッ!! 『双龍の怒り』ッ!!」
ラグーンは2つの竜巻をメープルに向かって発射させた。
「……、」
メープルは精神を集中させ、ある魔法を唱えた。
「『風守』!」
メープルは自分をを纏っている風の力を利用して2つの竜巻をキャッチして形を変化させ、自らの周りに渦巻かせた。
「な……!?」
渾身の大技をいとも簡単に破られたラグーンは驚きを隠せなかった。
「私に『風』で挑もうとしたことが……あなたの敗因です」
「く……ッ!」
「これが本当の双龍です」
(今のこの感覚なら……できる!)
メープルは『神族・風の一族』の大型魔法を唱える構えをとった。
「真空大型魔法、『双龍破』ッ!!」
メープルの両手から二頭の竜巻の龍が飛び出し、クロスしながらラグーンに襲い掛かった。
「畜生ォッ!!」
ラグーンは龍翼を羽ばたかせてこれを避けようとするが、片翼が傷ついており速く飛べなくなっている上、『双龍破』は『風の一族』の魔法の中でも最大の攻撃範囲の広さを誇る魔法。
限界を超えた『雷神』レイでも避けることが精一杯だった魔法である。
ラグーンに避けられる術は無かった。
「うおおおおッ!!」
ラグーンは咄嗟に防御して耐えようと構えた。
辺りを轟音とともに嵐のような強風が吹き荒れた。
直後、龍翼がズタズタに引き裂かれたラグーンが力無く地に落ちて行った。
「……ありがとうございます」
そのラグーンを見ながら、メープルは感謝の意を呟いた。
「私の思い出の魔法、思い出させてくれて」
大事な人を同時に2人も失った時に使用した思い出の魔法。
メープルにとっては辛い記憶でもある。
その心中はやや複雑だった。
上空で嵐が吹き荒れる中、サンは『神族・森の一族』最強の魔法を唱えた。
「『森の神力』奥義ッ! 『陽光滅弾』ッ!!」
サンの両手から巨大な光の弾が発射された。
「……ッ!!」
光の弾はレガスに直撃し、レガスの身体を細胞レベルで龍鱗ごと消滅させていった。
その後には何も残らなかった。
「早く行かないと……手遅れになる前に……、」
彼女はふらふらとした足取りでレイの元に向かった。
「くそッ! くそッ!」
全神経を防御につぎ込んでいるレイ。
そのレイに浅い傷はつけられても致命傷を与えられないトフル。
『龍翼のラグーン』、『龍鱗のレガス』では恐らく『神族』を止められない。
手負いのコイツ1人だけでも早く殺さないと残り2人の『神族』が来る。
徐々にその顔に焦りが生じていた。
「……、」
一方でレイも苦しそうな表情を隠せなくなってきていた。
(……とは言っても、俺もそろそろ限界が近いけどな……、あとどれくらいだ……、どれくらいで……ッ!)
片腕で応戦するレイの体力も尽きかけていた。
「!?」
その時、トフルの脚が突然膝折れした。
今まで完全と言われていた『龍脚』に発生したトラブルに、トフルは動揺した。
「何だ!?」
「今だッ!!」
レイがここぞとばかり反撃に出る。
攻守が逆転した。
「……ッ!! 何をしたッ!?」
「俺の身体を纏ってる『電気』さ! 俺の電気がお前の運動神経を少しずつ麻痺させたんだ! ちょっとばかし『俺に触り過ぎた』な!」
「く……ッ!?」
「もうお前は速く動けない! これで終わりだ!」
「!!」
レイはトフルの剣を弾き飛ばし、無防備になった彼の身体を袈裟切りに斬ろうと剣を振りかざした。
「まだだッ!! 『龍兄弟』を舐めるなァッ!!」
トフルは龍脚の渾身の力で地面を蹴り、レイの斬撃を避けて上空に跳び上がった。
そして、上空で身体を縦に回転させ、踵落としをレイの頭目がけて放つ体勢になった。
本来は相手が絶対に動けない状況で叩き込むトフルの『奥の手』だが、相手を束縛する余裕は無い。
一か八かで叩き込むしかなかった。
(こんなの避けて……ッ!!)
レイは横に避けようとした。
「!? え……ッ!?」
しかし、レイの両膝の力が抜けた。
身体が上手く動かない。
レイの身体は最早限界をとっくに超えていたのである。
(やばい……やられる……ッ!!)
