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神族  作者: 鼻づまり
第3章 『金の王国・ロッド』編
14/20

第12話 『龍兄弟』

『神族』という、昔、神から『神力』を授かった一族がいる世界。

その世界が今、『火の一族』のゲイル率いる謎の組織に脅かされている。

『火の国・メイラ』と『風の王国・ディーン』は既に滅ぼされ、『森の里・リール』も組織に襲われた。

『雷の一族』のレイ、『風の一族』のメープル、『森の一族』のサンや村人達の活躍で、『森の里・リール』は壊滅を免れた。

レイ達は元組織のサイボーグ、『龍火』のリョウを仲間に迎え入れ、4人で組織討伐の旅を続ける。

装備を整えるため、そして情報を聞き出すため、彼らは組織との繋がりが疑われている『金の王国・ロッド』に向かっている。




4人は森の中を突き進んでいた。

その中でレイはある疑問を感じていた。

多い。

猛獣が多すぎる。

『森の里・リール』を出てから、5分に1度は何かしらの猛獣に遭遇している。

これはもしかして……。

「なあサン。お前もしかして『迷いの森』を操作してる?」

「してるよ! 『いっぱい猛獣に出会うように』!」

「やっぱり!?」

純粋無垢な笑顔にレイは恐怖を感じた。




「戦いながらパーティーのフォーメーション試すんでしょ? だったら実戦は多くなくちゃ!」

言った。

確かにレイは言った。

この先、組織と戦う上で、前衛として戦えるのはレイしかいない。

『風の一族』、『森の一族』ともに本来の戦い方は後方支援型。

もう1人のリョウは『狙撃手』。

何ともバランスの悪いパーティーである。

だから、レイは前衛としての戦い方を確立したくて、皆に『フォーメーションを試したい』ということを、『森の里・リール』出発前に3人に伝えたのである。

サンが気を遣ってこうしてくれていることはレイには理解できていたが、それにも限度はある。

「何ならこうしてみる? 『1分に1度猛獣に遭遇』!」

「先に進まねえよッ!?」

レイはツッコまずにはいられなかった。




その中で、1つの戦い方が確立しつつあった。




向かってくる相手を遠距離からはリョウが狙撃、またはサンが束縛魔法『蔦縛タイビー』や攻撃魔法『百舌速贄セラス』で動きを止めたり攻撃をしたりする。

そして近づいてきたところを、メープルの速度上昇魔法『疾風レント』で速度を強化したレイが、『制限解除デストリクト』や『電撃拳フィリッツ』で身体を強化し、鉄の槍で攻撃する。




