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仲間   中内 健

 ついに北海道凱旋。サッカー好きの功平たちが最初に訪れたのは…?


 「俺たちの街の誇り、さあ行けよ札幌、俺たちは歌うのさ、赤と黒がある限り♪」


 功平は久しぶりにこのメロディーを耳にして少し胸を熱くしていた。コンサドーレ札幌の応援歌の中の一つだ。功平は大のサッカー好き。特にコンサドーレが大好きなのだ。この応援歌を歌ったのは中3の秋、J1で最下位に沈んで最速降格したシーズンだった。

 「あれ以来か。ずいぶん弱かった時期もあったもんだな。元から強いチームではなかったからね。でも魅力があるんだよな、なんだかんだいって。」

 功平はしみじみとした口調で物語る。そう、ここは札幌の聖地、厚別公園陸上競技場だ。もちろん帰ってきた記念に1試合観ようじゃないかという話になって陽一とここに来た。金はあまりないのでB自由席。コールリーダーと一緒に声を出して応援するのだ。2人にとってはもう14年ぶりなのだ。功平は隣に座っていたおじいちゃんに話しかけた。

 「僕たち14年ぶりに厚別に来たんです。」

 「ほーーー。14年前ったら一番ひどい時だな。ははは。」

 おじいちゃんは目を細めた。功平は続けて聞く。

 「でも、このスタジアムの雰囲気は変わりませんね。」

 「おう、コールリーダーも大変だ。去年の奴が入院しちゃって、今は結構若いのがやってるんだぜ。ほら、あれだよ。拡声器持ってるやつ。中内って奴だったと思うけど、なかなかいいんだよ。元気良くて。」

 二人はおじいちゃんの指さすほうへ目をやった。その瞬間、功平はあっと声を上げた。

 「健!!??」

 その声が聞こえたのか、そのコールリーダーはこっちを見た。その瞬間に急に子供っぽい声になって、

 「川崎先輩!!??・・・・センパーイ!!元気でしたかーーー?」

 やはりそうだった。中学校時代の部活の後輩、中内健。サッカーとは無縁の科学部だったのだが、互いにサッカー好きだった。

 「14年間も何してたんです?コンサの試合にぱったり来なくなったじゃないですか。さては、医者になる勉強でもしてたんですか?」

 からかい半分に聞こえた功平は少し不機嫌そうに

 「そうだけど?何、お前も医者やってんのか?」

 といった。

 「えへ、おととし国家資格取って今年研修を終えたんですよ。」

 「・・・・げ。お前昆虫学者になるとか言ってなかったっけ?」

 「僕の夢なんてコロコロ変わりますよ。」

 「コロコロなんてもんじゃないだろ。まあいいか、しかしコールリーダーとはのんきだなあ。就職はどうするのよ?」

 「あああああ・・・・。」

 さすがの健でもそこまでは決めてなかった。ここまでの会話を聞いていた陽一は功平の耳元でこう囁くように言った。

 「PLMに誘ってみたら?医者だろ?いいじゃないか。」

 その手があったか。功平は懐かしさのあまり、そんなことも忘れていた。功平は健にたたみかけるようにこう言った。

 「お前診療科目何?」

 「小児科です。」

 完璧。100点満点の答えが返ってきた。今すぐにでもPLMに誘いたかったのだが、功平は深呼吸をした。意欲のない奴をPLMに入れたくはない。いくら後輩といってもその思いだけは変わらなかった。功平は健に語りかけた。

 「お前、何で医者になったのよ。医者になるってのは覚悟と意志があるんだろ?俺に話してみろよ。」

 健は少しびっくりしたのか、せき込んだ。そして、懐かしげに話し始めた。


 「川崎先輩、覚えてますよね?沙希のこと。」

 「ああ、飯倉沙希だろ?それがどうしたのよ。3年になってから付き合ってたのか?まあ、いい奴だったし付き合ってても不思議じゃないさ。」

 飯倉沙希。学級代表で健とコンビを組んでいた当時の2年だ。健と沙希はどうやら付き合っていたらしかった。それと医者とがなんで・・・・まさか・・・・

 「あいつ卒業式の前日に事故で死んだんです。丘陵団地の前で。車に轢かれて・・。」

 「そうだったの?!でもあれどう考えても事件だろ。車の運転手は酔っ払いだったって聞いたし。」

 「そうなんですよ。あいつ、小児科医になりたがってたんです。なのに・・・デートの帰りに事故にあったんです。あの時いつも通り家まで送っていたらあいつは生きてたかもしれないんです。だから、何もかもが憎くなって、犯人ぶっ殺そうと思って警察に殴りこんだんです。そしたら刑事さんに司法解剖の結果を聞かされたんです。一応内臓破裂の出血死だったんですけど、そのついでにあいつ自身も病気であと半年っていう身だったって。あと10年歳をとってたら自分のこの手で治せたかもしれないんです。だから悔しくて情けなくて。だから僕は彼女の代わりに小児科医になって同じ年代の子をたくさん救おうって思ったんです。」

 功平は沙希があと半年だったなんてことは全く知らなかった。健はこれから先、たくさんの子供たちを笑顔にできると確信したのだった。功平はポケットから求人広告を出して健に渡した。

 「健。一緒に働かないか?お前みたいな優しい医者と仕事がしたいんだ。」

 健はいつもの明るい笑顔に涙を浮かべてこういった。

 「働かせてください。一緒に人を笑顔にしようじゃないですか。」

 がっちりと握手を交わし、陽一ともすぐに親しくなった健ははっと我に返りこう言った。

 「さあ、まずはコンサを応援しましょうよ。今日勝てばJ1復帰に前進しますよ。」

 そして健は再び拡声器を手にサポーターに呼びかけた。

 「今日もみんなで We are SAPPORO コールしますよ。WE ARE SAPPORO!!」


 WE ARE SAPPORO! WE ARE SAPPORO!!!


                  <つづく>

 次回もお楽しみに。

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