レイは咄嗟に目を瞑った。
その時、懐かしさを感じさせる斬撃の音がレイの耳に入った。
「が……は……ッ!」
同時に、トフルの苦しそうなうめき声と地面に落ちる音が聞こえた。
レイは目を開く。
「レイ君! 大丈夫ですか!?」
トフルが跳び上がった上空にメープルがいた。
「はは……たすかっ……たあ……、」
安心したレイは疲労と安堵感でその場で意識を失った。
戦いの一部始終を双眼鏡で眺めていたリョウは息をのんだ。
「ははっ、強いな奴ら……、」
(この3人の強さ……上手く組み合わせれば『不死鳥のゲイル』にも勝てるかも……な)
リョウはフッと笑みを浮かべながら宿屋に戻っていった。
(あ~……、何かすごく……気持ちが良い……、)
温かい感触を感じながら、レイはゆっくりと目を覚ました。
メープルの膝枕で横になっていた。
メープルはレイに回復魔法の『恵光』をかけていた。
レイの全身の傷はほとんど塞がっていた。
「……気が付きました?」
「ああ、大分身体が楽になってる。ありがとう」
「どういたしまして♪ 間に合って良かったです♪」
メープルは優しく微笑みかける。
その横でサンが必死に笑いをこらえていた。
「? あれ?」
そのサンの反応を見た後、レイはある違和感に気がついた。
「どうかしましたか?」
「いや、俺、戦いで頭は別にやられてないんだけど、何で頭にかけてんの? 『恵光』……、」
「あ、や、あはは……、」
「コラコラ目をそらすな」
「……ごめんなさい」
メープルが申し訳なさそうに頭を下げた。
レイが意識を失った時、それを見たメープルが大慌てでレイを安全な場所に『隼風』で移動させようとし、誤って大木にレイの頭を強打させたとのことだった。
「それ下手したら俺死んでるよね!?」
「ごめんなさい! 正直本当に危ないところでした! レイ君の頭が割れて中から脳が……ッ!」
「止めろォッ!! 怖すぎて聞きたくねえよそんな話ッ!!」
メープルに殺されかけて青ざめているレイを尻目に、横でサンが大笑いしていた。
「捕まえられたのは2人だけか。今回は爆弾とか大丈夫そうなの?」
生け捕りにした2人の元に向かいながら、レイはメープルに懸念事項を確認した。
前回の反省点を生かすためである。
組織のことについて訊き出そうとした時、前回の敵はスイッチを押して自爆した。
部下の裏切りや敗北に備えて、組織が何かしらの口封じの対策をとっていることは明白である。
「それなら、身体の隅から隅まで調べたのできっと大丈夫だと思いますけど……、一応油断はしないようにするつもりです」
メープルはわかっているそうなのでレイは安心したが、言い方がふと気になった。
「隅から隅までって……全部?」
「はい」
「服の中も?」
「はい」
「ズボンの中も?」
「はい」
「……下着の中も?」
「はい。どうしてですか?」
「いや……何でもない……、」
「?」
レイは顔を赤らめながらキュッと口を閉じた。
レイ達3人は、大木に縛って拘束しているトフルとラグーンの元に到着した。
「……生け捕りってことは、何かを聞き出したいということか?」
「言っておくが、俺達から何か聞こうとしても無駄だぞ?」
2人はレイ達を殺気に満ちた鋭い目で睨み付けた。
レイは静かに口を開いた。
「……全裸で凄まれてもなあ」
「そこの女に服刻まれたんだよッ!!」
「服を着せろォッ!!」
「……、」
涙ながらに訴える2人に対し、レイは同情しかできなかった。
「『組織』についてはリョウに訊いても『ゲイル以外のことは知らない』って言ってたからなあ。あまり情報については期待してなかったけど」
彼等に布をかけてあげたレイは腕組みをしながら首を傾げた。
2人はやや得意げに話を続けた。
「そういうことだ。そして今も、五感を通じて我々はあの方と繋がっている」
「あの方って?」
「我々の身体を龍に改造された方。『神族・獣の一族』、『死神のシュウ』様だ」
「……、」
(……今すごい情報を聞いた気がする。こいつら口軽いな……、)
レイは彼らの最大のミスについて触れないようにした。
「つまり、この会話もシュウ様に全て筒抜けというわけだ」
そう告げたトフルの身体とラグーンの身体が突如発光した。
「!?」
「これって……まさか……!?」
トフル達はニイッと笑いながら叫んだ。
「貴様ら全員道連れだァッ!!」
次の瞬間、辺りの森を巻き込む大爆発が起こった。
爆発の直前、レイは襟首を引っ張られた。
メープルが咄嗟にレイとサンの2人を自分の元に引き寄せたのである。
彼女は爆発直前に『風の一族』の防御魔法、『風守』を唱えていた。
周囲に竜巻を発生させ、その風で身を守る魔法である。
その魔法は大抵の炎や吹雪、爆発をシャットアウトできる。
その魔法のおかげで、レイとサンも含めた3人は無傷で爆発をやり過ごすことができた。
周囲の森は消失し、トフルとラグーンの身体は一欠片も残っていない状態だった。
「た、助かった。ありがとうメープル!」
「……、」
「メープル?」
お礼を言うレイの言葉が耳に入っているかわからない。
それぐらい、彼女は険しい表情をしていた。
サンがメープルの傍で怯えた声を出す。
「い、今……何が起こったの……? 奴らは? 奴らはどうなったの……?」
「『譲渡した神力の爆発』……、譲渡した『神族』が神力を操作して爆発させました……、彼らは……もう……、」
メープルはそこで言葉に詰まって下を向いた。
「『死神のシュウ』……、」
レイは思わず呟いた。
つい先程まで味方だった者までも用済みとあらば簡単に手にかける。
そのやり方に対し、レイは『不死鳥のゲイル』とはまた違う残虐性を感じた。
かつての『龍兄弟』、『龍爪のキバ』は以前、レイ達に次のようなことを言っていた。
『俺達の仲間にならねえか? 邪魔な奴を消してこの腐った世界を俺たちの手で書き換えてやるんだ。面白そうだろ?』
ふざけるな。
『目的のためなら手段を選ばない』?