ただ、この戦法には弱点があり、一撃で相手を仕留めきれなかった場合、反撃をレイが1人で受けるのである。

レイの身体は傷ついてはサンやメープルに回復してもらうというのをひたすら繰り返していた。

「これじゃあ俺の身体が持たないよ」

不満を漏らすレイに対し、サンは目を輝かせながらはしゃぐ。

「でも、死にかけた状態から復活するとすごく強くなるんでしょ!? スーパー何とかになるレイ兄ちゃん、私見たいもんッ♪」

「絶対何かと勘違いしてるよねソレ!?」

レイはサンの頭にチョップを加えた。




「……、」

「あれ? リョウちゃんどこか具合が悪いんですか?」

黙って2人を見つめているリョウに対し、メープルが心配そうに顔を覗き込んだ。

「……足りない」

「足りないって何が?」

リョウはメープルを見つめた。

「……はあ」

「今明らかに私の胸見てため息つきましたね?」

メープルはジト目でリョウを睨みつけた。

リョウはもう一度メープルの胸を見て呟いた。

「何であの嬢ちゃんと同じなんだよ」

『龍火』と『風神』の喧嘩が勃発した。




『金の王国・ロッド』の城門には見張りの兵士が2人いる。

太陽が沈みかけたその頃、2人のもとに、鬼の形相で息を切らせた隻腕の男が片手に2人、背中に1人担いだ状態でやってきてこう告げた。

「今夜だけでも良い。城下町で休ませてくれ。この3バカのせいでひどい目に遭った」

道中で何百匹もの猛獣と戦い、レイ、メープル、サンの3人は『神力』を切らして爆睡。

リョウは銃の弾を切らして猛獣と戦う手段を失くし、命からがらここまで逃げてきたのである。

「……、」

哀れに感じた2人の兵士は黙って4人を宿屋に案内した。




その夜、3人が爆睡する中、宿屋の屋上でリョウはタバコを吸っていた。

そこへ背後から、1人の男が話しかけてきた。

「よお、生きてたのかリョウの兄貴」

「おお! 『ラグーン』か! 久し振り!」

「久し振り! じゃねーよ。任務失敗して一体どの面下げて……、」

「まだ失敗と決めつけるには早いんじゃないのお? 奴らをここに連れてきたんだし、任務は終わってないだろ?」

「……、」

ラグーンと呼ばれる男は怪訝な表情を見せている。

「俺はお前達3人にかけてるんだぜ? ほら、俺の片腕壊されちまったから」

「……、」

「俺の尻拭いを頼んでるってこと♪」

リョウはニッと笑って言った。

「……罰として『腕立て300回』な」

「『死刑』って言わねえお前らのそこんとこ、可愛くて俺は好きだよ♪」

溜め息をつくラグーンに対し、リョウは笑顔で親指を立てた。




去り際のラグーンに対し、リョウはある忠告をした。

「あ、そうそう! 奴らに夜襲は仕掛けない方が良いぞ。命が欲しかったらな」

「……何故だ?」

リョウは下を俯いた。

その手はワナワナと震えている。

「寝ぼけて放電するわ鎌鼬を飛ばすわ蔦で縛り付けてくるわで隙が無えんだよ」

「マジか……、」

「わかるか!? 毎晩死の戦いを余儀なくされる俺の気持ちが……ッ!」

「わかったわかった! 苦労してんだな兄貴もッ!」

泣いて鼻水を垂らしながら抱きついて来るリョウをラグーンは慌てて制した。




ラグーンは『また作戦を立て直す』と言って去って行った。

(さてと……俺とキバの兄貴以外、残りの『龍兄弟』が動き出した……、)

リョウは再びタバコをふかしながら小さな声で呟いた。

「『雷神』、『風神』、『森神』……見極めさせてもらおうか……。お前達が本当に『組織』の脅威になりうる存在なのかどうかを……な……、」

リョウは不敵な笑みを浮かべた。




「え!? リョウちゃんの出身、『ロッド』だったんですか!?」

「ええッ!?」

「そうなんだ!?」

翌朝、元気になった3人に自らの素性を打ち明けたリョウに対して、3人とも驚きの声を上げた。

「……すごく意外そうな反応してるけど、お前達俺の出身どこだと思ってたのよ?」

3人はうーんと考え、レイ、メープル、サンの順に手を上げて答えて言った。

「段ボール!」

「森!」

「惑星ベジ……!」

「全員そこに正座!」

リョウは3人の頭に拳骨を食らわせた。




リョウは3人にこの国での注意点を説明した。

「この国には『龍兄弟』っていう、俺も所属していた暗殺集団がいる。『不死鳥のゲイル』の指示で動いていた組織だ。俺とキバの兄貴が抜けたが、あと3人残ってる。3人とも俺やキバの兄貴と違って『本物の龍の力』を持ってるから気をつけた方が良いぞ」

レイが疑問を投げかける。

「『本物の龍の力』って?」

「お互いに力を見せあったことは無いから詳しいことは知らんさ。話に聞いてたのは人と龍の『合成獣』、つまり『キメラ』だってことだけだ」

メープルがやや怒った表情をしながら会話に入る。

「『神力の譲渡』……、『神力』を人間の体内に組み込むこと。もし『キメラ』が存在するとすれば、『神族・獣の一族』がそれを行ったってことですよね?」

「『神族』にはそういうことができるのか?」

「やろうと思えば私にもできます。けど『神力の譲渡』は『神族』の絶対的禁忌です。譲渡した相手の命を大幅に削ります。『神族・神の一族』の『神力』でない限り、普通の人間が『神力』を入れられたら長生きはできないんです。入れられた人間は大体2、3年で神力に身体が耐えられなくなって亡くなります」

