支えてくれた人へ
序盤はすこし恋愛からは遠ざかります。すみからすみまで欠かさず読んでくださいね。
「ふー。」
3度目の医師国家試験、功平はついに合格した。功平の心境はうれしいというよりもこれで両親に迷惑をかけなくて済むという安堵の気持だ。これまで大学1浪、大学院を修了してから国家試験に3浪。もう功平は29歳、あと5カ月で30歳だ。とりあえず合格はしたので北海道の両親に電話をかけた。
「心配掛けてごめんなー母さん。」
「ほんとよかったわね。」
母の声はもう掠れたに等しい。白髪はみるみる増えて今の口癖は、もう疲れた。昔は笑顔の絶えない優しい母だったが今しっかり顔に刻まれたしわだらけの顔に笑みはない。功平はもうただごめんな、ごめんな、早く独立して母さんの面倒みるから、と泣きじゃくるしかなかった。
電話を切り、やっと解放感に浸れるようになってきたところに自分の部屋のチャイムが鳴った。
「おめでとーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
楠本陽一、功平の高校時代からの親友だ。陽一は功平とは少し違う薬剤師の道を進み、同じように大学に1浪、国家試験に3浪というこちらも親不孝者だ。彼も今年一足先に合格していた。
「なあ、陽一。俺たちもう30だぞ。」
功平は少ししょげた顔で陽一に行った。
「バッカヤロー。まだ30だぞ。あとは思う存分仕事に打ち込むだけさ。」
「お前はとことん元気だなあ。お袋さんには?」
「ああ、がっつり叱られたよ。遅すぎだってね。」
陽一は照れくさそうにほほ笑んだ。元気な奴だ。
その日の夜は二人で飲みに出た。二人で行くのは何年ぶりだろう。とにかくばか騒ぎできたあの頃からもう12年。こうやって酒を飲み交わす時間がとても遅く流れた。何気なく功平が話を切り出した。
「就職は?」
「・・・・・・・・・・・あ。」
「おまえまさか・・どこにも内定もらってないの?」
就職難のこのご時世だ。陽一は酔いがさめたらしく、
「もらって・・ない・・。でも功平は?」
「もらってないんだけど、最近よさげな会社があるんだ。」
陽一はきょとんとして
「は?俺たち専門職だぞ。病院や調剤薬局じゃなくて会社?」
功平は待ってましたとばかりのドヤ顔で
「株式会社PLM。来年4月にできる予定の会社さ。」
とパンフレットをカバンから出した。
「どれどれ・・。住所は北海道札幌市西区正岡丘陵513番地・・・・っておい!!
ド田舎じゃないか!!しかも俺の故郷のさらに山奥ってこと?」
功平は笑いながら
「おおげさだなあ、俺の家の向かいじゃないか。」
「そうか・・・・・・・。はあああ??お前ってそんな山奥に住んでたの?」
功平は何食わぬ顔で
「そう、会社を立ち上げようと思うんだ。」
陽一は眼をらんらんと輝かせて
「おおおお、アイディアマン川崎。ついに会社を作る!ほー。社長はもちろん?」
「いない!!!」
功平の声に陽一は崩れた。
「いない?一番重要なポストがいない?」
「そ。二人とも社員。給料も同額。」
「常識破りか、面白いじゃん。協力するよ。」
陽一は満面の笑みで答えた。そして
「これって何をする会社なのさ。」
すると、功平はノートの切れ端に英語で何かを書き始めた。
「この会社の正式名称は Poor's Light Mission 。日本語訳すると貧しい人々の光の使命。人助けの会社さ。」
<つづく>
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