『任務を失敗したら敵を道連れに自爆』?
どこまでも『命』を蔑ろにしやがって。
そんな奴らに世界を支配させるわけにはいかない。
止める。
『組織』の野望、絶対に止めてやる。
「メープル、サン」
レイは決意の眼差しを2人に向ける。
「『組織』を……止めよう! これ以上悲劇を生まないためにも……!」
2人は頷きながら、迷いの無い声で答えた。
「モチですッ!」「もちろんッ!」
『不死鳥のゲイル』、『死神のシュウ』。
避けられない戦いがレイ達を待ち構えている。
『金の王国・ロッド』から北東に位置する、『水の港・リャワテ』との連絡通路の役割を果たす『ロッド鉱山』。
そこを『不死鳥のゲイル』はまだアジトにしていた。
そのゲイルの元に、見た目12歳ぐらいの1人の少年が不満を言いながら訪ねてきた。
「まったく……『龍兄弟』は本当にバカの集まりだね! 僕のこと口走りやがった! もう用済みだから爆発させてやったけどさ!」
「『死神』か。部下を減らすなんて無駄なことまたしてんのか。俺達の仕事が増えるだけだっつってんだろうが。どうせその爆発でやられる様な奴らじゃねえんだろ? 『龍兄弟』を倒す様な奴らってことは」
「ああ、それはもう、腐っても『神族』だからね」
『神族』というキーワードにゲイルは食いついた。
「……! 今、何つった?」
「? 言ってなかったっけ? 『風神』に『雷神』、それに『森神』の3人だよ」
「3人の『神族』……だと?」
そう言うとゲイルは少し黙り込んだ。
その様子を見た『死神』と呼ばれる少年はゲイルに提案を持ちかけた。
「手を貸そうか? 個人的に僕の嫌いな『森神』がいるし。『森神』なら僕が瞬殺してあげるからさ。流石のゲイルさんでも『神族』3人は辛いでしょ?」
「……ああ?」
それを言った少年に対し、ゲイルは殺気を込めた眼で睨み付けた。
「んなことをしてみろ。貴様から消し炭にしてやる」
「……出来るもんならやってみなよ」
2人の間に数秒の不穏な空気が流れた。
その後、少年は冗談交じりに笑い飛ばした。
「な~んてね! 嘘嘘っ! 3人ともゲイルさんの好きにするといいよっ!」
「……ふん」
「じゃあ邪魔な僕はこれで失礼させてもらうよっ! バ~イッ♪」
少年は鼻歌交じりに退散していった。
「……チビザルが」
ゲイルは岩に座り込み、レイ達を迎え撃つ体勢をとる。
ゲイルはニヤッと笑った。
(まさか『雷神』が生きていたとはな。あとは昔ながらの俺の宿敵『風神』と、植物界の神である『森神』か)
(来い……来い……! 俺を目一杯楽しませてみろ!)
ゲイルの身体が小刻みに震える。
強い奴らと戦える。
そう思うだけで、ゲイルにとって戦いが待ち遠しくなっていた。
「決着をつけてやる」
この小説を読んで頂き、ありがとうございます。
なかなか執筆に取り掛かれずに期間が空いてしまいますが失踪はしないで必ず完結させようと思っています。
不定期更新で申しわけありませんがよろしくお願いします。
世界を支配しようと動いている『組織』。
部下の命を蔑ろにするその残虐性が徐々に増している中で、レイ達はそれを止められるのか。
今後は本格的な戦闘が続いていきますが、その中でのレイ達の成長を見守っていただければ幸いです。
これからも『神族』をよろしくお願いします。