「なるほど……ね……、」

「本来命を直接司る役割を担ってる『獣の一族』が、命を弄ぶようなことをするなんて……、」

それ以上は怒りで言葉が出ないようだった。

「ま、『目的のためなら手段を選ばない』。ウチの組織はそんなもんだよ。『殺し屋』の時点で長く生きられないのはわかってるし、俺達は皆、いつでも死ぬ覚悟はできてるさ」

「リョウ……、」

「リョウちゃん……、」

リョウは全ての現実を受け入れているようだった。

今は敵同士とはいえ、かつては『兄弟』と呼ばれていた仲間。

運命を受け入れているとは言っても、その全てを受け入れるのは至難の業なはず。

3人はそれ以上言葉が出なかった。

「ただ俺達に未練があるとすれば……、」

「……、」

「大きいオッパイを見られないこ……ッ!」

「『風刃フレッジ』!」

部屋に血飛沫が飛んだ。




宿屋の朝食を食べた4人は、組織との戦いに備えて装備を整えるため、小遣いを持ってそれぞれ外出した。

リョウは破壊された右腕を修理するため、彼の義手を造った技師の元に向かった。

レイはメープル、サンの希望で最初に3人で防具屋に向かうことにした。

レイはその選択を後悔していた。

「メープル姉ちゃんッ! こんなのどう?」

「かわいいいいっ♡ サンちゃんすごく似合ってますよそれっ!」

「本当ッ!? じゃあこれ買っちゃおっ♪ メープル姉ちゃんのも選んであげる♪」

「え!? 私のはいいですよ! 『身かわしの服』持ってますし!」

「ダメダメ! メープル姉ちゃんはもっと似合うのがあるよ! ほらこの『ミンクのコート』とか!」

「え~! 可愛い服ですけど私なんかが似合いますかこれ?」

「絶対似合うから! ほら試着試着っ♪」

このようなやり取りが延々と約3時間。

早々と『鋼の鎧』を購入していたレイにとっては苦痛でしかなかった。

「先に武器屋に行ってるぞ~!」

買い物に夢中の2人には全く聞こえていなかったが、レイは2人に一応声をかけて武器屋に向かった。




レイは武器屋で『鋼の剣』を購入した。

かつて友人のソドムが愛用していたものと同じ種類の剣。

(ソドム……、俺、『鋼の剣』を軽く持てるぐらい力がついたぞ。もう『鉄の槍』も持てなかったあの時とは違う)

それだけに、レイにとっては強い思い入れがあった。

(いずれ、お前に追いついてやるからな!)

レイは気持ちを引き締めて武器屋を後にした。




2人を迎えに防具屋に戻ろうとしたその時、レイの背中に尖ったものが当たった。

「動くな。後ろを振り向かずそのままでいろ」

「……、」

武器屋に到着する少し前から、様子を伺って近づいてくる気配にレイは探索魔法の『電波探知ディオ』で気づいていた。

ただ、その気配が何者なのか。

目的が何なのか。

確信が無かったため、レイはタイミングを見計らって訊き出そうとしていた。

(タイミング逃したかな……、)

レイは後ろの影に問いかけた。

「『龍兄弟』か?」

「死にゆくものに答える義務はない」

「! 『神族』もずいぶん甘く見られてるな~。で? この形をとったってことは大きな騒ぎにしたくないんだろ?」

「大声を出そうとしたり妙な素振りを見せれば、街中で国民が1人死ぬことになる。『龍兄弟』はこの街中に潜り込んでいる。この国の全員が人質だ」

「ちぇっ……、」

騒ぎを起こしてメープル達を呼ぶのも1つの方法だったが、既に先手を取られていた。

「このまま街の外に出ろ。抜け道は私が案内する」

レイは影の言うとおりにした。

切り抜ける方法を考えながら。




散々迷った挙句、メープルは『身かわしの服』の色違い(白ベースの水色ライン)を、サンは『ミンクのコート』(黄緑ベースの白ライン)を購入し、それぞれ早速装備していた。

「あれ? レイ兄ちゃんは?」

「そういえば、ずっと姿見かけて無かったですね。先に武器屋に向かったのではないでしょうか?」

「じゃあ私達も早く行こっ! メープル姉ちゃんの『隼風ファルシン』で!」

「街の中大騒ぎになりますよ!?」

2人ははしゃいだ様子で防具屋を後にした。




防具屋を出たところで、メープルは空を見上げた。

「……、」

「? どうしたのメープル姉ちゃん?」

「いえ、何でも」

(気のせいかな……? 変な鳥がいたような……?)

メープルはそう思ったが、違和感は拭えなかった。




メープルの視線の先、そこにはラグーンがいた。

『龍翼のラグーン』。

文字通り、彼は『龍の翼』を身体に埋め込まれた『合成獣キメラ』である。

上空を飛ぶその速度は『神族・風の一族』にも劣らないと言われている。

彼は遥か上空を飛びながら、レイ達の動きを偵察していた。

(今、『風神』と目が合った気がしたが……、油断はしないでおくか……、)

ラグーンは仲間が落ち合う場所に向かって飛んで行った。




レイは抜け道から『ロッド』を出て、その先の森の中に案内されていた。

「なあなあ、一体どこまで……ッ!」

「……、」

「!?」

レイは咄嗟に前に跳んだ。

刃は掠めただけだったが、鋼の鎧の背中に横一筋の太刀筋が付いた。

跳びながら体勢を入れ替えて相手に相対した。

相手はフードを被っていた。

背丈は意外と小さく、メープルぐらいの身長しかない。

その手には『鋼の剣』が握られていた。

「あっぶな……ッ! 不意打ちとはずいぶん卑怯な真似するな」

「『暗殺者』だからな」

「あ、そう」

(抜刀が速いし威力もすごい。今避けなければ確実に『鋼の鎧』ごと胴体を斬られていた。『鋼の鎧』の防御力はほとんど関係ないみたいだ)

「……、」

レイの首筋を冷たい汗が伝った。

(抜刀の速さだけならソドムクラス……ッ!)

危機は感じていたものの、レイの中で手先の震えとともに笑いが込み上げてきていた。




「一撃必殺で行かせてもらう」

男はそう言うと、目にも止まらない速さでレイに斬り込んできた。

レイは身体強化魔法の『制限解除デストリクト』と『超速伝導ダクト』を併用し、0秒の反応速度と5倍の身体能力で何とか攻撃をかわした。

レイの横っ腹の部分で『鋼の鎧』が傷ついた。

(かわすのが精一ぱ……ッ!)

「!?」

レイの着地先にもう1人のフードを被った大男が待ち構えていた。

大男はレイの背中に右拳を繰り出した。

「やば……ッ!!」

レイは咄嗟に身を翻し、左上腕で拳をガードした。

「……ッ!?」

『鋼の鎧』ごと左腕の骨が粉砕される音がした。

レイは遠くに吹き飛ばされ、大木に激突した。

激突した大木がへし折れたことからも、その凄まじい威力を物語っている。

「がああああッ!! ぐ……ッ!!」

レイは左腕を押さえてうずくまった。




レイを殴りつけた大男の服から腕がはだけた。

その腕には龍の鱗を思わせる刺青のようなものがあった。

「『龍鱗』。その腕は鋼よりも遥かに硬い硬度を誇る。その拳で殴られたんじゃ、ひとたまりもないよな。レガスの兄貴」

「……、」

「例によって無視か」

『龍鱗のレガス』は口も硬い男で仲間内には有名。




左腕の激痛で、レイの額に脂汗が滲む。

(やられた……! 完全に左腕を持ってかれた……! どうする!? 右腕だけで勝てるほどこいつら甘くないぞ……ッ!)

「……、」

レイは短時間で必死に考え、すぐさま次の行動に移した。

「うおおおおッ!!」

レイは電撃魔法の『電撃拳フィリッツ』を目一杯唱えた。

「来るぞ! レガスの兄貴!」

「……、」

2人はレイの攻撃に備え身構えた。

「行くぞォッ!!」

レイは踵を返して2人から逃げ出した。

「は?」

「……、」

「……逃げた」

「……、」

「追うぞッ!! 兄貴ッ!!」

一瞬あっけにとられて反応が遅れた2人は慌ててレイを追った。




レガスと呼ばれる大男の足はレイの脚力に追いつけるほど速くは無かったが、小柄の男は違った。

みるみるうちにレイとの距離を詰めてきた。

(やっぱり! こっちはスピードタイプか!)

レイは時折後ろを確認しながら駆け抜けた。




小柄の男の名は『トフル』。

その通り名は『龍脚のトフル』といい、龍の足を両足に組み込まれている。

レイがいくら5倍の身体能力で駆けていても、龍の速度には敵わない。

レイを射程圏内に捉えたトフルはレイの右足を『鋼の剣』で斬りつけた。

切断とはいかなかったが、レイの右大腿外側の筋肉の腱が斬られ、レイは転倒しかかった。

(いっ……て……ッ! でも……ここだッ!!)

そこでレイは倒れるのをこらえ、身体を反転し、横なぎで『鋼の剣』でトフルに斬りつけた。

「な!? 反撃してきた!?」

トフルは咄嗟に剣で防いだ。

2人の鍔迫り合いが始まった。

「かかったな! お前が大男より速く来ることは十分に予測できた! これで状況は1対1だ!」

「……! ふん! そんなのすぐに……ッ!」

2対1になる。

そう言いかけたところで上空から声が聞こえた。




「兄貴たちッ!! 今こっちに『風神』と『森神』が飛んで向かってる!! もうすぐ来るぞ!!」

『龍翼のラグーン』が慌てた様子で告げに来た。

トフルは動揺を隠せなかった。

「……ッ!? ラグーンとレガスの兄貴で対応してくれ!! 俺は『雷神』を討つ!!」

「わかったッ!!」

「……ッ!!」

トフルは下唇を噛んでレイを睨み付けた。

「……形勢逆転だな」

レイはニッと笑顔を見せた。

トフルが問いかける。

「何をした!? どうして『風神』たちにここの場所がばれた!?」

「簡単な事だ。俺達『神族』はお互いの『神力』を感じ取れる。だから、俺が大きく『神力』を放出すれば自ずと2人がここを探知してくれるってわけさ」

「あの電撃魔法にはそんな意味が……ッ!」

「さあ! 続きを始めようぜ! えっと『知らない少年』!」

「『トフル』だッ!!」

トフルは怒りに任せてレイに斬りかかってきた。

レイは右手1本で『鋼の剣』を構え、トフルの斬撃に応戦した。




確かにレイの言う通り、自分たちは劣勢となっていたが、逃げるという選択肢はトフルの中には無かった。

ここで逃げたところで、次回以降の暗殺が難しくなる。

そして何より、今のレイは片腕が使えない。

今なら彼1人は確実に始末できる。

このチャンスは逃したくない。

そう思ってトフルはレイに斬りかかっていたが、勝負を決めきれない。

右腕1本でレイはトフルの剣速に完全についてきていた。

トフルは驚愕の表情をしていた。

(『鋼の剣』を片腕1本で……ッ!? コイツ、何て腕力してやがる……ッ!?)




レイは一度挫折を味わって以来、必死に『鋼の剣』を振り込んだ。

身体強化魔法に頼らずに基礎体力を上げる目的で。

レイの腕力は、身体強化魔法を使わなくても片腕で『鋼の剣』をある程度振れる程度に強くなっていた。

先程の手先の震えや笑いは武者震いだったのだと、レイは実感していた。

(こいつを倒せば、ソドム、お前に1歩近づけるような気がするよ)

レイは戦闘を楽しんでいた。




「多分、リョウおじちゃんが言ってた『龍兄弟』だよね!? レイ兄ちゃん、大丈夫かな!?」

「レイ君ならきっと大丈夫ッ! 『神族』ですからッ!」

メープルはサンを背負った形で飛翔魔法『翔風エルフィン』で現場に向かっていた。

そこに、『龍翼のラグーン』が立ちはだかった。

「ここは通さない」

サンが驚いた表情を浮かべる。

「え!? 何この人ッ!? 空飛んでる!?」

「……『合成獣キメラ』の話、本当だったんですね」

メープルは険しい表情をしている。

怒りの矛先はまだ顔も見たことが無い『神族・獣の一族』に向けられていた。

「今の体勢じゃ空中で本気は出せないだろう。今のうちに2人とも抹殺する」

ラグーンは懐から『鋼の剣』を取り出し、大きな龍翼を羽ばたかせ、目にも止まらぬ速度で彼女たちに斬りつけてきた。

2人のどちらに刃が当たっても良いように、中心近くを狙ってきた。

「……ッ!」

メープルはサンを背負ったまま、間一髪で攻撃を避けた。




「果たしていつまで避け続けられるかな?」

有利な状況を逃すまいと、ラグーンは猛攻を仕掛ける。

メープルは無数の斬撃を避け続けた。

「……、」

その様子を見ていたサンは突然メープルから手を離し、下の森に飛び降りた。

「サンちゃんッ!?」

「気にしないで! これならメープル姉ちゃん全力出せるでしょ? そいつ早く蹴散らせちゃって!」

「……! わかりました!」

メープルはラグーンと改めて相対した。

「急いでるので、そこを早く通して頂きます!」

メープルは真空魔法を唱える構えをとった。

「させない。俺を舐めるな」

有利な状況は無くなったが、負けるとは思っていない。

ラグーンは『鋼の剣』を構えながら、龍翼を大きく広げた。




「私だけでも早くレイ兄ちゃん助けに……ッ!」

そう言って駆け出そうとしたサンに向かって拳が飛んできた。

「!?」

サンは咄嗟に防御魔法の『木壁ドール』で木の壁を生やして防御したが、衝撃で壁ごと吹き飛ばされた。

吹き飛ばされた彼女は森のクッションを使って衝撃を緩和した。

彼女を吹き飛ばしたのは『龍鱗のレガス』である。

「びっくりした~! アンタも『合成獣キメラ』ってやつ?」

「……、」

「……何か言いなさいよッ!! こっちも急いでんのよッ!!」




サンは束縛魔法の『蔦縛タイビー』を唱え、蔦でレガスを拘束しようとした。

しかし、レガスの力は凄まじく、数本の蔦では抑えきれない。

(……縛りが足りないか!)

レガスは再びサンに向かって拳を繰り出した。

「……、」

サンはその拳を小型版の『木壁ドール』でいなし、レガスの懐に潜り込んで攻撃魔法を唱えた。

(もらった……!)

「『木槍ピール』!」

サンの右手の掌から木の槍が飛び出し、レガスの右横の腹を直撃する。

「……え!?」

しかし、槍が全く刺さる気配が無い。

それどころか、ダメージを受けている気配も無い。

レガスは動じずにサンに左拳を突き出した。

「!?」

木壁ドール』でガードはするものの、至近距離では衝撃を吸収しきれずにその華奢な体は大きく吹き飛ばされた。

「い……たあ……ッ! もう! 急いでるのに!」

「……、」

「もうアンタ、どうなっても知らないからね!」

サンは『神族・森の一族』の大型魔法を唱える構えをした。




『雷の一族・レイ』 VS 『龍脚のトフル』

『風の一族・メープル』 VS 『龍翼のラグーン』

『森の一族・サン』 VS 『龍鱗のレガス』




『神族』と『龍兄弟』、3つの戦いが本格的に始まった。

その様子を、遠くから双眼鏡でリョウが見つめていた。

(見届けてやるよ。お前らの戦い。精一杯足掻け)

「……、」

(その方が……奴らの戦い方、実力がわかるからな)

リョウは不敵な笑みを浮かべながら呟いた。

「存分に利用させてもらうぜ? 俺のために……、」

この小説を読んで頂きましてありがとうございます。

今回は早めに投稿が出来ましたが、筆者自身、『展開をスピーディーに』を心掛けたので、展開が雑になってしまっていないか心配な状態です。

この章はバトルバトルでいこうと考えています。

筆者はド○ゴンボールなどのバトル漫画が大好きなので、ワクワクするような戦闘が描ければと考えています。

不定期更新ですが、素人なりに頑張っていきますので、これからも『神族』を宜しくお願い致します。

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